◎安達宏昭著『大東亜共栄圏』(中公新書)
個人的には、広域主義的、普遍主義的な理念は、人々の生活が関わらざるを得ないインプリメンテーションの段階で必ずや挫折すると思っていて、その好例が「大東亜共栄圏」の思想だと考えている。
ただこの本の著者は、冒頭に「大東亜共栄圏については、「{八紘一宇/はっこういちう}」や「アジアの解放」といったスローガンとともに語られることが多く、近代日本のアジア主義の系譜から読み解くこともできよう。しかし、大東亜共栄圏はそうしたイデオロギーではなく、経済的な自給確保こそが本質だった(iii頁)」とあるように、イデオロギー性より経済ブロックに焦点を置いている。
それでもアジア諸国の自主独立という当初の理想が、インプリメンテーションの段階でどんどん破綻していく様子はよくわかる。個人的な考えでは、その根本的な原因の一つは、大東亜共栄圏なるものを連邦的な枠組みでとらえるのではなく、日本を中心とした拡張主義的、階層的な枠組みでとらえたことにあるのだと思う。
たとえば重光葵が中心となってまとめた大東亜共同宣言(152頁参照)は、今日でも十分通用しそうな内容を持っているように思えるけど、実際にそれをインプリメンテーションしようとすると、結局日本が中心とする階層的な秩序の強要になってアジア諸国を搾取するという、欧米諸国がそれまでやってきた帝国主義的政策と何ら変わらないものになってしまったわけですね。
これまで何度もツイしてきたように、私めは広域主義的、普遍主義的なやり方は人々のローカルな生活を壊すがゆえに通用しないどころか、ファシズムのレシピにすらなりうるがゆえに、国境のない世界などといった理念は、現実的には最悪の結果しか生まないと思っている。ただし国連のような連邦的な仕組みは、説明レベルの問題(たとえば気候変動の問題)を解決するために必要だとは思っているけど、ロシアや中国のような個々の構成員が好き勝手をしている現在の国連はあかん。
いずれにせよ、思想的な背景の解説こそほとんど見られなかったものの、広域主義や普遍主義の反面教師として「大東亜共栄圏」をとらえることは非常に重要であり、その意味でもぜひこの本を読んでみてくださいませ。
※2023年4月28日