■ピッチの残像
「まだ「PARTY IS OVER」ではない」


 ホテルのロビーでは、どれほどの抱擁とキスが交わされていただろう。
 試合後には淡々とした様子だった選手たちが、妻や子供や親にかこまれて安堵しきって笑い、泣き出す。
 トルコがブラジルに0−1で敗れ、3位決定戦のために韓国へ向かった日、偶然にも同宿だった選手、スタッフ、家族らが、一応の「解散」をするシーンを見ることになった。

「ブラジルに負けたんだ。恥ずべきことはない。国民も拍手で迎えてくれる。だいらこそ3位を、トルコに贈ろう!」
 通訳は、自分に言い聞かせるように話し、同国の協会の今大会用記念品を、握手で包み込んだ私の手のひらに乗せた。

 しかし、解散の、どこか開放的な雰囲気がなかったことが不思議だった。
 むしろ戦闘的でさえある。用具係たちは2つのチームに分かれ、一度イスタンブールに帰る準備をしていた。4強進出を誰より驚いていたのは彼らで、実は必要な用具、食料が底をついたのだという。一度帰国し、補充して再度韓国に入っている。韓国でもそろえることができるのに。
「どうしても3位になりたいからだ」
 同行している協会理事が教えてくれた。

 3年前の大地震では1万5000人もの死者を出し、トルコ人口の4分の1から3分の1が何らかの被災をしたという。
 代表選手、スタッフの中にも家を失い、親戚をなくした者もいる。そんな中、決して絶えなかった代表への声援に、彼らは本気で3位を贈ると、深夜のロビーで決起していた。

 3位決定戦はいつも、泡の消えたビールのように思えたが、今日は違う。韓国も同様だ。あの声援に純粋に応えたいと選手は思っているだろう。誰かのために何かを捧げようとするエネルギーが激突する、そんな戦いもあるのだ。
 まだ「PARTY IS OVER」ではない、そう思って3決を見る。

(東京中日スポーツ・2002.6.29より再録)

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