移入種問題INDEX 山釣りのページTOP



「山渓カラー名鑑 日本の淡水魚」(山と渓谷社)P150〜151、栃木県中禅寺湖のブラウントラウト。

 ブラックバスと同様、北海道で問題となっている外来魚がブラウントラウトだ。原産地は、北部ヨーロッパで日本へは、昭和の初め頃、カワマスの卵に混じって移入されたと言われている。ブラウントラウトは、極めて大型化する冷水魚で、80センチを超す大物も記録され、原産地では1mを超え、20キロオーバーという大物も。そのファイトが釣り人にとって魅力的であることから、ゲームフィッシングの対象魚として人気が高く、各地の湖に放流されている。

 シューベルトの歌曲「鱒」のモデルになったのが、このブラウントラウトだ。ニジマスより冷たい水を好み、主に水生昆虫や貝類、甲殻類、小魚などを食べるが、大型化するにつれて魚食性が強くなる。

 移植の特徴は、ニジマスなどと違って、公的機関が移植したものではなく、ほとんどが釣り人によって放流された点で、ブラックバスの問題と極めて似ている。しかし、自然繁殖が確認されている地域は、日光の中禅寺湖や北海道など、ごく限られた地域であることが、ブラックバス問題と大きく異なる点だ。

 秋田県で繁殖が確認されているのは、横手川上流の沼で、その下流では50センチ以上の大型のものが釣られている。困ったことに、在来イワナとの天然交雑固体も確認され、純系が侵されるのではないかと心配されている。

 特に渓流魚の宝庫として知られる北海道では、ブラウントラウトの移入種問題は深刻だ。もともとアメマスの生息地だった札幌近郊の渓流では、今やブラウントラウトの数がアメマスを大きく上回っているという。胃の内容物でもアメマスに比べてブラウンの方が大きな餌をより多く捕食していることがわかった。

 支笏湖のブラウントラウト調査では、落下昆虫が豊富な一時期を除き、イトヨ、アメマスをたくさん食べていることが明らかになっている。ブラウントラウトは、支笏湖固有のアメマスにとって大きな脅威となっている。

 さらに、美笛川では、上流部がブラウントラウト、中・下流部はニジマスとブラウン…何と全域が外来魚たちにほぼ独占された状態になっているという。

 アメマスの生息する川に、ブラウントラウトを移植すれば、どうなるのか。悲しいことに、多くの釣り人が愛してやまないアメマスは、この競争に敗れ、消え行く運命にあることがわかったのだ。

 移入種・ブラウントラウトをせっせと放流し、在来の生態系をかく乱しながら「キャッチ&リリースで魚のあふれる川に」などと主張する釣り人たち。ブラウントラウトの危険性を指摘されると、「今いるブラウンまで駆逐する必要はない。自然を元に戻すことは絶対に無理。既に定着しているのだから、現実を認めるべきだ。」…ゲームフィッシングあるいはスポーツフィッシングの流行とともに、移植が激増。1999年時点で、北海道の全域18水系で生息が確認されているという。キャッチ&リリース、釣り人の勝手な移植放流、「入れた者勝ち」…あぁ、これでは、まるでブラックバス問題と同じではないか。「第二のブラックバス問題」と命名したいくらいだ。

 本州では、残念ながら在来種と呼べるイワナやヤマメは「幻の魚」と呼ばれるほど減少している。一方、北海道では、オショロコマやイトウといった北海道固有の在来魚や本州のイワナとは明らかに異なる白い斑点のエゾイワナたちが、数多く生息している。それは、まさに日本の渓流魚たちの縮図であり、日本最後の牙城とも言えるだろう。だからこそ本州に住む釣り馬鹿たちは、既に失ってしまった豊かな渓を求めて、北海道の川に憧れ続けているのだ。

 ごく一部の釣り人たちだけの享楽のために、北海道固有の財産を食い潰してまで、ブラウントラウトを移植する理由もメリットもないと思う。私も北海道の渓に憧れ、源流に潜む天然のオショロコマやエゾイワナを愛する釣り人の一人として、移入種・ブラウントラウトの存在は、とても容認できるものではない。

参考文献
「山渓カラー名鑑 日本の淡水魚」(山と渓谷社)

参考ホームページ
北海道の淡水魚を守る
Native Project
NATIVE HOKKAIDO

移入種問題INDEX 山釣りのページTOP