シンジ君の表情はだいぶ変わっていた
 アスカさんの影響なのかな・・・・
 幾分か驚いた様だっだけど
 シンジ君はこっちに向かって歩いてきて・・・
 「本間さん」
 彼は私の名を呼んだ

 

 「シンジ君!」
 この声が聞こえたときは少し驚いた
 本間さんの声だとはすぐに分かった
 『俺はまず彼女に謝らなきゃならない』



 彼はそう思って彼女の方へ向かい、その名を呼んだ。

 「本間さん・・・・」
 




  命の価値は

 Another Final 「I need you.」後編



 
 菅野を除いた殆どの人はユキの気持ちを知る筈もない。
 菅野は、インタビューを取り付けたまでは良かった。でも、相手は『あの』碇シンジ。ユキがスムーズにインタビューを取れるかどうか心配だったが、シンジの態度が素っ気ない以外は、ほぼ問題なく進んでく。両者の間になんの問題もないように見える。
 
 インタビュー中のユキからは笑顔もあふれ出す。数時間前とは偉い違いだった。
 
 
 
 「ユキちゃん、久しぶり!」
 
 ユキはピットから離てトイレで泣いた後、ヒデキと会った。
 ヒデキとは8耐の時以来だった。8耐の時も少し言葉を交わしただけだった。その男が今、目の前にいる。
 
 『なんか不思議な感じのするヒト・・・』
 それが彼女のヒデキー対する第一印象、男らしくない、綺麗な笑顔が不思議だった。
 
 「ちょっといいかい?」
 ヒデキは尋ねる。
 「ハイ。」
 少し不安なユキの返事。ヒデキは苦笑して続ける。
 「シンジ君のことなんだけど・・・・」
 
 ユキは表情を曇らせる。さっき忘れたばかりの『傷』を思い出させたから。
 
 「一つ知っておいて欲しいんだ。」
 「彼は君に『僕は人殺しだっ』て言っただろう?」
 
 ユキは何故ヒデキが知っているのかと、頷きながらもきょとんとした。それでもかまわずヒデキは続ける。
 
 「やっぱりね。彼は4年前、ネルフにいた。そこでエヴァンゲリオンって云う兵器に乗って戦っていた。これも知ってるかな?」
 
 黙って頷くユキ。さっきまで微笑していたヒデキの顔が少し曇る。
 
 「そう。なら彼はその時に『自分は人殺しだ』と言っただろ。でも、それはちょっと違うんだ。彼は『使徒』って云う敵を倒すためにネルフにいて、人類の破滅を防ぐためにエヴァンゲリオンって云うのに乗っていたんだ。最後の使徒がたまたま人間そのものに等しくて・・・、でシンジ君は今でも悩んで、『自分を人殺し』だと思っているんだ。相手は人間じゃなかったのにね。」
 
 ユキは唖然とした。そんなことがあったなんて知っているわけがないのだからだ。
 
 「しかし第3新東京市は消えた。これは決して彼のせいじゃない。キチガイな連中が世界を滅亡させようとしたけど、ネルフの、シンジ君達が戦ったから第3新東京市だけで済んだんだ。決して彼のせいじゃない、彼も被害者なんだ。」
 
 ユキは呆然。しかし彼女の中の一つの傷が急に大きくなり、弾けた。
 
 「でも、なんで第3新東京市なんですかっ!なんで私の家族が巻き添えになったのにっ、『だけ』でなんて・・・・」
 
 思い出したくないことを思い出し、恐怖の海に沈みかけるユキ。
 ヒデキはちょっと困った顔になって言った。
 
 「悪い言い方しちゃったね。でも、君だけでない、僕も大切な人を亡くしたんだ、二人も・・・。僕も第3新東京市に住んでてね・・・・。」
 
 ハッとするユキ。語り出すヒデキ。
 
 「あの頃、僕は女性と同棲していたんだ。籍は入れてなかったけどね。若かったのかな。今はそうでもない。結構、年喰ってるんだよ。」
 何処か自嘲気味な語りのヒデキ。
 「彼女は優しかった。その頃もバイクのレースをやってたんだけど、下手で遅くてね。下手の横好きってヤツだね。お陰でいっつもお金がなかった。」
 「でも、彼女は笑って応援してくれた。でも、彼女が子供を身ごもって3ヶ月ってのを知ってレースをすぐ辞めたよ。」
 「あの日、僕は仕事で4日前から仕事で松代にいた。」
 「帰ってこようとして南下してたら通行止めになってた。そして数日後に政府から『第3新東京市は以後30年間は破棄。』と発表されて気が狂ったよ。何が起きたか知りたくなった。自分の故郷でもあるからかな?」
 ちょっと微笑するヒデキ。
 「警備の目を上手く誤魔化し境界線を越えて第3新東京市に行ってみたんだ。」
 「そしたらなんにも無かった、ただ瓦礫が広がるだけだったよ。」
 「GPSを使って住んでた所にも行ったけど、見事になんにもなかった。あるのはただの瓦礫の山。」
 「もうダメだって何度も思ったよ。何度も死のうかと思った。」
 「自殺未遂も起こしたよ。高速を走ってる自動車に歩道橋の上から飛び込んだんだ。」
 「だけど死ななかった。飛ぶ瞬間に彼女の顔が浮かんできてね・・・『まだ死なないで』って言うんだよ、目の前で。」
 「飛ぶときに無意識に横に飛んでたよ。結局、待避線に落ちたんだ。だから自動車に当たらなかった。怪我をしたけど、今は生きてる。」
 表情は変わらないヒデキ。ユキは胸が痛かった。
 「で、肝心なことは『今は生きてる』ってことだよ。シンジ君達があの場所を護ってくれたから、今僕らは生きていられる。何度も警報が鳴り、避難していた間、彼は人類の存亡を賭けて戦っていたんだ。」
 
 ここまで聞いてユキはヒデキの伝えたいことが理解できた。
 『シンジ君は攻められるべき存在ではない』
 『自分は勘違いしていた』
 
 「つまらない話をしすぎたかな?」
 
 「いいえ、わざわざすみません。ありがとうございました。」
 
 ユキは嬉しかった。シンジは人殺しではなかったことを知り、あの場所が消えたのも彼のせいではないと分かったから。そして、想像できないようなヒデキの過去。自分の勘違いを指摘して、辛い過去まで話してくれたからお礼を言った。
 ヒデキはその後「それじゃっ」と言ってどっかへ行ってしまった。
 
 
 ヒデキはひとり呟く
 
 「嘘でもいいから彼らに欲しいのは希望だ。本当のことを受け入れるには辛すぎる。彼女に嘘をついた僕を神は許してくれるかな?」
 
 そういって天を仰いだ
 
 「明日は・・・・晴れるな」
 
 
 ユキはやっとループの出口を見つけた。だから笑顔も戻り、今は笑っていられる。
 インタビューは何の問題もなく終わった。
 
 インタビューも終わり、撮影機材の撤収中、ユキはシンジに話し掛けた。
 
 「シンジ君、ちょっといいかな?」
 
 
 二人はホテルのプールサイドへ移動した。そこなら誰も話を聞く奴はいないだろうから。
 
 
 先にユキが口を開いた。
 
 「シンジ君、あの時はごめんね。シンジ君の気持ちも考えないで私だけ先走っちゃって。」
 シンジ、『あの時』すぐに思い出す。
 
 「そんな、本間さんが謝らないで。悪いのは僕なんだ。」
 
 「でも・・・そのせいでアスカさんと」
 
 この事はヒカリから聞いていた。そのときは自分をどうしようもない女だと思った。
 
 「今はもういいよ。でも、やっぱり本間さんの気持ちには・・・」
 
 「ストップ!そこから先はもういいわ。でもね、それでも私はシンジ君の事が好きよ。」
 
 シンジ、しばし混乱。でも、彼は伝えなきゃならないことがある。
 
 「いや、違うんだ。僕はやっとわかったんだ。アスカが好きだって事が。だから本間さんの気持ちには・・・」
 
 ユキ、唖然。しかし、笑って言った。
 「やっと本音を吐いたわね、しかも私に言うなんて。その言葉、アスカさんに言ったの?」
 
 「まだだけど・・・・」
 
 「まだ言ってないのっ!そういうのは本人に先に言っておくべきよ。私なんかに先に言っちゃダメ。」
 
 「そう・・・」
 
 「ごめんね。でも、私は諦めた訳じゃないからね。」
 小悪魔的な笑みを浮かべるユキ。
 
 「ごめん・・・・上手く答えられなくて。」
 何がわかったか自分でもわからないシンジ。
 
 「いいの、シンジ君が謝らないで。それじゃあまた明日会いましょ。明日は頑張ってね。」
 そういってユキは先にホテルの中へ戻っていく。
 
 
 時刻は既に午後10時。
 シンジは自分の部屋に戻った。
 
 部屋のベッドで何もしないまま寝っ転がるシンジ。
 頭の中では今日の出来事がひたすら繰り返される。
 そして『考え事』という無限のループに陥る
 
 シンジは、アスカが出ていったときに委員長からきかされた事が頭の中で引っ掛かっていた。
 
 『アスカはあれからずっと、碇君のためだけに生きてきたのよッ。』
 
 『どうして僕なんだろう・・・』
 『確かに僕はアスカのことが好きかもしれない』
 『アスカがいてくれたほうが嬉しいし・・・』
 『でも、僕は甘えちゃダメなんだ』
 『アスカにはそれ相応の場所や人がいる筈なんだ』
 『それに、アスカの気持ちを踏みにじったんだ』
 『なのに・・・・』
 
 どれぐらいの時間そうしていただろうか、不意に部屋のドアをノックする音が聞こえた。
 
 シンジがドアを少し開ける。相手を確認してすぐに閉め、チェーンを外してもう一度開ける。
 
 相手はアスカだった。
 
 「どうしたのアスカ」
 何処かぎこちないシンジの声
 「様子見に来たの・・・」
 
 
 
 「また考え事してたでしょ?」
 
 「いや、何でもないよ・・・」
 
 「嘘ね、『僕は悩んでました』って顔に書いてあるわよ」
 
 「でも・・・大丈夫だよ・・・」
 
 「またあの時のこと?」
 
 「違うよ。もっと別な、身近なこと・・・」
 
 「ほーら。やっぱ悩んでたんじゃない♪」
 
 「あっ・・・・・・」
 
 「で、何悩んでたの?」
 
 「それは・・・」
 
 「そう、アタシには言えないなら・・・」
 
 「違うッ」
 
  シンジの強い否定。
 普段ならこんな事はなかった
 
 「アスカのこと・・・・なんだ」
 
 「!」
 
 「どうしてアスカは僕にかまってくれるのかずっと考えてた。」
 
 「アスカが出ていったとき、『これでアスカは自由だ』って思ったよ」
 
 「でも気づいたんだ、自分の気持ちに」
 
 「やっとわかったんだ・・・・アスカが好きだって」
 
 「だから・・アスカが出ていったときは悲しかった・・・・」
 
 「この気持ちは・・・嘘じゃない・・・」
 
 「でも勝手だよね・・・」
 
 「僕はアスカに甘えてた」
 
 「アスカに嘘を・・・・」
 
 「もういいわよ・・・・」
 
 「!」
 
 「それ以上話してると嫌なことしかでてこないわ。それよりシンジ」
 
 「なに?」
 
 「アタシのこと・・・好き?」
 
 「さっき言ったじゃないか。嘘じゃない、本当の気持ちだって」
 
 「そう、それならいいわ」
 
 「アスカは・・・僕のことどう思ってるの」
 
 「・・・今答えなきゃダメ?」
 
 「今じゃなくてもいいよ・・・」
 
 「明日のレース頑張りなさいよ」
 
 「頑張るよ・・・だからちゃんと見ていて欲しいんだ」
 
 「見るって・・なにを?」
 
 「今度はアスカの前で勝つから・・・」
 
 「言ったわね・・その約束、守りなさいよ」
 
 「頑張るよ・・・」
 
 
 「じゃ、もう寝なきゃ」
 
 「アスカッ」
 
 「なにっ?」
 
 「ありがとう」
 
 「いいのよ。じゃ、寝るわ。おやすみッ」
 
 アスカは部屋を出ていく。
 
 結果的に考え事が終わったシンジ、数秒後に就寝
 
 
 夢を見た
 
 綾波が出てきた
 
 こう言った
 
 「碇君、やっとわかったのね」
 
 「やっと幸せになってもいいって気づいたのね」
 
 「これで私の役目も終わり・・・」
 
 「あなたに逢えて・・・嬉しかった・・・」
 
 「幸せになってね・・・碇君・・・」
 
 目が覚めたとき辺りを見回したけど、誰もいなかった
 誰かがいるような感じがした
 
 僕は喋ることができなかった
 でも、なんとなく綾波の言ってることは理解した
 綾波はもう夢には出てこないだろう
 
 そう思ったら涙が出てきた。
 
 泣きたいとは思わなかった
 
 ただ、涙だけが溢れてきた
 
 
 
 外はまだ暗い空が広がっている
 時刻は午前3時30分
 
 
 日本に帰ったら、第3新東京市に行こうと
 なぜだか思った。
 
 
 
 サーキットの朝は早い
 
 それはイタリアでも例外ではない
 午前8時からフリー走行が始まる
 
 
 HRCから借りたトランポの中で着替えるシンジ
 胸の傷を見て少し感傷に浸る
 しかし、時間が少ないからすぐにレーシングスーツを着込む
 
 ピットに向かうと、赤いマシンがシンジを待っていた。
 マシンの調子は悪くない
 予選は自分が悪かっただけ
 
 
 朝のフリー走行でシンジは2番手のタイムを記録した
 トップは関口ヒデキ
 
 
 午後1時30分にレースはスタートする。
 
 二人の他にも日本人ライダーはいる。国内でのシンジの活躍を聞いてレースを楽しみにしている者のも何人かいたが、この二人の異次元的な走りにただ唖然とするだけだった。
 
 
 レースまでの時間、アスカはこの一ヶ月間のことを話してくれた。
 委員長と密通してたのも笑いながら教えてくれた
 
 『なんだ、心配していてくれたんだ』って嬉しく思った。
 
 
 
 空は蒼く、雲はない。太陽がグリッドに並んだマシンとライダー達を照りつける。
 
 横でパラソルを持っているのは、今日はアスカだった。前走ではユミコが持っていたがやっぱりアスカの仕事だった。
 
 
 スタート一分前になるとマシンの押し掛けが始まる。コウジがこれを手伝う。
 
 アスカは既にピットへ戻っていた。
 そして、誰にも聞こえないような声で呟く
 
 「シンジ・・・怪我しないでよ・・・」
 
 チームのみんなの願い、無事に帰ってくればいい。ただそれだけだろう。
 
 30秒前を知らせるボードを持ったレースクイーンがグリッドから下がる。
 
 実況は何を言ってるかシンジには全くわからない。

 セーフティーカーがスタートする

 最後のウォームアップ

 それも終われば

 レースは始まる

 タイヤを暖め、マシンの調子を確かめる

 ポールシッター・関口ヒデキを先頭にコースをゆっくりと一周するライダー達

 全車、グリッドにつく

 シグナルの赤が点灯する
 
 エンジンの叫びが鳴り響く
 
 シグナルが青になる
 
 スタートで飛び出したのはヒデキではなく、第3列目スタートのシンジだった。
 決してヒデキのスタートが悪い訳ではない、シンジが良すぎた
 その後ろに1列目スタートの日本人ライダー、仲野タケトが続く。ポールの関口ヒデキは3番手に後退してしまう。他の外国人ライダーたちは完全に置いてかれた状態。
 
 スタートから3台で後続をちぎってしまったものの、レースは長い。何が起こるかもわからない。
 
 タケトは世界選手権の250CCクラスにフルタイムで参戦している日本人では、数少ないワークスライダーの一人だった。
 ワークスライダーの意地であろうか、前回はヒデキに完膚無きまでにちぎられたため、このレースはなんとしても勝ちたかった。国内戦ではヒデキに数回か勝ったこともあった。
 
 でも、シンジは速かった。
 
 噂通り、走りの次元が違うのだ。常にアドバンテージのギリギリの範囲で走っている様に見える。一歩でも間違えれば簡単に『ドカンッ』だろう。綱渡りのような事を平気で続けている。
 
 タケトは背中にゾッとしたモノを感じた。
 
 『こいつ、死ぬことが怖くないのか・・・・』
 
 正直にそう思った。
 しかし、すぐに頭の中からその考えは消える。
 そんな、他人のことを考える余裕はないからだ。
 『今離されたらダメだ』
 そう思い、全力でシンジの後に付く
 
 
 
 ヒデキは二人の走りを見て笑っていた
 スタートでシンジがロケットスタートを決めたのは予想できた。
 しかし、タケトまで出てくるとは計算外だった
 
 ヘルメットの中でひとり呟く
 
 「今までで最高のバトルになりそうだよ・・・・」
 
 
 
 残り10周にレースは動いた。
 
 ストレートでタケトはシンジのスリップに入る
 
 シンジは無視してコーナーへ突っ込む、が内からタケトが並ぶ
 
 シンジはスロットルを緩めるしかなかった
 
 すると、外からヒデキが異次元的なコーナーワークでシンジを抜き去る
 
 シンジ、3位まで後退
 
 トップには仲野タケト、2位関口ヒデキ
 
 トップの3人から4位グループまで既に13秒の差があった。
 
 
 シンジの前ではタケトとヒデキのバトルが始まっていた
 
 並ぼうとするヒデキ、譲らないタケト、無理をしないでついてゆくシンジ
 
 この状態が6周は続く
 
 既に後続とは20秒差
 
 けっして、ペースが落ちることはなく
 
 ハイレベルなバトルが二人の間に繰り広げられる
 
 トップの3人は日本人
 
 それでも観衆は熱狂的になってゆく
 
 
 
 ボードを出すアスカは怖かった
 
 このままのハイペースが続いてシンジに何かあったらと思うと
 
 怖かった
 
 また独りになってしまうことへの不安と恐怖が
 
 彼女の中に芽生えていきてた
 
 
 
 シンジはこのバトルの中でもアスカを見ていた
 
 ただ『勝ちたい』と思い
 
 彼女の不安げな表情を気にした
 
 ペースは上がらないわけではない、上げないだけ
 
 無理をしないでタイヤを温存しているだけ
 
 残り2周、ヘアピンにさしかかったところでヒデキはタケトに並びかける
 
 タケトはそれを抑える
 
 しかし、その隙にシンジは差を一気に詰める
 
 タケトはシンジに気が付き、ラインを修正する
 
 それがわかっていたかの様にヒデキはインを突く
 
 一瞬でトップは入れ替わる
 
 観客は総立ち
 
 タケトのタイヤはもうグリップがなかった
 
 シンジはストレートでスリップに入るとタケトを簡単に抜き去る
 
 ファイナルラップ
 
 トップ争いから脱落したタケトは前の二人を見て驚愕した
 
 ペースは落ちていない、むしろ上がっていた
 
 『俺のタイヤはもう尽きたのに』
 
 


 それでもヒデキとシンジは止まらない
 
 しかし、ヒデキのタイヤも既に限界だった
 
 シンジのタイヤには若干の余裕がある
 
 勝負は最終コーナーまで縺れる
 
 シンジは今までより数q速い進入をする
 
 ヒデキはタイヤの限界で攻めるも、諦めた様に呟いた
 
 『だめだな、こいつは・・・』
 
 シンジは外からヒデキのマシンにかぶせる
 
 ヒデキは粘る
 
 シンジはヒデキと平行に並んだままコーナーを出る
 
 しかし、シンジのマシンが少しぶれる
 
 ヒデキは外にシンジがいるため、アクセルを開けられない
 
 残るは直線の加速勝負のみ 

 


 アスカにはシンジが自分を見て微笑んだのがわかった
 
 『あの状況でよく笑ってられるわ・・・ホント、バカシンジなんだから・・・』
 
 結果なんかどうでもいい
 
 そう思ってアスカは目を閉じる
 
 『シンジが無事で帰ってくれば・・・・』
 
 そう思って
 
 その後、彼女の耳に届いたのは割れんばかりの大歓声だった
 
 


 ヒデキは諦めかけた状態からイーブンまで持ち込んだ
 
 しかし、タイヤのグリップは既に無いに等しい
 
 シンジの勝利は決まった様なモノだった
 
 「負けたよ・・シンジ君」
 
 誰にも聞こえることはないヒデキのつぶやき
 
 


 チェッカーフラッグは振られた
 




 シンジは右手を挙げながら先にゴールインしていた
 
 初勝利の時にはしなかったガッツポーズを
 
 右手を高々と挙げた
 
 
 『アスカとの約束を果たした』
 
 
 それが彼のガッツポーズの理由
 
 
 



 赤いマシンがゆっくりとピットへ戻ってきた
 
 そのマシンのライダーが降りてマシンがスタンドに固定されると
 
 ライダーはメットを脱いだとたんにスタッフ全員にもみくちゃにされる
 
 それでもライダーは笑ってた
 


 今まで見せることがなかった純粋な少年の笑顔を浮かべ
 
 一人の少女を捜す
 
 少女を見つけるとすぐに少年は駆け寄った
 
 「アスカ、約束守ったよ・・・・」
 
 
 何も言わず、シンジに抱きつくアスカ
 
 胸に顔を埋め、涙を流す
 
 
 シンジはアスカを見下ろし、長い髪を何も言わず撫でる
 
 
 この時にフラッシュが何度かたかれたが気にする事はなかった
 
 
 「優勝・・おめでとう!」
 
 不意にアスカが顔をあげて言った
 
 シンジは笑顔で返した
 
 「ありがとう・・・・」
 
 
 
 
 


 イモラ・ラウンドはシンジの初参戦初優勝で終わった
 
 
 日本へ帰ると手紙やなにやらが沢山届いてた
 
 アスカが『もうすぐ日本に戻る』っていってた
 
 学校に行ったら委員長達から話し掛けてきた

 だからありのままのことを話した 

 結局、僕らは元通りの関係に戻った
 
 アスカが戻ってくればいつもの5人組に戻る
 
 また、元通りに過ごせると思うと、なんか嬉しかった
 
 ただ、隣の203号室は既に別の人が住んでいた
 
 
 
 数日後、学校から帰ると、マンションのドアの向こうから物音がした
 
 鍵は開いていた
 
 ドアを開けると、見慣れないヒールの高い靴があった
 
 視線を上げると目の前には
 
 Tシャツ姿のアスカがいた
 
 「おそかったわね」
 
 ただ唖然とするシンジをしり目に、アスカはマイペースで喋りだした
 
 「隣がもう空いてないからさぁ、一緒に住んでいい?」
 
 


 
− また、二人の同居生活が始まった−






 エピローグへ



緒方です。
また、やっちゃいました。
これで最後の筈でしたが
エピローグを付けたいと思います
この外伝のくせに長く、しょうもない作品(作品と呼べるのか)に最後までつきあってくれた方
ありがとうございました。
そして、この作品の原作「命の価値は」の作者takeoさん
ありがとうございました
これで後エピローグを付けて僕の処女作は終わりです。
馴れてない割には良くできたと思っています。
原作は、結局無視してしまい、どんどん独自の設定をキャラに当てはめてみました。
関口ヒデキはその代表です。
これで楽しんでいただけたら嬉しいです。
時間と状況が許せば、近い内にもっと別なモノを書いて投稿したいと思っています(もし迷惑でなかったら)

 1999年7月20日午前4時08分 完成?同日午後10時17分 修正


takeoのコメント

緒方さんの投稿第三弾です!

何と言ったらいいのか…凄く良かったです。私がこう言うのも変な言い方ですけれど。
もちろん、私が考えている最終話とは全くの別物ですけれど、説得力がありました。
妙に唸ったりして(笑)

レースシーンは迫力がありましたね。
緒方さんはカート(四輪)をやっていたことがあるそうで、その経験が生かされているのでしょう。

そして、ラストシーン。
やっぱりこうでなくっちゃ♪
後味がとてもいいです(^^)


緒方さん、力作をありがとうございました。
この後にエピローグがあるそうなので、そちらも楽しみです。



皆さん、緒方紳一さんへ、是非感想メールを!


緒方さんのページは RIDE on AIR  [http://plaza.across.or.jp/~takesima/]
緒方さんへのメールは 緒方紳一さん   [takesima@po2.across.or.jp]







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