1999年伝言板アイヌ語関係集




アイヌ語辞書

佐藤和美 (99/01/04 12:55)

 前から欲しかったアイヌ語辞書をついに買いました。
田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」(草風館)です。
値段が値段なもので、なかなか買えなかったんですが、
やっと買えました。
さて、この辞書でこれからなにをしようかな?



幽霊アイヌ語

佐藤和美 (99/01/06 12:59)

 手元に「これは役立つ! 言葉のルーツ」(PHP文庫)という本があります。
この本の220、221ページにアイヌ語地名のことが書いてあります。
ところがこれがいいかげんなんですねぇ。

「小樽」はOtarunaiに由来し、otaruは「はまなす」という意味だと書いてあります。
アイヌ語に「otaru」なんていう単語はあったかな?
ということで、買ったばかりの「アイヌ語沙流方言辞典」で調べると出てきません。

「網走」の「Apa」は沼という意味もある、とも書いてあります。
また、「アイヌ語沙流方言辞典」で調べてみると「apa」という単語は存在しても
「沼」という意味はありません。

 こういうように、存在しないアイヌ語の単語、または単語は存在してもそういう意味は存在しない単語を幽霊アイヌ語と言います。実はアイヌ語地名の世界では幽霊アイヌ語がまかり通っています。
この本の著者は多分アイヌ語のことを何も知らないで資料をただ引用しただけでしょう。
こういうやりかたでは、もとの資料がまちがっていたらそれでおしまいです。
アイヌ語地名を解説した文章ではこういう安直なやりかたが実に多い。
WWWでもアイヌ語を専門にやってないHPで、地名を一覧表にしたようなところは要注意です。
幽霊アイヌ語だらけですから。



あけましておめでとうございます

kina (99/01/06 13:35)

ことしもよろしくおねがいいたします。
「幽霊アイヌ語」ですか。せっかく辞書を手に入れたのでしたら、
ぜひゴーストバスターのページを作ってくださいよ>佐藤さま

↓こんなのを作ってみましたので参考まで。
http://www2s.biglobe.ne.jp/~kina/repunkur/kiroro.html



kiroro

佐藤和美 (99/01/07 12:51)

 kinaさんから紹介された、「kiroro」のページ見てきました。
「kiror」に「こころ」という意味があるとするなら、
これも幽霊アイヌ語になるんでしょうね。

とにかく、世の中、幽霊アイヌ語だらけですね。



辞書がない

佐藤和美 (99/01/08 12:34)

 どうしてこう幽霊アイヌ語がまかり通っているんでしょうか。

 私には簡単にアイヌ語辞書が手に入らないからだと思えてなりません。

 英語の「dog」に「猫」という意味があるとか、「qwx」が「犬」だとかいってもほとんどの人はまちがっていると判断できるでしょう。

 ところがアイヌ語「otaru」に「はまなす」という意味があると言ってもまちがいを指摘できる人はそうは多くはないでしょう。

 ほとんどの人がアイヌ語を知らず、辞書もない。これでは結果はわかっています。

 国語辞典や英和辞典のように2000円台でアイヌ語辞典が買えたらどんなにいいでしょう。
アイヌ新法ができてアイヌ語振興にもお金がでるようになったのですから、
アイヌ語辞書にもお金をだしてもらって、近くの本屋で安く買えるようになったらこの状況も改善できるのではないでしょか。



辞書だけの問題でしょうか?

kina (99/01/09 02:40)

私は、単に辞書だけの問題ではないような気がします。というのも、アイヌ語に限らず「和製英語」のような幽霊語は日本中に満ち溢れていて、識者(と呼ばれている人)がいくらおかしいと主張してもどんどん幽霊語が増殖しているからです。



本当なのでしょうか?

堂園和義 (99/01/09 21:53)

 鹿児島にあるトカラ列島はアイヌ語からきていると何かの本で読んだのですが、
本当なのでしょうか?意味は、「魚の多いところ」とありました。



出典おしえてください

kina (99/01/10 01:06)

「トカラ」という音から「魚の多いところ」という意味のアイヌ語を想像する
ことは、私には残念ながらできません。その本の出典と、できればどのような
解釈になっているかを教えていただけませんか。



トカラ出典について

堂園和義 (99/01/11 06:29)

 恐らく俗説なんだとは思いますが、南日本新聞社が季刊で出している小冊子(新聞についてくる冊子です)にそう書いてあった覚えがあります。2,3年前の温泉特集だったものです。
 鹿児島に住んでいれば私が探せるのですが、今シアトルに住んでいるのでそれができません。新聞社に問い合わせてみると、正確な出典が判るかもしれません。



トカラ

佐藤和美 (99/01/11 13:48)

 個人的には西日本の地名をアイヌ語で解こうというのはやめておいたほうがいいと思ってます。
 kinaさんはひかえめに書いておられますが、「トカラ」に「魚の多いところ」という意味があるとするのは、先週から書いている幽霊アイヌ語の可能性が高いでしょう。



地名の解釈

kina (99/01/11 19:34)

西日本でも東日本でも地名をアイヌ語で解釈するこころみは昔からあります。
そこで問題になってくるのは、アイヌ語で解釈できたとして、それが正しいかどうかを判断できるかということです。

たとえば山田秀三氏は、似た地名を集めて地形を比較するという方法を用いて、アイヌ語地名として解釈できるか否かを決定しました。また、知里真志保博士は、アイヌ語の文法上ありうる形か否かということに厳密でした。博士の「アイヌ語入門--おもに地名研究者のために」を読むと、それがよく伝わってきます。

「幽霊アイヌ語」をまき散らしている連中に欠けているのは、そういう厳しさなんでしょう。

トカラは... 私には解釈できません。



アメリカの日本語地名

佐藤和美 (99/01/12 12:03)

「トンデモ本の世界」という本があります。
いろいろなトンデモ本を紹介しているのですが、
そのなかに「古代、アメリカは日本だった!」というのがあります。

この本ではアメリカの日本語起源の地名を紹介しています。

「オハイオ」の語源は「おはよう」だそうです。(笑)
「テキサス」は「敵刺す」
「ミズーリ」は「水入り江」
「マサチューセッツ」は「鱒駐節」
「ミシシッピー」は「水疾飛」
「カンザス」は「関西」
(笑)の連続ですね。

これに比べたらトカラがアイヌ語だというのは規模が小さいですね。(笑)



アイヌ語の季節名、月名

佐藤和美 (99/01/21 12:28)

 田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」(草風館)から
アイヌ語の季節名、月名をピックアップしてみました。

季節名
春 パイカラ paykar
夏 サク   sak
秋 チュク  cuk
冬 マタ   mata

月名
 1月 トウェタンネ   towetanne
 2月 クウェカイ    kuwekay
 3月 キウタチュプ   kiwtacup
 4月 モチュプ     mocup
 5月 シンチチュプ   sincicup
 6月 マウタチュプ   mawtacup
 7月 マウチチュプ   mawciup
 8月 ハプラプ     haprap
 9月 ニホラク     nihorak
10月 ウレポク     urepok
11月 ルウェカリチュプ ruwekaricup
12月 チュルプ     curup



レラ・チセ

佐藤和美 (99/02/06 16:28)

 発売中の「ビッグコミックオリジナル」の「こだわりの店」に「レラ・チセ」が紹介されています。
「レラ・チセ」は「世界で初めての、アイヌ料理専門店」だそうです。

「レラ・チセ」のアイヌ語の意味は
「レラ」rera 風
「チセ」cise 家
で、「風の家」です。

「レラ・チセ」の詳しいことは、りんりんさんの以下のHPでどうぞ。
http://www3.famille.ne.jp/~linlin/reratise.html



妹背牛って

ライム (99/03/01 07:03)

「もせうし」と読むそうですが、アイヌ語ではどんな意味
なんでしょう。どなたかご存知ですか。
「夫婦の牛」だなんて、なんだかほのぼのした地名ですね。



妹背牛

佐藤和美 (99/03/01 20:32)

「妹背」は「いもせ」と読みますが、
ここでは「モセ」に「イモセ」の字を当てていますね。

モセウシはアイヌ語のモセウシmose-us-iです。
これは二つの意味に解釈できます。

mose「いらくさ」
us「多い」
i「所」

mose「草刈り」
us「いつもする」
i「所」

どちらが「妹背牛」の語源かは不明です。

(山田秀三「北海道の地名」北海道新聞社を参考にしました)

「ウシ」us-i(何々が多い所、またはいつもする所)には「牛」の字が当てられることが多いようです。また「石」の字も当てられる事があります。



ありがとうございました(^^)

ライム (99/03/02 04:30)

いらくさって、日本にもあるとは知りませんでした。
子供の頃に読んだ童話で、白鳥にされた兄達を救う
ために、お姫様がいらくさの上着を編む…というのが
ありました。てっきりヨーロッパの植物かと(;^^A
実は私の好きな人が、妹背牛で生まれて札幌で育った
人なのです。まだ片思いなので余計に「妹背牛」とい
う字が気になるんですね。(^^ゞ



海って・・・

ライム (99/03/11 00:05)

アイヌ語って不思議な響きですね。
私の名前は「海」というのですが、アイヌ語にすると
どうなるのでしょうか。



アイヌ語の「海」

佐藤和美 (99/03/11 08:26)

アイヌ語では「rep」(レプ)と「atuy」(アトゥイ)という単語があります。
「rep」は普通「沖」と訳されますが、生活圏に近い海です。
「atuy」は「rep」よりも遠い海です。
(このあたりの生活圏に関することは「網走地名行」でふれています。)



うっとり(^^)

ライム (99/03/12 17:54)

アトゥイって、すてきな響きですね! 嬉しいな。



Hな話(アイヌ語編)

佐藤和美 (99/06/20 13:07)

 知里真志保といえばアイヌ語の巨人ですが、
この人がまた「艶笑談」の名手だったそうです。
で、その一つにこんなのがあります。

「閣下とメノコ」
日本に軍部というものがまだ華やかに栄えていたころのこと、北見の国は美幌の町に軍事視察にやって来た某将軍が、町の連中をかり集めて、時局に関して一場の講演をこころみたことがある。
将軍はいかめしい顔をしてやおら壇上にのぼった。司会者が声をはりあげて、
「閣下に敬礼!!」
と叫んだ。満場しいんとする。
その時である。ビホロのアイヌ部落から狩りだされて、場内の一隅にたむろしていたメノコの一団から時ならぬ爆笑が起ったのは……。
彼女らには、「カッカに敬礼」という号令が、たまらなくおかしかったのである。というのは、カッカという単語は、彼女らの言葉では、たまたま女性の象徴を意味するものだったからである。
将軍は烈火の如く怒り、
「だから、おまえらはいつになっても、アイヌアイヌと人にさげすまれるのだ!!」
と、さんざんに叱りつけたということである。
所変れば品変るというが、よもやヒゲまではやしたカッカがアイヌにも存在しようとは、日本の閣下には想像もつかなかったことだろう。メノコたちこそ、とんだ災難にあったというべきだろう。



「ひかりごけ」の知里真志保

佐藤和美 (99/06/22 09:38)

 武田泰淳の作品に「ひかりごけ」という短編があります。
(新潮文庫「ひかりごけ・海肌の匂い」所載)
文庫本で50ページちょっとで、前半が随筆、後半が戯曲というちょっとかわった構成の作品です。
 テーマはカニバリズムとかかわってくるのですが、
この前半部分に知里真志保のことがふれられています。
ここで知里真志保はアイヌ語学者Mとして登場します。
この部分を読んでいただければ、知里真志保の怒り・苦悩の一端がわかってもらえるのではないかと思います。

 知里家は心臓病の家系だったようで、真志保の姉の知里幸恵は二十歳にならずに亡くなり、真志保も五二歳で亡くなりました。もっと長生きして分類アイヌ語辞典を完成してもらいたかったですね。(分類アイヌ語辞典は生前2冊、死後1冊が出版された)

 なお、岩波文庫には真志保の「アイヌ民譚集」と幸恵の「アイヌ神謡集」が赤オビ(外国文学!)で収められています。



芸術新潮7月号

佐藤和美 (99/06/27 13:20)

 芸術新潮7月号の特集が、
「北の民族アイヌに学ぼう」です。
今、アメリカのスミソニアン博物館でアイヌ展をやってるそうで、
それと関連した50ページほどの特集です。
写真・絵が豊富で、ビジュアルにつくられています。
書店で見てみてください。



数字のもつ意味

TK (99/07/01 13:48)

で、また別件で知りたいことがあります。

日本語では奇数に「調和のとれたもの、めでたいもの」(←ちょっとうまい表現が
みつからないのですが)…e.g.七五三 三三九度
七や八に「数が多い」…e.g.七変化 七度うまれかわる 八百八町 八百万の神)

という意味があるようですが、

他の言語では特定の数詞をともなった言い回しや、本来の意味とは
ことなる表現に数をもちいることはあるのでしょうか。



数字の意味

佐藤和美 (99/07/02 10:18)

 アイヌ語の「イワン」(6の)には「多数」の意味があります。

それ以外は、
UEJさんのHP「コトバ雑記」
http://www.grad.math.uwaterloo.ca/~kueda/kotoba/
第13話「ラッキーナンバー東西」
を見ていただくのがいいでしょう。



福井方言に

EVT (99/07/18 16:10)

こんにちは。福井方言に「アッパ」という言葉があります。これは「大便」を意味します。
福井方言辞典には「アッパ:盗賊の大便をあらわす隠語」とありました。しかし、あるweb
ページで、「アッパ」はアイヌ語で「不浄なもの」であるという記述を見かけました。これ
は本当なんでしょうか?また、東北のある地域では、母親のことを「アバ、アッパ」という
そうですが、これとも関係あるような気もします。昔は女性は不浄なものと思われていまし
たから。たしかにつながるような気もするのですが、なんとも言えないのでご意見を伺いた
いです。



アッパ

佐藤和美 (99/07/20 09:59)

 私の持っているアイヌ語辞典には、
「アッパ」が「不浄なもの」とは載っていません。
マユツバものだと思います。
本にしろ、Webにしろ、いいかげんなのが多いので注意が必要です。
アイヌ語辞典からひろってみましょう。
「アパ」 親戚
「ハポ」 母
「シ」  大便
(アイヌ語では「p」と「b」の区別はありません。)

 秋田県出身のマンガ家矢口高雄のマンガにはお母さんのことを、
「アバ」と呼ぶシーンがでてきます。
 「アバ」と「ハポ」が関係あるのかどうか、私は知りません。関係があるとしたらおもしろいですね。

 マタギが山で話す言葉にもアイヌ語が含まれているといわれています。
矢口高雄の「マタギ列伝」にもクマを解剖するするシーンで心臓のことを「サンベ」といってますが、
これもアイヌ語と同じです。

 昔、女性が不浄と言われたのは月経のためで、大便のためではありません。女性と大便を結びつけるのは無理があると思います。男だって大便しますものね。



アッパ(朝鮮語では)

ビーバ (99/07/20 20:57)

朝鮮語では「appa」が「パパ」を意味します。親族名称や日常的な語にこのような
「p」音を含んだ単純な発音の単語が用いられることは、多くの言語で見られることだ
と思います(両唇音は小さなこどもにも発音しやすい音であるから)。それが語源的
に対応するとは、簡単には言えないと思います。

日本語の標準語で母親を指す「ハハ」という語は、古くは「papa」という発音であった
でしょうから、東北方言の「アッパ」と対応するかもしれません。



お礼

EVT (99/08/03 10:53)

 以前,「アッパ」について質問したものです。ブラウザの調子が悪く
書き込みができませんでした。遅れてすみません。
 アイヌ語とは関係ないこと,朝鮮語に近いものがあること。その点か
ら調べてみます。ありがとうございました。



富士山の語源はアイヌ語の「火」?

佐藤和美 (99/09/07 08:26)

 あいかわらず、いいかげんなアイヌ語が横行してるという話です。

新刊で、
「目からウロコの漢字問題」(宝島社文庫)
という本があります。
漢字のいろいろな話が載っていて、誤読の話など結構笑えます。

この本の中にアイヌ語に関して以下の記述があります。(P202)
「先ほど例に挙げた「古事記」に出てくる地名が本当のオリジナルかというと、そうとも言い切れない。
 じつは日本の地名の多くはアイヌ語起源である可能性が高いからである。
 先住民族なのだから当然だが、昔は日本の大部分の地域にアイヌ民族がいた。その後北方へ追いやられたが、(現代日本人の八割の人はアイヌ民族の血を引いているという)、このようなわけで、とりわけ北海道や東北の地名には、アイヌ語に漢字を当てたものがごろごろある。
 たとえば、栃木県「日光(にっこう)」は「二荒(ふたら)」が「にこう」と読み違えられ、さらにそれに当て字をして出来上がったという。この「ふたら」はアイヌ語「プタアラ」が語源になっており、これは「美しい高原」のことである。「富士」もアイヌ語の「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ。つまり「火の山」だったわけである。」

「昔は日本の大部分の地域にアイヌ民族がいた」
「現代日本人の八割の人はアイヌ民族の血を引いているという」
これはマユツバものです。なにを根拠にこんなこと書いてるんだか。

アイヌ語に「プタアラ」なんて単語はありません。

アイヌ語の「フチ」は「おばあさん」という意味で、「火」という意味はありません。
「アペフチカムイ」(火のおばあさんの神)の「フチ」を「火」と勘違いした? むりやりこじつけた?

「「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ」
全然、有力じゃありません。(笑)

「フチ」の発音に関して、金田一京助は次のように書いています。
(「北奥地名考」1932年)
「若し語原が、説者のいう如くアイヌ語のhuchiであったならば、国語にクヂ(またはクジ)となっていた筈で、国語にハ行音でフジとなる為には、その語頭音は必ずやpかfでなけれだならない。それは上代の国語の音には[h]音がなく、外国の[h]音はこれが為にみな[k]音に取り込まれる例であったからである。現今のフジであるからとて、huchiをその語原に見立てたのは、国語の音韻史を無視した失考だった。」

金田一京助がこれを書いてから67年もたっているのに、いまだに「「富士」もアイヌ語の「フチ(火)」が語源だとする説が有力だ。」と書く人がいるんですねぇ。



教えて下さい。

根本 忠志 (99/09/11 11:54)

 8月初めて滋賀県朽木村に行きました。その地に蛇谷ヶ峰という山あります。この山を地元では、『オグラス』と呼んでいるそうで、これはアイヌ語だと伝えられているそうです。西日本のにアイヌ語が遺っていることに関心を持ちました。また、高知の四万十(シマント)も数年前のNHKのTV放送によりますとアイヌ語だと断言しておりました。なぜ、西日本にアイヌ語が本当に遺っているのでしょうか教えていただけませんか。アイヌ語講座のあるSTV放送に問い合わせたところいずれも学術的にアイヌ語でないとの結論でした。西日本にあるアイヌ語と称されるのは、一体何語でしょうか。単なる古い方言なのでしょうか。”シマント””オグラス”の意味が分かる方はぜひ教えていただきたい。この疑問が頭から離れません。ぜひこのモヤモヤを解消して頂けませんか。



西日本のアイヌ語地名

佐藤和美 (99/09/12 10:32)

 西日本のアイヌ語地名に関しては以下の伝言板の書き込みを参考にしてください。
「幽霊アイヌ語」(99/01/06)
「本当なのでしょうか?」(99/01/09)
「出典おしえてください」(99/01/10)
「トカラ出典について」(99/01/11)
「トカラ」(99/01/11)
「地名の解釈」(99/01/11)
「富士山の語源はアイヌ語の「火」?」(99/09/07)

 四万十川の語原は吉田茂樹「日本地名語源事典」には次のようにあります。
「高知県南西部を流れる河川名。渡川ともいうが、水源の四万川と中流の十川(トウカワ)を合わせて四万十川という。別説に多くの支流があるための名称というのもある。」

「オグラス」は出てません。

 どっちにしろ「現在の」日本語で語源がわからないからといって、すぐ他の言語を持ちだすのは、どんなもんかと思います。日本語関係の語源がすべてわかっているわけではないのですから。「語源不明」を許容すべきです。
(許容できない人がアイヌ語等の語源説に走る? それも。幽霊アイヌ語で!!)



アイヌ語の月名

佐藤和美 (99/10/04 12:43)

 以前(1/21)、アイヌ語の月名について書いたことがあります。

田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」(草風館)には、
アイヌ語の月名がこのように書いてありました。

 1月 トウェタンネ   towetanne
 2月 クウェカイ    kuwekay
 3月 キウタチュプ   kiwtacup
 4月 モチュプ     mocup
 5月 シンチチュプ   sincicup
 6月 マウタチュプ   mawtacup
 7月 マウチチュプ   mawciup
 8月 ハプラプ     haprap
 9月 ニホラク     nihorak
10月 ウレポク     urepok
11月 ルウェカリチュプ ruwekaricup
12月 チュルプ     curup

その後、「萱野茂のアイヌ語辞典」(三省堂)を手に入れたのですが、
この本にはこのように書いてあります。

 1月 トエタンネチュプ
 2月 ハプラプチュプ
 3月 モキウタチュプ
 4月 シキウタチュプ
 5月 モマウタチュプ
 6月 シマウタチュプ
 7月 モニヨラプ/モニヨラプチュプ
 8月 シニヨラプ
 9月 ウレポケチュプ
10月 スナンチュプ
11月 クウェカイチュプ
12月 チウルプ

両方の辞書のギャップはいったいなんなのか。
ハプラプチュプ(ハプラプ)は2月なのか、8月なのか。
悩みはつきません。



コムケ湖

佐藤和美 (99/10/14 10:39)

メールでコムケ湖の意味の問い合わせがありました。

コムケ湖はオホーツク海に面した紋別市にある湖です。
アイヌ語では「コムケト」といいます。
意味は「コムケ」(曲がっている)+「ト」(湖・沼)で、
「ト」を「湖」にかえてしまっています。
コムケ湖の地図を見てもわかりますが、その名のとおり「曲がっている湖」ですね。
このへんがアイヌ語地名のおもしろいところではないかと思います。



教えて下さい

松村 (99/10/15 14:36)

アイヌ語でヨシ原にある川と言う意味の北海道の川をさがしています。
何方か教えて下さい。



葦原の川

佐藤和美 (99/10/16 07:38)

アイヌ語で「葦原」を「サル」(sar)といいます。
川が「ペツ」(pet)なので、
「葦原の川」は「サルペツ」(Sar-pet)です。
また「サルンペツ」(Sar-un-pet)ともいいます。
(「un」は「ある」の意味)

北海道にはいたるところに「サル」のつく地名がありますが、
これはだいたい「葦原」ですね。
猿払(サルフツ)とか、サロマとか。
斜里は「Sar」です。(アイヌ語では「s」と「sh」の区別はない)

実際の「サルペツ」の例です。
猿別 幕別町内の川、十勝川に注いでいる。



お礼

松村 (99/10/16 09:38)

佐藤和美様
有り難うございました。



平仮名の語源はモンゴル語?!

小泉 (99/10/17 13:10)

モンゴル人で平仮名の基はモンゴルにあるという人がいます。確かに似たような文字ではあるのですがそういう話を聞いたことがありますか?また、アイヌの文化とモンゴルの文化が非常に近いと、そんなことを研究している人がいるのですが、アイヌ語、アイヌ文化についての文献など紹介して頂けないでしょうか



RE:平仮名の語源はモンゴル語?!

佐藤和美 (99/10/18 07:08)

小泉さんwrote
>モンゴル人で平仮名の基はモンゴルにあるという人がいます。確かに似たような文字ではあるのですがそういう話を聞いたことがありますか?
平仮名は漢字をくずして(草書化して)つくったものです。
モンゴル文字も漢字をもとにつくったはずです。
両方とも漢字が親ですから、すこしは似ている所があるかもしれませんね。

>また、アイヌの文化とモンゴルの文化が非常に近いと、そんなことを研究している人がいるのですが、アイヌ語、アイヌ文化についての文献など紹介して頂けないでしょうか

アイヌとモンゴルのどこが近いんだか私には全然理解できません。

アイヌ関係の参考書は以下をどうぞ。

アイヌ語
中川裕・中本ムツ子「エクスプレス アイヌ語」(白水社)

アイヌ文化
アイヌ民族博物館・監修「アイヌ文化の基礎知識」(草風館)



アイヌ語でカマタ

佐藤義昭 (99/10/18 13:03)

アイヌ語に「カマタ」というのはありますか。

近頃手にいれた本に「京浜急行百年史」というのがあります。
この中に駅名の由来が書いてあるのですが、京急蒲田駅には、

以下のような事が書いてありました。
駅名由来のひとつとしてアイヌ語の「カマタ」で意味は「飛び
越えた所や沼のなかの島」とする説。
以上ですが、本当に、アイヌ語に「カマタ」というのはあるの
でしょうか。あったとしたら意味は、何でしょうか。
それとも幽霊アイヌ語でしょうか。
教えて下さい。お願いします。



RE:アイヌ語でカマタ

佐藤和美 (99/10/19 12:43)

アイヌ語で「カマタ」ですか。
私の知識ではどこをつついてもアイヌ語は出てこないです。

だいたい、こういうのの共通した点ですが、
単語の区切りがはっきりしません。
「カマタ」で一つの単語なのか。
それとも二つ、三つの単語の合成なのか。
そして、文章を書いている人は無批判に孫引きしてるので、
まちがった内容が増殖します。
まるでリング・ウイルスのように。
(一時「リング」シリーズに凝ってたもんで(^^))



燃える山

佐藤和美 (99/10/23 23:15)

 またメールでアイヌ語地名の質問があったので紹介します。

質問は「燃える山」という意味のアイヌ語地名がわかるかというものです。
今回は調査過程を追ってみましょう。

(といっても、それほど複雑じゃないですけど)
まずはアイヌ語で「燃える」をなんと言うかです。
これがどうも思い出せません。
そこで「萱野茂のアイヌ語辞典」の日本語→アイヌ語索引で「燃える」を見ます。
「ウフイ」と「ア」がありますが、「ア」は無視します。
次に山田秀三の「北海道の地名」の索引で「ウフイ」のあたりを見ます。
すると「ウフイ・ヌプリ」がありました。
(「ヌプリ」は「山」の意味)
該当ページをみると旧記で樽前山を「ウフイ・ヌプリ」と呼んだとあります。
これで検索完了です。
答えは「燃える山」をアイヌ語で「ウフイ・ヌプリ」と言い、それは「樽前山」でした。

どうです、それほど複雑じゃないでしょう?



アイヌ語「ア」に「燃える」という意味はあるか?

佐藤和美 (99/10/25 12:06)

 アイヌ語「ア」に「燃える」という意味はあるのでしょうか。

知里真志保の「アイヌ語入門」にはアイヌ語の「ア」には「燃える」という意味はないと書いてあります。

「萱野茂のアイヌ語辞典」には「ア」の項に「燃える」という意味が載っています。私にはこの記述はどうも信じられません。まちがってるんじゃないかと思います。

萱野茂は沙流地方の人ですが、田村すず子の「アイヌ語沙流方言辞典」の「ア」には「燃える」は載っていません。「萱野茂のアイヌ語辞典」の「ア」の「燃える」はますますあやしくなってきますね。



アイヌ語「ナイ」(川)の分布

佐藤和美 (99/11/05 12:39)

山田秀三はアイヌ語地名研究家としてトップクラスの人でしたが、
(トップそのものだったかもしれませんが)
この人の研究でアイヌ語の川を意味する「ナイ」と「ペツ」の分布を調べたものがあります。
(「アイヌ語地名分布の研究」)
この研究によると「ナイ」の優勢な地域、「ペツ」の優勢な地域があり、
「ナイ」の優勢な地域は北海道では道北から石狩、渡島半島の日本海川にかけてと日高です。
渡島半島の東側は「ペツ」地帯ですが、津軽海峡の反対側の青森県では、下北半島・津軽半島の東側が「ペツ」優勢で、それ以外は「ナイ」優勢です。

つまり北海道の分布と東北地方の分布が連続しているというのです。
このあたりは本を読んでてもぞくぞくしてきます。

また、樺太も「ナイ」の優勢な地帯のようです。

知里真志保は「地名アイヌ語小辞典」で、
「ナイ」について、
「川を古朝鮮語でナリ、現代語方言でナイといっているのと関係があるのかもしれない。」
と書いています。
知里真志保も100%正しいと思っていたわけではないでしょうが、
環日本海的に「ナイ」が広がっていたと空想するのも楽しいですね。



国語

佐藤和美 (99/11/08 12:38)

このHPではアイヌ語がメインの一つになってますが、
そういう私から見ると「国語」という表現はちょっと「?」です。
どうやら「国語」というのは「日本語」をさしてるようですが、
日本は単一民族国家じゃないんだし、
「国語」という名がおかしいんだとそろそろ気がついてもいいんじゃないでしょうか。
ずばり「日本語」でどうでしょうか?
学校での「日本語」と「アイヌ語」の選択制というのは当分望めない話でしょうけど。

ある本に東京大学で
「国語学」、「国文学」、「国史学」を、
「日本語学」、「日本文学」、「日本史学」に変えた、
と書いてありました。
こういうのは、どんどん他の学校でも真似してもらいたいものです。
(小中高は指導要領があるので勝手に教科名を決められない?)



iramkarahote

oripakEsaman (99/11/18 12:01)

はじめまして、
私oripakEsamanは、この度「Ainu puyarA」を制作致しました。
誠に勝手ながら、アイヌについての記事があるこのHPを、
弊頁の、「アイヌ関連情報リンク集」に加えさせて頂きました。
もしご都合がわるくなければ、今後ともよろしくお願いします。

「Ainu puyarA」は、Web上によくある言葉や文化の紹介のみのページでははなく、
アイヌと和人の存在にいつて、文化と民族の意味について、
より深く対話出来るページにしたいと思っております。

アイヌに関する話しならなんでも話し合えるページにしたいと思っております。
どのような初歩的な質問でも、言語や文化の話しでも、
あえて差別とも、非難ともとれるものも受け入れていくつもりです。
もちろん、言語や文化の話しもおおいにしていきたいと思っています。

おもえばこの一年、
アイヌ関連のサイトにとっては大変な変化のあった年でした。
行き違い、議論と接触不足による軋轢、目的のあいまいさによる不振、
多くのサイトの相次ぐ閉鎖、縮小といった結果もまた、
アイヌの和人の存在の微妙さ、溝の複雑さを物語るものと思っております。
初めからお互い求めるものがちがうのですから、それも無理はない事です。

今私たちアイヌはても微妙で複雑な状態に置かれています。

長い受難の歴史の中で、言葉と文化の多くが失われ、
本来私達がもっていた「アイヌらしい部分」の多くは和人化してしまいました。
復興運動が繰り広げられている事はいい事ですが、
一度失われてしまったコミュニティを、アイヌとしての生活スタイルを、
もはや昔のままの形で取り戻す事は出来ません。
私達自身も、そして社会の構造そのものも、両方変わってしまったのですから。

既に私たちは、アイヌ語で考える事は愚か、
アイヌ語で日常の会話する事も殆ど出来ません、
頑張って探した所で、身の回りにアイヌの伝統は数えるほどしかありません、
昔ながらの信仰や伝統を保っている者も身の回りに少なく、
人によっては血も薄くなりつつあります。

それでも、場所によっては受ける差別は未だに遜色がないのです。
どこから見てもアイヌに見えないアイヌでさえ、
その魔手からはのがれなれない。

民族とは、一体何なのでしょうか?
アイヌとは、一体誰の事をさすのでしょうか?
そして、そもそもアイヌとは何なのでしょうか?

ただ安穏と踊りつつけるだけでは、それは決して見えてこないと思います。
アイヌだけでこり固まっていてもまた、見えてこないと思います。
まして、言葉や文化にしか興味のない和人に任せられる事ではない。

だから、対話する事に意味があると思いました。
もはやアイヌにとって、和人は単純な外部の抑圧者ではなく、
内部の問題なのですから。 和人=悪、という単純な構図では、
もはや割り切れないほどに我々は混ざってしまいました。
ですが違いは歴然と存在します。

私は何も、ただ無闇に仲良くする為に、
このようなHPを作っている訳ではありません。
笑って握手した所で消えようも無い違い、
その違いを踏まえた上で、せめてもの接点となればと思って活動しています。

盲目にお互いの壁を無かった事のように忘れて馴れ合うのではなく、
その存在を噛み締めつつ、互いに言葉を下ろしていく事が大事です。

アイヌがいなければ、和人という呼び名もまた存在しなかったのですから。

一方的にどちらかが語るのではなく、触れるのではなく、
触れ合える場が存在する事。
その事自体に意義があると思っております。

固い事は抜きにして、まずは腰を下ろして話し合いたいものです。
結論を急がずとも、時間はいくらでもあるのですから。

よろしければ、リンクと訪問をお願いします。
アイヌと何かしらの縁のあったあなたの心に触れられる事を、
心よりお待ちしています。

追伸:
「アイヌ犬」は、使用にあたっては慎重に扱わねばならない表現ではありますが、
それ自体は差別語ではないと思います。
これは、「ギョウジャニンニク」を「アイヌネギ」と言うと、きつい言葉のように聞こえるのと
同じように、気を付けた方がいいという意味で、「アイヌ犬」は、
名称として決して悪いものではないと思うという事です。
よく考えてみるなら、アイヌが伝統的に作ってきた誇るべき品種を「北海道犬」というのも
なんだか白々しい気がしないでもありません。

「キムン」は確かに山という意味ですが、文献がどうあれ、実際クマという意味でも通じます。

http://www.alles.or.jp/~tariq/



アイヌ語の弓矢

佐藤和美 (99/11/26 12:37)

 アイヌ語で
「弓」は「ク」
「矢」「アイ」
です。

日本語との関係は全然ないですね。



ニポポ

佐藤和美 (99/12/10 12:45)

北海道の網走周辺にはニポポという木で作った人形があります。
ニポポは樺太アイヌ語(アイヌ語樺太方言)で、
「ニ」は「木」、
「ポ」は「子」、次の「ポ」は指小辞で、「ポポ」で「赤ん坊」。
「ニポポ」は「木の赤ん坊」です。

網走周辺には第二次世界大戦後、
樺太アイヌの人々が移り住んで来ました。
ニポポが網走周辺にあるのはその関係です。

樺太アイヌ語の最後の話者、浅井タケさんは1994年春になくなりました。
樺太アイヌ語はこの地上から消滅しました。
そして、言語資料だけが残りました。

発売中の月刊「言語」12月号に
村崎恭子さんの「アイヌ語の一方言がなくなるということ」
という記事が載っています。
読んでみてください。



北海道大学大学院入試問題のアイヌ語

佐藤和美 (99/12/20 09:24)

 月刊「言語」12月号に北海道大学大学院入試問題(言語関係)が載ってました。
その中にアイヌ語の問題があったので紹介します。
(アクセント記号のあるアルファベットなんてJISコードに存在しないので、該当する母音の次に「'」で示しました。)
パズルを解くようなつもりで挑戦してみてください。
私の解答例は数日後に。

−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

 アイヌ語は/r/で終わる音節を有するが、その実際の発音はごく概略的に示せば以下の如くである(例は沙流川上流部方言)。
/pirka/[pi'rika]「良い」
/perke/[pe'reke]「(衣服が)すり切れる」
/kar/[ka'ra]「作る」
/kor/[ko'ro]「持つ」 /kur/[ku'ru]「人、方(かた)」
注:(')はアクセント核を示す
(1)上のデータに基づいて、/r/の発音を決めている要因は何かを簡単に述べなさい。
(2)アイヌ語のアクセントは、例外もあるが、概して音節の形によって予測できる場合が多い。上の例及び次の例を参考に、アイヌ語のアクセントの原則を簡単に述べなさい。
/sanke/[sa'ngke]「出す」(引用者注:「ng」は英語の「sing」の「ng」の発音記号です)
/terke/[te'reke]「跳ぶ」
/katkemat][ka'tkemat]「奥さん、淑女」
/poro/[poro']「大きい」
/acapo/[at∫a'po]「おじさん」
/nukar/[nuka'ra]「見る」
/kotan/[kota'n]「村」
(3)[e-∫i'ripe]([e-]2人称単数主格、[∫iripe]「食べ物をもらいに行く」):「おまえが食べ物をもらいに行く」という発音を有する形式が調査で得られたが、この形式音韻的に/e-sirpe/か/e-siripe/かを決定するにはさらにどのような調査をしたらよいか。これまでの情報と、以下の情報を元に簡単に述べなさい。
 二人称単数主格接辞/e-/はその直後の音節にアクセントを付与する。
例:/kira'/「逃げる」、/e-ki'ra/「おまえが逃げる」



『北海道』はアイヌ語?

コールラビ (99/12/23 02:50)

以前新聞で読んだのですが、江戸末期エゾ地の探査をした幕府の役人が
アイヌ語にもある「ホッカイドウ」という音をあてて、「北海道」と
名付けたとのことです。



アイヌ語?

コタニ (99/12/23 04:31)

コールラビさん:
 そうなんですか?確かに「海道」と言う言葉の意味を考えると、
北海道は奇妙な位置にあります。この言葉は佐藤さんが仰るとお
り「(都までの)航路」という意味で、都=目的地が東京にしろ
京都にしろ北海道を通るはずはないんです(どこから出発しても)。
 だから私は明治維新当時「海道」には東西南北のうち北だけが
なかったため丁度いい名前として「北海道」を当てたもんだと思
っていました。
 Webで探しましたがホッカイドウ=アイヌ語説は見あたりま
せんでした。よろしければどこの新聞載っていたか教えていただ
けません?



re:アイヌ語?

コールラビ (99/12/23 18:24)

>コタニさん
5年ほど前(不確かです)の朝日新聞に載っていました。
豊かな大地、とかいう意味だったように記憶しています。

何年前かはっきりしない記事を調べ直すというのも
なんとも「タイギな」ことですね。おっと関西弁の方言が出てしまった。(^^)



北海道

佐藤和美 (99/12/24 09:28)

花崎皋平「静かな大地」(岩波同時代ライブラリー)
に次の記述があります。
(文中の彼は松浦武四郎のことです。)
「彼は、明治二年(1869)七月十七日、「道名の義につき意見書」を政府に提出している。そのなかで彼は、日高見道、北加伊道、海北道、海島道、東北道、千島道の六つを原案としている。そのうちの北加伊道と海北道とを折衷したようなかたちで「北海道」が正式にえらばれるのだが、彼が北加伊道を案とした理由は、アイヌ民族が自分たちの国をカイと呼び、同胞相互にカイノー、またはアイノーと呼びあってきたからというところにあった。」

この本は好きな本なのですが、
このアイヌ語の記述はマユツバものです。
田村すず子「アイヌ語沙流方言辞典」(草風館)
には、該当の意味は存在しません。
私には幽霊アイヌ語にしか思えません。
それにアイヌ語には基本的に長音は存在しません。
(これに関しては「ソ(滝)」を参考にしてください。)
著者のアイヌ語力が疑問になってきます。



北海道

無知 (99/12/24 12:32)

「北海同盟」の「北海道調査」によりますと、
 カイナーのカイは、『この国に生まれた者』。ナは敬語だそうです。
 そこから、北加伊道と命名し、加伊を海にあて、北海道となったそうです。
・『北海道』の由来は、『北海』と『道』 別々に由来している。
・『北海』は、アイヌ語の『カイナー』。『道』は、『五畿七道』から。
・『北海道』は、行政区画名も地名も『北海道』なので、『北海』とは言えない。
・しかし、『北海〜』のように、文化的なものに『北海』とは使われている。
と、なっておりました。



ノストラダムスとアイヌ語

佐藤和美 (99/12/25 09:44)

まずノストラダムスの話から。
1999年7の月、なにも起こらなかったですね。
日本のノストラダムス研究家の人達は今頃どうしてるんでしょうか?
ところで日本のノストラダムス研究家のほとんどがフランス語を知らないそうです。
それでどうノストラダムスを研究しようというのでしょうか。
「1999年7の月」も原文ではどう書いてあるのか。
わかりません。

さて、アイヌ語です。
こっちもノストラダムス研究家と同じ状態ですね。
「カイ」+「ナ」でなんで「カイナー」なんでしょう。
せめて「カイナ」とつじつまあわせくらいしとけ、とツッコミを入れたくなります。
どこから、「カイ」が「この国に生まれた者」で、「ナ」が「敬語」というのがでてくるんだか根拠を見せてほしくなります。
たぶん、ネタ本を無批判に使ってるんでしょう。
このHPでも何回かアイヌ語のいいかげんな扱いを書いてきましたが、
もうすこし、資料を吟味してから使ってもらいたいものです。
なお、アイヌ語がいいかげんということは、それ以降に書いてることがあてにならないということですね。

私にはこういういいかげんにアイヌ語を扱う人達が「フランス語を知らないノストラダムス研究家」とダブって見えてしかたありません。



Ainu puyarA大幅改装。

oripakEsaman (99/12/25 11:51)

御久しぶりです。
アイヌの管轄するアイヌのHP「Ainu puyarA(アイヌの窓)」の管理人です。

最近とみにアイヌ絡みのサイトなくなってますね。
一時えらいブームだった事の反動かなと心配している所です。
ブームが去ってから改めて考えなおしてみると、
理解の促進というよりは、単にブームだったんではないかと思うフシもなくはない訳です。
なんとも、複雑な心境です。
その点ナココルブームは無くならなくていいですね(苦笑)

さて、拙HPを大幅改装しました。
といっても、主にプログラム面ですが。

BBSの問題点を見直して、両方のBBSで発生していた
書き込み不良を改善しました。

また、Sampe puyarに、iモードでも見れるよう2〜4Mに区切った
過去ログページを作りました。 以前と同様、iモードによる書き込み
も可能です。

アイヌ語ページであるitak kua puyarに、新ページを追加しました。
今度はアイヌ語が音声で聞けるスグレモノです。
これで簡単にアイヌ語が話せるようになります(?)

一度見に来てやって下さい。

http://www.alles.or.jp/~tariq/



北大大学院入試問題のアイヌ語

佐藤和美 (99/12/27 09:26)

 北大大学院入試問題の解答例です。
(アクセントは該当する母音の次に「'」で示してあります。)

/pirka/[pi'rika]「良い」
/perke/[pe'reke]「(衣服が)すり切れる」
/kar/[ka'ra]「作る」
/kor/[ko'ro]「持つ」
/kur/[ku'ru]「人、方(かた)」

(1)上のデータに基づいて、/r/の発音を決めている要因は何かを簡単に述べなさい。

「r」に母音がつかないときは、その直前の母音の影響を受けます。
すべてそうなってますよね。

(2)アイヌ語のアクセントは、例外もあるが、概して音節の形によって予測できる場合が多い。上の例及び次の例を参考に、アイヌ語のアクセントの原則を簡単に述べなさい。
/sanke/[sa'ngke]「出す」(引用者注:「ng」は英語の「sing」の「ng」の発音記号です)
/terke/[te'reke]「跳ぶ」
/katkemat/[ka'tkemat]「奥さん、淑女」
/poro/[poro']「大きい」
/acapo/[at∫a'po]「おじさん」
/nukar/[nuka'ra]「見る」
/kotan/[kota'n]「村」

まずは2グループにならびかえて、音節に区切ります。

第1グループ
/pir-ka/[pi'rika]
/per-ke/[pe'reke]
/kar/[ka'ra]
/kor/[ko'ro]
/kur/[ku'ru]
/san-ke/[sa'ngke]
/ter-ke/[te'reke]
/kat-ke-mat/[ka'tkemat]

第2グループ
/po-ro/[poro']
/a-ca-po/[at∫a'po]
/nu-kar/[nuka'ra]
/ko-tan/[kota'n]

これで規則性が浮かんできます。
第1音節が閉音節(子音で終わっている音節)の場合、アクセントは第1音節の母音。(第1グループ)
第1音節が開音節(母音で終わっている音節)の場合、アクセントは第2音節の母音。(第2グループ)

(3)[e-∫i'ripe]([e-]2人称単数主格、[∫iripe]「食べ物をもらいに行く」):「おまえが食べ物をもらいに行く」という発音を有する形式が調査で得られたが、この形式音韻的に/e-sirpe/か/e-siripe/かを決定するにはさらにどのような調査をしたらよいか。これまでの情報と、以下の情報を元に簡単に述べなさい。
 二人称単数主格接辞/e-/はその直後の音節にアクセントを付与する。
例:/kira'/「逃げる」、/e-ki'ra/「おまえが逃げる」

/e/のない発音を調査すればいいでしょう。、
/sirpe/なら、[∫i'ripe]だし、
/siripe/なら、[∫iri'pe]ですね。



カイナー

無知 (99/12/27 15:49)

どうも、いい加減なやつですみませーん。怒ってらっしゃいますね。
でも、北海道民の歌の1つは「北海ばやし」だし、「道産子」っていうし…。
「カイナー」の出典(?)は、以下のものです。

『北海道命名の親』松浦武四郎と音威子府
《天塩日誌における音威子府村の記述》
 帰路 安政四年(1857年)六月二十七日
(武四郎は頓別坊に住んでいたアイヌの長老アエトモの家に泊まる)
 さて、この家の主人であるアエトモはエカシ(長老)で、様々の故事に詳しいので、
その夜はいろいろと話を聞くことが出来た。
その中で特に私が以前から不思議に思っていたことであるが、カイナーという言葉がある。
普通はアイヌといっているが、樺太ではカイナー、それがこの山中でも男をカイナー、
女をカイチーという。それについてこのエカシは「カイというのはこの国に生まれた者
ということで、ナはニシハを指して旦那などというような敬語であったのが、
いつからかシャモ(和人)のイタコ(言葉)に馴れてアイノと呼び馴わすようになった。
しかしキミタ(深山)のコタン(村々)ではまだシャモコト(和人語)に接していないので、
カイナーといっている」と答えた。
この事を考えてみると、ここ北海道のことを彼等はカイと呼んでいて、ナを尊称に使うことは
内地でも間々あったことである。
天塩日誌(丸山 道子現代語訳・凍土社より)



カイナー

佐藤和美 (99/12/31 11:48)

何回も書きますが、「カイ」にも「ナ」、「ナー」にも該当の意味はありません。
アイヌの長老アエトモが語ったというのは、民間語源説じゃないかと思います。
ただ松浦武四郎がその話を信じたという可能性はあるかもしれないですね。
それでも「北海」がアイヌ語に由来するというのはあきらかに間違ってます。

「アイヌ」は「人間」という意味で、和人は「アイノ」と訛ったことがよくあったようです。これは日本語の「ウ」が発音記号の/u/じゃない、つまり日本語の「ウ」とアイヌ語の「ウ」がずれてることが影響してるようです。

知里真志保「分類アイヌ語辞典・人間編」に以下の記述があります。
(マオカ、シラウラは樺太の地名。語彙の採集地)
「kaynoカィノ(シラウラ)男児;少年。
kaynuカィヌ(マオカ、シラウラ)1.14〜15才の男児;少年。2.マオカでわ息子や甥を呼ぶのに用いる。3.シラウラでわ夫や夫の兄を呼ぶのに用いる。」

松浦武四郎もアエトモもアイヌ語をしゃべりますが、アイヌ語学者ではありません。知里真志保はアイヌ語学者です。
○○語が話せることと、○○語学者であることとは別問題です。
○○に「日本」を当てはめてみればよくわかるでしょう。

どっちにしろ、「カイ」に「この国に生まれた者」、「ナ」に、「旦那」などの意味はありません。





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