問題5−1−1 解答

(1) 地球内部から熱流量として1年間に放出されるエネルギー \(E\) は,単位の W は J/s であることに留意して, \begin{eqnarray*} E & = & 87\times 10^{-3}\times 4\times 3.14 \times(6400\times 10^3)^2\times 86400\times 365\ \ \mathrm{J\,s^{-1}\,m^{-2}\,m^2\,s\,yr^{-1}}, \\ & = & 1.41\times 10^{21}\ \mathrm{J\,yr^{-1}}. \end{eqnarray*} 1年当り 1.4×1021 J のエネルギー放出は地震活動の 3500 倍,火山活動の 70 倍に相当します.

(2) 比熱とは単位質量の物体を 1°C (K) 上昇させるのに必要なエネルギーです.よって,質量が \(m\) で比熱が \(c\) の物体が温度 \(\Delta T\) 上昇または下降するときに出入りするエネルギー \(\Delta E\) は次式で表わされます. \[ \Delta E = mc\Delta T. \] よって,地球の温度が 1 K 下がるときに放出されるエネルギーは, \[ 6\times 10^{24}\times 1000\times 1\ \ \mathrm{kg\,J\,kg^{-1}\,K^{-1}\,K} = 6\times 10^{27}\ \mathrm{J}. \] この量を(1)で得た1年あたりに放出されるエネルギーで割って, \[ 6\times 10^{27}\div 1.4\times 10^{21} = 4.286\times 10^{6}\ \mathrm{yr}. \] 地球の温度が 1 K 下がるまで 430 万年もの時間がかかります.

問題5−1−2 解答

(1) 238U と 235U の存在度をそれぞれ \(C^{^{238}\mathsf{U}}\) と \(C^{^{235}\mathsf{U}}\),単位質量当たりの発熱量を \(H^{^{238}\mathsf{U}}\) と \(H^{^{235}\mathsf{U}}\) と表わすとき, U の単位質量当たりの発熱量 \(H^\mathsf{U}\) は次式で計算されます. \[ H^\mathsf{U} = C^{^{238}\mathsf{U}}H^{^{238}\mathsf{U}} + C^{^{235}\mathsf{U}}H^{^{235}\mathsf{U}}. \] 同様にして, Th や K についても,放射性同位体の発熱量に同位体の存在度を掛けることで計算します.結果を同位体の発熱量も含めて次表にまとめます.

同位体存在度 [%]発熱量 [W/kg] 元素発熱量 [W/kg]
238U99.289.46×10-5U9.80×10-5
235U0.715.69×10-4
232Th1002.64×10-5Th2.64×10-5
40K0.01192.92×10-5K3.47×10-9

(2) 岩石中の U, Th, K の含有量を \(C^\mathsf{U}\), \(C^{\mathsf{Th}}\), \(C^\mathsf{K}\), (1) で求めた発熱量を \(H^\mathsf{U}\), \(H^{\mathsf{Th}}\), \(H^\mathsf{K}\) とすると,各岩石の単位質量当たりの発熱量 \(H\) は次式で求まります. \[ H = C^\mathsf{U}H^\mathsf{U} + C^{\mathsf{Th}}H^{\mathsf{Th}} + C^\mathsf{K}H^\mathsf{K}. \] また,単位体積当たりの発熱量は岩石の密度 \(\rho\) を単位質量当たりの発熱量 \(H\) に掛けて,\(\rho H\) となります.結果を次表にまとめます.

岩石UThK密度単位質量当り発熱量単位体積当り発熱量
[ppm][ppm][%][kg/m3][W/kg][W/m3]
花崗岩4153.527009.1×10-102.5×10-6
玄武岩0.10.40.229002.7×10-117.9×10-8
かんらん岩0.0060.040.0132002.0×10-126.4×10-9

この測定例では,単位体積当たりの発熱量は玄武岩が花崗岩の30分の1,かんらん岩が玄武岩の12分の1となりました.一般には,玄武岩質の海洋地殻や大陸下部地殻の発熱量は花崗岩質の大陸上部地殻の10分の1,かんらん岩質のマントルはさらにその10分の1と考えられています.

問題5−1−3 解答

(1) 一定の熱流量 \(q\) が流れているとき,距離の差 \(\Delta x\) の2点間の温度差 \(\Delta T\) は熱伝導の法則より熱伝導度を \(k\) として, \(\Delta T = q\Delta x/k\) で表されます.この関係を境界層と岩石試料に下層から順に適用して,温度差 \(T_1-T_2\) は, \[ T_1 - T_2 = \frac{q\delta}{k_c} + \frac{qd}{k_r} + \frac{q\delta}{k_c} \] と表されます.これより,次の式が導かれます. \[ \frac{T_1-T_2}{q} = \frac{d}{k_r} + \frac{2\delta}{k_c}. \]

(2) この式は岩石の熱伝導度 \(k_r\) 以外に,常に一定とした未知数 \(2\delta/k_c\) を1つ含むだけです.そこで,厚さの異なる2つの岩石試料について測定し,\(2\delta/k_c\) を消去すれば \(k_r\) が求まります.さらに実用的な方法は,厚さの異なる数個の岩石試料について測定し,縦軸に \((T_1-T_2)/q\) を,横軸に \(d\) をプロットすれば,熱伝導度 \(k_r\) は直線の傾きの逆数として決定できます.