◎小谷賢著『日本インテリジェンス史』(中公新書)

 

 

「日本インテリジェンス史」というタイトルだけど、実質的には戦後にほぼ限定されている。インテリジェンスという言い方は、21世紀に入ってから一般に広まったらしく情報収集(インテリジェンス)と、情報漏洩や敵方の情報収集の防止(カウンターインテリジェンス)をおもに指す。

 

まあスパイと言うことになるんだろうけど、スパイと言うとどうも007を思い出してしまうし、工作活動がメインであるようにもとられかねないし・・・。でもスパイというのは現実に存在し、決して陰謀論などではない。本書で取り上げられているスパイの例は20世紀がメインであるためほとんどがソビエトによるものだけど、現在ではソビエトの後継者のロシア以上に中共率いる中国が大問題であることは言うまでもない。

 

スパイという面での中国のやばさは国家動員法や国家情報法を見てもわかる。カウンターインテリジェンスに関してはスパイ防止法のような法律が存在しない現在の日本ではまだまだ後進国と言わざるを得ないけど、本書によればインテリジェンスという点に関しては、特定秘密保護法の制定と国際テロ情報収集ユニットの設置によってかなりの改善が見られるようになったらしい。

 

ちなみに特定秘密保護法は情報漏洩に関する法であって情報収集に関する法ではないように思われるかもしれないけど、必ずしも効果は情報漏洩だけに限られるのではない。この本にも「さらに特定秘密保護法の導入によって、諸外国も日本の秘密保全体制が向上したという認識を持ち、情報のやり取りが進むようになった(207頁)」とあるように、情報がダダ漏れだと、あるいはダダ漏れしていると見なされただけで、貴重な情報が日本に入って来なくなる。日本に情報を渡したら中共に筒抜けだとか思われていたら、西側自由主義陣営に属する諸国は機密情報なんかくれなくなるのは当然だよね。

 

ただ前述のとおり、スパイ防止法のような法がない限り特定秘密保護法だけでは不十分で、この本にも「第二次安部政権の時代に、日本のインテリジェンス・コミュニティは大幅に改革され、「情報が上がる、回る、漏れない」体制に整備されたが、それでも全体としてはようやく諸外国の水準に近づいた、という評価となろう(240頁)」とある。

 

ここで左右双方の誤解を招かないように指摘しておくと、特定秘密保護法は民主党時代に先鞭がつけられたのであって(195〜8頁参照)、決して安部氏が業績を独り占めできるようなものではない。ということは逆に言えば、この件(や他の件)に関して左派メディアが作り出した独裁者安部というイメージが的はずれであることをも意味する。辺野古移転の件もそうだけど、そもそも民主党時代やそれ以前の時代に基盤が据えられ継続されてきた政策に対して、安倍氏が独断でやったみたいな言い方をするのは印象操作だとしか言いようがない。

 

 

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※2023年4月28日