◎弘末雅士著『海の東南アジア史』(ちくま新書)

 

 

この本を読むと、中世、近代以降のアジアが、いかに交易による流動性を維持してきたかがわかる。一つ驚いた点は、それに女性が重要な役割を果たしていたってこと(もちろん一時妻のような現代の視点からするとアレな習慣もあったわけだけど)。

 

以下、この本とは直接関係のない指摘をしておく。この本を読むと、お星さまになった安部氏のインド太平洋構想は実に的確な構想であったことがわかる。もちろん安部氏がそのような歴史を意識していたか否かは知るよしもないけど、地政学的な直観はすぐれていたんだろうと思う。従来日本や中国(明とか清とかだったけど)もこの交易網に参加していたわけだけど、中共率いる現代の中国がまずいのは、この交易網が持つ流動性をその強権的な支配で脅かしている点にある。

 

安部氏のインド太平洋構想に関しては日本のメディアによる記事を探しても無駄で、海外の記事を参照するしかない。ググればいくらでも出て来るけど、以下に三つほどあげておく。

ブルームバーグ

WSJ

フォーリンポリシー

 

ちなみにもちろんこれらの記事には、安部氏が「right wing」だったなどといった批判も含まれているけど、インド太平洋構想に関しては一様に高い評価を下されている。確かに北方に関する安部氏の方針は、今回のウクライナ戦争によって結果的にまずかったことが露見したわけだけど、インド太平洋構想に関しては習近平が権力を握る以前から世界に向けて発信していたわけだから、先見の明があったとすら言えるかもしれない。

 

ちなみにインド太平洋構想をめぐる日本の記事は産経くらいしか見当たらなかったけど、1年前くらいならNHKの記事があった。ただし安部氏の名前自体はそれほど出てこない。今回の件から一つ言えることは、少なくとも国際関係、外交、国際的安全保障に関しては、日本の主流メディアを参照しても無駄ってこと。狭い狭い自家中毒的言論空間を形成して、ほとんどまともなことが語られていないようにさえ思える。そんな言論空間に浸って国際関係や安全保障を語っていたらこれほどヤバいことはない。

 

 

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※2023年4月28日