作成者 | BON |
更新日 | 2004/04/25 |
水源事故=水源の水質が急変して取水ができなくなる状態=の傾向や,これが発生した時の対応についてとりまとめました。
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水源事故 水源において発生しやすい異常を表流水,地下水の別で整理。 |
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水源監視 水源事故が発生したときへの準備について。監視体制の整備を取りまとめます。 |
【参考】
水源事故には様々なパターンがありますが,日常もっとも発生頻度が高いのは油汚染です。汚染源はいろいろ考えられますが,事故やガソリンスタンド,事業所などからの漏洩,洪水などによる侵入のほか,車やバイクなどの不法投棄などがあります。毒物の混入による魚の大量へい死が発見された場合などでは,緊急の採水と試験が必要になります。
油汚染に対しては,事故者による通報や一般人による河川当局への通報,取水場監視員による発見が挙げられ,規模に応じて直ちにオイルフェンスや取水停止などの処置が取られます。
【参考】
出展:厚生省生活衛生審議会資料(平成10年度,116事故に対する分析)
一般に,地下水水源の水質は表流水と比較すると安定しており,降雨などの影響による変化は小さいのが普通です。しかし,これは,一旦汚染されると容易に回復しないことの裏返しでもあります。
短期的な水質異常の例としては,表流水や排水の混入などにより,表流水と同様の変化を示すことがあります。また,取水条件の急激な変化や能力の限界を超えた取水によって,赤水や泥水,鉄バクテリアなどが混じることがあります。
地下水の異常は通報などを得にくく,維持管理担当者が自ら行わなければなりません。異常が発生しにくく監視体制が幾分緩やかなこと,浄水工程が消毒のみである場合が多く,容量の余裕が小さい傾向があることなどから,異常の発生が浄水の異常に直結しやすいことに配慮しなければなりません。
【備考】
水質検査室における検査はバッチ試験(=連続試験の対義。サンプリングによる不連続点の試験結果から連続的な傾向を推定する方法)です。このため,検体1体あたりの水質を詳細に調査するためには向いていますが,検体の採取の頻度低いために,事故などによる一時的な汚染を検知したり,職員の観察や住民からの苦情なしで水質異常を発見したりすることには向いていません。
浄水の安全性や適切な運営を確保するためには,外部や運用担当者からの水質異常の連絡体制を整備することが第1であり,より積極的に原水水質を監視する体制を整えることが第2であると思われます。
1)浄水場に管理者を置く
急性の水質異常は,浄水場の維持管理を担当する職員によって,浄水場の異常として検知されます。この,「どこか分からないがいつもと違う」感覚が,実のところ水質異常の検知のうえで重要です。したがって,原則として浄水場には職員を配置し,定期的な見回りを課して,日常と異常の違いを体感できるような管理が必要となります。浄水場の制御は遠隔監視による数人で十分可能ですが,その場合は,このような危機管理について十分なバックアップを提供できるようにしなくてはなりません。
一例として,風水害時の対応事例を示します。
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風水害 風水害における職員対応の事例について。 |
ただし,深井戸の地下水水源を水源としているなど,原水の急な変化が発生しない場合は多少条件は緩和されます。
2)需要者からの通報体制の整備
水源事故の項目で示したように,水源異常の過半は,油や魚のへい死などによって視認されるものです。このため,その第1発見者は需要者や事故者であることが多い傾向があります。この対応として,市民からの通報をうけ,即時体制対策をとれるような体制が必要です。また,通報を受け付ける窓口の広報や,水源の重要性の告知などは,水源汚染の予防の観点からも重要です。
通報を受けるためには,日ごろより水源の状況や事故に関する情報を速やかに告知し,需要者との対話を維持していくことが重要です。水源異常の告知は,各自治体の告知サイトなどで取り上げられていますので,関連するサイトを定期的にチェックするとよいかと思います。
3)通報の分析体制整備
需要者からの通報がいかなる水質異常につながるのか,その分析には水質工学上高度な知識もしくは経験が要求されます。(1)との兼務が理想的であすが,そのような体制の整備が必要です。
エキスパートシステム(熟練者の技術的ノウハウを蓄積し,個々の事態に対応してこれを提供するシステム)を使用して苦情の内容から異常の原因を推定したりする体制を整えることも研究されていますし,また,最近のIT技術の躍進をチャンスと捉え,全く新しい枠組みを考えることもできる可能性も出てきています。
【備考】
浄水場における監視設備は,浄水場の急速ろ過施設を適正に運用することを主眼としています。このため,水温や濁度,pHなど,フロック形成に重要な項目を重点とした監視です。
健康被害が懸念されるような項目の連続検査,監視システムは,製品化されつつはあるものの,まだまだ研究途上といってよい状況です。いくつかを採り上げてみます。
1)センサー類
水源への異物混入の大部分は油によるものですので,その検知は重要な問題です。このため,油センサーを中心とした異常検知センサーの開発は結構盛んです。平成12年の水道研究発表会(@苫小牧)での聴講の印象をこちらに掲載しました。水質分野の進歩の最大のネックはセンサー技術と思いますので,今後のこの分野に期待したいところです。
硝化菌センサーシステムの事例
T県I市の某浄水場に導入されていた設備。硝化菌を飼い,原水に毒物が侵入してきた場合にその影響で硝化菌の活性落ちることをDOで検知する装置だそうです。
2)魚等を利用した監視設備
取水場や浄水場などで,原水を池などに導いてここで魚類を飼い,その様子をみて原水の急性毒性物質の混入などを把握するアイデアは多数採用されています。浄水場などを訪問すると,よく,鯉なんぞが泳いでいる池があるのは,じつはこのような理由からです。
魚類監視設備の構成の例 (この例では直接工事費で400万円ほどでした)
また,さらに積極的に,魚類の動態や群れの忌避行動,すごいところでは魚にセンサーを取り付けてサイバーにチェックする方法なども研究/開発されています。
魚を飼っている例
某浄水場で飼っている魚。大きなやつのほか,タナゴなど感受性の高い魚を入れています。浄水場によっては,メダカのように,さらに感受性の強い魚を利用している例もあるとか。
魚類の動向は管理棟事務所と職員控室の間,ホールからよく見える位置としなければなりません。職員の他,見学者などの見られるように設置することが望まれます。必要に応じてモニター設備を導入する例もあるようです。
ちなみに小ネタですが,ここで使用する魚は水系や国によって大きく異なります(ある意味当然ですが)。日本では,その水系に住んでいる魚で感受性の強いもの(タナゴやメダカ等),耐性が強いもの(フナ,コイ等)を組み合わせている例が多いようです。キンギョやコイのように鑑賞に堪える魚を入れることでPRを兼ねている例もあります。
国によってはどうでしょうか。新聞報道(時事通信040422)では,イタリアでニジマスを利用しているとの記事がありました。フィンランドはヘルシンキ,ピトキャコスキ浄水場を見学したときもマス,トラウト類を使ってました。米軍に至っては,何とブルーギルを放流するとか言ってるようですが,こんなに繁殖力の強い魚をあちこちにばらまかれては大変な生態系被害をもたらしそうです。なんとも,米軍らしいエピソードのようにも思えますね。
【備考】