作成者 | BON |
更新日 | 2008/04/20 |
自然に存在するうちでも最も強力な酸化剤のひとつ,オゾンを用いる水処理方法についてです。
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オゾン処理 オゾンの酸化力を利用する方法。 |
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高度処理の概要 高度処理の概要に関する情報。 |
【参考】
1)原理
オゾン(O3)とは,酸素から紫外線や無声放電などによって生成する天然の物質です。コピー機をあけると独特の臭いがしますが,これがオゾンによるものです。
オゾン発生装置の事例
左は尼崎浄水場のオゾン発生装置。外見は大体こんな感じですが,ここのオゾン発生装置は隣接する酸素工場から酸素の供給を受けられるため,酸素方式を採用しています。右の写真は別の浄水場の一体型のオゾンリアクタで,小規模用です。
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【日本オゾン協会】 オゾンに関する研究会などを主催。 |
オゾン発生装置の様子(空気放電式)
右は稼動中のオゾン発生装置で,青く見えるのが無声放電している部位です。暗くするとオーロラのようにぼうっと光ってます...ってオーロラ見たことないですけど。この青い光は正式にはコロナ放電といいますが,酸素方式の場合はこのコロナが見られないそうです。(尼崎ではわざわざその旨が看板に書いて建ててありました。)
オゾンは自然界に存在する強力な酸化剤です。また,オゾンが分解して生成する酸素も強い酸化力を持っています。これを水中に吹き込むことで,通常は酸化されにくい物質まで酸化することができます。
2)特徴
主として期待されるのは,他の処理方法では分解されにくい有機物を分解する効果で,異臭味,色度,その他有機物の分解と,これによるオゾン処理後の生物処理効果の増進,細菌やウイルス,クリプトなどの不活化が期待されます。特にクリプトの不活化については,もっとも信頼性の高い方法と考えられます。
とはいえ,もともと自然界に存在するほどですから,それほど極端に強い酸化剤ではありません。オゾンで破壊できるのは主として有機物の二重結合の部分です。オゾンの酸化力をアップするための方法として,過酸化水素水を添加するAOP等の方法があり,オゾン酸化の効果を向上させる手法として研究が進められています。
3)問題点
オゾン処理の問題点や注意事項を列挙します。
(1)コストの問題
もっとも大きいのはコストの問題です。オゾンは保存ができず,その発生は放電によりますので大量の電力を消費するうえに,元となる空気から水分を取り除いたり,排出されるオゾンを分解したり,といった周辺設備のコストが非常に大きいのが現状です。また,オゾンは水にとけにくい特徴を持っていることもこれらを助長します。
オゾン処理のための乾燥機の例
写真はオゾン処理装置に空気を送り込む目的で設置されている除湿器の例です。オゾン発生装置と同じくらいのスペースを使用。
このため,空気ではなく酸素からオゾンを精製する方法も提案され,導入されています。また,水中でオゾンを精製する触媒や,AOP(4の派生法参照)など,オゾン量の低減化や高効率化の手法が研究されています。もっとも,オゾン生成に関する技術開発は活発に行われていて,ここ10年で1/3程度に低下したとのお話でしたので,この辺は最新情報を見てみたいところですが...
(2)副生成物
オゾン処理副生成物の懸念についても注意が必要です。
特に水に臭素が含まれるケース(河口付近の水源など)で臭素酸イオンが生成する現象がよく知られていますが,臭素系の副生成物については水質基準に追加されるなど,その対応は待ったなしになりました。オゾン処理時にpHが上がるとラジカルの生成が増え,臭素酸など副生成物が発生しやすくなるので,オゾン処理を実施する場合にはpHの調整に意を用いることが必要です。
現在のところ,日本では,活性炭吸着/生物処理処理を後段に設置することが行政指導により義務化されています。ただ,オゾン副生成物については,オゾン処理が導入され始めた時点でのあまり知見のなかった時期に拒否反応的に懸念されたもので,オゾンによる参加はケトンやアルデヒドまで,強力に酸化しても有機酸までであるので,そんなに心配することはなく,オゾンの後段の活性炭も,ケースバイケースではあるが必要ない,との意見もあるようです。オゾン処理の消毒副生成物に関する情報サイトについて紹介します。
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オゾンによる水処理で生成する副産物@【住まいの科学情報センター】 オゾン処理副生成物の同定研究の紹介と水道利用に関する意見。 |
(3)個別にいろいろ難しい
このほか,有機物量は減少するのにトリハロメタン生成能が低減しない場合があり,その原因については研究されています。そもそもオゾン処理は有機物を分解するための処理で,その除去は別途後段で生物活性炭などにより行う方がよいとも言え,その意味で後段に活性炭を設置することの義務づけは合理的とも言えます。
また,アンモニアがあるとオゾンの消費量が増大するため,処理効率が落ちます。遊離炭酸など,他にもいろいろ影響を受けやすいようです。
鉄やマンガンの酸化もできるのですが,酸化力が強力過ぎるため,除去されやすい形を通り越してしまうそうで,たとえばマンガンがピンク色を呈することもあるそうです。
残留性がないことは長所ですが,消毒剤として使用する場合についてはこれが短所になるでしょう。
また,懸濁質が酸化分解されて重合しにくくなるようで,凝集阻害効果があるといった話も聞きました。ただし,逆にオゾンには凝集促進効果があるという知見もあり,この辺については現時点では判断できません。たぶん,水中の高分子の量などの条件によって双方の影響がでるのでしょうが...
(4)排オゾン処理
排オゾンの処理にも注意が必要です。熱触媒方式,活性炭方式などがありますが,いずれにせよ,水槽を覆って排気を収集し,オゾンが空気中にそのまま放出されないようにします。
活性炭方式による排オゾン処理設備の例
写真は活性炭方式による排オゾン処理設備の例で,オゾンと活性炭反応して二酸化炭素を生成,上の方から灰になっている様子がわかります。これは,処理槽からもれだす少量のオゾンを確実にとらえるための設備で,主たる排オゾン処理設備は触媒方式によっているそうです。
いろいろに難しい点もありますが,その酸化力はこれらの欠点を補ってなお魅力的です。今後とも処理方法のひとつとして研究されていくものと考えられます。
4)派生法
効果を維持しつつオゾンの注入量を減らすことのできる促進酸化(AOP)法が主として研究されており,オゾン量を低減できるために副生成物も大幅に抑制できるとのことです。AOPには,過酸化水素を利用する方法,紫外線を照射する方法などが研究中です。
【備考】
金町浄水場の見学時の記録を追加。
宗宮先生の退官記念講義でのお話を参考に少し加筆修正。