川口大三郎君追悼資料室へ
 
 
映画『ゲバルトの杜』は何を訴えるか
 
 
                   瀬戸宏
 
 
『社会新報』2024年8月1日号掲載
 
 
 

525日から上映が始まった映画『ゲバルトの杜〜彼は早稲田で死んだ〜』(代島治彦監督)は、川口大三郎君事件を描いた記録映画だ。本紙でも紹介された樋田毅氏の回想録『彼は早稲田で死んだ』(2021年、文藝春秋)に基づく。

 

 1972118日に当時早大2年生の川口大三郎君が、所属の第一文学部自治会を支配していた革マル派に対立党派のスパイと誤認され白昼自治会室に連行され、8時間におよぶ暴行で死亡した。早大では広範な虐殺糾弾、自治会民主主義の再生・再建運動が巻き起こり、早大の革マル派系自治会執行部は次々にリコールされ、新執行部が選出された。

 

 だが新執行部はさまざまな傾向の活動家の集まりで、まもなく革マル派の暴力反撃が始まると、その対応などを巡って内部分裂が起きた。大学当局も革マル派が凋落すると新左翼や民青などで学内がより混乱すると判断し、革マル派の暴力支配を黙認した。虐殺糾弾自治会再建運動は約一年後に自然消滅していった。

 

 『ゲバルトの杜』は、主に川口君虐殺の再現ドラマ部分(鴻上尚史が監督)と当時の活動家の証言部分から構成されている。事件を知っている者にも、知らない者にも、訴えかける力が作品にある。

 

 内容を巡って、当時の活動家などから賛否両論の意見が出された。否定論者は、描かれた虐殺、糾弾運動の過程などが川口君の死が提起した問題の本質を捉えていない、と批判する。筆者は映画を肯定する。川口君事件という重大な問題を含みながら忘れられていた事件を現在によみがえらせた意義は大きい。不満、物足りなさはあるが、完璧な作品はそもそも存在しないだろう。

 

 秋にはDVDが刊行されると聞く。川口君の無念と民主主義の意義を忘れないためにも、この映画がもっと知られてほしい。