2003年5月1日

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★Special Column★

「礼」

「相手を少しでも見下したり、格下だなどと思うと力ずくで行こうとする。そういう時は、あっという間にやられてしまうものです。そんな風に自分は思っていないと思っていても、心のどこかにそんな気持ちがあれば勝負に影響する。それが隙です」

 29日、柔道史上4人目の全日本3連覇を武道館で果たした井上康生は、勝負の際どい境界線についてそう話していた。井上は、それがどんな勝負であっても、常に相手の柔道を重んじることが、最も重要だとする。敬意を失ったとき、格闘技は殴り合いに終わり、持ち味の技を出せなくなる。
 格闘の王者は、「自分を出すことは、相手をどう迎え入れるかだ」だと言う。

 1日、国立競技場で行なわれたサッカーのアテネ五輪予選初戦、対ミャンマー戦にも、競技は違うが、同じことが言えたのではないか。日本代表は前半、小手先の技に走り、力ずくで相手を押さえ込もうとしたように見える。決定的に欠如していたのは、相手に「敬意」を持って挑む姿勢だったと思う。もちろん押さえ込もうとすれば本当に抑え込めてしまうほどの力の差は歴然としたものであったしれないのだが。選手がそれを望んで、誰が、どこまで言ったのかはわからないが、試合前には、大量得点が当たり前といったコメントも新聞にはあった。 
 この日、ミャンマーは一度も、日本に早いリスタートをさせていない。常にボールの前に立ち、渡さず、味方の体勢が整うのを待つ。平均年齢18歳のチームがこうした基本中の基本について、これほど忠実にこなすためには、よほど、そのことをたたき込まれていなければできない。

 ミャンマーには現在、日本のODA援助で作られた見事なスタジアム(4万人収容)があり、彼ら代表はこれを使って、長期合宿を行っているという。今年年末にある東南アジア競技会での優勝を狙っており、チームも結束から3年目、大量得点の対象になる国ではない。ウイン監督も「日本とやって、今日から、彼らの長所と欠点その両方がわかる」と、早くも3日への意欲を見せる。軍事政権下、彼らの職業のほとんどが国家公務員である。
 もし日本が3日、気温が40度近いミャンマーのヤンゴンで試合をしていたとしたら、楽に勝てた相手だったのだろうか。



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