【5月1日(火)〜2日(水)】


 深夜当直任務を果たしつつ新人賞の原稿読み。外で原稿を書く習慣がついてるので家にいると原稿が書けません。三十枚ぐらいしかないキース・ロバーツの翻訳がいつまでたっても終わらない。
 さいとう妹1号の一家4人+さいとう母+さいとう叔母来訪。いやもうたいへんな騒ぎである。




【5月3日(木)】


 昼過ぎに起き、タクシーでお茶の水の全電通労働会館。SFセミナー2001の最初のプログラムはすでに始まってて、池上永一が壇上でがんがん飛ばしてるところ。鈴木力とのコントラストが絶妙(笑)。『レキオス』の時間SFネタは当初の予定になかったと聞いて驚く。
 終了後、控え室で雑談。会うのは6年ぶりだか7年ぶりだか。版元が文春に移ってからは一回も会ってないのか。髪はすっかり短くなってるけどキャラは全然変わってません。しかし『レキオス』が初版止まりとは。10万部とは言わないけど、もうちょっと売れていいんじゃないの。こ、このままでは「やっぱりSFは売れない」という話に……。

 すいてた居酒屋で食事して、タクシーで本郷。合宿企画をいろいろ眺め(野尻抱介の報告によれば、「若手SF者生活実態調査」で若手の動向をウォッチしていたらしい)、ブッキングされていたアンソロジー部屋で勝手放題なごたくを並べる。まわりで聞いてた人はあんなんで面白かったんでしょうか。ひたすら古い海外短篇のタイトルと枚数(は中村融担当)が飛び交うだけ(笑)。まあ敵もさるものというか、だいたいどの文句にもきっちり回答が用意されているので、対決としては盛り上がりに欠けたかも。
 最後に『貼雑年譜』の現物を見学。解説に呼ばれた日下三蔵は、
「ほう。中はこういうふうになってるんですか。ふうん。いやあすごいな。え、ぼくが買ったやつですか? 開けてるわけないじゃないですか、なに言ってるんですかまったく。あ、こんなのがついてるんですね。すいません、これコピーさせてください」
 とひとり血風芸を披露。しかしいいなあ、貼雑年譜。




【5月4日(金)】


 喜国雅彦・国樹由香夫妻来訪。『綿の国星』ネタのすばらしい色紙を頂く。うちの駄猫が相当に美化されてますが、トキオは別人。いや別人なんだけど(笑)。しかし赤ん坊の体に須和野時夫の顔がついてるとむしろホラーかも。お約束なので、トキオを抱く喜国さん近影

 草刈美由紀・亮ペアも母子で来訪。赤ん坊を抱きたがるアキラ。女装好きだし(というか、レイア姫のコスプレですが)、素質があるかも。




【5月5日(土)】


 葛西事務所に行ったら夜間受付がなかったので、バスに乗って江戸川区役所まで遠征し、出生届を提出。名前は「時央」になりました。トキオっていうと、オレの中では『綿の国星』のチビ猫の飼い主の名前なので、漢字は自動的に「時夫」で決まり。と思ってたんだけど、地味すぎると反対意見が出たため一部変更。まあ字面は同じようなもんですが。
 ある世代以上の人だと、沢田研二の「TOKIO」のサビを歌い出したり、YMOのWAVファイルをメールで送ってきたりするわけですが、とりあえずジャニーズ事務所系の名前ということで。でも顔はパタリロ系。ときどき岡本太郎。
 ちなみに清原なつの『真珠とり』第一話の主人公もトキオなので、大森望と並ぶ清原なつの系の命名という解釈も可。




【5月6日(日)】


 白石朗父子来訪。白石ジュニアは赤ん坊より猫に興味がある模様。先輩パパの子育て技術論を拝聴。いや、参考になるかどうかはともかく。




【5月7日(月)】


 黄金週間終了とともに、《WEB本の雑誌》の新コンテンツ、WEB本の談話室が本日オープン。
 大森はSF談話室の室長担当。SF室長と呼んでほしい。




【5月8日(火)】


 昼間届いた小林泰三の新刊『ΑΩ(アルファ・オメガ)』(角川書店)のゲラを読み、小林さんちに夜電話して新・SFインターセクション用のインタビュー。テレフォンピックが行方不明なので、電話しながらパソコン叩いてメモ入力。まあ、アニメージュの京極さんの企画でも、ざべの水玉さんとの企画でも似たようなことやってたから大丈夫でしょ。というか、細かいネタは小林さんに勝手につくってもらうことに。インタビューだと思って読んでたらいつのまにかハードSFになるのはどうか。数式がばんばん出てくるとか。




【5月9日(水)】


 日本推理作家協会賞発表。評論部門は下馬評通り、都筑道夫『推理作家の出来るまで』、井家上隆幸『』がダブル受賞。こちらはガチガチの銀行レースだったけど、長編および連作短編集部門は大混戦。東直己『残光』(角川春樹事務所)と菅浩江『永遠の森』(早川書房)の二作受賞を事前に予想した人はほとんどいなかったのでは。それぞれ単勝では7倍ぐらいのオッズだとしても、二作受賞は(TOTOの引き分けといっしょで)高配当の条件だから、的中してれば万馬券でしょう。
『残光』は、春樹事務所の単行本なので、読んでる人が少ないだろうと思いますが、東直己のシリーズキャラクターが総登場する快作。前に日記でも書いたとおり、個人的には大好きな小説なので(このミスのベストでは4位に入れた)、それが『永遠の森』と同時受賞ってのはじつにめでたい。

 賞の発表に合わせて菅ちゃんが子連れで上京してて、「結果が出たら残念会でフィーバー(死語)」という計画だったらしいんだけど、著者も担当編集者(S澤編集長)も受賞したときのことをまったく考えてなかったため、宴会の段取りがもろくも崩壊。宴会のために集まった人々(旦那の武田さん@GAINAXと長女を含む)は神田で3時間待ちぼうけを食わされる羽目に(笑)。ほかに知り合いがだれもいないところにやってきたkasibaさんはとくにかわいそうでした。しかし結婚の話を秘密にしてたんだから同情の余地はないね。まあとにかくおめでとうございます。本をどうするのか知らないけど。
 大森は記録担当に指名され、デジタルカメラとデジタルビデオカメラで受賞者記者会見の模様を撮影。都筑さんの、「賞をいただくのは、小学校の夏休みにラジオ体操の皆勤賞を――それも六年間に一度だけですが――もらって以来で」という受賞の弁がなかなか。記者会見の写真はこんな感じ。右から北上次郎・菅浩江・井家上隆幸・都筑道夫・高見浩・北方謙三の各氏。
 菅ちゃんは記者会見の挨拶こそ模範的答弁だったけど、受賞者・審査員・編集者一行で流れた銀座のエルでは飛ばしまくり。
「博物館惑星の俯瞰的な描写が少ないので、いったいどこにあるのか、位置関係とかがちょっとわかりにくかった」みたいな某審査員の感想に答えて、
「SFの雑誌なので、ラグランジュ3と書いてあれば、読者は位置が特定できるんです」と一発回答。この勇気は見習ってゆきたい。ちなみに大森はどこにあるのかよくわかりません。地球と月の引力が釣り合ってるところだっけ? ラグランジュ5になにがあるのかとかそういうことはわかるけどな。
 大沢在昌から、「がんがん稼いでる男だよ」と馳星周を紹介されて、「あ、WZエディタの広告でよく存じ上げてます。そうですか、そしたら着物を買ってもらおうかしら」とか。まあこの勢いならミステリ文壇でのサバイバルも楽勝か。

 最後にようやく神田で合流したSF組の宴会風景と、受賞の夜の武田一家記念写真。適当にお納めください>菅様。


【5月10日(木)】


 ロバーツ特集用のホラー短篇「東向きの窓」をようやく仕上げる。なんか家にいるとサッカー(チャンピオンズ・リーグ、リーガ・エスパニョーラetc.)とメジャーリーグ中継ばっかり見て全然仕事になりません。

 うちの両親が高知から日帰りで孫の顔を見にやってくる。これが初孫。泊まっていけばいいのに――というのに3時間滞在で去る。気を遣っているらしい。




【5月11日(金)】


 斉藤友子来日。いきなり授乳とおむつ替えを指導されるさいとう妹。これで当直はいくらか楽になるのか。




【5月12日(土)】


 どうも調子がでないまま原稿を書く。森達也『スプーン』の書評(産経新聞)とか、《本の雑誌》の書評とか。
 山田正紀2000枚の大作『ミステリ・オペラ』(早川書房二三〇〇円)はようやく読了。怒濤の謎解きで読書の労力はかなりの程度まで報われますが、おつりは来ない感じ。結局、旧かな遣いのところがいちばん読みやすい。現代のパートの手記は全然違う文体を採用してほしかった。いろんな文書が入ってるけど、基本的にはどれも山田正紀文体(「……であるらしい」がポイント)。くりかえしが多いのは、それが必要な構造なんだからしょうがないけど、それを読者に負担に感じさせない配慮はあってもよかった気が。
 検閲図書館の黙忌一郎はみごとに山田正紀的なキャラで、「未決囚でも既決囚でもない無欠囚」とか、山田節が炸裂。しかしくどい。くどすぎる。
 多世界解釈の話も、まああれはあの人がああいうふうに理解したというだけだからべつに間違っててもいいんだけど、ミステリ読者には誤解を与えがちなのでは。という以前に、多世界解釈はメタファーとして有効に機能していないと思いました。
 ブライアン・W・オールディス『スーパートイズ』(中俣真知子訳/竹書房一八〇〇円)は、イギリスで4月に出たばっかり、アメリカではまだ出てないオールディス最新短編集。しかし最新ってことはオールディスはどんどん年寄りになってるわけで、スーパートイズ三部作を除くとほとんど枯山水。老人の繰り言が芸になってる短篇もあれば、なってないのもある感じ。

 こんな本が竹書房から出ちゃうのもひとえに『A.I.』のおかげなんですが、『A.I.』効果の最大の驚きは、6月末刊行予定のイアン・ワトスン『オルガスマシン』(コアマガジン2800円)。部数はめちゃくちゃ少ないらしいので、なんだそりゃとのけぞった人は今すぐbk1で予約。
 えーと、これは英語版しか存在しない(フランス語版だけある)、イアン・ワトスン幻の処女長編。SFポルノという触れ込みだったんでキワモノかなと思ってけど、80年代に全面改稿したのがよかったのか、これがどうしてなかなかの傑作。主役は身体改造された異形のカスタムメイド・ガールたち。横尾忠則のイラストそっくりの姿を演じるT'sガールなんてのも出てきます。ワトスンが日本滞在中の60年代に構想した小説なので、ほかにも日本ネタ多数。冒頭に出てくる「コンクリートの島」は、御木本真珠の真珠島がモデルらしい(笑)。
 内容的には女版『家畜人ヤプー』というか、あまりにも早すぎたサイバーポルノグラフィというか。ヒロインのジェイドの転落ぶりがすさまじい。カスタムメイド・ガールのなれの果てが廃棄されるゴミ集積場の描写は圧倒的。
 さらに驚くべきことに、日本版の装丁担当は荒木元太郎氏。このカバー用に製作されたフィギュアの写真とイラストがあまりにもすばらしかったので、思わずbk1で『エンドルレア・ユノス』を買っちゃったくらいです。しかし趣味的にはユノスより『オルガスマシン』のジェイド(なのか、これは?)のほうが好きかも。カラー口絵もがんがんつくらしいので、ワトスンなんか知らんという人もマストバイ。カスタムメイド・ガール小説の装丁としてはほぼ理想かも。




【5月13日(日)】


 菅・武田夫妻が子連れTDL行きの途中に来訪。なんかそのあとたいへんなことになったらしいですが、詳細は菅ちゃんの日記参照。うちの社長を抱く日本ファングループ連合会議議長の写真とか。


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