プラグスーツを着た少年が、ベッドに横たわる少女を見つめている。
あの愛らしかった少女の頬はこけ、肌にも艶がない。自慢の長い赤みのかかった金髪も、今はくすんでみえる。奇麗だったブルーの瞳には、何も映っていないようだ。
惣流アスカラングレーという少女がこの303病室に入院したのは、10日ほど前である。
こころの病
彼女を一言で言うならば、そういうことだ。
心を閉ざし、いかなる外界の刺激にも反応しない。
身体的には何の問題もない。自分では何も口にせず、栄養を点滴に頼っているため痩せ細ってはいるが、心さえひらけば瞬く間に回復するだろう。そう、心さえひらけば・・・・
少年はどのくらいそうしていただろうか。そのことにふと気づくと、固く結ばれた唇をひらいた。
「アスカ、これで最期かもしれないからきたよ」
「また敵がきたんだ」
「今度の敵、敵ってなんだかよくわからないんだけど、使徒じゃないらしいんだ」
「使徒ってなんだかよくわかんないのに変な話だよね」
「カヲル君も使徒だった・・・・人間なのに」
「アスカはカヲル君の事は知らないか・・」
「大切な人だった。初めてスキだって言ってくれた人だった」
「でもカヲル君は使徒だったんだ・・・ニンゲンなのに」
「僕はこの手で、カヲル君をころした」
「カヲル君がころしてくれって言ったんだ」
「でもころしたのは僕だ」
「僕がころしたんだ」
「僕の手は汚れてしまった」
「ちがう」
「ずっと前から、僕の手は汚れていたんだ」
「トウジの妹にケガをさせ、そしてトウジにも・・・」
「大勢の人々が、ぼくのせいでしんでいった」
「父さんの事、あれこれ言う資格なんて、僕にはなかったんだ」
「なに言ってんだろ。こんなこと言いにきたんじゃないのに・・」
「もう、ここにはこられないかもしれない」
「もう、あえないかもしれない」
「加持さんが、いってくれたんだ」
「ぼくにしかできない、ぼくにならできることがあるはずだって」
「後悔のないようにって」
「僕に何ができるのかわからないけど、僕は僕のできることを、精一杯やってくるよ」
「死んでいった人達のためにも」
「アスカ、力になれなくて、ごめん」
「アスカは、僕なんかがいっしょにいて迷惑だったかな」
「でも僕は、うれしかったんだ」
「アスカがいてくれて、うれしかったんだ」
「アスカに甘えていたのかもしれない」
「アスカは強いからって」
「ごめん」
―――「またあやまってる。あやまってばっかだ」
「そろそろいかなきゃ」
「僕の悪運もここまでかもね。でも、僕はみんなを、アスカを守るためにいってくる」
「さよなら」
アスカが、その言葉にピクリと反応したことにシンジは、気づかなかった。
ご意見、ご感想、ご要望をお待ちしております。
takeo@angel.email.ne.jp