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同志社

小山隆
joycool


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見にくくてごめん。
特に表とか資料とかはまずいです。
イメージつかむ程度ということでお許しを。


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ソーシャルワーカーの援助行動と意識に関する研究
―日韓インタビューを通して―


同志社大学 小山隆




T.本研究の位置づけと目的


 今回の研究で実施した2005年と2006年のインタビュー調査は、井岡勉教授を研究代表とする、科学研究費補助金採択課題『地域福祉の国際比較−日韓・東アジア類型と西欧類型の比較−』(2004−2006)の一環として行われた。
 今回の研究の目的は[資料1]の通りであり、概ね以下のような問題意識を前提として行われた。日韓のソーシャルワーカーが専門職養成課程に入る以前に自身の成長のプロセスで獲得した価値観(人間観、家族観など)と、専門職養成課程で習得する「普遍的」な(おそらく西欧的な価値観の影響を受けていると考えられる)価値観との間にはずれがあるのではないか。そして、このズレの存在がクライエントとその家族の意向の対立など倫理的ジレンマの生じるケースにおいて、ワーカーが援助を行う上でのストレス要因になりうる可能性があるのではないか。もしそうであるならば、ソーシャルワーカーのより良い実践を考えるにあたっては、東アジア、ヨーロッパなどといった地域性にこだわらない普遍的ソーシャルワーカー像を前提としながらも、各国のもつ家族観や自立観といったものをも組み込んだソーシャルワーカー像の構築が可能・必要になってくるのではないかといった仮説である。
 今回のインタビューでは以上の仮説の妥当性について模索・検討することを当初の目的としたが、質的研究そのものが仮説検証というよりは、仮説生成、理論構築に向いているということもあり、今回の研究を通して新たな仮説・可能性を抽出することをも同時に意図した。
なお、研究計画ではインタビューの実施分析以外に、各国の標準的な福祉系テキストの比較分析も実施するとしていた(資料1)が、本論文執筆時点では実施できていない。

研究計画の策定からインタビューの実施に至るまでの全プロセスは、本学社会学部の空閑浩人助教授との共同研究として行われた。本論文の執筆は筆者の責任で行ったが、今後の研究の継続も二名を中心とする共同研究として実施したいと考えている。また、岡本民夫教授の助言・参加を得て日韓のインタビューは実施された。

U.本研究の概要―関連資料の説明を兼ねて―


 今回のインタビューに当たって用意した資料は、[資料1]〜[資料5]である。[資料1]は、科研チームの研究会に提出した研究計画である。[資料2]はインタビューイーに対して事前に配布した調査協力依頼と調査に当たっての説明事項である。そして[資料2]を確認しながら口頭で説明を行い、質問を受けた上で、同意書[資料3]に記入を求めた。続いて、ソーシャルワークの用語について大学でどの程度習ったのか、また現在どの程度重要だと感じているかについてのアンケート[資料4]を五分程度実施した(インタビュー終了時に行った場合もある)。[資料5]はインタビュー中に適宜利用した。(注1)
 韓国調査に当たっては、資料2〜5の翻訳は研究協力者の金貞淑氏と李玲珠氏(ともに本学大学院社会学研究科社会福祉学専攻博士後期課程)に依頼し、当日の通訳は李玲珠氏に依頼した。

 今回のインタビューの対象は、日韓でまた今後他国で調査を行う場合に比較が行いやすいように、一定の条件を共通化した。具体的には、[資料1]にあるように高齢者福祉施設で働くソーシャルワーカーで、@四年制大学卒、Aそれぞれの国のソーシャルワーカーに相当する国家資格(日韓の場合は社会福祉士)をもち、B実務経験三年以上、という三つの条件を充たす者とした。

インタビューイーの選出は韓国では研究協力者の尚志大学宋鄭府教授、日本では宇治市福祉公社に依頼した。当初の予定では、入所施設ワーカーと通所施設ワーカーに分け五名から七名対象のグループインタビューを予定したが、現実的には実施日程の関係や依頼先の都合で、表1のような四名ずつのインタビューとなった。特に韓国に関しては、計三回のインタビューを行い一回目が二名、後の二回は各一名相手のインタビューとなり、また条件も一部(実務経験年数)充たさないものとなった。

 表1.
 韓国 2005年8月25日(春川市)
 インタビュー1 回答者1.女性 福祉系大学  卒業後十年  
               2.男性 福祉系大学院 修了後五年  
         2     3.女性 福祉系大学  卒業後十六年 
         3     4.女性 福祉系大学  卒業後一年   

 日本 2006年9月24日(宇治市)
 インタビュー4 回答者5.男性 福祉系大学  卒業後十二年 
         6.女性 福祉系大学  卒業後十年目 
         7.男性 福祉系大学  卒業後十一年 
         8.男性 福祉系大卒  卒業後十七年 

 インタビューは半構造化面接法を採用した。内容は、[資料2]における「インタビュー内容の例」にあげたものを基本としたが、現実には、@「大学で学んだソーシャルワーク教育の内容」を主としてアンケート(資料4)で確認し、インタビュー内容としてはG「こちらが提示した事例についての意見等」を中心に質問し、後半(または前半)でF「今後の(大学での)ソーシャルワーク教育に必要だと思われること」を質問した。その他の項目については、これらに関連させて問うこととした。

V.「ソーシャルワークの用語に関するアンケート」から

 今回の研究はインタビュー調査が中心的なものであったが、並行してインタビュー開始時または終了時に五分程度の時間をとり、ソーシャルワークの用語に関するアンケートを行った[資料4]。具体的には、大学でどのようなソーシャルワーク理論を学んだか、また現在福祉実践をしていて学んだ理論がどの程度重要であると現在感じているかについて五段階尺度で回答を求めた。(注2)
用語の選定に当たっては、日本社会福祉士養成校協会の報告書である、『わが国の社会福祉教育、特にソーシャルワークにおける基本用語の統一・普及に関する研究』(2005)を参考とした。本報告書は、社会福祉に関するテキスト、辞典等から一万を超えるソーシャルワーク関連専門用語を抽出し、最終的に151語に絞り仮定義を施している。本研究では、この151語から共同研究者間で話し合い、モデル、アプローチ、原則などを中心に22語を選んだ。

韓国でのインタビューでの習熟度は以下の順となった。

表2
          受容 1.50           エコマップ 1.75       エンパワメント 1.75
       自己決定 1.75     コミュニティソーシャルワーク 2.00          危機介入 2.25
          契約 2.50     ストレングス視点  2.50    コミュニティディベロップメント 2.50
   家族ソーシャルワーク 2.75      ケアマネジメント  2.75       地域福祉組織化 2.75
エコロジカルソーシャルワーク 3.00(注3)    問題解決モデル 3.00       交互作用モデル 3.25
心理・社会的アプローチ 3.25          ライフモデル 3.25          医学モデル3.75
  課題中心アプローチ 3.75       実存主義アプローチ 3.75       ジェネラリストアプローチ 4.00
   ナラティブモデル 4.75

日本でのインタビューでの習熟度は以下の順となった。

表3
      自己決定 1.25              受容 1.25         地域福祉組織化 1.25
      危機介入 1.50          医学モデル 1.75          エンパワメント 1.75
  家族ソーシャルワーク 2.00      課題中心アプローチ 2.00          問題解決モデル 2.00
 コミュニティソーシャルワーク 2.00         ライフモデル 2.50             エコマップ 2.75
心理・社会的アプローチ 2.75      ケアマネジメント 3.00         交互作用モデル 3.25
  実存主義アプローチ 3.25              契約 3.75        ストレングス視点 4.00
エコロジカルソーシャルワーク 4.25    コミュニティディベロップメント 4.75        ジェネラリストアプローチ 5.00
  ナラティブモデル 5.00

 日韓両国で習熟度が一点台となっているものは、受容、エンパワメント、自己決定の三項目であり、反対にどちらも四点台より習熟度の低い項目は、ジェネラリストアプローチとナラティブモデルの二項目である。このことから想像するに、クライエントに対するワーカーの態度や尊重されるべきクライエントの態度に関する項目が習熟度が高く、アプローチやモデルといったソーシャルワーク理論に関する項目が習熟度が低いのではないかと考えられる。
また、韓国調査時のスコアと日本調査時のスコアが一点以上違うものを挙げると、韓国での習熟度が高いものが、エコマップ、契約、ストレングス視点、コミュニティディベロップメント、エコロジカルソーシャルワーク、ジエネラリストアプローチであり、反対に日本での習熟度が高いものは、地域福祉組織化、問題解決モデル、医学モデル、課題中心アプローチとなっている。これらからは、比較的韓国でのソーシャルワーク養成が、新しい理論を紹介しているのに対して日本ではオーソドックスなモデルが教えられているのではないかという可能性が考えられる。(注4)

次に韓国のインタビューにおける重要度は以下の順になった。

表4
          受容 1.00         エンパワメント 1.25              自己決定 1.25
  ストレングス視点 1.25           エコマップ 1.50           家族ソーシャルワーク 1.50
       危機介入 1.50       ケアマネジメント 1.50        コミュニティディベロップメント 1.50
  地域福祉組織化 1.50               契約 2.50          問題解決モデル 2.50
 コミュニティソーシャルワーク 2.50     エコロジカルソーシャルワーク 2.66(注3)       課題中心アプローチ 2.75
心理・社会的アプローチ 2.75          ライフモデル 2.75              医学モデル3.00(注3)
  交互作用モデル 3.25        実存主義アプローチ 3.50          ジェネラリストアプローチ 3.75
  ナラティブモデル 4.50

また日本のインタビューにおける重要度は以下の順になった。

表5
   エンパワメント 1.00       ケアマネジメント 1.00             自己決定 1.00
         受容 1.00       ストレングス視点 1.00               契約 1.25
  地域福祉組織化 1.25           エコマップ 1.50            危機介入 1.75
 コミュニティソーシャルワーク 1.75       家族ソーシャルワーク 2.00       課題中心アプローチ 2.00
  問題解決モデル 2.00          ライフモデル 2.00          医学モデル 2.75
心理・社会的アプローチ 2.75     エコロジカルソーシャルワーク 3.75       交互作用モデル 3.75
  ジェネラリストアプローチ 4.00       実存主義アプローチ 4.00     コミュニティディベロップメント 4.25
  ナラティブモデル 5.00

 日韓両国で重要度が一点台という高いスコアを出している用語は、受容、エンパワメント、自己決定、ストレングス視点、エコマップ、危機介入、ケアマネジメント、地域福祉組織化と8項目に及んでいる。反対にどちらも四点台より重要度が低いとされた項目は、ナラティブモデル一項目であった。
また、韓国調査時のスコアと日本調査時のスコアが一点以上違うものを挙げると、韓国での重要度の認識が高いものが、コミュニティディベロップメント、エコロジカルソーシャルワークであり、反対に日本での重要度の認識が高いものが契約となっている。

 日韓ともに習熟度も重要度も高い項目(一点台)は受容、エンパワメント、自己決定の三項目である。それ以外の日韓ともに重要度の認識が高い項目(一点台)はエコマップ、危機介入、ストレングス視点、ケアマネジメント、地域福祉組織化の五項目であり、その中で、ストレングス視点、ケアマネジメントの二項目は習熟度との開きが大きい(一点差以上)項目であった。重要度が高いと認識されながら、大学での習熟度が低いということは、実践現場からみて教育現場でもっとしっかり教えて欲しい項目ということにもなるだろう。
 一方、日韓ともに習熟度も重要度も低い項目(三点〜五点)は、交互作用モデル、実存主義アプローチ、ジェネラリストアプローチ、ナラティブモデルの四項目であった。これらの項目が実践サイドにとっては必ずしも必要性を感じられていないということは今回の調査の範囲では言えそうであるが、そのことが即ち専門教育で教える必要がないということをあらわしているのではないことは言うまでもない。ただ、いずれにしろ現場において重要度が高いと認識されている項目があり、教育機関でしっかり教えられている項目とそうでない項目があるということは今回のアンケートからは明らかであり、大学側が教えるべき項目の再確認などを行うことは必要になってくるだろう。(注5)

 また、他に日韓を比較して違いを指摘できそうな点としては、契約は、韓国においては習熟度と重要度が差がないのに対して、日本においては習熟度が低いのに対して重要度の認識が特別に高くなっていてギャップが目立つ。また医学モデルについては、重要度の認識は日韓でそれほどかわらないが、習熟度については日本の高さが目立つ。日本が医学モデル中心の(古い)教育が行われている可能性が指摘できそうである。(注6)

 今回のアンケートはインタビューに付随するもので、回答数も一桁であり、当然ながら統計的な論議の対象ではない。しかし、大学での学びも実践での重要度もともに高い項目や、重要度は高いが余り大学では学んでいない項目など日韓にある程度共通しそうな一定の傾向がみられた。
また、日本がよりオーソドックス(古い?)な教育をしている可能性も見られた。今後、一定量の調査を行うことで、国別のまた分野別のワーカーによる福祉概念の重要度の認識や、大学教育と実践とのギャップの指摘などが可能になるかもしれない。
その予備調査な意味はあったといえるだろう。


W.今後の(大学での)ソーシャルワーク教育に求められること

 インタビューの後半部分で、大学でのソーシャルワーク教育に何を求めるかを時間をとって問うた。本来インタビューは、インタビューアーとのやり取りの中で刺激されインタビューイーの発言が展開されていくし、特にグループインタビューの場合は他のインタビューイーの発言を受ける形で発言が積み重ねられていく。従って、分析をより良いものにするためには、インタビュー全体のやり取りを分析対象にするべきであり、個人の発言をその部分だけ切り取るだけでは万全とはいえない。
実際今回の研究では当初よりグループインタビューを意識し、個人の意見というよりは、インタビューを通して何が当日参加者による了解事項として生み出されるか、そしてそれがどのような共通性を持つかを明らかにすることを計画した。しかし、現実的には必ずしもグルーフインタビューに相応しい条件を充たすことができなかった。
そこで、個々の発言レベルの分析をここでは行い、インタビューによって生み出される部分よりも八人の意見を比較して共通性や相違点を発見していくことに焦点を当てていくこととした。

半構造化インタビューの性質上、各インタビューの全体にわたって大学教育に求められることは折に触れて論じられることになるが、今回の分析では、各インタビューの後半に、テーマを切り替えて大学でのソーシャルワーク教育について意見を求めている部分を扱うことにした。
 分析の対象とした会話は、[資料6]の通りである。厳密には、インタビューイーの言動にインタビューアー側が再確認したり、コメントを加えたりといった応答の作業を行っているし、複数の参加者がいる場合には直前の他者の発言との関連でとらえるべき発言もある。しかし今回の分析では既に延べたように、便宜上個人の発言を独立してとらえ、共通性を見出していくことにしたため、(インタビューアーの発言部分は省略したが)インタビューイーの発言部分は集約可能かどうかを問わず全て掲載した。(注7)

 [資料6]のように、該当箇所の発言は8人全員でA〜Rの計18発言となった。「大学教育に求めるもの」という問いであったが、自らを反省する発言や現場の責任を問い掛ける発言(発言O、R)や教育サイドというより学生サイドへの注文(発言F、K)などもあった。しかし、多くは具体的な大学への要望、批判などであった。
 
 全体を通して「大学で学ぶことと実践の乖離」に関する指摘が目立った。具体的には、@大学で学ぶことは理論ばかりで役に立たない(発言A)、A医療・看護的な高齢分野の実践に必要な具体的な知識や技術が必要(発言B、D)、B実習の充実や、現場での継続的研修などが必要(発言C)といった指摘が多く見られた。
また、C理論や技術以前に人間性、人間関係の基本などといったレベルの教育が必要(発言F、G、L)といったコメントもあった。このこととの関連で言えば、利用者への尊敬の念を忘れないことが大切だがその点が甘い学生が多いのではないかといった指摘(発言L)もあった。利用者に受け入れられるような人間性を育てて欲しい(発言N)という指摘にも繋がるだろう。これは大学教育で可能な問題にひきつけるならば、倫理教育やコミュニケーション能力の養成の必要性に関する指摘にもつながるだろう。しかし一方で、専門教育で求められる範囲が人間性のレベルにまで及ぶならば、「教育」「養成」可能なのかどうかが問われることにもなる。つまり、知識や技術、また何を大切と考えるかといった価値のレベルまでは教育可能だとしても、学生一人一人の人間性までは教育できるのかといった議論の余地があるからである。この場合には、教育というよりは援助者に相応しくない人間を現場に送り出さないという「スクリーニング」機能を養成サイドが果たすべきなのかといった議論が残ることになるのである。
以上が、大学での専門教育に何らかの内容の充実を求めるものであるとするならば、実践現場について「知り考える」ための、連携やシュミレーションの必要性を主張する意見もあった。具体的には、大学で理論を一方的に教えるだけではなく実践において実態としてどのような業務があるのについてのシュミレーションも必要という指摘もあった。例えばソーシャルワークの本来業務ではない「重い荷物を運ぶ」といった業務を、何故ワーカーがしなければならないかと実習生が了解しないで困ったケース(発言H)の指摘や、ゼミなどで現場で得た体験を文献での学習と繋げ大学で議論し共有して欲しい(発言J、K)といったコメントもあった。また、小グループで具体的な事例について「自分ならこうする」といった事例研究的、演習的な学習を充実することの必要性も訴えられていた(事例M)。

一方で、最近の教育は原理原則的なものが軽視されているのではないかといった指摘(発言E)にまつわる発言も日韓ともに見られた。最近のワーカーは直接の答えをすぐ求める傾向が目立つ(発言J)が、昔は「大学は専門学校ではない」「小さいところにアプローチは大学ではしない」といわれたという、自分の大学時代の教員の態度を「良い意味で」と肯定的に思い返している例(発言J)もあった。また、これとの関連で言えば、教員は自分の専門をどんどん語ってくれることが学生の刺激になる、そして学生がそのことをきっかけに自ら文献を読むようになるし教員に聞きに行ったりすることになる(発言P)という指摘、「授業ばかり頭に入っていて深く掘り下げていく、探求することができないまま現場に入ってくる」(発言Q)といった指摘も重要だろう。
また、一般論として専門性を持てるような教育(発言I)、ワーカーのアイデンティティ形成やワーカーの役割を学べるようにして欲しい(発言A)という発言や、ソーシャルワーカーの領域が保健医療から侵食されているという危機感(発言A)も、日韓共有のものかもしれない。

X.インタビュー用事例集へのコメントを通して

 本研究は、ソーシャルワーク理論が主として「自由主義」「個人主義」といった欧米的価値観を主要な価値として組み込んでおり、結果的に「集団主義」「家族主義」といった日韓で(さらに言えば東アジアで)共通して重視されると考えられる価値観が養成教育に当たって必ずしも重視されてこなかったのではないか、そのことが援助実践においてジレンマ状況を引き起こしているのではないかという仮説を前提としてはじめられた。
そこで、インタビュー用事例集は、家族とクライエントの葛藤、組織と個人の対立、高齢者の性の問題など、ソーシャルワーカーにジレンマが生じるのではないかと思われるものを取り上げた。
事例1と2は、現在家族と同居している要介護高齢者が今後の同居別居について家族と意見が分かれている場合のワーカーの行動について聞いた。背景としては、要介護高齢者が家族と同居すべきという規範がどの程度ワーカーにあるのか、またクライエントと家族の希望が異なるときにどのようにワーカーは振舞おうとするのかを知りたいという意図があった。
事例3については、独居高齢者で介護も必要になってきていると考えられるが公的サービスを受け入れようとせず、地域からの孤立も予想されるケースへのワーカーの行動について聞いた。質問意図は、地域での孤立ケースに対してどのようにワーカーは関わるか、また本人の希望と客観的ニードが必ずしも一致しない場合にどのように振舞うべきかについての見解を知ろうという意図もあった。
事例4については、入所施設で生活をしているクライエントで施設内のルールをしばしば破り、しかも孤立していると考えられるケースである。集団生活への不適応な状態についてどのように受け止め関わろうとするのか、また孤立とも言える状況についてどのように焦点を当てていくのかといったことについて知ろうという意図があった。
事例5については、個人の希望と施設の方針さらには医療的方針が異なる場合の対応策について問うたものである。本人の健康のことを考えれば本人の希望をかなえることはできないというジレンマ状態。さらには、特定の個人の希望(とりようによっては我が儘)を受け入れることによる施設内の集団との葛藤も問われるケースである。
事例6については施設内恋愛のケースである。施設内のルールと本人の希望の問題でもあるが、高齢者の「性」「恋愛」というタブーの問題にどのように関わるかを問うた問題でもある。
 
 事前の仮説としては、日韓ともに家族や集団との関係を重視するため、クライエントの自己決定が家族の意向や集団のルールと矛盾する状況においては、高いジレンマが発生するのではないか、そしてその程度は韓国のほうが日本よりも強いのではないかといった単純な予測を立てていた。
 しかし、今回の調査からは必ずしも予測を証明しそうな発言は見られなかった。あえていえば、1.基本的には日韓を問わずソーシャルワークの基本原理に則った援助の展開が原則的には行われていること。 2.日本と比べて韓国の場合に困難事例と考えられる場合などにパーターナリスティックな援助がみられる傾向を感じさせるものがあったこと。 3.韓国側からは「長幼の序」に関わる文化的な傾向が援助に当たって大きな影響を与えていることを示唆する発言が複数見られたこと等が指摘されるそうである。

 1.基本的には日韓を問わずソーシャルワークの基本原理に則った援助の展開が原則的には行われていること。

 事例1.2は、同居ケースで家族の意向とクライエントの意向が違う場合の対応について問うたものである。これらの事例についてのコメントの中では家族主義、集団主義といった側面が強調されるというよりは、クライエントの思いの個別化、家族との関係のメディエートなどが見られた。
 例えば、事例1についての回答者1の、「クライアントが望んでいるのに家族は反対しているという理由、状況を把握したい。その後、息子夫婦と本人の意見が違う点、会話がないことも考えられますから、本人と家族の話しあいができる場をつくる。面談を通して本人に沿わせて最終的な決定をしていきたい。」という発言は、アセスメントをし、クライエントと関係者の間のメディエートをしていくということであろうし、回答者7の「家族が一緒に生活したいという理由、本当に心の底から同居したいと思っているのか、よくあるのが経済的に困るからとか親戚とか近所の手前、老人ホームに入ることが困るとかいうことがあるかもしれない。いろんな理由があるかと思いますので、そこをしっかりと見ていかないといけないと思います。」も、アセスメントにおける両者の意向の確認の重要性の指摘であろう。また、回答者5の「利用者さんのAさんの思いを聞かせていただいて、同居しているご家族に対しての思い、ご家族がどう思っておられるのか、ご本人が思っていることを、少し本人さんの思いをゆっくり聞かせていただくことが一番だと思います。」という発言はクライエントを受容することの大切さを強調しているということであろう。
また事例2についての回答者1によるコメント「本人と家族の意見が合わない場合、最終的に本人の意向を尊重したいというのは、二人(回答者1,2)とも同じです。」との答えは、まさにクライエント中心の考え方の大切さを強調しているといえる。
事例1.2を貫いての発言として、回答者5「ご本人の判断能力、情報に対する弱者と言われていますが、自己決定の原則的な話から言いますと、情報提供をさせてもらった上で、ある程度の判断能力がつく、経済的な状況とか環境もあると思いますが、判断がつく状況であれば、全体的な背景も含めてご本人が決定する可能性はあると思います。」はクライエントの自己決定のための情報提供、選択肢の提示の大切さを明らかにしているし、回答者6「事例1と2に共通することですが、ご家族とご本人がコミュニケーションをとっておられるか。双方の思いを聞いてみて、きちんとした話し合いができるかどうかもわからないので、そのような場を確保していただいて、ソーシャルワーカーとして加わらせていただく場合、考えたいと思います。」という発言は既に述べた、クライエントと関係者のメディエートをしていくという回答者1の発言に重なるだろう。

2.日本と比べて韓国の場合に困難事例と考えられる場合などに規範的な援助傾向をとる傾向がみられたこと。


 上に述べたように、今回の調査では、日韓の価値観と欧米的価値観との矛盾が明らかになるようなシーンは明確には見られなかった。どちらかといえば、ソーシャルワーカーは日韓を問わず個別化、受容を大切にし、クライエントの自己決定を大切にしながら、家族等環境との調整をしっかり図ろうとしているという様子が見られた。しかし、事例3や5においては、若干違う傾向が見られた。
韓国のワーカーの方が、本人の「ため」には必ずしも本人の希望を最優先するのではなく、必要な行動をとるという傾向である。

例えば、事例3についてそれが韓国では、アウトリーチという形で現れる。回答者1の「まず本人の身体状況を詳しく見ていく必要がある。介護度を詳しく見る必要がある。こういうケースを経験したことがあります。本人が拒否されても、私としてはむりやりでも電話でもアプローチしていく。サービスを通してもいいし。最初は拒否されることがあって、電話をしたり、メモを残していくと、だんだん心を開いていく。最初は拒否されても、まずはサービスをつなげてあげたい。経験したケースは最初は嫌がったこともある、約束を守らなかったり。でも徐々に心を開いてきて落ちついたケースも経験しています。お弁当をおいてくるとか、サービスを提供していきたい。」という実例を通しての発言は、積極的なアプローチという意味で決して否定的に理解されるものではないだろう。
また回答者2の「この事例の場合、Bさんは入所は必要な状況だと考えます。このままほっておくと観察で終わってしまう。情報提供で終わる気がします。本人の状況を詳しく調べて介入していって施設入所に移行したいと思います。」という発言も、ある意味でパターナリスティックとも言えるが上と通じる視点といえるだろう。
 それが、日本の場合には以下のような発言が続く。
回答者5「生活に不自由だと。外出して買い物に行くとか手段的なものが日常生活で制限があるので、そこはかなり困っておられる状況かなと思います。ただ今の時代、買い物に自分の足を運ばなくても行ける時代になりましたので、そのへんも含めてどう考えておられるか、周辺情報から徹底していかないと。これがなければいろんな働きを使ってご訪問することも必要かもしれません。」
回答者6「Bさんにとると、ご自分の生活圏に他の人が入ってくるのがお好きではないようなタイプだとわかります。こういう方の場合、あまり積極的なアプローチは私は控えます。」
回答者8「この方の場合、ご本人自身がサービスを欲していない。周りの住民が地域でストレスを感じている。ご本人はサービスを知っておられるが、それを利用しない、受けたくないという思いがあるわけで、一定、壁をつくっておられるのですから、そこに住民から噂が入る時、ご本人にとってソーシャルワーカーは何かということで、そこを取り違えてしまうと、もう一切かかわれなくなってしまうことがありますから、まずとりかかりの第一段階の作業としては周辺情報の収集がポイントになると思います。」
 ここからは、地域での生活が困難である高齢者の問題を解決するという視点よりは、なんとか自宅での生活をしたいと思っている高齢者とそれを受け入れることが出来ていない地域住民という形での理解が基本になっている。その結果、クライエントの意思の受容や周囲との関係のメディエートが基本的な行使すべき原則ということになっている。

また、事例5をめぐる対応法をめぐっても日韓での若干の差が見られた。具体的には、日韓で他専門職との関係に関しての違いを感じさせる発言がいくつかあった。
例えば、韓国でのインタビューにおける事例5に関する発言を一通りあげると以下のようなものであった。
回答者1
○本人が望んでも身体状況を考えると与えない方がいいと思います。基本的には(回答者2と)同じ考えです。
○糖尿と判断された方は簡単に検査できるものがあります。毎日ではないが、糖尿と判断された人だけ1週間2回くらい。
回答者2
○継続的に食べてはいけないものを与えない、本人が望んでも。おやつとしてキャンディとか甘いものが出る場合、甘いが身体に悪くないものを探す。与える場合は、死ぬ前の時点では夜中でも最後には食べたいというものは全部食べられるようにします。基本的には与えない。
○うちの施設も韓国内では優秀な施設として個別化された施設と見られていますが、話を聞いてみると日本とは違うということに気づきました。ワーカーはそこまでの力量がない、それは栄養士の仕事だと思っていました。(インタビューアーの日本での状況を紹介する発言を受けたもの)
○訪問客が甘いものを持ってきた場合、本人に渡されることはない。こっちが介入して。状況を説明した上で。
回答者4
○基本的にだめだと。与えません。事例6の場合は、本人自身に身体的な害はないのですが、事例5は本人の身体に悪い。一人に認めると他の糖尿病の方も同じようにしないといけないので。本人の身体状況を見て、1、2回はあるでしょうが。

といったものであった。ここから感じ取ることが出来ることは、ソーシャルワーカーが健康に関わるものは前提的に大切にする。そのためには、訪問客のお土産であっても基本的にはコントロールの対象になるという姿勢である。また、公平原則(他の利用者との関連)も判断の根拠にあげられていた。

一方日本でのインタビューで関連する部分を一通りあげると、次のような回答であった。
回答者5
○施設での援助方針がきっちり決まっているのと、ケアプランの中で、どれだけ合意形成が得られているかというところのずれがあるのかなと思います。糖尿病によってカロリー制限があり、合併症の問題でインシュリンを打っている状況であれば、容認できない状況もある。それも含めてケアと自己満足とどれだけ制約の中で進めていくのかというポイントがあるかなと思います。その分、しっかり運動していただくとか。ご本人に対して生活習慣の問題もあるだろうし、全体的な糖尿病に対するアプローチとワーカーとの連携は重要かなと思います。
○ちょっと難しいのですが、糖尿病でかなりカロリー制限されていて、血糖値のバランスとか、状況が悪い場合、この発言をされているということであればだめですね。一旦、入院しないといけないという話になるかもしれない。糖尿病に対する認識で、高齢の方であって痛くも痒くもなければ、わからない、そこをどう説明するか、説明はしないといけないと思いますが、最終的に施設の方針がそうなっているので、そこが緩むか緩まないかという話になってきて、ここは交換的な話になってきますので、この人のために援助方針をすべて変えていくのか。個別的な援助方針なのか施設の全体的な方針なのかによると思いますが。命にかかわるような状況であれば「だめです」と言い切るかもしれない。
○援助方針の中で調整がつくようであれば。カロリーだけの問題ではないと思うので、微調整ができるようであれば別のもので対応できたらなと思いますが。
回答者6
○糖尿病の状態がどの程度のものなのかわからないのですが、何とか調整ができるという判断があれば、もう少し濃い味のものか食べてもらえるようにできたらとは思います。症状が悪いので、老人ホームの中で生活されているので、管理させていただく立場になるということを説明させていただいて、何とかがまんしていただくかしかないかなと思います。濃い味を食べたいという気持ちを潰すのではなく、療養するということから「こういうふうに考えていきましょうね」と希望を持てるように話していきたいと思います。
回答者7
○基本的にはどこまで妥協できるか。双方がどこまで妥協できるか。一回の食事では高くなっても、全体で見ればカロリー制限されるということであれば方針を立ててもいいのかなと。ただタバコとかは施設ではだめだということになっていますので。
○医学的に「だめだ」と言われていて吸われたり。ドクターと相談して「1日に何本まで」とか妥協点で対応したり。酒、タバコの問題はよくあります。「それがないと生きていけへん」ということで、医学的に見て、その方の病状とかの部分で、どこまで落とせるかを確認した上で。100%、その方の願いを叶えることはできないのですが。
○「認めてあげたいな、食べさせてあげたい」という気持ちはありますが。
回答者8
○よくある事例ですが。この場合、施設として安全管理を優先する方針のもとでの援助方針なのか。それをご本人が認識されているのか。「施設の方針としてあなたにこういう食事を提供しているのだ」という説明がちゃんとできているのかどうかという部分が気になるなと思います。それとソーシャルワーカーとして、栄養士、ケアワーカー、看護師もいて、それを管理する施設サイドもあって、薄味の問題だけではなく、栄養士の専門性から言うとどうか、看護師から言うとどうか、ケースワーカーからするとどうか。経験から言うとケアワーカーの態度は食べさせてあげたいという気持ちが強い。看護師はだめだと。管理上必要だと医学的なところからかかわっていく。栄養士は栄養士として。全体でケアするわけですから、そこで方針がずれてくるといけない。ご本人に対する対応を考えていかないといけない。ソーシャルワーカーとしては全体のケアする方の意思の統一をしておかないといけない。ワーカーは本人に対する説明と、全体の専門職間の連携の媒介になっていく必要があるかなと思います。

 これらを通して感じられることは、(もちろん生命に関わるレベルでは医学的判断が優先されることは当然ではあるが)ソーシャルワーカーサイドが何とか医学的限界に対して、本人の意向を「工夫」によって実現していこうという姿勢である。
例えば、回答者7の発言の中には、食事制限の話ではなく入浴制限の話ではあるが、医学的制限をある程度乗り越えていく積極的努力をソーシャルワーカーが試みている例が紹介されていた。
 それは、以下のようなものであった。

質問者(以下質)  施設の方針、ケアプラン、方針がある場合も「この年になっているからいいやん」ということを、1ワーカーとして思ったというような側面はありますか?
回答者(以下回)  以前に低血圧の方がおられて、入浴に時間制限があったんです。何分以上お風呂に入るといけないと。ご家族にはそういう症状も含めて説明させていただいて、同意書をとったわけではないんですが、ご本人は熱いお湯が好きで、ゆっくり浸かりたいという。
質 気分が悪くなることがわかっていても?
回 ええ。実際、救急車を呼ぶことは避けたいので、いろんな手を八方尽くして。お湯を温めに入ればいいのですが、入れていく時間を加えたり、多めに湯を入れたりしたんですが、結果的には別にお風呂で亡くなったということではないんですが。この方がおっしゃっていたのは「お風呂を管理される」と。3分くらいで上がってほしいところを6分入られる。時計を見ていて、最初は僕らが言うんですが、看護師さんに言われると上がるということで上がっていただいて。「僕の歳になったらわかる」と言われて。
質 現実には意識を失ったり、とかまではなく?
回 あったんです。
質 それに懲りてということではなく? 職場の上司とかに了解を得て?
回 当然、担当のケアマネジャーも入っていただいて、上司とも相談して。
質 意識を失われたら困るから3分までにしろという話にはならなかった。
回 目標にして。
 看護師などとも連携し、上司やケアマネとも連絡を取りながら、「入浴時間について管理されたくない」というクライエントの思いを何とか実現していこうとするソーシャルワーカーの姿がこの事例には見られるといえるだろう。

 繰り返すように、今回のインタビューから、日本と韓国のソーシャルワークの状況の違いについて断言できることが言えるわけでは当然ながらない。ただ、事例5をめぐる論議からは、役割分担を重視し、健康に関する問題は医師や栄養士などの、判断に従う傾向が韓国に強いのに対して、日本は何とかソーシャルワーカーの立場から利用者に働きかけまた、専門職集団に働きかけ、「落とし所」を模索していこうとする傾向が見られる、といった仮説を立てることは出来るのではないだろうか。

3.韓国側からは「長幼の序」に関わる文化的な傾向が援助に当たって大きな影響を与えていることを示唆する発言が複数見られたこと。

 厳密に言えば、事例そのものについてのコメントではなく、その他とも言える部分についてであるが、いくつかの注目されるコメントが見られた。
 例えば、日韓比較という意味では韓国でのインタビューでは、自らの発言を「韓国では」「韓国の場合」と注釈して展開される部分があった。(注8)
 具体的には、以下の場面で韓国のインタビューイー自らが自国の「長幼の序」重視の傾向についてのコメントが見られた。

回答者3
「韓国の場合、高齢者を敬う、敬老思想があたりまえになっています。そのために頑張っていますが、あまりにもあたりまえで、こっちは頑張っていても向こうは欲求ばかりを出してきます。当然だと思って頑張っていますが、むかつくこともあります、また無視されることもあります。あなたは市から給料をもらってやっているのだから、こちらはサービスを受けるのは当然だということで葛藤が起こったりします。」
「担当している業務の中で、高学歴の方で、ある程度の知識がある。高齢者のことについて知識を解説する。この場合、自分が今まで生きてきた経験もあるので一番難しい。こちらはワーカーとして仕事もある、周りのこともあるので、いろいろ考えてこういうふうにしましょうと言うとお前らに言われる筋合いはないと。非合理的であっても、お年寄りだから従わざるをえないということがあります。」
回答者4
「(今の悩みについて)大きく3つ言うことができると思います。<中略>3つ目はお年寄りなので受けるのが当然だと思っていて要求が多い。それで悩んだりします。」
また、「職場の上司にそのことを相談したら、どう答えられると思いますか?」というインタビューアーの問いに対して回答者3は、「とりあえず我慢してと理解しています。ここでは高齢者が最優先なので。たとえばある問題が起きました。すると利用者は館長とかにすぐ言っていきます。私のミスだと言って。上の人はわかっていると思いますが、考えると複雑になりますが。私はそれに不満を持っています。非合理的であってもお年寄りだからとりあえずハイと言わざるをえないので悩んでいるところです。」と答えている。

この傾向が日本にないか、欧米にないか、などといった比較の議論は今回の調査では困難であるが、韓国において「長幼の序」に関わる意識が高齢福祉現場にも強く、現場ワーカーがときに困難を感じている場合があるということはいえそうである。
今後日本や欧米などで、この問題についてどのように捉えられているかといったことを明らかにしていくことで一定の文化的傾向が援助場面での影響を与えている可能性について検討していくことも出来るのではないだろうか。

Y.まとめ

 専門用語に関するアンケートからは、日韓を問わずよく学んでいる項目や重要と考えられている項目などに一定の共通性がみられた。その中で、重要性が高く認識されながら、大学であまり学んでいないという指摘を受けた項目がいくつかあった。教育サイドもこれらの指摘に対して教育内容の一定の再検討をする必要性があるのではないだろうか。また、(インタビューイーが大学教育を受けた時期の違いにも拠るので一概には言えないが)いくつかの項目で日韓の評価が異なり、日本が比較的にオーソドックスな教育内容を、韓国が新しい教育内容を採用している可能性が示唆された。

 大学でのソーシャルワーク教育に求める内容について言えば、日韓を問わず多くの指摘がなされた。大学で学ぶ理論は実践に役に立たず、もっと実践的な知識や技術を教えるべきであるという意見や、知識・技術の習得以前に援助者としての人間性を育ててほしいといった指摘もあった。教育サイドとしては、心しなければならない指摘であろう。ただし、大学教育で出来る範囲の教育と現任訓練範囲の関係性についても検討していく必要があるだろうし、また、大学での養成教育は、スクリーニング機能を果たすべきなのかどうかといった議論もこれらの指摘から敷衍して論じていく課題がでてきそうである。
 また、上のような指摘の一方で近年の専門教育が表面的な知識・技術の習得に焦点を当てすぎ、社会福祉の本質論、原則論が軽視されているのではないかという指摘も見られた。この指摘も忘れてはならない重要な指摘なのではないだろうか。
 これらの一件矛盾もする意見をどう両立させていくかが、重要になってきそうである。

 事例に関するコメントを中心としたインタビューの結果からは、基本的には日韓のソーシャルワーカーともに、クライエントの自己決定の尊重、受容、メディエートなどといった基本的な原則が大切にされていることが明らかになった。
 しかし、あえていえば、健康や安全などに関わる困難度の高いケースには、韓国でのソーシャルワーカーは、利用者の意思よりは健康を守る、安全を守るといった、より優先すべき規範的な原則に従った援助行動をとろうとする傾向が見られるのに対して、日本では何とか本人の希望を中心に「落とし所」を探そうとする傾向が見られるようであった。
 これが、今回の調査のインタビューイーに限定される傾向であるのか、日韓の差と読んでよいものであるのかは、今後の研究に待たねばならないが、一つの仮説としては指摘できるのではないだろうか。



________________________________

注1
なお韓国での調査の時点では事例1を事例1−1と事例1−2と細分化し、事例1〜5の5事例として実施したが、日本での調査の時点では1−1を事例1、1−2を事例2とし、事例1〜6の6事例と表記を改めて実施した。本論文処理に当たっては便宜上全てを日本において用いた番号に置き換えた。
注2
「実践における重要度」のEは「わからない」となっており、厳密には五択ではなく、Eをのぞく四択ととるべきともいえる。しかし以下の理由から、今回はEの選択を、Dよりも重要度についての否定的な選択であると理解し処理することとした。
○ 各回答欄はAからEまで、一列に配列されており、「わからない」といった具体的な項目名は各項目の選択肢には記述されていない。そして各用語の習熟度と重要度が並列して回答するようになっているため、回答者としては1−5、A−Eを順序尺度的にとらえていると考えられる。
○ 現実に重要度Eという回答が選ばれている32の内、22は習熟度が5の「習ったことがない」となっている。また、他も全て、3の「習ったことはあるが意味や内容についてはあまり理解していない」、と4の「習ったことはあるが意味や内容については覚えていない」に集中している。つまり、習ったことがないか中身は覚えていないという事実を前提とし、福祉現場を一定期間経験しているワーカーが、重要度を判定できないということから考えて、ここでの「わからない」は「どちらともいえない」という意味よりは、その用語について「必要を感じたことがない」という意味だと考えられるからである。
注3
四名中一名が無回答。合計値を3で除した。
注4 
もちろん、各回答者が大学に在学した時期によっても学んだ内容は異なることは勘案しなければならない。
注5
 必要度についての認識はワーカーの働くフィールドによって違う面があるかもしれない。例えば、「ナラティブ」といった概念大学では熱心には教えられておらず、高齢関係のワーカには必ずしも必要性を感じられていない傾向がみえたが、例えば精神障害者福祉関連では「ナラティブ」の重要度に関するスコアが上がるかもしれない。
注6
 そのことが悪いことかどうかは別の議論である。
注7
 本節では、「今後の大学教育に求められること」という「問い」に対する回答そのものを分析の対象にしているため、該当発言部分全てを資料として引用し、分析することとした。冗長にはなるが、この方法を採用したのは以下の理由による。
一般的に、質的調査の処理に当たっては、量的調査の処理と比べて、なぜその発言が選択されたかに恣意性があるのではないかという疑問が拭いきれないところに弱さの一つがあると考えられる。その意味では、分析の対象となるインタビュー内容全体を公開することにより、追証が可能になると考えられるからである。
ただし、次節については、問いが「事例」ごとになっているのに対して、分析は横断的なものになるため、適宜本文中に必要箇所を引用するに止めた。
注8
 ただし、これは日韓で自国意識の程度が違うといった類のこととは考えられない。インタビューアーが日本人であり、韓国での調査をしたからこそ、説明的に誘導されたと考えられる。ある意味で外国人であるインタビューアーに対しておそらく日本と違うのではないかと彼らが考える部分を強調してくれたと考えられるからである。



[資料1]


2006年8月15日



地域福祉の国際比較研究
−日韓・東アジア類型と西欧型の比較−


ソーシャルワーク教育の内容およびソーシャルワーカーの意識に関する研究計画


同志社大学社会学部     
                               社会福祉学科     
                                  小山  隆
                                  空閑 浩人


       

1.研究目的
 ソーシャルワーク教育は、医療や看護、教育など他の対人援助専門職の養成と同様、世界的にみて、ある程度その内容・方法が標準化されていると考えられる。 そしてそのため、現実に行われているソーシャルワーク教育の内容は、各国の独自の文化に根ざしたものであるというよりは、米英をはじめとする西洋型の価値観や福祉モデルが前提とされ、個人としての主体性や自己決定など、個人主義を「善」とした教育が行われているのではないかと考えられる。
 しかし、ソーシャルワーク実践は、その国で暮らす人々の現実生活そのものに関わるものである以上、そこに人々の価値観や生活習慣、人間関係の取り方などのいわゆるその国の「文化」が、大きな影響を与えると考えられる。標準とされる欧米モデルを学んだ各国の現場のワーカーは、そこで学んだソーシャルワークの価値観と、日々関わっているクライエントが現実に生活している文化的な状況や、あるいはワーカー個人の価値観や倫理観とのギャップを感じていることはないだろうか。
 以上のような問題意識をふまえ、本研究では以下の点について明らかにしたいと考える。

1)各国の専門職教育を受けたソーシャルワーカーがどのような知識や専門的倫理を学んできているのか。
2)自己決定の尊重をはじめとする標準的なソーシャルワークの価値観と、各国における現場のワーカーが専門職教育を受ける以前から身につけていた価値観との間に、ジレンマが生じていないか、また、クライエントとのかかわりを中心とした実践上でのジレンマを抱えてはいないか。
3)もしも以上のようなジレンマが発生しているとして、それらをワーカーはどのように解決しているのか、あるいはその解決に向けてのサポートにはどのようなものがあるのか。

2.研究・調査方法
 日本と韓国の高齢者福祉分野で働くソーシャルワーカーに対するフォーカス・グループインタビューの実施およびインタビュー結果の比較・分析を行う。また、あわせて日本と韓国における専門職教育で用いられている標準的なテキストの内容についての比較・分析を行う。

3.グループインタビューの概要(インタビューガイド) 
1)目的
 日韓のソーシャルワーカーがそれぞれ受けてきた専門職教育の内容について把握するとともに、そこで学んだソーシャルワークの価値や原則と、ワーカー個人の価値観や、現場での実践のなかで体験するクライエントの価値観や生活習慣等との間のジレンマを抽出し、現実の実践のなかで、そのようなジレンマをどのように解決しているのかについて明らかにする。  

2)対象
 高齢者福祉施設で働くワーカー(4年生大学卒業の社会福祉士資格取得者で実務経験3年以上)を対象とする。
 @入所施設所属のワーカー5〜7名を対象とするインタビュー
 A通所施設等の利用施設所属のワーカー5〜7名を対象とするインタビュー

3)インタビュー内容
 @ソーシャルワークに関する代表的な用語(概念)についてのアンケートの実施。
 Aソーシャルワーク(の価値や原則)に関して、大学でどのようなことを学んできたか。
B実際にソーシャルワークを実践するなかで感じている倫理的なジレンマ(大学で学んだこととの矛盾)の有無と、それへの対処方法。
 C価値の葛藤や倫理的ジレンマに対する簡単な事例を提示しての自由討議。
Dワーカーである以前に、個人的に大切にしている価値観や考え方、またその形成に影響を与えたものは何か。
 E高齢者の在宅生活、地域生活におけるニーズと援助活動の実際および課題等
F今後の(大学での)ソーシャルワーク教育に必要だと思われることは何か。

4)インタビューの実施方法・時間
 司会者:1名、録音・記録係:1名、通訳:1名
 1回につき、2時間〜2時間30分とする。
 
5)補足
 対象およびインタビューの実施方法・時間については、研究協力者との相談の上確定する。



[資料2]


    2006年8月23日

ソーシャルワーク教育の内容およびソーシャルワーカーの意識に関する比較調査
調査の説明とご協力のお願い



同志社大学 社会学部         
                                  社会福祉学科         
    小山 隆  空閑 浩人



       

1.調査の目的
 今回の調査は、社会福祉施設・機関で働くみなさんが、現場でのソーシャルワークの実践において、どのようなことを大切にされているのか、また、どのようなことに悩んでおられるのかについて知ることを目的としています。特に、大学で学んだことが仕事にどのように役立ったか、また自分がワーカーとして、したいと思うことや正しいと思ったことと、大学で学んだこととの間に、矛盾を感じたことがないかなどについてお聞かせ頂きたいと思います。 

2.調査の方法
 社会福祉施設・機関で働くソーシャルワーカーの方で、社会福祉士資格を有する、現場経験が3年以上の方に調査にご協力頂きたいと考えています。特に今回の調査では、高齢者福祉施設・機関で働いておられる方々を対象としています。
 調査は、「グループインタビュー」の形式で行いたいと考えています。上の条件を満たすソーシャルワーカーの方数名にお集まり頂き、司会者の質問等に答えて頂きながら進めたいと思っています。インタビューの実施時間は2時間から2時間30分を予定しています。

3.調査の概要(インタビュー内容の例)
 @大学で学んだソーシャルワーク教育の内容
 A実践上で大切にしていること
 B実践上の悩みや困りごとの内容
 Cそのことと大学で学んだこととの関係
D個人的に大切にしている価値観や考え方、またその形成に影響を与えたもの
 E高齢者の在宅生活、地域生活におけるニーズと援助活動の実際および課題等
F今後の(大学での)ソーシャルワーク教育に必要だと思われること
Gこちらが提示した事例についての意見等

4.調査(インタビュー)に関する確認事項
 @インタビューの内容は録音させて頂きますが、保管および取り扱いに関しては研究責任者が責任を持って管理します。
 A発言は任意です。司会者の質問に対して、わからない場合や答えたくない場合は、その旨お伝え頂ければ結構です。
 Bこの調査(インタビュー)結果の分析にあたり、みなさんの発言は匿名化されます。また調査結果は、学術研究以外の目的で利用されることはありません。
Cこの調査に関して、何か問い合わせ等がありましたら下記の連絡先までお願いします。

  研究責任者 
   小山 隆(Koyama Takashi)・空閑浩人(Kuga Hiroto)
   連絡先:同志社大学社会学部社会福祉学科
       〒602-0047 京都市上京区新町通今出川上ル



[資料3]

画像にするか、pdfにすればいいのにさぼってごめん!!

同 意 書





同志社大学社会学部
社会福祉学科 
教授 小山 隆 殿





 私は、「ソーシャルワーク教育の内容およびソーシャルワーカーの意識に関する比較調査」のためのグループインタビューの実施に関する説明を受け、その目的や方法、また個人情報の保護や管理について理解しましたので、インタビューに参加し、調査に協力することに同意いたします。





2006年  月   日
                                        

                    氏名                 







                                     
ご希望の方には、調査・研究結果が公開された際に、報告書をお送り致します。以下希望される方は送付先住所をご記入ください。



送付先住所:                                  





[資料4]

みにくくてごめん!!








[資料5]

グループインタビュー用事例集

以下の事例について、あなたが担当のソーシャルワーカーならどのように考え、どのように方針を立て、どのようにかかわりますか。
またその判断のときにもちいた、ソーシャルワークの原則は何ですか。または、ソーシャルワークの原則ではないけれども、大切にした考え方、価値観はどのようなものですか。

事例1.
 Aさん(男性)は、80歳になり、日常生活行為の全般にわたって介護が必要な状態です。現在は同居しているAさんの息子夫婦が介護を担っています。
Aさんはこれ以上家族に迷惑をかけたくない、また一人で気楽に暮らしたいと思い、老人ホームへの入所を希望していますが、家族は一緒に生活したいと言って反対しています。
 このようなAさんや家族に、ソーシャルワーカーであるあなたはどのようにかかわりますか?

事例2.(別な事例)
 Aさん(男性)は、80歳になり、日常生活行為の全般にわたって介護が必要な状態です。現在は同居しているAさんの息子夫婦が介護を担っています。
息子夫婦はこれ以上の介護負担に耐えられないということで、Aさんの老人ホームへの入所を希望していますが、本人は一緒に生活したいと言って反対しています。
 このようなAさんや家族に、ソーシャルワーカーであるあなたはどのようにかかわりますか?

事例3.
 早くに夫を亡くし、現在一人ぐらしのBさん(女性)は80歳になります。高齢で身体も不自由なため、日常生活では食事の用意や買い物などに多くの困難を抱えています。近隣の住民から在宅福祉サービス利用を勧められることがありますが、一切利用しようとしません。また地域の老人福祉センターの集まりにも参加しません。
 このようなBさんに対して、ソーシャルワーカーであるあなたはどのようにかかわりますか?

事例4.
 老人ホームに入所している75歳のCさん(男性)は、いつもひとりで過ごしています。決まった食事の時間には来ないで、遅くに来てひとりで黙って食べます。また起床や就寝、入浴の時間も守らずに他の利用者に迷惑をかけることもあります。さらに、ホームでの集会や行事には誘われても一切参加せず、職員も困っている状況です。
 このようなCさんに対して、ソーシャルワーカーであるあなたはどのようにかかわりますか?

事例5.
 老人ホームに入所している80歳のDさん(女性)は、糖尿病を患っているために、施設での援助方針により、カロリー制限された薄味の食事を食べています。しかし、Dさんは「この年になってまで、自分が食べたいものをがまんしたくない。私の楽しみを奪わないでほしい。もっと濃い味の物が食べたい」とソーシャルワーカーに訴えます。
 さて、あなたがこのソーシャルワーカーだったら、どうしますか? 

事例6.
 80歳のEさん(男性)と75歳のFさん(女性)は、同じ老人ホームで生活していますが、いつしか恋愛関係になりました。この施設では男女別室が部屋割りの方針となっていますが、2人は、ソーシャルワーカーに「愛し合っている自分たちを同室にしてほしい」と相談してきました。
 さて、あなたがこのソーシャルワーカーだったら、どうしますか?




[資料6]

 回答者1.

発言A ソーシャルワーカーとしてのアイデンティティ、ワーカーの役割は何かということを教えてほしい。学校で勉強したことと現場は違う。何でも屋さんみたいな感じで。対処案からつくっていかないといけない、やらないといけないことが多い。学校で習ったことと差が大きいので、10年たっても今も悩んでいるところです。社会福祉協議会でもよく議論されるところですが、ワーカーの領域が保健・医療から浸食されていて、それもまた悩んでいるところです。アンデンティティと役割機能、ワーカーは何でも屋さんとして求められているところがありますから。

発言B 看護医療の知識が乏しすぎる。カリキュラムでも。現場で必要とされている現状だから、ある程度の知識は習得できるようにカリキュラムとして組んでほしい。実習を強化して中身を充実してほしい。160時間の2倍はしないといけないと思います、個人的な考えですが。看護医療の知識を実習して現場で対応できるように。

発言C 私もそうだと思います。実習だけで終わるのではなく、現場で講習とか研修のステップを踏んだ方がいいと思います。

 回答者2.

発言D 学校で習った理論だけだと、現場で目の前に利用者がいて、ケアする人がいる場合、すぐかかわっていかないといけない。研修があると思いますが、戸惑う場合が多い。ケアのかかわり方がわからない。医療と深いかかわりがある。ソーシャルワーカーは資料を検討しないといけないんですが、カルテとか医療にかかわる部分の見方がわからない。それを学校で習っていないように思う、看護と医療の部分は。現場では医療とかかわりが多くて医療の知識が必要だが、学校では習っていない。現場で対応できるソーシャルワーカーがいないような気がします。

発言E 私自身は学部出身ではなく、院で専門の勉強をしたわけですが、最近の学部のカリキュラムを見ますと、必修科目が概論とか原論に縮小されて、選択科目を増やしつつあるようになっていると思います。

 回答者3.

発言F 何年も前に卒業しているので。今、現場に入ってくる人たちを見ますと、パソコンの業務や理論的には私が知らなかったことも豊かになっています。しかしワーカーとしての人間の接し方、人間としての人格、人間関係における基本ができていない。私は年だからそういう判断をするのかもしれませんが、ワーカーとしての人間関係の基本や接し方について、そういう面が欠けているのではないかと感じます。

発言G もちろん学校だけの責任ではないと思いますが、家庭でも。各科目、専門知識だけではなく、ワーカーの基本になることは教えるべきだと思います。学校ではワーカーとしての基本姿勢の教育は必要だと思います。学校だけではないと思いますが。


 回答者4.

発言H 大学では理論中心だと思います。たとえば仕事で重いものを持って運搬しないといけないことがありました。実習で「ワーカーはこんなこともしないといけないのか」ということを聞いて、それを説得するのに3時間かかりました。ワーカーがどういうものかということを学校で学んでいることと、現場は全然違うんですね。そういうことを前もって、ある程度経験をする、気持ちの準備ができる教育が必要だと思います。ボランティア活動をするシステムの教育内容を組んだり。学校で学んだことより、現場で学んだことの方が時間は短いですが、多いということがあると思います。理論中心より、現場で対応できるように前もって心構えを持てる教育をしてほしいと思います。

発言I あともう一つ。韓国においてワーカーは過渡期を経験していると思います。今までも相談業務があったと思いますが、私はもっと、それに専門性を持てるような教育をしていただきたいと思います。

 回答者5.

発言J これからの大学教育へ望むこと。皆に頑張ってもらいたいというのは、僕がいた頃はケアマネジメントとかケースマネジメントという言葉があまり聞かなかったんです。最近になってケアマネジメントという言葉が出始めて。先生に「大学は専門学校じゃない」「小さいところにアプローチは大学ではあまりしないよ」と言われていました、いい意味で。ただ若い連中を見ていると、わりに小さな視点で見ている。結果をすぐ「どうなるんでしょうか?」という形で求めてくる。それは大事なことなんですけども、もうちょっと議論をしていって、ここは社会的な経験とか、個人の経験とか一般的な社会経験をするところで、価値観にもかかわってくるのかなということを思います。後輩たちへのメッセージはよくわからないですが。

発言K ゼミナール形式だと緊張感も出てきますし、ゼミは順番に出ていって実際に現場を見にいって、どういう反応をするかということを議論していく場でした。文献を見てどう感じて、どう考えていくかを共有する場でもあったので。そういう蓄積が現場に行って「なぜこれをするか」ということのつながりを感じてほしいなと若い連中には思います。我々が「こうしろ、ああしろ」ということに対して割合、素直な人が多いんです。食いついて「なぜこうするのか」という疑問を抱けば、我々も刺激になるなと思います。我々もまだ未成熟なこともありますから。


 回答者6.

発言L 大学での勉強がどれだけ役立っているかわからないですが、人としての基本的なことを、人としての基礎となる部分、そこが一番大事かと思います。実習生がいろんな学校からたくさんの方が来られますが、興味本位だけで現場実習に入られていると明らかに感じられる方もあります。ただお年寄りが好きだからということだけで来られるとか、もっとそこに尊敬の念があったりということが、なかなか感じ取れない学生さんが多いと、最近、思うんです。人としての基本を、大学だけでは足りないと思いますが、最近、学生さんたちが現場に入った時、壁にぶちあたることは大事ですが、利用者さんから苦情が上がるじゃないかとか、利用者さんが嫌な思いをするのではないかと思うようなことで、ちょっと不安に感じることはあります。現場で実習を担当させていただいて仕事に対する考え方が甘かったり、人を大事に考えていると言っていて本当に尊敬できていない部分をちょっと感じられるので、基本的なものを、もう少し教育で学ばれるといいなと思います。

発言M 大きな講義では難しいと思いますが、小グループで今のような事例を出して「自分ならこういうふうに考える、どう対応する」ということとか。現場実習に入って、そこでワーカーとどうかかわるかも大きく影響すると思いますので、いい現場で実習に入って、そこから学ぶことは学生にとってはとても大きいと思います。どんどん現場に入っていくことで、いいワーカーからいろんなものを教えてもらったりする、現場での教育と大学での教育の両方がうまくいったらいいかなと思います。

発言N 現場でケアワーカーとかかわる時、人に対する援助ですので、相手の方にまず受け入れてもらうことが何の仕事をするにしても大事になってきますので、相手に受け入れられるような人間性を育ててほしいなと思います。

 回答者7.

発言O 今回、先生方とお話をして、ソーシャルワーク、実際の業務として相談援助をしていますが、昔、勉強したことをもういっぺん振り返らないといかんなと思っています。今になって初めて何年か経験させていただい中で、ようやく昔、大学で勉強したこと、もういっぺん振り返ってみたいなという思いが出てきました。今回、調査でいただいていることをもっともっと深めて勉強してみたいなと、現場で今になって思います。

発言P 学生時代、勉強していたんですが、興味がないというか、実践の経験もないので印象に残ってないというのが現状です。印象に残る講義は、僕でしたら社会保障論で、本来、社会保障論は社会保障の仕組みであったり、勉強するんですが、朝日訴訟の話しかされなかったんです。でも印象に残っています。そこから社会保障とは、ということを自分で勉強するきっかけにはなったかなと思います。先生方それぞれ専門分野をお持ちだと思いますが、そういうことを中心にお話いただいても、それがきっかけになるかなと。面白い授業をする先生の論文とかを読んだりして聞きにいったりしていたんです。授業の中では先生方も語られないことを聞いたり、自分で調べて学生側から見ると面白い例もあると思いますので、どんどん出していただいたら興味が沸いてくるかなと思います。自分でつくられた本を教科書にされる先生とか、教科書は一般的なことが書かれていますが、論文は専門的なものがあって、興味が沸いてきて。学生時代、ゼミは一生懸命出ました。阪神淡路大震災の被災者の方は高齢者の方が多くて、現地の状況を見てきた中で、社会的弱者に一番しわ寄せが来ている。高齢者を守るということも含めてゼミで取り組みたいと思いました。社会保障の実習にも行きましたが、特養だけではなく、社協とか行政にも実習に行かせていただきました。いろんなところを見せていただく中で、いろんな問題が見えてくる。それが結構つながっているということがわかって、よかったなと思います。社会福祉はあまりいいイメージがないんですが、人と向き合う楽しい仕事だということをいろいろ教えていただきました。


 回答者8.

発言Q 僕は大学教育を受けてから20年になります。39歳になりますから、今、大学で社会福祉学部で学ぶという体制が変わってきているのかなと思います。今回、調査をいただく中で、用語・教育にこんなこともあったのかなと、予習復習ではなくて見てみると、習った記憶があるな、こんな難しい言葉ではなく、これまでやってきた実践の中で大事にやってきたなということが確認できたわけです。大学教育で学んだことが今、生きているのかと言えば、生きてないものもあるかな。しかし結果として大事なことはやってこられたのかなとは思っています。それは何かと言うと、福祉そのもの、人が生きていく、生きているもの同士がかかわっていく。その中で互いに幸せな生活を送ることのかかわりの仕事であるという。その部分を大学で学んできたことではないかと。それで今までやってこられたのかなと思います。社会福祉士受験のテキストを見ると覚えないといけないことがある。大学ではアルバイトばかりでしたが、大学の授業も専門教育で自分から学んでいくというようなことが必要になると思います。今、学生たちが探究していく姿勢ができているのかどうか、疑問でもあります。授業ばかり頭に入っていて、深く掘り下げていく、探究することができないまま現場に入ってくる。理論と実践との乖離ということもありますが。

発言R 大学教育に対しては、我々としてはいい仕事でもありますので、そこにどんどん後進として入ってきてもらう人を求めています。我々が求めている人材と大学教育を受けて送られてくる専門職とはちょっと違うなと感じます。人の生きざまに直に触れていって、自分で判断しながら、という逞しさが、今の人たちは欠けているかなと。20年前からすると明らかにそれが欠けているなと。それは現場の責任もあると思います。現場の職員が利用者のためにという役割意識を持てているかどうかだと思うんですね。職員が「厄介な仕事やな」とか感じていたら、受け手の方の学生の学びも違ってくると思います。学生によって、いい先輩にめぐり合えた人は、いい専門職として成長していけるでしょうし、反対に思いは持っていたけど「この程度でいいのか」ということで社会福祉専門家として入ってくる場合もある。現場にも責任があると思います。今一度、大学教育の延長線上に現場の教育があって、それをきちっと体系化して教育しながら学びの場としていく組織にしていかないと「いい人材が来ないな」とボヤくだけではなく、大学だけに責任を求めるのではなく、我々の方にも責任があるということを感じていかないといけないなと思っています。大学で学んだことをもう一度、現場で培った経験と置き換えながら、こういう経験が実証されているんだな、と感じながら、現場でしっかり学んでいく環境にしていきたいなと思っています。


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