Bi-Weekly Column 1/8「Eye from the SHOT
ハードに見えて実はソフト。 秋田豊の「角度の奪い方」


 ハードか、それともソフトか。
「コンタクトレンズ」の話ではない。日本代表、チャンピオンチーム・アントラーズとその両方で、守備の中心を担う秋田豊の話である。
「外国選手にも負けない、激しい当たりとハードマークで」としばしば書かれるが、実際には、実にソフトに、いつの間にか相手を追い詰めている、そういう守備こそが、秋田の持ち味なのである。
 3月31日に行なわれたブラジル戦(国立競技場)、日本は0−2で敗れ、このカードによるAマッチで5連敗を喫してしまった。
 しかし、試合後、ブラジルのメディアの取材を受けていたFWのファビオ・ジュニオール(ASローマ)は、少しも浮かれてはいなかった。
「私たちは2本の絶対的なチャンスを神様にもらいそれを決めた。逆に日本は多くの不運を与えられた」と、試合の感想を話していた。中でも日本のDFについては、「クレバー(頭脳的)」とし、「この試合で特に、というのなら、5番の選手」と、秋田が印象的であったと言った。
 この日、DFの先発、秋田、井原、斉藤のテーマは、特にDFの間をパスで割られることのないように守備をすることだったという。つまり相手を常に追い込んだ状態で、ボールをさばかせるという狙いである。
「(失点の場面について)とにかく(シュートの)角度を消して打くことだけを考えて集中していた。あれで、真ん中に切り返されたらもう終わり、と思ったけれど、アモローゾのシュートは素晴らしかった」
 前半12分、アモローゾが右から切り込み、最後はほとんど角度のない状態から放ったシュートが先制点となった。しかし、ぎりぎりまでついて見せた「角度を奪う」守備は、ブラジル選手を間違いなく手こずらせていた。
「角度を奪う」ためには、正確なポジショニングが必要になる。トップ選手の場合、正確なボジショニングで、2人以上の相手攻撃陣を視野に入れ、同時にマークできる状態でいなければならない。相手はどこにパスを出そうとするのか、誰がシュートを打とうとしているのか。その方向と意図を瞬時に想定しながら、少しずつ相手の選択肢を減らすこと、それが「角度を奪う」作業である。
 秋田のプレーがもし、「ハード」だとすれば、それはきっと動作ではなく、ハートのことではないだろうか。

(週刊サッカーマガジン・'99.4.21号より再録)

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