数日後、学校から帰ると、マンションのドアの向こうから物音がした
 
 鍵は開いていた
 
 ドアを開けると、見慣れないヒールの高い靴があった
 
 視線を上げると目の前には
 
 Tシャツ姿のアスカがいた
 
 「おそかったわね」
 
 ただ唖然とするシンジをしり目に、アスカはマイペースで喋りだした
 
 「隣がもう空いてないからさぁ、一緒に住んでいい?」
 
 




 命の価値は

 another Final 「I need you」

 one more Final  幸せのカタチは




 
 ロードレースの事が一面に載ることは滅多にないが、シンジの事はA日新聞の一面にも写真入りで掲載された
 
 イモラから帰ってきたとき、シンジを待っていたのは取材の山だった。
 今まで個人的な取材は避けてきたため、この間のインタビューが引き金になったようだった。
 シンジは一つ一つ、できるだけ丁寧に取材を受けていった。
 
 学校でも質問責めに遭った
 
 
 シンジは『学校を休んで何してんだ』って思われていた
 
 
 シンジが家に帰ったら、手紙やなにやらが沢山届いてた
 その量には、シンジはただ驚くしかなかった。
 
 
 イモラから帰ってきてから、シンジは笑顔が自然に出てくるようになった
 
 
 その笑顔に惹かれるファンも多かった
 
 全てがいい方向に向かっている
 
 シンジは素直にそう思った
 
 
 イモラから帰ってきて一週間ぐらいが過ぎた
 
 家に帰ったらアスカがいた
 
 アスカの部屋だった203号室には既に他人が住んでいたから、シンジの部屋に侵入されてもおかしくはなかった。
 
 「一緒に住んでもいい?」
 
 アスカの、そしてシンジの思い
 
 互いに知っている『好き』という言葉に表された二人の思い
 
 『好きな人と一緒にいたい』
 
 極めて純粋な願い
 
 いつでもできたことなのに、二人はそれをしなかった
 
 シンジから踏み出そうとするわけがなかった
 アスカがあえて踏み出さなかった
 
 でも、今はそれを互いに望んだ
 
 しかし、ダイニング・八畳のリビング・六畳の寝室からなるシンジの部屋で二人で住むのは少し厳しかった。
 
数日後
 
 二人は別の広い部屋へ引っ越した
 別に経済的に困ることはなかった。
 一緒に住むのなら、広い部屋へ引っ越せばいい。
 部屋は別々、前と変わらない
 
 トウジ、ヒカリ、ケンスケに引っ越しを手伝って貰った。
 文句を言われ、冷やかされても二人は笑っていた。
 それを知ってるから3人も笑っていた。
 
 引っ越しが終わり、皆で夕食を共にした
 
 仲の良い友人と喋りながらの夕食
 
 
 それも終わり、皆帰っていった
 残ったのはアスカとシンジ
 
 ソファーに腰掛け、二人でコーヒーを飲みながらアスカが一方的に喋る。
 
 
 珍しくシンジが口を開いた
 
 
 「アスカ・・・?」
 
 「なに?」
 
 「今度の休み、二人で第3新東京市に行かない?」
 何処か自信なさそうに言うシンジ
 「今更なにしに行くの・・・」
 怪訝そうに聞き返すアスカ。シンジはそれにぎこちなく答えた。
 「なんて云うか・・・・この間のイモラのレース中にさ・・・・頭の中に浮かんだんだ。これが終わったら第3新東京市に行こうって・・・。
 なんて云うか・・・お参りと報告みたいなモノかな・・・・・。本当に今更って思うけど、今のうちに行っておきたい。」
 シンジは最後だけハッキリ言った。
 アスカは反対する理由は『あそこは嫌な場所だから行きたくない』ぐらいしかなかった。
 でも、シンジの考えてることは分かっていた。
 
 レイに、母に、そしてネルフのみんなに対するけじめの様なモノ・・・・
 
 「わかったわ・・・・」
 断る理由もなく、了解する。
 シンジは嬉しそうに反則的な笑みを浮かべた。
 
 土曜日
 
 既に破棄された都市・第3新東京市はもう警備の目など無かった。
 移動手段はバイクで行くと思われたが、帰国していたヒデキが車を出してくれることになった。これはシンジがヒデキに対して交通手段を聞いたため。更にプロモーションによってやっぱり一時帰国していたユキが一緒に来ることになった。どこから聞き出したかは不明・・・。
 
 一同はヒデキの愛車・メガクルーザーに揺られて一路懐かしい場所を目指す。
 皆、花束を抱えて・・・・
 
 ただ、ヒデキのメガクルーザーの中にはマウンテンバイクが4台収まっていた。このことはヒデキ以外は誰も知らない。後はヒデキの怪しい荷物と軽油にシンジとアスカ制作の弁当だった。
 
 旧国道52号線をひたすら南下し、富士の方へ抜けてから小田原方面を目指し、第3新東京市に入る一同。道路はある程度整備されていたので何とか入り口までつくことは出来た。が、肝心の第3新東京市の中はいまだ瓦礫の山だった。がヒデキは迷うこともなくマウンテンバイク4台を外へ出す。そして、キョトンとしてる3人に言った。
 「不便だろうからチューブレスタイヤのMTBを借りてきたけど・・・使うよね?」
 ヒデキは状況を知っていたため準備万端だった。もちろんGPS探査機も持って。
 「ここを集合場所にしてGPSの座標を打ちこんどく様に。迷うからね。」
 そう言ってユキとアスカに探査機を渡す。渡したらすぐに行ってしまった。
 
 
 シンジとアスカは一緒に芦ノ湖の方へ向かった。
 第2、第3と兄弟が増えた芦ノ湖だったが、元祖の場所へ遠回りしてでも向かった。
 アスカは簡易ナビに従いながら花束を二つ抱えたシンジを先導する。
 
 
芦ノ湖は底がない。N2弾道弾によって底を抜かれ、初号機の爆発によって穴が広がったため。その中に二人の花束
を投げ込む。更にエビチュの500ミリ缶を一本投げ込んだ。これはミサトへのオマケ。
 
 少し前まで、この下に在った施設へ毎日通っていた。天文学的な金額をかけられた場所であり、人類の最後の砦だった場所。エヴァがいた場所、ミサトが、リツコが、ネルフの職員が勤めていた場所、綾波レイが生まれた場所。


 そして、みんなが消えてしまった場所。
 
 その場所の過去に別れを告げるためにここへ来た。
 
 『もう迷うことはないよ・・・・。僕は生きていく。』
 ミサトに、レイに、カヲルに、そして両親にそう告げるために。
 
 アスカはとまどいながら花束を投げた。
 最後には母の魂を消したのは自分だったから。
 『でも、母は許してくれるだろう。』
 そう思って投げた。
 
 二人はMTBを漕ぎながら話していた。
 何故、ヒデキとユキがここへ来たのか。
 前に住んでいたのはわかったが、どうして花束を持ってきたのかはわからなかった。
 
 詮索することはないよ・・・・
 
 シンジの目がそう言ってるようでアスカは喋るのを止めた。
 今は知らなくても良い。多分すぐに知ることになるだろう。
 
 
 ユキは自宅があった場所にいた。
 勿論、今は瓦礫の山になっている。
 花束を置くと涙がこぼれだした。
 止まって欲しいとは思わなかった。
 自分の過去に終止符を打ち、今を生きるため。
 「今、私は元気で生きてます。
 辛いことも幾つかあったけど、今は十分満足しています。
 もう心配しなくても大丈夫だから・・・自殺なんて絶対しないから。」
 そう言ってるうちに、ユキの足下に黒い染みが広がっていった。
 しかし、振り切った様に顔を上げていった。
 「じゃぁ私、もう行くね・・・・。さよなら、みんな・・・・」
 そう言いながら家族の顔が浮かんでもう一度、涙が溢れてきた。ユキはかまわずに走った。過去をふっきるかのように・・・・。
 
 
 ヒデキがこの瓦礫の山の場所に来るのは二回目だった。前に来たときは数日間周辺を彷徨った。けど今回はしない。
 「ただいま・・・・・・」
 ヒデキの第一声は、そこに愛した彼女がいるかの様に・・・・
 
 その後、花束を置いたヒデキは空を見上げた。
 
 文句無しの快晴だった。
 今のヒデキ達の心の中を表すかのように
 そして言った

 「また来るからね・・・・・ユキ・・・」

 不意に、同じ名前の少女が頭に浮かんだ.
 ヒデキは苦笑した。

 集合場所に皆が戻ってから5分後に車は出発した。
 もう当分来ることはない場所からいつもの生活が待っている場所へ戻るために。

 数日後、キタハラRTの定例ミーティングの日
 思いがけないモノが待っていた。

 「・・・えー、主な連絡事項は以上だな。では最後にとっておきのお知らせが2つある」
 オイル缶を改造した椅子に座っていたシンジは一瞬北原がこっちを向いてニヤリとした気がした。
 アスカも同じモノを感じていた。

 「なんですか、それって?」
 コウジが楽しそうに北原に問いかける。

 にやにやしながら北原は説明しだした。
 「実はな、スポンサーのE−PROJECTとの契約が来年も決まった。これが一つ。そしてもう一つある。」
 北原は周囲を見回す.このことは誰も知らないからだ.シンジとアスカの頭の中には不安がよぎっていた。
 「もう一つは・・・シンジとアスカちゃんの写真がE−PROJECTの広告に使われることになった。」

 そう言って北原は楽しそうにB2サイズの巨大なポスターを広げた。

 「「「あぁっ−」」」

 スタッフの皆の絶叫が重なる。だが、シンジとアスカは唖然として声が出せなかった。
 そのポスターの写真は、イモラでのシンジにアスカが抱きついた時に撮られた写真がそのまんま使われていた。
 涙を流しながらシンジに抱きつくアスカと,それを包み込むようなカタチのシンジ。その右横にマシンがあった。



 翌週、このポスターは至る所に貼り巡らされ、各新聞にも一面を使って掲載されたので二人が質問責めにあったのは言うまでもない。




 完?




 こんにちわ、緒方です。
 これで本当に終わりです。
 ここまでつきあっていただいた皆さん、ありがとうございました。
 最後のポスターネタは本編のCFをちょっち真似たものです。
 最後はちょっと引きが・・・・・って気がしますが、まぁ許して下さい。
 サブ・タイトル通りになってくれれば。
 こうやって高校生らしく楽しく暮らしていけたら・・・
 それも一つの幸せのカタチとして捉えていただけたら幸いです。
 では、またあいましょう。
 納得できないって方はメール下さい。(ニヤリ
 takeoさん、忙しいのにどうもありがとうございました。
 1999年08月14日13時45分 完成 by緒方紳一


takeoのコメント

緒方さんの投稿第四弾です!

いや……正直に言いまして、私の予想を遙かに超えて良かったです。
こういうラストを用意してあったとは…。

本編の作者としては、シンジとアスカだけではなく、私のオリジナルキャラクターのユキとヒデキにも
スポットライトが当たっていたのが嬉しかったです。本当に。
こういうのって、作者冥利に尽きますね。

ラストシーンのポスターは、「やられた」と言った感じでしょうか(笑)
そのシーンが、ありありと目に浮かんできました。
うんうん、二人とも良かったねぇ(涙)

緒方さんは、「こうやって高校生らしく楽しく暮らしていけたら・・・」と書かれていますが、
私もまったく同じ気持ちです。
それが、全ての源ですよね、やっぱり。

凄く嬉しかったです。本当に、ありがとうございました。



皆さん、緒方紳一さんへ、是非感想メールを!


緒方さんのページは RIDE on AIR  [http://plaza.across.or.jp/~takesima/]
緒方さんへのメールは 緒方紳一さん   [takesima@po2.across.or.jp]







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