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 雨音がうるさく、朝5時に起きる。コーヒーを飲みながら、雨がやむのを待つが、一向にやむ気配はない。いつもなら、せせらぎ程度の流れしかない源流部だが、大雨で増水し轟音を発して流れていた。源流部でこんな濁流なら、ツツミ沢が合流する下流部・追良瀬川本流は、コーヒールンバ状態と化していることだろう。8時を過ぎる頃、やっと小降りとなったが、雨はやむ気配なし。酒でも飲んで眠るか・・・との声が出たが、それでは何とももったいない。
 遅い朝食の後、今まで一度も入ったことのない小沢に入る。テン場は、二股になっているが、そのすぐ下流右岸から小沢が流入している。だから正確には、三つ又になっている。小沢周辺には、なかなか見事なブナが林立し、分水尾根には、ミズナラの巨木も見えた。
 左右に蛇行した小沢を数百メートル上ると、見事なナメ滝が懸かっている。落差はおよそ10m弱。雨で増水しているからだろう。小沢に懸かる滝とは思えないほど迫力があった。
 雨は断続的に降り続いていたが、小降りになると、水位は急激に下がり、濁りも消えてきた。そこで、イワナの水中撮影を試みる。上の写真は、手前の岩の奥にイワナの背中が写っている。それに気を良くして、背後から撮影しようとしたが、イワナに気付かれ逃げられてしまった。
 ナラタケ。雨が多いせいだろうか、ナラタケのほとんどが腐っていた。  ホコリタケ・・・食べたことはないが、若いうちは食用とのこと。表皮をむいて、フライや串焼き、煮物が美味しいらしい。
 カワラタケ・・・多数重なり合って群生し、表面は黒、茶、青など多彩な色をあらわす。強靱な皮質で、木材腐朽菌の代表と言われている。 カバイロツルタケ・・・外観はツルタケに似ているが、傘の色が茶褐色である点が違う。ちなみにツルタケの傘は灰色。味噌汁、鍋物が美味しいらしい。
 枯木に生えたツキヨタケ。その造形美をカメラで撮るのは楽しいものだ。
 今晩も、昨日真瀬川で採取したブナハリタケの油炒めとナラタケの味噌汁を食べる。二日目の夜は、一転、満天の星が輝き、夜の冷え込みも一際厳しかった。明日の快晴は間違いなさそうだ。
 3日目、身軽な日帰り装備でサカサ沢、追良瀬川を下り、五郎三郎の沢をめざす。ベースキャンプから片道5.5キロ、往復11キロに及ぶ。流れは減水したとは言え、平水よりかなり多い。(写真:ブナのトンネルに包まれたサカサ沢)
 台風の傷跡・・・斜面右上から根こそぎ倒れたブナが二本、サカサ沢に倒れ込んでいた。それでも思ったより、台風の被害は少ないようだった。
 追良瀬川源流二股・・・奥がツツミ沢、手前からサカサ沢が合流している。私は、この下流のウズラ石沢を登り、白神岳を目指す沢登りのゴールデンルートより、ツツミ沢を登り、黒滝沢を詰め、津梅川小又沢カンカケ沢へ抜けるルートが好きだ。なぜなら、この道は、岩崎村の人々が、マス止めの滝に日本海から遡上したサクラマスを獲るために辿った「マス道」があるからだ。言わば、山棲みの人たちが歩いた暮らしの道が細々と残っている。今では薮に覆われ、ほとんどその痕跡を辿ることは難しいが、それだけに心惹かれるものがある。
 懐かしのテン場。二股下流右岸には、二箇所のテン場がある。うち上流のテン場は、雨が降ると、山から雨水が流れ込み、テン場としては失格。その下流のテン場は、かつて雑草が生い茂る薮だった。ここは、今から20年近く前、私たちが初めて開拓したテン場だ。左の捻じ曲がったブナも、かつてよりかなり大きくなっている。何度訪れても、懐かしさがこみ上げてくる。ここも目立ったゴミもなく安堵する。
 マス止めの滝を過ぎると、巨岩が点在する大淵が連続している。下る我々に気付いたイワナたちが、瀬尻から岩陰に向かって盛んに走る。目測では、8寸から9寸程度が標準で、意外に小さい。渓流魚は、一般に、お互い生き抜くために、「食い分け」をすると言われている。例えば、山岳渓流の小沢奥地に群れるオショロコマの場合、極端に小さい個体が多くなる。逆に魚影の少ない沢では、8寸ほどの大型オショロコマが生息している。これをイワナに当てはめると、自然のエサよりイワナの魚影が濃くなると、尺以上の大物は期待できず、むしろ痩せた個体あるいは小型化が進む危険をはらんでいるように思う。
 昨日の雨も止みも、かなり減水したとは言え、流れは意外に太い。気合いを入れ、すり足走法で慎重に渡渉を繰り返す。
 ウズラ石沢合流点近くに来ると、谷は急に圧縮され、左に直角に曲がり、深い淵を形成している。ここは、左岸の笹藪をよじ登り、ブナが林立する高台からウズラ石沢へ下降する。
 左からウズラ石沢が合流する地点は、広く深いプールになっている。かつては、手前の流れをジャンプして対岸へ渡っていた。今は、手前の岩が欠けてしまい、とてもジャンプできないほど広くなってしまった。試しに中村会長は、左岸を際どくヘツリながら通過したが、最後のツメが難しい。やはり左岸を巻くのがベターだ。
 ウズラ石沢合流点下流、左岸のテン場。ここは、追良瀬堰堤から遡行し、ウズラ石沢〜白神岳コースを目指すパーティがよく利用しているようだ。というのも、ここから下流はゴルジュがホノ沢まで1キロ余りも続く。雨が多い本流の遡行は、このゴルジュ帯が最大の難所になっている。つまり難所を越えた直後のテン場がここなのだ。沢下りの場合なら、増水し、狭いゴルジュを通過するのが危険な場合は、ここでビバーグすると便利だ。
 このゴルジュ区間は、ちょっとでも増水すると対岸に渡渉できなくなる。今回は、左岸のみをヘツリながら進む。すると、まもなく6名のパーティに出会う。3日目にして初めて出会うパーティだったが、後にも先にも、出会ったのは、この1パーティのみだった。
 聞けば、昨日は、大雨で本流は2mも水位が上がったらしい。二の沢に泊まり、今日は白神岳を目指すという。我々の軽装を見て、「えっ、日帰りですか」と驚かれてしまった。「いやいや、サカサ沢に泊まってます。これから五郎三郎の沢へ向かうところです」。白神岳ならいざ知らず、五郎三郎の沢に向かうとは、妙な奴らだ・・・といった表情をされてしまった。沢を登り、一番高い頂上を目指す人たちからみれば、軽装でかつ頂上に背を向けた渓流ウォーキングは理解できないのかもしれない。
 狭いゴルジュが延々と続く。流れは依然として太く、すぐに胸まで達する深さだ。やむなく左岸のみを小さく高巻いたり、岩場を際どくヘツリながら進む。
 かつて、大雨・濁流の中、この険悪な区間を下り、五郎三郎のテン場まで命カラガラ辿り着いたことがあった。その時、どのルートを通り、どうやって下ったのか・・・長谷川副会長に聞いても思い出せないようだ。二人とも、その時の悪夢脱出劇は、記憶から完全にすっ飛んでいた。・・・まだまだ続く・・・。

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