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 マングースはインド原産の食肉目の動物で、コブラの天敵として知られている。ジャコウネコ科の雑食獣で、主にネズミや鳥、昆虫などを食べる。日本には、1910年、インドから輸入された21匹のマングースが沖縄本島に持ち込まれたのが始まり。

 明治時代、ハブの毒を消す血清がなく、かまれると死亡するケースが多く、ハブの被害は深刻な問題だった。そこで東大の先生がマングースに注目、ハブと戦わせる実験を行った。マングースはハブにかまれても死ぬことはなく、最後はハブの頭に食いついて、見事にしとめたのだ。早速、ハブ退治として沖縄本島に導入された。

写真提供:名柄小・中学校のホームページへ 写真提供:名柄小・中学校のホームページへ
 写真は、奄美大島の名柄小・中学校提供。
 左のハブは、世界の猛毒蛇ランキング10位以内に入っている日本で最も恐れられている毒ヘビだ。さらに攻撃も素早く、長い間、島の人たちに与えてきた有形・無形の影響は極めて大きい。森林やサトウキビ畑、ソテツ林に生息し、居住区にもネズミ類を求めて侵入する。

 右はマングースとハブの戦いを激写した写真。マングースがハブの頭に見事に食らいついている。かつて奄美大島では、ハブ対策として、イタチを2,500匹以上放したこともあるが、逆にハブにやられて全滅。さらに毒薬を散布したが、海に流れて魚や貝に害をおよぼすというので中止。マングース作戦は、最後の切り札として放したらしい。それほどハブが多くはびこり、人間や家畜の被害が深刻だった。

 結果は惨めなものだった。肝心のハブは食べず、ニワトリやアヒル、野鳥などを襲いながら次第に数を増やしていった。そして、ついに沖縄にしかいない貴重な生き物・ヤンバルクイナが生息する森林地帯にまで範囲を広げたのだ。

 一方、奄美大島は、10万匹以上のハブが生息し、人間や家畜が受ける被害は沖縄以上に深刻だった。1979年頃、奄美大島のハブ対策として30頭ほどのマングースが放たれた。それから自然繁殖を繰り返し、推定生息数1万頭、島全域に広がる勢いだという。もともとハブを退治するために人間が持ち込んだ動物だが、結果は沖縄本島より深刻だ。

 奄美大島は「東洋のガラパゴス」と呼ばれるほど、古くから生き続けている珍しい動物が多い。アミノクロウサギは、奄美大島、徳之島だけに生息する体長50センチほどの黒いウサギで、国の天然記念物に指定されている。マングースは、このアミノクロウサギやトゲネズミ、ケナガネズミ、ルスリカといった天然記念物の減少・絶滅へと追い込む皮肉な結果を生んでしまったのだ。マングースの糞の中から、こうした動物たちの毛や羽が見つかり、明らかにかみ殺したとわかる死骸も見つかっているという。

 南西諸島は、大陸から最後に隔離されてから100万年が経つという。隔離された島の動物相は、気の遠くなるような長い時間をかけて、微妙なバランスを保つ生態系をつくりだしてきた。もともと肉食獣が生息せず、ハブなどのヘビ類を生態系の頂点においた島では、主要な捕食者はヘビに限定されていた。在来種は、ハブからの攻撃だけをかわすためだけに、その行動や形態を進化させてきた。このため、外部からの侵入者・マングースの攻撃を回避することなどできるはずもなく、容易に捕らえられてしまう。すなわち、隔絶された島の在来種たちは、侵入種に対して極めてもろいことを示している。

ハブとアミノクロウサギの共存

 おもしろいことに、アミノクロウサギは、ハブと同じ穴の中で冬眠するという。島で一番強いハブと一緒に生活することによって、外敵からハブに守られるような形で生き残ってきたのだ。そこへハブよりも怖いマングースが外敵として侵入してきた。島の生物多様性を脅かす脅威となったマングース、国はその撲滅作戦に乗り出した。島では、年間数千頭の駆除を目標に「一頭残らず駆除」する方針だという。

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