「あ…あの、この海賊船…
 いえ、この船の船長さんは、どのような方なんですか?」


 精一杯の勇気を振り絞って、
 カーマインが先導する海賊に尋ねる

 この海賊
 口調こそ丁寧だが、先程から全く表情が変わらない

 感情が読めない分だけ警戒心も高まる



「そうですね…多少気性の荒い方ですが、それほど悪人でもありません」

 それほど…って、
 どれ程ですか

 やっぱり海賊基準ですか
 その一言を訊ねる勇気が出ない


「…こちらが食堂です」

「あ、は、はい…」

「失礼します
 騎士様ご一行をお連れしました」

 軽くノックをすると、
 食堂へのドアを開く海賊

 3人の間に緊張が走った




 椅子に座っていた大柄の男がゆっくりと立ち上がる
 間違いない、この男がキャプテン――…海賊の頭だ

 彼は一人一人の顔を確認するように見渡すと、
 ニヤリと白い歯を見せて笑った


「おう…悪いな、挨拶にも来れねぇで
 まあディサ国には恩義がある
 この船を自分の家だと思って寛いでくれ」

「あ…この度はご好意に感謝…」


「けっ…よしてくれ
 そんな堅苦しい礼なんざ虫唾が走る、二度と口にするんじゃねえ
 てめぇらみたいな青臭いガキはタメ口で突っ張ってるくらいがお似合いなんだよ!!」

 片手でカーマインの言葉を遮ると、
 彼はメルキゼへと視線を向ける



「……とは言え挨拶と自己紹介くらいはしねぇとな」

 ゆっくりと立ち上がる海賊
 すかさずメルキゼは口を開く

「初めまして
 私はメルキゼデク
 こっちはカーマインとシェルだ」

「おう、ご丁寧にありがとよ」


 そう言うと海賊の頭は無造作に前髪を掻きあげる
 長い前髪の間から覗く黒い眼帯が鈍く光った

 流石は海賊だ
 片目は隠れているものの、眼光は鋼の剣のように鋭い

 上品な紫色の衣装に包まれているその肉体は、
 まさに百戦錬磨と呼ぶに相応しい逞しさだ


 恐らく戦利品と思われる、
 見るからに高価な宝玉や金細工で全身を豪華絢爛に飾っている

 圧倒される存在感がそこにあった
 これが海賊の頭の風格なのだろう




「この船、バイオレット号を仕切ってる海賊の頭だ
 キャプテン・バイオレットと言えば、ちったぁ有名だぜ」

「キャプテン・バイオレットですか…」

「まぁ、気軽にスミレちゃんと呼んでくれて構わねぇぜ」


 それはちょっと…

 というか、何でスミレちゃん?

 色?
 色がスミレ色だから?



「スミレちゃん、騎士様たちをお席へ…」

 本気で呼んでるし!!

「ああ、そうだったな
 好きに座ってくれ、じきに飯が来る」

 普通に受け答えしてるし!!



「…何というか……何とも言えぬのぅ……」

「ちょっと想像の斜め上を滑空する展開だな…」


 曖昧な笑顔を浮かべつつ、
 小声で感想を述べ合うシェルとカーマイン

 一方でメルキゼはスミレちゃんこと、
 キャプテン・バイオレットを無言で凝視している




「騎士さんよ…メルキゼデクって言ったな
 さっきからガンつけてくれてるが…信用ならねぇかい?」

「見た目や肩書きほど悪人じゃない事は目を見ればわかる
 だが、その見た目が信用出来ない…君は何者だ?」

「ちょっ…メルキゼ!?」

 慌ててメルキゼの口を塞ごうとするカーマインとシェル
 しかし、それよりも早くバイオレットの豪快な笑い声が響き渡った


「流石は騎士さんだな
 こんなに早く正体を見破られたのは初めてだぜ
 その騎士鎧も伊達じゃねえって事か」

 いえ、この鎧は伊達です
 心の中でそう突っ込む3人

 しかし単なるコスプレ野郎ですと暴露するわけにも行かない





「君からモンスターの臭いがする
 それも複数だ…一体、何者だ」

「鋭いじゃねぇか…
 切れ者は嫌いじゃねぇぜ
 よし、気に入った…教えてやる」



 そう言うとバイオレットは、
 おもむろに身に纏っていたマントを脱ぎ捨てる


「さあ、見ろ
 滅多に見られるもんじゃねぇぜ」

 そう言うとバイオレットは自らの肉体を指し示す
 そこには明らかに人とは異なる構造の肉体があった


 まず目に付くのが腕や首筋に生えた鰓のようなもの
 淡い薄紫色のベールのような物が全身から生えている

 しかし、彼をモンスターとして扱うにしては、
 目の前の光景はあまりにも美しく神秘的だ

 モンスターと言うよりはむしろ、妖精や精霊と呼んだ方がしっくり来る





「バイオレットさんは…モンスター、なんですか?」

「モンスターと言えばモンスターなんだが…
 正確に言えばキメラって生き物だ
 色んな生物の遺伝子を掛け合わせて生まれた新種の化け物さ」

 そう言い捨てると海賊は自嘲気味に笑ってみせる


「キメラ…合成獣か
 以前、蛇の頭に鳥の翼を持ったモンスターを見た事がある
 あれもキメラの一種だろう
 だが…人の姿を基としたキメラを見るのは初めてだ」

「ああ…だが、辛うじて人の形はしているものの、
 化け物には違いねぇ…現に、この体には他の生き物の一部が生えてるしな」


「他の生き物と…混合…」

 シェルがぽつりと呟く



「そのズボンのファスナーを下げると、
 中から白鳥の頭が飛び出すとかじゃろうか?」

 そんなキメラ嫌過ぎる


「ふざけんなあああああああッ!!
 それじゃあ合成獣じゃなくて、珍獣じゃねぇか!!」

 吠えながらもしっかりと突っ込むキャプテン
 わりとノリがいい



「男の股間は別の生き物、と言うからのぅ…」

「だからって僕の股間はスワンじゃねえ!!」


 この人…
 この口調で一人称が『僕』!!

 何て似合わないんだ






「だんだんこの男が可愛らしく見えてくるから不思議じゃのぅ…」

「ヘソの穴からイチゴが収穫出来たとしても不思議じゃないね」

不思議に決まってんだろうが!!
 てめぇら人をどんな生物にしたいんだ!?」

「す、すみません…
 この2人、ちょっと空気読めないところがありまして…!!」


 慌ててフォローに入るカーマイン
 額に血管を浮かべる海賊を前に必死に頭を下げる

 しかしメルキゼの中では既にバイオレットは安全な人物と認識されているらしい
 先程までの警戒心は既に姿を潜め、遠慮無く言葉を続ける



「…それで、バイオレットは何が混ざったキメラなの?
 紫色で、ヒラヒラして…綺麗だね」

「ん?
 ああ…ウミウシだ


 うみうし!?


 淡い色合いのベールを無数に纏った神秘的な麗人
 その正体はキメラという名のうみうし男だった




 

  < ↑うみうし(イメージ像) >






「君というキメラを作った人は…
 何を思ってウミウシの遺伝子を混ぜたのだろう…」

「知らねぇよ
 ウケ狙いだったんじゃねぇの?」

 ごめん
 否定出来ない


「ちなみに混ざってるのはウミウシだけ?」

「いや、あとは鳥の遺伝子も組み込まれてるぜ?」

「鳥…というと、やっぱりカモメ?」

「いや、クジャクだ」


 ピーコックうみうし男
 とりあえずケバさ120%増



「ズボンを下げたら飛び出すのは白鳥の頭ではなくて、
 孔雀の頭なのかも知れない…」

「もう…インパクト重視で合成されておらぬか?」

イロモノを一直線に目指しましたって感じが見え見えだな…」

「てめぇら少しは聞こえねぇように話しやがれええええええええッ!!!」


 口から炎を吐きそうな勢いのキャプテン
 しかし、怖い感じが全くしないのは何故だろう

 やはり孔雀うみうし男という響きのせいだろうか






「スミレちゃん、ランチの仕度が整いました」

「あ、うん」


 その呼び方止めろ

 静かな口調で真顔のままなのが、
 妙に迫力あって怖い


「すみません、あの海賊の方は一体何者なんですか」

「ああ…こいつは部下のアストロメリアだ
 このスカしたクールさが何考えてるかわからなくて、
 正直言って怖ぇ

 あんたが怖がってどうする




「本日のランチ、海鮮オムライスです」


 自分が話題にされているにもかかわらず、
 あくまでも無表情でオムライスを運ぶアストロメリア

 機械的だ
 どこまでも機械的だ


「スミレちゃん、ケチャップかけますか?」

「おう、適当に頼むぜ」

「かしこまりました」


 バイオレットのオムライスの上に、
 ケチャップを乗せるアストロメリア



「騎士様たちは如何なさいます?」

「あ…お願いします」

「かしこまりました」


 一人一人のオムライスの上に、
 ケチャップを掛けて回る海賊

 新ジャンル・海賊給仕
 なかなか珍しい光景だ


「ケチャップ、お掛けしますか?」

「うむ、可愛く頼む

「かしこまりました」


 ぺとぺと

 黄色い卵の上に
 真っ赤なハート模様が描かれた


「…………。」

 この男、デキる




「その程度じゃまだ甘ぇぜ
 だが…僕は決して諦めねぇ
 いつかこの野郎の鉄面皮を剥がしてやるぜ…!!」

 バイオレットは唐突に立ち上がると、
 ビシッとアストロメリアを指でさす

「アストロメリア…いつか僕がこの手でその仏頂面を、
 大爆笑に変えてやる…!!」


 笑わせてどうする

 普通、そういう場合
 泣きっ面とか言うものじゃないのか?



「一度この野郎を顔面崩壊するほど笑い転げさせてやりてぇんだ!!
 万年仏頂面の人形みたいなこの男の心からの笑顔を見る!!
 それが僕の最大の野望なんだ!!」

 海賊頭の野望がそんなんで良いのか


「その挑戦、いつでも受けて立たせて頂きます」

 受けて立つんかい

 眉一つ動かさず
 相変わらずの無表情で淡々と応えるアストロメリア


 バチバチ
 2人の間に見えない火花が飛び散る

 彼らの関係って、一体…






「あの…バイオレットさん…」

「何だ?」

「アストロメリアさんって…貴方の部下なんですよね?」

「ああ、僕が子供の頃から仕えてくれている
 最も信頼出来る、命令に忠実な従順な部下だぜ」


 もぐもぐとスプーンを口に運びながら、
 バイオレットは誇らしげに胸を張る

 今更だが、厳つい海賊とオムライスって…凄い組み合わせだ



「従順な部下なら、命令で笑って貰えば良いではないか」

「それじゃ意味がねぇ!!
 僕自身の力で奴を笑わせなきゃ、
 この飢えた心は満たされねぇんだ!!」

 何に飢えてるんだ



「アストロメリアはまるで生きた鋼の塊だ
 何を言っても眉一つ動かさねぇ…
 しかも脇腹や足の裏をコチョコチョしても効きやしねえ!!」

 くすぐるな


「その程度の攻撃で私を笑わせる事など不可能です」

 攻撃と呼べるようなものでもない

「いつでも掛かって来て下さって結構です
 いつもの如く、返り討ちにして差し上げます」

 返り討ちって…



「くっ…不本意だが、
 逆に僕がアストロメリアに笑わせられる事も少なくねぇ」

 そっちの光景も気になる

 このクールな男が、
 どうやってうみうし男を笑わせるのか

 何となく見てみたい



「…どんな反撃を受けたのじゃ?」

「ああ…アストロメリアの野郎…
 いつものお返しとばかりに僕の前に突然、
 鼻の頭を赤く塗って出て来やがった…!!」


 真っ赤なお鼻の海賊さん


「もう…僕は…その場でうずくまって、
 肩を震わせることしか出来なかった…
 畜生っ…今思い出しても腹筋が崩壊しそうだ…!!」

 そこまで笑ったのか



「……海賊って、意外と平和な暮らしをしておるのじゃな」

 シェル…
 それは言っちゃダメ

「俺だって
 最初の緊張感を返せって言いたいんだ」


 ちらりとメルキゼへと視線を向けるカーマイン

 メルキゼは間近で見るキメラに興味津々な様子だ
 不思議そうにバイオレットの姿を眺めている

 そこに既に警戒心は見られない



「不思議な色の髪をしておるのぅ…」

 全体的に薄い色素の髪だが、
 青や紫、黄色のグラデーションがかかっている

 神秘的といえば神秘的だが、
 うみうしカラーと言ってしまえばそれまでだ


「琥珀色の肌にアメジストのような瞳…
 生きる宝石とはまさに僕の事だ、美しいだろう?」

 ごめん、バイオレット…

 美しいから見てたんじゃなくて、
 物珍しいから見てたんだ




「ちなみにスミレちゃんとバイオレット
 どちらが本名なのじゃ?」

「どっちも本名じゃねぇ
 僕の名前はマンジュリカってんだ
 でも絶対その名で呼ぶんじゃねぇぞ」

「……何故じゃ?」

「響きがまんじゅうっぽくてダサいじゃねぇか」

 曼珠沙華に謝れ



「失礼します
 デザートをお持ちしました」

 ワゴンを押しながら現れた海賊その2ことアストロメリア

 彼は相変わらず、
 にこりともしないで黙々と作業をこなしている


「口に合うかはわかりませんが…どうぞ」

「あ、すみません…お構いなく」


 コトン
 小さな音を立てて皿が目の前に置かれる

 今日のデザートは
 みんな大好きプリンだった



「……プリン…と、オムライス……」

「嫌いでしたか?」

「いえ、好きですけど…
 何て言うか…微笑ましい組み合わせですね」

「私が好きなもので」

 あんたの趣味か


「本日のプリンは自信作です」

 しかも手作りか


「海賊なんて男所帯ですから
 自然と料理のレパートリーも増えます」

「た、大変ですね…」

「慣れます」


 口調は丁寧だが淡々とした喋り方は、
 やっぱり冷たい印象を受ける

 彼の無表情が尚更そう感じさせるのだろう
 見た目に反して多少ユニークな一面はあるようだが




「おっ…珍しいじゃねぇか
 カーマインっていったか?
 お前、アストロメリアに気に入られたな」

「えっ!?」

「アストロメリアが特定の奴と積極的に話すなんて珍しいぜ
 この鉄面皮男は中身も人形みてぇな奴でよ
 滅多に会話ってもんをしねぇ…僕も散々手を焼かされたぜ」


「はぁ…そうですか」

「お前、さては問題児慣れしてるな?」

「…問題児…」

「ちょっとカーマイン!!
 どうしてそこで私を見るの!?

「さあ…何でだろうな」

 スッと彼から視線をそらすカーマイン
 皆まで言わないのが愛情である





「食後のお茶をどうぞ」

 今度はティーポットを持ってくるアストロメリア
 もう、この人は海賊ではなく給仕と呼んだ方がいいかも知れない


「見た感じ…というか全体から受ける印象からじゃが
 バイオレットとアストロメリアは正反対なキャラじゃのぅ」

 ド派手で常にテンションの高いバイオレットと、
 比較的地味で静かで落ち着いた物腰のアストロメリア

 意外とこういう組み合わせの方が相性が良いのかも知れない


「あまり海賊らしくないと、よく言われます」

「そ、そうですね…
 確かに他の人たちと比べると…少し…」


 他の海賊たちは厳つい海の荒くれ男、といった風貌の輩が多い
 口調も乱暴で、どちらかと言えばバイオレットの方に近い

 華奢と言う程ではないが、
 すらりとした体格のアストロメリア
 彼の身を包む黒いシャツが余計に細く見せている

 彼から海の男という言葉を連想するのは難しい
 恐らくこの船でも浮いた存在なのだろう



「でも、アストロメリアさんのような海賊も良いと思いますよ?
 何となく海賊って力勝負的なイメージがあるんですけど、
 アストロメリアさんって知的って言うか…インテリな感じがします」

「それは眼鏡のせいだと思います
 あまり教養が深いとは言い難いので」


 アストロメリアの顔には銀縁の眼鏡が冷たい光を放っている

 海賊といえば眼帯を連想するが、
 眼鏡というのはまた珍しい


「そう言えばアストロメリアさんて髪が綺麗ですね
 潮風でゴワゴワになったりしないんですか?」

「そうですね、あまり…」


 指先で自らの髪を梳くアストロメリア
 長い銀髪は絹のように滑らかだ

 黒い貝殻…烏貝を繋ぎ合わせて作られた髪飾りが良く似合っている



「アストロメリアさんて、新鮮だなぁ…
 こういうクールな人ってあまり俺の周りにはいなかったタイプだな」

「僕からして見ればカーマインの方が珍しいぜ…
 どうやったらこの短時間で、ここまでアストロメリアを懐かせられんだ…?」

「…な、懐いてる…んですか?」

「だってこいつ、本気で口数少ねぇんだ!!
 普段から必要最低限の事しか言わねぇし、
 こっちから聞かねぇ限り、滅多に口開かねぇし!!
 僕たちが奴と上手くコミュニケーションを取るのに、
 一体何年掛かったと思ってんだ!!」

 年単位ですか





「喋らない、表情変わらない…
 だから感情読めないし何考えてるかわからねぇ
 もう人形だぞこいつは!!
 おカタい鉄面皮の鋼鉄男だ!!」

「……アストロメリアさん」

「はい」

「アストロメリアさんのこと…
 今からアストロンって呼んでもいいですか?」

「何故ですか」


 ごもっともなアストロメリアの問いに、
 周囲は思わず同意する


「いえ、何となく鉄の男って響きがしませんか?」

「しません」

「むぅ…変なニックネームを付けられても動じぬとは…
 アストロメリアも一筋縄では行かぬ男じゃな…」

 唸るシェル

 散々名前で弄られて、
 その度にヘコんでいた恋人を思い出したらしい




「そうだバイオレットさん、
 アストロメリアさんにニックネームを付けたらどうですか?
 ちょっとフレンドリーな感じになるかも知れませんよ」

「ニックネームか…
 想像もしなかったな」

 腕組みをして宙を見つめるバイオレット
 どうやら彼のニックネームを考えているようだ


「そうだな…僕が孔雀なら、
 アストロメリアは…何だろうな…」

 どうやら動物関連のニックネームを付けるつもりらしい

「カモメ…いや、違うな
 もっとクールに…カラス…いや、鶴…はもっと違う…」

 首を捻るバイオレット
 どうやら的確なものが思い浮かばないようだ



「鳥関連で行くつもりですか?」

「いや…仲間に『ハゲタカのロイド』と呼ばれてる奴がいてな
 何となくアストロメリアを鳥に例えるなら何だろうと思ったんだ」

「ちなみに私と共に貴方たちを出迎えた海賊です」

「ああ、あの時の海賊が…」

 確かにハゲタカっぽかったかも知れない
 じゃあアストロメリアを鳥に例えるなら――…



「……ハシビロコウかな…」

「む…聞いた事の無い名じゃのぅ
 どのような鳥なのじゃ?」

「簡単に説明するなら動じない鳥かな
 無言で宙を睨み続けるクールな鳥だよ」

「全く動かねぇんだよな、あの鳥
 しかも無口だし目付き悪ぃし…ピッタリじゃねぇか!!」


 豪快に笑うバイオレット
 どうやら気に入ったらしい

 ―――…カタン

 アストロメリアが無言で立ち上がる
 思わず息を呑む3人


「あ、あ、あの…アストロメリアさん…」

「お茶」

「……はい?」

「おかわり、如何ですか?」

「……………。」



 相変わらずの表情で、
 黙々と全員のカップに紅茶を注ぐアストロメリア

 読めない…
 本気で感情が読めないよ、この人…


 もう、
 動かざることハシビロコウの如し




「……確かに…ここまでクールに振舞われたら、
 強引にでも笑わせてみたくなる気持ちが理解出来るな……」

 まさか
 挑む気じゃないだろうな

 ポツリと呟くカーマインの姿に、
 嫌な予感を感じたシェルとメルキゼ


「…カーマイン…
 お願いだから無駄な闘志を燃やさないでくれ…」

大丈夫

「ほ、本当だろうね…?」



「バイオレットさん、俺…ちょっと案があるんですけど…」

 何を始める気だ

 というか
 全く大丈夫じゃねぇ!!



「むぅ…マズいのぅ…
 頼みの綱のカーマインに暴走されてしまっては…」

「し、シェル…カーマインを止めてくれ…」

「無理じゃ…火波相手ならともかく、
 拙者、昔からカーマインにだけは頭が上がらぬ」



「ふん…面白いじゃねぇか
 アストロメリアを手懐けた男の案とやら、興味がある」

 どうしよう…
 乗り気だ!!


「この際、泣き顔でも笑い顔でも構わねぇ
 アストロメリアの鉄面皮を崩す事が出来るなら手段は選ばねぇぜ」

 お願い
 多少は選んで

 カーマインの場合、
 本気でどんな手段を使ってくるかわからない



「じゃあ、多少苦悶した表情でも構いませんね?」

 待て
 何する気だ

 アストロメリア、悪い事は言わない
 今すぐ逃げろ


 …ニヤリ

 不適に笑うカーマインを前に、
 今すぐ町へ引き返したい衝動に駆られるメルキゼとシェルだった






TOP