「やはり、暖かい部屋の中は落ち着くのぅ…」


 もはや勝手知ったる、といった風貌で
 完全に寛ぎモードに入ってるシェル

 隣に座る火波も似たようなものだったが


「それにしても、カーマインの故郷の味ってどんなのじゃろう?」

「ネタに走った創作料理でなければ良いんだがな」

「確か、変わった名前の鍋じゃったな
 ええと…何と言ったかのぅ…
 さっき、カーマインから聞いて覚えたのじゃが…」


 腕組をして暫く考え込むシェル
 しかし少し考えて思い出したらしい


「そうそう、確か…ちゃんこ鍋という名の料理じゃったな」

ちんこ鍋?
 随分と破廉恥な鍋だな」


 待て
 破廉恥なのは火波の耳の方だ

 というか
 一度耳鼻科へ行け


「その聞き間違いは素か?
 というか、どんな鍋じゃよそれはっ!!」

「具材にキノコやソーセージが大量に入っているとか、
 スープが妙に白濁しているとか…そんな想像に胸が膨らむな」

 瞬時にそこまで想像する下ネタ脳に乾杯



「そんなお下劣な料理があってたまるか…」

「いや…意外とあるものだぞ
 居酒屋とかにたまに置いてあるんだ
 わし、こう見えて結構得意なんだが…」


「得意って…何が?」

「居酒屋の定番セクシーメニュー、ダンディフランク
 リアルに細工した漢のフランクフルトだ」

「……それって…まさか……」

「まぁ、ストレートに言ってしまえば、
 ちんこ細工のソーセージだな」

 少しは慎め



「マヨネーズをかけると更にリアルになるぞ
 よし、早速明日の朝食に特性のダンディフランクを…」

 要らん
 朝から何を食わせる気だ

 というか、この男は
 本気でやりそうだから油断ならない


「こう見えて手先は器用なんだ」

「いや、それは知っておるが…
 頼むからその技術をソーセージ以外に向けておくれ…」

「じゃあバナナで」

「そういう事を言っておるのではないわっ!!」



 額に血管が浮き出てきそうだ

 いや、それよりも
 いつカーマインたちに聞かれるかと気が気じゃない

 思わずキッチンの方に視線を向けると、
 妙に落ち着き払った火波の声が掛かる


「彼らのことなら気にするな
 キッチンで和気藹々と二人の世界に入っている
 だからわしらも心置きなく二人の世界に浸れるぞ」

下ネタワールドは嫌じゃあああっ!!

 シェルの魂の叫びが、
 かまくら小屋の中に響き渡った






「…ごめん、火波
 ちょっと良いかな?」

 不意にキッチンからメルキゼが顔を覗かせる


「…ん…どうした?」

「ちょっと食材が足りなくて…
 悪いけれど、一緒に買出しに付き合ってくれない?」


「ああ、別に構わないが」

「ありがとう、助かるよ
 食事の時間までまだあるけれど、
 今の内に下準備は済ませてしまいたかったから」


 そういうことならと、火波はいそいそと立ち上がる

 そしてメルキゼと連れ立って
 雪に埋もれた港町へと出掛けて行った

 それを見送って、軽く息を吐くシェル



「……ふぅ…ようやく、火波の下ネタ地獄から開放された…」

「シェル、大丈夫か?」


 今度はキッチンからカーマインが顔を覗かせる
 彼の手には湯気を立てたカップを二つ握っていた

 その一つをシェルに手渡しながら、
 カーマインはすぐ隣の席に腰を下ろした


「…元気そうで良かった
 あれから、ずっと心配していたんだぞ?」

「す、すまぬ…」

「それで…火波さんとの関係、どうなったんだ?
 見る限りでは、以前とあまり変わらないように見えるけどさ」


「ああ、うむ…
 とりあえずは一段落着いて、
 良い方向へと流れて行っておるが…」

「……って言う事は、ちゃんと恋人同士になれたんだ?」

「う、うむ…まぁ…」


「……って言う事は、もう大人の階段上っちゃったのかな?」

 ギロリ

 一瞬、カーマインの視線が険しくなる
 口調は優しいが表情が怖い


「い、いや、それはまだじゃ」

「…ちっ…」


 今の舌打ちは何!?



「ま、まぁ…それはそのうち…」

「そっか、とりあえず後学の為に聞いておきたいんだ
 火波さんと何か進展があったら教えてくれよな」

「う、うむ…」


「で、予定日はいつ?」

 その聞き方はどうかと思う


「流石に何もしてないって事は無いだろ?
 関係はどこまで進んでるんだ?
 もうあの巨尻でパフパフして貰った?」

「いや、パフパフって…」


尻肉で顔面挟んで貰った?

 言葉を卑猥に言い換えるな

 というかその光景、
 客観的に想像すると泣けてくる

 でも火波の尻枕でなら、
 一度寝てみたいと想像してしまった自分に乾杯



「むぅ…やはり、頃合としては降臨祭かのぅ…」

犯るならクリスマスってのはどの世界でも共通なんだな
 ここは下心いっぱいのプレゼントも用意しなきゃな」


 頼む
 言葉を選んでくれ

「それで、何を用意する気なんだ?」

「う、うむ…迷っておってのぅ
 カーマインに参考までに意見を聞かせて貰おうと思ったのじゃ」


下着だな

 即答でそう来たか


「下着を贈る、着て貰う、そして脱がす!!
 この三連コンボで大人の階段を駆け抜けろ!!
 さあ行け、性少年!!

 字が違う



「それに、下着と言っても…
 火波の尻に合うサイズのものが普通の店にあるかどうか…」

「そんな時には紐パン
 紐なら、ある程度はフリーサイズだからな」

 更に火波の露出度を上げる気か


「火波さんなら、やっぱり赤かな」

「赤…か…」

「漢の下着といえば赤フンだろ?
 あの尻に絶対似合うと思うんだ」

 ふんどしかい


「というか、カーマインよ…
 ふんどしは紐パンの部類に入るのか?」

「バナナはおやつに入りますか的な質問と同じだな
 まぁ、そんなに深く考えるなよ
 どちらも紐付きに変わりないじゃないか」

 それで良いのか


「巨大な臀部に食い込むふんどしの誘惑…
 めくるめく官能の世界じゃないか!!」

 この男
 ふんどしマニアと見た


「ちなみにシェルは、
 ギリギリとキツい食い込み派?
 それとも隙間からチラリの緩み派?」

 聞かれても困る

 というか、
 ふんどしに派なんてあったのか




「よしよし、じゃあ恋人との甘い夜への期待に、
 胸と股間を膨らませている
 可愛い少年にお兄さんから餞別だ」

 後者は膨らませちゃダメ
 それに、カーマインからの餞別って…


「さあ受け取れ
 男のエチケット、コンドーム!!」

 間に合ってます


「先日貰った物がまだ手付かずじゃから!!」

「装着の練習用にどうかと思って…」

 露骨な話をするな



「ちゃんと持ち歩いてるか?」

「…いや、火波に没収されてしまったのじゃが…」

「じゃあ持っとけ
 予備の分も含めて、たっぷりと
 むしろ箱ごと持って行くか?


 そんなに要らん

 それにしても、この太っ腹ぶり…間違いない
 要するに余ってるというわけか

 これは相当、使う機会に恵まれてないと見た



「よし…ついでだから、
 火波さんを悦ばせられる、とっておきのテクニックを伝授…」

「いや、結構じゃ
 気持ちだけ受け取らせてもらう」

 何を教え込まれるか、わかったものじゃない
 思いっきり警戒態勢に入るシェル


「じゃあ伝授しなくていいから、聞いてて

 要するに語りたいのか

「だってメルキゼに語ったら顔面蒼白で震え始めちゃってさ
 そのまま半日はトイレに閉じ篭って出てこなかったんだ」

 メルキゼに何を言った!?


「今までは良心もあって猥談も抑え気味だったけど、
 これからは思う存分えげつない大人の会話が出来るな」

 頼むから良心だけは抑えないで

 というか、もしかしてカーマイン…
 火波2号と化した!?



「か、勘弁しておくれぇ…」


 猥談も別に嫌いじゃない
 しかし、彼らの話は趣向性が高過ぎる

 マニアック過ぎてついていけないのだ

 めくるめく下ネタワールドを想像して、
 襲い来る眩暈に思わず机に突っ伏すシェルだった



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