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「”個体差” について考える」 の巻

 述べ訪問者 :  (since 06, Sep./2004) 

 
 1.ネタ振り
    ↓
 2.お題目
    ↓
 3.私的考察
    ↓
 4.独り言
    ↓
 5.まとめ
    ↓
 6.あとがき
    ↓
 7.結論(再掲)
 
 
 1.ネタ振り
レガシィ系やインプレッサ系のインターネット掲示板では、「個体差」 という言葉がよく用いられる。特に Q&A的な読者掲示板 で顕著に見受けられる。例えば、こんな具合だ。

<例1>
質問 : 「私の レガシー (※注1) は、ブーストが0.7キロ までしか上がりません。
      どこかに異常があるんでしょうか?」
回答 : 「レガシィは個体差が大きい ので、0.7キロの車両もあります。
      私のレガも0.8が精一杯ですよ。」

<例2>
質問 : 「私のGDBインプレッサは、燃費が5キロ なんです。
      どこか問題あるんじゃないでしょうか?」
回答 : 「インプには個体差がありますよ
      280馬力なら5キロでも不満を言っちゃぁいけません。」

<例3>
質問 : 「はじめまして。レガシー (※注1) にブーコンを付けたいのですが、
     ブースト何キロまでOK ですか?」
回答 : 「スバルのクルマは個体差が激しい ので、
      ブーコンはお勧めしません。」
 

(※注1):レガシー
正式には 「レガシィ」 と表記すべきであることは、言うまでもない。
 2.お題目
念のため、各論に入る前に、ここでまず 「個体差」 という 言葉の意味 から確認しておこう。
三省堂・「大辞林 第二版」 によると、「個体差」 とは次の意味を表す、とされている。

   -------------------------------------
   こたい-さ 【個体差】
 
   同種の生物集団において、
   共通の特質の中にみられる各個体のもつ差。
   平均(値)に対して各個体が示す特徴(数値)。
   -------------------------------------

また、英辞郎 on the Web (※注2)によると、「個体差」 は次のように英訳される。

   -------------------------------------
   こたい-さ 【個体差】
 
   individual difference // individual specificity
   -------------------------------------

これらの基本解釈(対訳)については、誰も異論は無いだろう。
もともとは、主に生物学的・遺伝子学的な分野で用いられていたようである。

こうした背景から 「個体差」 をクルマについて当てはめてみると、
  「同一車種において、共通のスペック・仕様の中に見られる各車のもつ差。
   性能・機能などの平均(値)に対して、各車が個別に示す特徴や数値。」
という意味合いになるだろう。

とすると、例えばモンシロチョウの羽の紋様や、キイロショウジョウバエが受け継ぐ遺伝子といった生物学的・遺伝子学的な個体間の差異ではなく、

  設計仕様書(※注3) に基づいて厳しく
    生産管理(※注4) されている 工業製品 について、
    果たして 「個体差」 なるものは存在するのだろうか?”
    (今回のお題目はコレ↑)

例えば、 SONY の ウォークマン に 個体差 はあるのか?
      NEC の Lavie(ノートPC) に 個体差 はあるのか?
      HONDA の スーパーカブ に 個体差 はあるのか?
      TOYOTA の セルシオ に 個体差 はあるのか?

もちろん、これらは同一型番 (または型式) 同士での話である。もしも型番 (型式) が違えば、仕様も異なるので、性能や機能、使い勝手や耐久性も異なって然(しか)るべきである。
 

(※注2):英辞郎 on the Web
Electric Dictionary Project 提供の和英辞書のサイト。
(→ http://www.alc.co.jp/index.html

(※注3):設計仕様書
design specification. 複数の図面に同じ内容で繰り返し引用される技術的要求事項を標準化した文書。
製品の構想を表現する際に、材料・構造・機能・適用などの検討結果や計画を標準化・統一化された文章・図面・ロジック等で具現化させたもの。

(※注4):生産管理
production management. 個々の状況を予測して諸活動を計画・調整し、生産活動全体の最適化を図ること。
各部品が図面に基づいて均質的に生産され、検査工程を経て量産システムに組み込まれるよう、現状をフィードバックさせながら全体を能率良く生産するための仕組み。またはその活動。

 3.私的考察
さて工業製品に 「個体差はあるか否か?」 という上記の問いに対しては、厳密には 「ある」 と私は考える。ただし、それはあくまでも 公差(※注5) の範囲内 でのことである。

例えば、ある部品の寸法が 図示値(※注6)20.00±0.05 [mm] に規定されていたとする。すると、図面仕様上、その部品は 19.95 [mm] 〜 20.05 [mm] までの 範囲 で存在することになる。しかし、その意味は 「その部品の寸法が 19.95 [mm] 〜 20.05 [mm] までの範囲にあるならば、要求された仕様を満足することができる」 ということであり、またそうした 裏付け を持って設定されている、ということだ。これこそが前述の ”公差” に他ならない。

公差は、何も寸法だけに限ったものではない。例えば、ボルトの締め付けトルクにも公差がある。「ホイールナットの締め付けトルクは、9.0±1.0 [kgf・m] (※注7)」 といった場合、上限は 10.0 [kgf・m] 、下限は 8.0 [kgf・m] で締めても構わない。公差で ±1.0 [kgf・m] を許容しているということは、
   ◎ボルト本体の強度区分(破断トルク)、
   ◎ボルト座面の摩擦係数、
   ◎ボルトの軸力、
   ◎使用環境下におけるゆるみトルク、
   ◎残留トルク、
   ◎ボルト座の接触面圧、
   ◎相手締結部品への影響、
   ◎その他諸々の影響など

を検討した上で、求められる機能を十分に確保できる範囲が確認されているということになる。したがってそれは正当な ”範囲” なのである。つまり、その範囲内であればメーカーが 機能を保証 する、という値の 集合体 であると言える。

また、部品によって公差の範囲は異なる のが普通である。求められる機能や適用部位、使用環境のシビアさ(要求耐久性)、あるいは製造機・加工機の精度上の制約などが部品によって異なるからだ。すなわち、それぞれの部品には最適な公差がある、ということだ。

だから、すべての工業製品にも、その工業製品が人々に提供可能な性能や機能を保証できる範囲内での公差の 組合せ(=集積公差) が存在する。「寸法下限(min)+締付トルク上限(max)」 の組合せの製品もあれば、その反対の製品もあって当然である。もちろん、確率的・統計的には限りなくゼロに近いものの、「すべて上限品同士の組合わせ」 で製品が成立する可能性もある。同様に、その逆 (=すべて下限品の組合せ) についても可能性がある。

これを模式化すると、次のようになる。
End
(Σ= Part_k(min) = Part_1(min)+Part_2(min)+・・・+Part_End(min) )
k=1

だがしかし、これらはすべて 許容 されうるものであり、所望の性能を十分に 満足 しているものである。もちろん、実用性能にバラツキがあってはお客様 (=消費者) が困るため、過度に性能が上がりすぎていることも下がりすぎていることも無い。そのための ”公差” でもある。

クルマについても然(しか)り。
あるクルマの燃費が良くて、別の同型車の燃費が悪いのは、いわゆるクルマの ”個体差” によるものでは ない。そのほとんどは、運転手の操作具合の差 によるものだ (ムリ・ムダ・ムラのあるアクセルやブレーキ操作か否かなど)。
次には 操作環境による差 といったところだろう (渋滞か高速か、街中か郊外か、夏か冬か、積載状態か否かなど)。あるいは 日々の整備状況 も効いているだろう (オイルが新油か劣化油か、タイヤの空気圧が適正か否かなど)。

どのクルマも、ポテンシャル的 には、狙いの性能 (≒本来クルマが持っている性能) を 発揮 できる仕様上にある。よって、使用環境が飛び抜けて劣悪だとか車両状態が飛び抜けて整備不良だとかでは無い限り、クルマのポテンシャルを引き出せないのは、”クルマの個体差” ではなくて、それを操っている ”ドライバー自身の個人差” のせいなのだ

ドライバーは、クルマの性能が発揮されないのをクルマのせいにする前に、そのことを大いに 自覚する必要 がある。燃費が悪いのは クルマのせいではなく、運転手自身が燃費が悪くなるように運転している からに他ならないのだ(※注8)

あるいは百歩譲ったとして、もしも同一型式同士のクルマなのに極端に性能が異なるとすれば、それは、適用している機能パーツ (アフターマーケットの社外パーツ) が異なる場合が考えられるだろう。例えば、どノーマル車と、エキマニからマフラーまで排気系一式を換えた触媒レスの車とでは、土俵が違うのでエンジンレスポンスや排気ガス濃度が異なって当然であろう。こういう場合は、「個体差」 ではなく 「仕様差」 である。
 

(※注5):公差
tolerance. 規定された許容最大値と規定された許容最小値との差。狙いの性能が保証される上限と下限の差、または範囲。
個々の部品には、鋳物であれ加工品であれ設計上の寸法公差があり、また個々の部品の集合体であるAssyやシステムにも、系全体としての組立公差・性能公差がある。

(※注6):図示値
drawing indication. 図面に記載された数値、またはその範囲。通常、工業部品(量産品)はすべて図面 (一般には三角法で表記される) を元に製造・加工・組立・検査などの管理をされている。

(※注7): [kgf・m]
ここでは感覚的に判りやすいよう、旧・cgs単位系で例を挙げてみた。近年では SI単位系の [N・m] が用いられている。
 (例):
 1.0 [kgf・m]
  ≒ 9.80655 [N・m]
 1.0 [kgf/cm2]
  ≒ 98.0655 [kPa]
なおSI単位とは、度量衡を表す際の国際統一単位であり、フランス語 「System International d'Unite's」 の略称である。また、一部のサービスマニュアルではSI単位系での表記に加え、メートル法(ヤード/パウンド法)による計量単位を併記している場合もある。
 (例):
 44[N・m]
  (≒4.5 [kgf・m]、
   ≒33 [ft-lb])

(※注8):クルマのせいではなく、運転手自身が〜
クルマは、周辺環境や運転条件がほぼ一定ならば、燃費や排ガスもほぼ一定の値に落ち着く。
例えば新型車が国土交通省から認可を受ける際に受審する11モード試験や10−15モード試験などがそうだ。なお比較試験をする際には、比較したい項目以外をほぼ同一条件下にそろえないと、試験自体が成立しないことは言うまでもない。

余談だが、「燃費が悪いのはクルマのせいではなく、運転手自身が燃費が悪くなるように運転しているからに他ならない」 という考えをモータースポーツに当てはめて考えると、「サーキットでタイムが出ないのはクルマのせいではなく、運転手自身がタイムが出ないように運転して(しまって)いるからに他ならない」 となる。
(→ よって、帰納法的に判断すると、「世の中すべての面で自分自身の反省と努力が必要」 なのである。)

 4.独り言
こうして 「個体差」 という言葉の持つ意味を理解した上で、再度、冒頭で示した <例1> 〜 <例3> について考えてみよう。
これらは 「個体差」 という言葉を誤って使っている例だということが、すぐに解るだろう。まぁそれ以前に、回答が質問に対する回答になっていない、という致命的な欠陥もある(※注9) のだが・・・。アイタタタ(笑)。

♪バ〜カ野郎め、コ〜ノやろうめ、
お前ら、ブーストが出ないのは、出ないような運転をしているから じゃねーのか?
「めいっぱい引っ張って試しました!」 とか言って、実は低ギヤの2速とか3速で
走っているだけなんじゃねーだろうな? しかも平坦路だけで。

♪バ〜カ野郎め、コ〜ノやろうめ、
お前ら、燃費が悪いのは、自分で燃費が悪くなるような運転をしているから
じゃねーのか?
「車内の軽量化までやったんスよ!」 とか言っておきながら、無駄なブレーキング
や加速を繰り返しているんじゃねーだろうな? しかも何度も車線変更をしながらで。

♪バ〜カ野郎め、コ〜ノやろうめ、
お前ら、何でもかんでも便利そうに 「個体差」 という言葉で片づけている
んじゃねーぞ。
「個体差」 という言葉を使うヤツも使うヤツだが、それを聞いて納得するヤツも
納得するヤツだ
。スバルのクルマばかりに 「個体差」 があるってのも変な話だと、
気づかないくらいボケてんじゃねーぞコラ!
 

(※注9):致命的な欠陥
回答が質問に対する回答になっていない、という点もさることながら、ブースト(圧力)の単位を省略して 「キロ」 と言うのもどうかと思うがね。
ヤツらが 「キロ」 を [kg/cm2] の省略語として使用しているとは、とても思えない。
ヤツらは 車速 [km/h] を言うときだって 「キロ」、燃費 [km/L] を言うときだって 「キロ」、距離 [km] を言うときだって 「キロ」、そして重さ [kg] を言うときだって 「キロ」、どれもこれもみんな 「キロ」 だ。
個人的には、「(ブーストが)出る/出ない」 という表現を用いるのも、どうかと思うが。
 5.まとめ
お前らが言うところの 「(クルマの)個体差」 は、より正確には 「(ドライバーの)個人差」 だぞ、コラ!
もしくは、「(クルマの)仕様差」 だ。
( → スバヲタ (※注10) は何でもノーマル部品を社外品に交換したがるので、
   元は同じ車種・グレードなのに、現実に装着されている機能パーツが全然
   異なり、結果として比較できる土俵にはない(のに、比較したがる)・・・、
   なんてことがザラにあるからな、オイ!)
 
(※注10):スバヲタ
スバル車の 「オタク」。中途半端に理論武装している人々を指すことが多い。
その一方、まじめなファンは 「スバリスト」 と呼ばれ、両者は区別されるようである。
 6.あとがき
ここまで読んでもまだ 「スバル車は個体差が激しい」 と 言い張る 人々は、群馬県太田市の富士重工業(株) 矢島製作所の製造ライン をぜひ見学してくれ。エンジンやミッションに興味があるヤツだったら、大泉工場 でもいいぞ。いやいや、いっそのこと 自ら期間工として雇われて、製造ラインで直接働いて みてくれ。

その上で、エンジン部品自動選択組付によるバルブクリアランスが上下限で一体どれほどバラつくのか、ミッションのハイポイドギヤの歯当たりがトー側とヒール側で一体どれほどバラつくのか、あるいはカチオン電着塗装の溶液濃度が春夏秋冬の1年を通じてどれくらいバラつくのか、作業手順書に則った艤装工程が作業者の年齢や経験によってどれくらいバラつくのか。

そして それらのバラツキは結局、最初から認められた ”公差” の範囲内に収まっているのかどうか

さらにここが一番肝心であるが、
それらの 個々の部品のバラツキ (ここではあえて公差とは呼ばないでおこう) が、最終的に製品として完成された状態において、結果としてどれほどの 諸元性能差 となってバラツキに現れてくるのか。その 因果関係 を明らかにして、ぜひ確認してもらいたいものである。

もしも余力があれば、マツダや鈴木など 他メーカー の製造ラインにも同様に潜り込んで 製造バラツキと公差、そして最終製品状態での ”個体差” を把握 してもらいたいものである。それぞれのメーカー間で、実際の製品のバラツキ具合を確認し比較してみない限りは、何人(なんびと)も 「富士重工業(のみ)が個体差が激しい。」 とは 言えない はずだ。
 

 
 7.結論(再掲)
ということで、再度、結論を述べておこう。

「スバル車は個体差が激しい」 のではなく、
「スバル車ユーザーの個人差が激しい」 のである!

※当サイトは独自の視点から 「都市伝説 撲滅運動」 を推進してまいります。
 

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