いったい僕は何回、この強烈な音を聞いたのだろう?
そして何回、このマシンの姿を右から左に追ったことだろう。
100回?、200回?…いやそんなもんじゃない、
きっと、ゼロの数はひとつ多いだろう。
いつも陣取ったのはFISCOのメインスタンド。
その艶やかなカラーリングのマシンは今
ちょうど複合の最終コーナーの一つ目
250Rあたりをクリアしているらしい…。
灼熱のグランドスタンドで待ち受ける私に
遠くその姿を見せるよりもはるか前に
きわめて個性的な「REサウンド」は
陽炎にかすむ最終コーナー方面から
徐々にそのボリュームを増して近付いてくる。
…来るぞ、…来るぞ、…来たっ!
二つ目の150Rもクリアして
すでに全開状態に入った蛍光オレンジ色の物体は
ジェット機のような「キイィーン」という金属音とともに
まるで何かを叫んでいるような
高周波のサウンドを浴びせながら
アッという間に目の前を通り過ぎていく。
まさに「耳をつんざく」ような音だ。
思わず耳をふさいだ観客達が
その手をゆっくりと離し始める頃、
300km/h近いスピードで迫り来る1コーナーに向けて
いよいよブレーキング体制に入る。
…一瞬の静寂のあと、小気味よいシフトダウン
そして…
「バ、ババババッ!(パーン)」。
これまた強烈なアフターファイアを披露し
右サイドの排気管からは炎が上がる!
そしてマシンは1コーナー奥へと消える。
でもそのサウンドは途切れることはない。
たとえその姿は見えなくとも
いつまでも富士の裾野に響き渡っているのだ。
他のどのマシンとも似ていない。
何か違うコトバが聞こえる…
そう、固有の「メッセージ」を
毎周毎周、
切々と語りかけてくるようだ。
これがレーシング・ロータリー。
MAZDAにしか奏でることのできない
孤高のサウンド。
1レース220余周にもわたる、REとの対話
ふと目を閉じると
今でもかすかに聞こえてくるような気がする…。
−第1話 おわり−