4月21日
※無断転載を一切禁じます
◆現地レポート!◆
弘山晴美選手、ロンドン・マラソン前日
(ロンドン)
午前8時=日本時間21日午後4時
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シドニー五輪女子1万メートル代表の弘山晴美(資生堂)が、22日午前9時スタート(日本時間22日、午後5時)のロンドンマラソンに向けて最後の調整を行った。
今回は、米国の高地・ボルダ−から直接ロンドン入りをして調整を続けており、4月上旬に痛めた左ふくらはぎの状態もほぼ完治。レースが近づくにつれて、調子を上げるようなコンディショニングの上手さを見せている。
弘山のマラソンレースは、2000年1月、シドニー五輪代表の座をかけた選考会、大阪国際女子マラソンで2時間22分56秒をマークして以来、1年と3か月ぶり。今回は、そのときわずか2秒差で敗れたリディア・シモン(ルーマニア、シドニー五輪銀メダリスト)も出場、ほかにも世界最高記録保持者のロルーペ(ケニア)、シドニー五輪女子マラソン銅メダリストのチェプチュンバ(ケニア)ら、女子の世界戦とも言われる豪華な顔ぶれの中で、弘山がどう勝負に挑むか。レース前日となる21日の早朝、夫でコーチの勉氏とともに30分ほどのランニングを、宿泊先のロンドン・タワーブリッジ近辺からテムズ川沿いで行った。
弘山晴美(2時間22分56秒=出場選手中、持ちタイム3位)
「ポイントの練習は、予定通り、設定したタイムをクリアできたので本当にホッとしています。4月上旬に足をケガしたときには、ここに来られるとは思えなかった。選手もそれぞれが(選手村に)入ってきて、緊張感も高まっています」
ロンドン近郊で長いトレーニングを積み、20日に選手村に入ったシモン(2時間22分54秒)。今回は、体脂肪をさらに絞って19分台を狙っているともいう。
「調子はまあまあ。シドニー五輪の後に休養を取って、ここまで計画はこなしてきたと思う。練習は大変厳しいものでしたが、夫(リビュ氏)の励ましもあった。いい形で乗り切ってきた。今回のマラソンは世界チャンピオンにふさわしいメンバーがそろっている。ベストを尽くしたい」
世界最高記録(2時間20分43秒)保持者のロルーペと、チェプチュンバ(2時間23分22秒)
ともにオーバーコートにマフラーという姿で登場。20日晩に行われた主催者パーティでも、ドレスアップしたうえにマフラーをしていた。
ロルーペ「寒い。ドイツやほかの国でもトレーニングしているから大丈夫だけれど、雪が降ったのにはちょっと驚いた。私は私のレースをしたい。選手は走る以上、みんなライバルだし、ニューヨークのときと同じように(強風で)タフなレースになると思う」
チェプチュンバ「ロンドンはこういう天気だから、あまり気にしていない。五輪後、日本の東京で勝ったレース(昨年の東京国際女子)が非常に大きな自信になっている。記録よりも順位、優勝を狙う」
★Special Column★
「雨時々曇、時々雪、ところによって晴れ」
ロンドンは今まだ春が遠く、19日の晩には雪も舞った。2週間前には一度、一気に春めいて気温が20度近くに上がった日もあったそうだが、それもまた人々の気分を一時的に緩ませたに過ぎず、あっとい間に冬に逆戻り。この1週間は、10度を下回る日が続いている。
しかし、世界最高を狙い、女子初の2時間20分の壁を突破する偉業にチャレンジしようとする選手たちにとって厄介なのは、ただ寒いだけならばむしろマラソンには好都合であるが、それ以上に天候がまったく安定しないことなのではないだろうか。
20日午後、弘山選手のポイント練習を取材した際、到着してから小雨が降り、しばらくすると青空が広がって強い陽射しが覗いた。着替えをしてきた弘山選手が「青空なんて久々ですね。陽射しがうれしい」と笑顔でスタートを切ったと思ったら、走っているうちに突風が吹き始め、またも雨が降り、練習終了直後にはまたも晴天と、猫の目など比較にもならないほどの天候の変わりようであった。しかもロード練習ではなく、トラックでのハプニングである。
天候の安定した、しかも気温がそう変らない状態で行われるマラソンと比較すると、神経を非常に使う。
ウェア、給水、風がある場合には位置取り。これは正確な表現ではないが、よく日本とメジャーで使用されるゴルフ場の差異が言われるが、海外の賞金レースと日本の国内でのマラソンの走りやすさには、人数、コース、天候、といった面において大きな違いがある。
「何があってもおかしくない」
勉氏は、こうした難しい条件を前にこう話す。
「だから、すべてのことに対応できるようにと考えてはきました」
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気温の低かったボルダ−からどういう「準備」をしてここに挑むか、めまぐるしい天気に左右されない対応力と、何より少々の条件などには揺らぐことのない彼らの強い「意志」が、22日のレースでおそらく強い武器になるはずだ。ケニアなどアフリカ勢が寒さに弱いというのは短絡的だ。環境の変化自体よりも、こうした中で、日ごろからいかに練習のキャパシティを多くし、さまざまな危機管理をしてきたかの「底力」がわかる、ハイレベルの戦いになるはずだ。
ロンドン・マラソンの事務局は、毎日、毎回の会見ごとに、天候に触れ、レース当日の予報を言う。これが「紳士、淑女のみなさん」という前にくる挨拶だ。今年で20回目を迎える伝統のマラソンは、4月のもっともいい天候の日を選んで作られたともいう。
かつての優勝者、瀬古利彦(エスビー食品監督)、谷口浩美(旭化成)らも招待された大会で、男子の前日本最高保持者で、シドニーでは棄権した犬伏孝行(大塚製薬)と、シドニーのスタートラインに立てなかった弘山が、そのレースのメダリスト2人にどういった挑戦をするのかは、ある意味では時間を占うこと以上にスリリングである。
レース前日の朝、ぶ厚い雲を割って、太陽が昇り始めた。
ディレクターズミーティングより
22日のロンドン・マラソンについて、主催者側はディレクターズミーティングを開き、男子招待選手のペースメーカーをハーフポイント1時間3分30秒、女子招待選手のペースメーカーを1時間10分に設定すると発表した(※ペースは変更される可能性もあり)。
ペースメーカーは過去、陸上界では「ラビット」と称され、陰の存在として扱われてきたが、国際陸連(IAAF)は一昨年からルールの改正に着手。すでに公認されており、1)ゼッケンは違うものを着用、2)ペースメーカーであることを公表する、3)女子の場合、女子ランナーに限ってペースメーカーを置くことができる(男子のペースメーカーは認めない)、4)最長でハーフポイントまで、などさまざまなルールを規定したうえで実施されている。また、日本でも実施に向けて日本陸連が検討を重ねている。
なお、ともに故障の不安を抱えてロンドン入りした犬伏孝行(大塚製薬)と弘山晴美(資生堂)は最後の練習を行い、レースを控えるだけとなった。
また、犬伏、弘山両選手はこの日、午前中にコースの後半部分の下見を重点的に行った。犬伏は「思った以上に小さなカーブが多く、路面もブロックが敷き詰められていて、本当に走りづらいコース」とコースの印象を話し、弘山もコースの途中がヨーロッパ独特の街並みからか道幅が急激に狭くなったり広くなったりする点を特徴にあげている。ペースメーカーを配し、世界最高に近いレースを設定しながらも、コース的には難しい面があり両方のバランスがどのあたりで取られるかが注目されそうだ。
※この日、夕方、再度ディレクターズミーティングが行われ、女子のペースメーカーのハーフ設定タイムが1時間10分30秒へと変更された。(日本時間22日午前2時30分追記)
「世界最高ペース」
女子のペースメーカーがハーフを1時間10分で通過する(そのペースで引っ張る)と発表したことは、このレースで世界最高を狙うという選手の姿勢を表すものでもある。
今回、シモンは2時間20分を破る、と話しており、従来にないトレ−ニングで体を絞り、ロンドン近郊で時間をかけて調整を行ってきている。また、でん部の筋肉を痛めて多少調整が遅れたというロルーペも、「勝負には加われると思う」と話す。記録は天候と条件に左右されるために、このペースは設定されていても、ペースメーカーが選手に置いていかれてしまうケースもある。例えば、今回ペースメーカー役となるジョセフ(タンザニア)は以前、大阪国際女子マラソンでも一応のペースメーカーとなったのだが、大阪では渋井陽子(三井海上)がジョセフを上回るペースで走った。
しかし今回のペース設定は、世界最高、女子選手初の2時間20分台突破をも意図するものである。
85年、クリスチャンセンがロンドン(当時は混合レース)で2時間21分6秒をマークした際のハーフのタイムが1時間10分10秒、ロルーペが99年のベルリンで2時間20分43秒の世界最高を更新したときも、ハーフは1時間9分46秒。1分10秒は、ちょうどこの中間に位置するペースである。
弘山も、2時間21分は切って行くようなペースで練習を積んでおり、ロルーペ、弘山、シモン、チェプチュンバ、フェルナンデス(メキシコ、2時間24分6秒)、また、スピードならばNo.1のシドニー五輪1万メートル金メダリストのツル(エチオピア、2時間26分9秒)と、女子マラソン史上最速ともいえるレースが展開される。
「ボヤ騒ぎ」
選手村に指定され大会の本部にもなっている、タワーブリッジのたもとの「シスレ・タワーホテル」で午後ボヤ騒ぎが起き、宿泊者など全員がホテルから退去するよう避難指令が出された。ホテルによれば、1階付近にある火災報知機が鳴り、いたずらや間違いの場合に取り消されるコールが起きなかったという。そのためガスなどの充満も考えられるために、ホテル内から全員に退出するよう誘導された。テロなどの不安を常に抱える場所だけに、消防車2台と警察が駆けつけたが、20分後に安全が確認された。ちょうど部屋で休憩中だった招待選手も全員が誘導に従って避難するなど、ちょっとしたハプニングとなった。
■「ロンドン・マラソン」ガイド
・スタート:22日、午前9時(女子招待選手)、午前9時半(男子招待選手)
※時間差をおき、別のコースを走ることで、男女混合レースにならない(記録工作をしない)ように設定されている。
・コース:片道42.195キロ
※スタートは男女、市民のレースごとに異なる。ゴールはバッキンガム宮殿前。
・賞金:優勝=5万5000ドル(約570万円、男女とも)
2位=3万ドル
3位=2万2500ドル
※女子は2時間20分を突破すればさらにボーナスで5万ドル、男子は2時間7分突破で5万ドル増

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