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シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』(河出書房新社1900円)発売中→bk1 | amazon



【12月1日(月)】


 映画の日なのでワーナーマイカル市川妙典で「フォーン・ブース」「阿修羅のごとく」「g@me」「スカイハイ」の4本立て。
「フォーン・ブース」はわりとよくできてるんだけど、感心するにはもう一歩足りない。四姉妹ものは個人的にツボなので「阿修羅」は抵抗しがたい。「g@me」は、ミステリ映画としてアンフェアすれすれ。まあ「閉ざされた森」がOKなら、この描写もありですか。原作読まずに見たら感心するかも。「スカイハイ」は退屈。



【12月2日(火)〜9日(火)】


 《本の雑誌》新刊ガイド用の読書。

●ジェラルド・カーシュ『廃墟の歌声』(西崎憲ほか訳/晶文社ミステリ一八〇〇円)★★★
『壜の中の手記』より一段落ちる。カームジン連作が4本入ってるのがウリで(たぶん)、そっちは楽しい。

●ダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』(嶋田洋一訳/河出書房新社《奇想コレクション》一九〇〇円)★★★★1/2
 本邦初訳が一本しかないのがマイナスポイントだが、さすがに作品レベルは高い。表題作は、いま読むと「あなたの人生の物語」普通小説バージョンですね。「宇宙の熱死」「リアルト・ホテルにて」系列。SFマガジン読んでない人には、「最後のクラス写真」「ケリー・ダールを探して」がお薦め。

●デイヴィッド・アンブローズ『幻のハリウッド』(渡辺庸子訳/創元推理文庫九六〇円)★★★
 角川文庫の既訳二長編、『そして人類は沈黙する』『覚醒するアダム』はあんまり感心しなかったが、このハリウッドネタ連作短編集はなかなかの拾いもの。晶文社ミステリや河出《奇想コレクション》みたいにつくったほうが売れたんじゃないですか。ポルノ男優の純愛小説とか、老いたベテラン映画プロデューサーを主役にキャプラ風の話をもうひとひねりした話とか、SF系、ホラー系じゃないやつのほうが面白い。

●牧野修『楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史』(早川書房一五〇〇円)★★★1/2
 牧野みちこ名義の二篇('85年の第一回幻想文学新人賞佳作入選の「召されし街」と、山尾悠子トリビュートな「中華風の屍体」)がボーナストラック。《SFバカ本》初出の「踊るバビロン」「演歌の黙示録」「ある芸人の記録」がベスト3。

●牧野修『乙女軍曹ピュセル・アン・フラジャーイル』(ソノラマ文庫五三三円)★★★
 もしもジャンヌ・ダルクが新造人間だったら。というキャシャーン小説。紀里谷和明監督の次回作にどうですか。

●デイヴィッド・ブリン『星界の楽園』(酒井昭伸訳/ハヤカワ文庫SF)★★★1/2
 読んでなかった第二部からまとめ読み。三部がいちばん面白いと思うのは、オレがネオチンプ派だから? E空間ネタはどう見ても山田正紀か牧野修のパクリ(笑)。

●茅田砂胡『天使の舞闘会』(中央公論新社九〇〇円)★★★
 《暁の天使たち》完結編。だが、すぐ次のシリーズに続くらしい。一シリーズを18巻も続けると新しい読者の参入障壁が高くなりすぎる――ということのようです。

●上田早夕里『火星ダークバラード』(角川春樹事務所一八〇〇円)★★★1/2
 第四回小松左京賞受賞作。個人的には(今回の候補作中で)けっこう推していた作品。ちょっとライトノベル風味の加わったSFアクション。

●柴田よしき『蛇』上下(トクマノベルズ八五七円・八九五円円)★★
 京都・滋賀が舞台の竜の子太郎ネタ現代伝奇ファンタジー。わりと岩本隆雄系なんで、『星虫』シリーズの愛読者にはお薦め。ノベルスで出すより、中高生向けファンタジーの造本で出したほうがよかったのでは。



【12月10日(水)】


 日本推理作家協会賞予選会第一回。一次通過作の洗い出しは30分で終了。まあ、今年はそんなに悩む余地がなさそう。

 杉江松恋・吉野仁と三人でタクシーに乗り、渋谷のミステリー忘年会。一次会でわりと衝撃的なニュースを聞く。そうですか。いや、なんとも。
 終了後は、山田順子・古沢嘉通・内田昌之ほかSF翻訳組プラスαの十人ぐらいで、ロイヤルホストのビルの8階にある白木屋。白木屋に入ったのは初めてかも。いや、そこしか空いてなかったので。
 この店の名前は「しらきや」と発音する人が多いんですが、正しくは「しろきや」のはず。赤井英和が出てたCFで「しろきや」と連呼してたのであれっと思って調べたんだっけか。戦前のビル火災で有名なデパートもたしか「しろきや」。それ以外のいろんな店名も、ざっと調べた範囲ではだいたいぜんぶ「しろきや」と読ませる模様。
 黒木(くろき)の反対語が「しろき」で、杉や檜のことを言うらしい。皮を剥いた木が「しらき」。ということは、白木(しろき)の白木(しらき)もアリなのか?

 関係ないけど、自転車を「じでんしゃ」と発音する流派(?)も人口の3パーセントぐらい存在しますね。SF界では三村美衣が有名だが、そう思って気をつけてると、テレビでも月に一回ぐらいは耳にする。地球はじでんしないだろうに。

 ついでにもうひとつ。よくある誤用で非常に多い気がするのは「やおら」。
「彼はやおら立ち上がって叫んだ」とか書いてあると、「ぱっと」「急に」の意味にもとれますが、「そろそろと」「ゆっくりと」「あわてずに」「しずかに」「おもむろに」などの意味。オレも十年ぐらい前まで取り違えてて、指摘されて辞書引いたときはけっこう茫然とした記憶が。そんなのはオレだけ? 「じでんしゃ」比率より誤解率が高いんじゃないかと思いますがどうですか。
 そのわりに指摘されにくいのは、「役者不足」の意味で「役不足」と言ったりするのと違って、一発で間違いだと断定しにくいせいか。

 白木屋で今夜のスター内田昌之の話をたっぷり(でもないけど)聞いたあと、近所の人々とタクシーで西葛西にもどり、駅前でカラオケ。先に帰宅して爆睡。



【12月11日(木)〜16日(火)】


 映画ベストテンの締切。
 《映画秘宝》は媒体特性に配慮したセレクションで10本選出。

1 ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
2 アダプテーション
3 ファム・ファタール
4 キル・ビル
5 呪怨2
6 ミニミニ大作戦
7 1980
8 ほえる犬は噛まない
9 アイデンティティー
10 WATARIDORI

 ワーストはもちろん『マトリックス・レボリューションズ』。あと『チャーリーズ・エンジェル・フルスロットル』と『踊る大捜査線2』ね。

 一方、《キネマ旬報》のほうは、外国映画部門で悩んだ挙げ句、一カ国(または地域)から一本だけ代表を出すワールドカップ方式を採用。

1 ロード・オブ・ザ・リング 二つの塔
2 アダプテーション
3 名もなきアフリカの地で
4 トーク・トゥ・ハー
5 小さな中国のお針子
6 永遠のマリア・カラス
7 シティ・オブ・ゴッド
8 北京ヴァイオリン
9 インファナル・アフェア
10 猟奇的な彼女

 もっとも映画の国籍はちゃんと決めにくいので適当。中国映画が2本になるのを避けるため『小さな中国のお針子』はフランス枠に回すとか、『二つの塔』はニュージーランド映画だよね、とか。『マリア・カラス』はたぶんイタリア代表のつもり。3がドイツ、4がスペイン、7がブラジルね。『ベッカムに恋して』とか『イン・ディス・ワールド』とかも入れたかったんですが。

 外国映画監督賞はもちろんピーター・ジャクソン。

 一方、日本映画ベストテンは以下の通り。

1 呪怨2
2 阿修羅のごとく
3 ゲロッパ!
4 1980
5 ヴァイブレータ
6 六月の蛇
7 blue
8 アカルイミライ
9 ロボコン
10 アイデン&ティティ

 2や3が入ってるところが老化の兆しかも。邦画個人賞は、

監督賞 森田芳光(「阿修羅のごとく」)
脚本賞 清水崇(「呪怨2」)
主演女優賞 寺島しのぶ (「ヴァイブレータ」「赤目四十八瀧心中未遂」)
助演女優賞 市川実日子(「ラヴァーズ・キス」)
主演男優賞 北野武(「座頭市」)
助演男優賞 大森南朋 (「ヴァイブレータ」、「赤目四十八瀧心中未遂」)
新人女優賞 石原さとみ(「わたしのグランパ」)
長澤まさみ(「ロボコン」「阿修羅のごとく」)
新人男優賞 オダギリジョー(「アカルイミライ」)

 という、長いものには巻かれろ方式の布陣。助演女優賞は「1980」を見たときぜったい犬山イヌコに投票すると決めてたのに、原稿書いてるときすっかり忘れてました。猛省していきたい。もうひとつ心苦しいのは「ロボコン」の長澤まさみを落としたこと。

 シオドア・スタージョン『不思議のひと触れ』の見本が完成。河出書房新社のI藤氏より受けとる。装幀はなかなかいい感じですね。《奇想コレクション》第一弾のダン・シモンズ『夜更けのエントロピー』はまずまず好調な滑り出しみたいで、スタージョンも売れてくれるといいんですが。お値段は1900円。晶文社ミステリより若干部数が多い分、いくらか安めになってます。ほんとはシモンズより安くできるはずなんだけど、原価計算的にはむしろシモンズが出血価格らしい。

 なお、編者あとがきに出てくる『夢見る宝石』は『夢みる宝石』の間違いです。すみません。山岸真とたなみただしから速攻で指摘されました(笑)。勢いで書いたので他にも間違ってる可能性大。あまり信じないように。



【12月17日(水)】


 年内最後のミステリチャンネル「ブックナビ」収録。終わったあとは渋谷ブックファースト横の甘太郎でしゃぶしゃぶ食べ放題で忘年会。店内は学生(およびそれに準じる年齢の男女)で埋めつくされ、山盛りの肉を見ただけでおなかいっぱい状態。甘太郎に入ったのもたぶん初めてだな。新鮮な驚きが――というより笑っちゃう感じ。




【12月19日(木)】


 東映試写室で「半落ち」。評判いいみたいなんですが、演技力に自信があります的な俳優が次から次へと出てきて大芝居をするので(原作読んでるととくに)疲れる。気合いを入れすぎたTVスペシャル的なつらさ。なんでこうなっちゃうんだろうなあ。

 新宿三丁目のスタバでちょっと仕事してから、池林房で忘年会。村上貴史編の『名探偵ベスト101』(新書館Mystery handbook)ができたばっかりってことで、新書館のM下さんが広報活動に来てました。けっこう特異なキャラの持ち主なので、初対面の人の一部にバカウケ。

 ところで新書館と言えば、8年ごしの企画が伊藤典夫編の『ベストSF201』(仮)。たしか1995年の半ばぐらいには本の選定が終わり、原稿の締切は1995年の年末。自分の日記を検索してみると、1996年1月7日のところに、「新書館から出る伊藤典夫編『SFベストブック201』(仮)の原稿に着手。大森担当分は800字のブックガイドが24本。締切は去年の26日(笑) 中村融はすでにぜんぶ書いてしまったらしい。迷惑なやつである。まあ伊藤さんと良平さんがいるから最後になる気づかいはあるまい。」とか書いてあって爆笑するんだけど、いよいよM下さんがしびれを切らし、「今年10月末までに入った原稿だけでとにかく出す! ぜったい出します!」と宣言。
 そこからあわてて全リストを見直し、他の人がバックレたやつとか追加したいやつも含めて十数本を書いて入稿。とりあえずブックガイド部分はぜんぶゲラになり、残すは伊藤さんの序文のみ。それもインタビューになり、M下さんが伊藤さんの語り下ろしを原稿化して、伊藤さんが直しを入れれば終了。というところまで来てるんだけど、予想通りここでぱたっとストップ(笑)。2004年3月刊を予定してるらしいんだけど、はたしてどうなることか。大森の仕事はぜんぶ終わったのでもう余裕。まあしかし、8年前の段階ですでに原稿をぜんぶ入れてる中村融のことを考えれば、締切から8年遅れなので威張れません。

 7時から12時近くまでしゃべったところでひと足早く終電帰宅。



【12月20日(土)】


 子連れで「野田さんの古希を祝う会」@日本青年会。SFクリスマス野田昌宏スペシャルの関連企画なんだけど、うちは子連れでパーティのみ参加。野田さんの従弟だという麻生太郎の挨拶とか、ガチャピン秘話(初代ガチャピンの遺骨?が披露された)とか、場内は「へえ」の嵐。いろいろ珍しいものを見せていただきました。しかも初代ガチャピンをつくったデザイナーの人は志村弘之の義理の伯父さんだそうで、これまた「へえ」。



【12月21日(日)】


 有楽町マリオンの日劇プレックスでゴジラ最新作親子観劇会。OESのえらいひと組とたまたま遭遇したんですが、こっちは子連れなので言い訳が立つ。子連れじゃないと行きにくいイベントのために、おたくに子供を貸す商売はどうですか。
 トキオ社長はたいへん出来の悪いハム太郎映画のあいだは熱心に見ていたものの(ゲッツに喜ぶところが二歳児)、ゴジラの途中で爆睡。しかし吉岡美穂ダメすぎ。釈由美子は偉かったなあ。



【12月22日(月)】


 ヘラルド試写室で「ロード・オブ・ザ・リング 王の帰還」。すばらしい。2004年の外国映画ベストワンははやくも決定。3時間23分とかだけど、2時間ぐらいの感じ。うーん、でもやっぱり三部作じゃなくて六部作にしてほしかったなあ。

 試写に来ていた渡辺麻紀と近所でお茶したあと、別れて品川インターシティ。トラットリア・イタリアって店で忘年会だったんですが、巨大なインターシティの中でお約束のように道に迷う。全体地図をあちこちに配置しておいてほしいものである。あんまり寒くなくてよかった。
 一次会では添野知生・柳下毅一郎ほかと《指輪》以下、もっぱら今年の映画話。さらに新幹線品川駅入口を見下ろすスタバでお茶。
 柳下から、「狂乱西葛西日記は日本最長寿ブログらしいよ」と、ふむページの「ご長寿ブログを探せ」を教えてもらう。3ヶ月中断で脳死判定されるらしいので早く更新しろとのお達し。おお、そう言えば10月1日分から更新してないのか。危ない危ない。というわけであわてて更新することに。しかしブログなのか、これ?
 と思ったら、広い意味でのweblogは、(1)定期的に更新され、(2)他サイトへのリンクを含み(つまり自己完結的ではなく)、(3)過去の記事が公開されているテキストであれば該当するらしい。それならたいていのWEB日記があてはまるよな。っていうかそれはハイパーダイアリーと同義では。
 まあしかし長寿blogレースについて、「これはある種の勝負なのです」とか書いてあると急に燃えるのは事実。死んでたまるか! 最後まで生き抜いてやる! この命あるかぎり! みたいな。blog版のカジマヤーとかやってほしい。とりあえず十年続くと大宴会、みたいな。最近わりと日記のモチベーションが低下気味だったんで、こういうのはありがたいですね。歴史的建造物に頑として住み続けるおっちゃんというか。もうこうなったらブログでもなんでもいいや。
 しかし、こうやってずっと同じurlに居住していられるのも、ディスクスペースを貸してくれてる桝山寛氏のおかげ。桝山さんにおかれましては、日本で最長寿のブログと日本で三番めに長寿のブログ(って柳下んとこだけど)に場所を提供している大家として、伝統文化の保存に貢献している満足感に浸っていただきたいものである。

 神保町パセラへ行くらしい人々と別れてJRで神田駅へ向かい、『SFが読みたい』座談会を終えて打ち上げ中の秋山瑞人・冲方丁・小川一水および三村美衣・S澤編集長に合流。ファミレスを仕事場にしてる人が多くて、ファミレス話が異様に盛り上がったんですが、店員の私生活まで知りつくしている冲方丁は異常だと思った。ふつうファミレスの店員とそこまで話するかなあ。そりゃ、顔見知りにはなるけどさ。それとも東京のファミレスが他人行儀なのか? とか言ってるうちに「ファミレスで遭遇したへんな客・妙な事件」自慢に。これが数時間後に起こる事件の伏線になるとは知る由もないのだった……。以下次号。





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