◎曽田長人著『スパルタを夢見た第三帝国』(講談社選書メチエ)
ある程度は手を加えてあるとはいえ、基本的にこれまで発表してきた論文を集めた本のよう。元来その種の本は敬遠しているんだけど、アマクリボタンをクリって買ったからわからなかった。
この本では、ナチスがスパルタを一つの模範にしていたってことが論じられている。「国家社会主義ドイツ労働者党」であるナチスがほんとうに右であったかどうかは別として、右は確かに、拡張主義に走ると過去に規範を求めようとする傾向がある。それに対して左には、拡張主義に走るとユートピアニズムなど未来に規範を求めようとする傾向がある。
むしろ逆に、この本で扱われているスパルタや北方人種神話にとらわれていたがゆえに、ナチス=右と考えられているような側面がある気もするけど、最大の問題は左右のいずれかであるかより拡張主義にあったと思う。プーチンも同じだよね。
過去の伝統を守ろうとするのと、過去を規範化してそれを目標にするのとでは全然違う。後者の場合は現状を力で劇的に変更しようとする意図があるわけで伝統の墨守にはそぐわない。保守主義者は前者の立場をとり、理想を掲げる後者の本質主義、拡張主義とは異なる。そこを間違うべきではない。ただし保守主義に拡張主義が接ぎ木されるとナチスのスパルタ信仰や北方種族主義のような発想が出てくる。対して左派思想に拡張主義が接ぎ木されると、革命によって理想的なユートピアを実現しようとする発想になる。どちらも理想状態を現在以外の時代に求める本質主義である点に相違はない。
※2023年4月28日