onedotzero(ワンドットゼロ)2003札幌


 イギリス発世界最大のムービングイメージ・フェスティバルであるonedotzero(ワンドットゼロ)2003札幌が、10月10日から12日まで、アーバンホール(札幌市中央区南3西4、札幌アーバンビル7階)で開かれ、11プログラム、110以上の作品が上映された。

 今年はミュージックビデオ、TVCM、短編フィルム、アニメーションなどを扱ったプログラム「wow+flutter 03」「wavelength 03」「extended play 03」 「j-star 03」に加え、特別プログラムとして、ミュージックビデオの巨匠「ミッシェ ル・ゴンドリー特集」、女性監督たちのインパクトのある作品にフォーカスした「girls on film」、英国のアニメーションスタジオ、パッション・ピクチャーズの特集上映、さらにセイント・エティエンヌと映像作家のコラボレーションプロジェクト「finisterre」を上映。抱腹絶倒のCG「スキージャンプ・ペア」が大ブレイク中の真島理一郎氏らをゲストに迎え、フォーラムなどが行われた。

wow + flutter 03

 「wow + flutter 03」プログラムは、22作品。ことしも多彩な実験作品が届いた。ed holdsworthの「arrive」は、初来日した東京で電車の風景を加工した作品。美しく瞑想的なシーンに生まれ変わった東京に出会う。対するtimo schaedelの「london details」は、ロンドンの細部にこだわった作品。michal levyの「giant steps」は、ジョン・コルトレーンの「ジャイアント・ステップス」に合わせ、ブロックの構築、解体がリズミカルに展開する。d-fuseの「lights turned down」は、素晴らしい美しさ。単純なようで片時も飽きさせないセンスに脱帽。
 yann couderc + bruno hajnal + xavier henriの「akryls」は、質感が素晴らしいめくるめく驚きの旅。gints apsitsの「the bonedancer」は、久々に出会ったグロさ満載の作品。わざと刺激的で汚れた映像を突き付ける。ハイセンスで美しく漂白されたCG作品が目立つ中で、あえてこの作品をセレクトした見識を評価したい。ギンツはラトビアで生まれ、広告会社のアートディレクターを務めた後、「ファブリカ」のグラフィックデザインチームに加入した。joe bergerの「covert」は、スマートなアニメ。no experience necessaryの「stephen loveridge」は、実写をもとにデジタル処理したアニメ作品。使い方によっては、ドキュメンタリーの新たな地平を開くかもしれない。

wavelength 03

 「wavelength 03」プログラムも、22作品。独創的なミュージックビデオがそろった。シャイノーラ(shynola)の「go with the flow / queens of the stone age」は、実写とアニメーションを合成した暴力的で官能的な作品。濃厚な味わいが忘れがたい。同じシャイノーラの「you got the style / athlete」は、生態系を説明する原子モデルが可愛い。そして高圧鉄塔のタップダンスというユニークなクライマックスを迎える。アッシュファイブ(h5)の「remind me / royksopp」は、日常を距離を置いてみつめ、システム化された世界を視覚化した力作だ。2002年MTVベストミュージックビデオ賞受賞作。
 ドーン・シャドフォース(dawn shadforth)の「miss lucifer / primal scream」は、長篇映画を凝縮したような高いクオリティの作品。悪魔の表情描写が素晴らしい。建築を学んだ3人組・リン・フォックス(lynn fox)は、ビョークの新作プロモーションビデオ「nature is ancient」を制作した。異様なまでにリアルな水の中の受精シーンに衝撃を受けた。武藤眞志の「 scorpio rising / death in vegas」は、歪んだ忍者ものの作品。日本人がこういう作品をつくらなければならないとは。アレキサンダー・ラタフォード(alexander rutterford)の「verbal / amon tobin」は、スタイリッシュなカーチェイス。質感を変えて走る車がクールだ。アレックとマーティン(alex + martin)の「sound of violence / cassius」は、めくるめく映像の乱舞。現実から幻想へと突き抜けていく映像の美しさ。最高に興奮した。

extended play 03

 「extended play 03」は、自由なスタイルで展開される最先端のショートフィルム・プログラム。全体に、後味の悪い作品が目立つ。chris shepherdの「dad's dead」は、実写とアニメーションが混じりあい、陰うつな雰囲気。子どもたちの荒んだ心を悪意のあるシーンで表現している。軍司匡寛の「fumo no hito (不毛の人)」は、屈折した表現ながら反戦のメッセージは伝わってくる。francois vogelのアニメーションと実写の独自な組み合わせ「faux plafond」は、カップルの日常生活を描いていく不思議な映像。小島淳二の「room service」は、膨大な荷物を即座にトランクに詰め込むホテルポーターを描いたコメディ。アイデアは面白いが、切れは良くない。頭のクローン開発に取り組む科学者を取り上げたjonny halifax + ezra holland + danny vaia / glpの「head」、核廃棄物を輸送する鉄道路線のそばに住む男と家族を悪夢的なコラージュで描くdan saulの「nuclear train」、2003年の英国映画TV芸術アカデミ−賞を受賞したchris morrisの「my wrongs 8245-8249 and 117」は、いずれも憂鬱なまま、終わりを迎える。ヘビーでビターなプログラム。

j-star 03

 人気のプログラム「j-star 03」は、日本人クリエイターが製作した11作品を紹介。谷田一郎 [jjd]の「jane + the akiyama」は、チープなモデリングで確信犯的に遊ぶ心意気。一方、菱川勢一 [drawing+manual]の「 airline」は、洗練の極みのようなエレガントさを追求している。堀聖司の「reflection of nowhere」は、都会の風景にネオンが軽やかに重なる。万華鏡のようなネオンの美しいエフェクトにみとれた。
 klomaの「andante / asln」は、布に織り込まれたような温かな感触のアニメーション。aerostitchの「hiragana 50-4 」は、分かりやすいコンセプトで気持ちの良い映像だが、テクノらしい毒はなかった。宇川直宏の「recreation / supercar 」は、アンビエントに見えて、けっこう意地が悪かったりする楽しい映像。真島理一郎の「ski jumping pairs」では、一般から公募したアイデア3作が上映された。やはり、面白い。

フォーラム「世界とつながるデジタルコンテンツ」

  初日10日には、アンドリュー・トーマス、真島理一郎、寺井弘典、エアロステッチの二人をゲストに迎え、久保俊哉氏が司会を務めたICCクリエイティブフォーラム「世界とつながるデジタルコンテンツ」が行われた。東京と札幌のクリエーターたちが、どのように作品を生み出し、世界とつながっていったのかを紹介。プロデュースの視点を加えながら、日本のデジタル作品の魅力と可能性を探った。アンドリュー・トーマス氏は、日本の作品が注目されていることを強調。プロデューサーの寺井弘典氏は、日本特有の感性が海外で新鮮に感じられていると話していたが、28カ国で上映されている「スキージャンプ・ペア」について、真島理一郎氏は「みんな同じところで笑っているので、世界共通だと思う」と語った。差異と共通の微妙な関係が興味深かった。

girls on film

 「girls on film」は、フロリア・シギスモンディ、エレイン・コンスタンティン、ソフィー・ミューラー、ドーン・シャドフォースの4人の女性プロモーションビデオ監督作品を紹介するプログラム。なんといってもフロリア・シギスモンディ(floria sigismondi フローリア・シジスモンディ)の作品が傑出している。「four ton mantis」は、2001年のワンドッゼロでも取り上げられたが、「beautiful people/marilyn manson」(1996年)、「aubergine commercial/eatons」(2000年)、「she said/jon spencers blues explosion」(2002年)、「fighter/christina aguilera」(2003年)という作品群は、驚くべき高みにある。「beautiful people」の痙攣的な映像による退廃的な美しさ、「aubergine commercial」のレトロでエレガントでシニカルなミュージカル、妖艶なヴァンパイアーとしてシギスモンディ自身も出演する「she said」のB級ホラー的な楽しさ、「fighter」の華麗にして強靱、大胆にして繊細な美意識。どれも突出した魅力にあふれていた。彼女に対峙できるのはドーン・シャドフォース(dawn shadforth)とソフィー・ミューラー(sophie muller)の合作「freak like me/sugarbabes」やシャドフォースの「miss lucifer/primal scream」くらいだ。

gondry forever: around the world of michel gondry

 「gondry forever: around the world of michel gondry」は、フランスの天才監督ミッシェル・ゴンドリーの16作品プログラム。ビョーク、ケミカルブラザーズ、スターダスト、ホワイトストライプス、レディオヘッドなどの独創的なミュージックビデオを制作している。もともとは、oui ouiというバンドのドラマーだった。その「la ville」から、すでに天才的なひらめきに満ちた表現を開花させている。「la tour de pise」は、歌詞を実際の看板文字の組み合わせでみせるという驚愕的なアイデア。ビョークの「human behaviour」「army of me」「bacherlorette」は、何度観てもイマジネーションの飛躍力の非凡さに感動する。最後のショートフィルム「la lettre」(1998年)は、純真な失恋を可愛らしく描いていた。 会場は人であふれ、すごい人気だった。

saint etienne / finisterre

 「saint etienne / finisterre」は、セイント・エティエンヌ製作の「フィニステア―ロンドンの風景」の上映。1990年にボブ・スタンリー、ピート・ウィッグス、セーラ・クラックナルの3人で結成した音楽ユニット「セイント・エティエンヌ」と、映像作家によるコラボレーション。彼らの最新アルバム「フィニステア」のトラックと、新たに作りおろした楽曲を使用している。監督はキーラン・エヴァンスとポール・ケリー。最初は、ロンドンの観光ビデオ的だったが、やがて独自の視点を加え、多角的にロンドンを見つめ始める。なかなか魅力的な切り口が続く。しかし、「ロンドンは世界の中心」的な終わり方が納得いかなかった。ロンドンが好きなのは、良い。しかし、世界に中心などない。さまざまな拠点があるだけだ。

●公式ワンドットゼロ・フェスティバル情報

●ワンドットゼロ2002札幌の記録

●ワンドットゼロ2001札幌の記録

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