惣流アスカラングレーは、夢をみていた。
それははるか昔の記憶。
それはついこのあいだのおもいで。
それはうれしいこと。
それはつらいこと。
それはたのしいこと。
それはかなしいこと。
エヴァンゲリオン弐号機専属操縦者。それがわたし。
人類を救うエリート。それがわたし。
ドイツの大学を14歳で卒業した天才少女。それがわたし。
でもそれはわたしじゃない。
ほんとうのわたしじゃない。
ほんとうのわたしはそんなんじゃない。
勝ち気な天才少女。それがわたし。わたしを、まわりのひとがみる眼。
わたしもそうおもってきた。いいえ、そうおもいこんできたのよ。
ほんとうのわたしは、よわくて、もろくて、さびしがりやで、なきむしで。
そう、どこにでもいるおんなのこで。
だから、こわれちゃったのかな。
だから、どうでもよくなっちゃったのかな。
ええ、どうでもいいのよ、わたしなんて。
エヴァにのれないわたしなんて。
価値のないわたしなんて。
だれにもひつようとされないわたしなんて。
ママだって、わたしがいらないって。
あれ、シンジがいた、ような気がした。
プラグスーツを着た、シンジが。
ハン、わざわざプラグスーツを着てくるなんて、わたしに対する当てつけのつもり。
エヴァに乗れなくなったわたしへの、当てつけのつもり。
だれにも必要とされなくなったわたしへの、当てつけのつもり。
シンジにしちゃあ、上出来のいやみね。
どうでもいいわよ、もう。
なんにもかんじなくなっちゃった。
シンジが、何かいってる。
いつもの、はっきりしない口調で、何かいってる。
わたしには、かんけいないことだけど。
え、いまなんていったの。よくきこえないよ。
うれしい。
そういったの。
そういったの。
そういったの?
わたしがいて、うれしい?
わがままで、すぐおこって、すぐたたく。
わたしがいて、うれしい?
すぐ八つ当たりする。
わたしがいて、うれしい?
ほんとうに?
ねえ、もう一度いってよ。
わたしにきこえるように、もう一度いってよ。
え、いまなんていったの。よくきこえないよ。
さよなら。
そういったの。
そういったの。
そういったの。
なんで。
なんで。
どうして。
どうして。
もうあえないの。
どうして。
どうしてこんなにこころが痛いんだろう。
もうどうでもいいとおもってたのに。
きえてなくなりたいとおもってたのに。
どうして。
どうして、シンジはプラグスーツを着ていたの。
どうして、シンジはわたしのところにきたの。
テキ。
シンジはそういった?
敵。テキってなに?
カヲルってだれ。
どうしてそんな顔をしているの。
もうあえないの?
もう、あえないの。
ありがとう?
いや。
イヤ。
そんなのイヤ。
「怖いのかい?人と触れ合うのが」
「他人を知らなければ、裏切られることも、互いに傷つくこともない」
「でも、寂しさを忘れることもないよ」
「人間は寂しさを永久に無くすことはできない。人は一人だからね」
「ただ、忘れることができるから、人は生きていけるのさ」
渚カヲルという少年の、声が、聞こえた、ような気がした。
なぜか、そう感じた。
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