<チェック・ポイント>
●総裁、「金利をいつまで現在の水準に維持すべきか検討続ける」
●総裁、「フォワードガイダンスから金利上昇のバイアスを削除した」
●BOE、物価目標の達成時期を25年から26年に1年延期
【英国−2024年2月2日】イングランド銀行(英中銀、BOE)は1日、金融政策委員会(MPC)の結果を発表し、政策金利 を5.25%に据え置くことを9委員中、6対3の賛成多数で決めたことを明らかにした。据え置き
は市場の予想通りだった。
金利据え置きは4会合連続。BOEの利上げサイクルは21年12月から今年8月までの14会合 連続で止まったが、現行の5.25%の金利水準は依然、08年2月以来、約16ぶりの
高水準となっている。
市場では今回の会合で金利の据え置きがほぼ100%の確率で織り込んでいたため、9人の政策委 員のうち、タカ派とハト派の割合が昨年12月の前回会合時からどう変化するかに注目していた。
今回の会合では、9人の政策委員のうち、タカ派(インフレ重視の強硬派)のアンドリュー・ ベイリー総裁ら6委員が据え置きを支持した一方で、超タカ派のジョナサン・ハスケルと
キャサリン・マンの2委員(前回は3委員)がインフレ高止まりの長期化懸念から利上げ を主張したが、今回はハト派のスワティ・ディングラ委員が前回の据え置き支持から利下
げ支持に転換、三派に分かれた。
前回は据え置きか利上げかの二派だった。ディングラ委 員は金融政策の影響が景気とインフレに及んでくるまでのタイムラグ(時間差)を考慮し、
直ちに利下げすべきと主張した。
MPCが金融政策決定で意見が割れたのは22年9月会合以降、これで12会合連続となり、 金融政策を巡り、依然、分裂状態が続いている。
BOEは声明文で、利上げせず、金利据え置きを決めた理由について、英国経済の景気後 退懸念が高まっていることを指摘している。BOEは、「金融政策の制限的なスタンスが実
体経済の活動を圧迫し、雇用市場の弱体化につながっている。失業率は上昇する可能性があ る」とし、景気後退懸念を強めている。
また、BOEは金利を据え置いた要因として、インフレ上昇リスクが続いていることを挙 げている。声明文で、「インフレ率はやや急激に低下した」としたが、「インフレ率は今年
4−6月期に一時的に物価目標の2%上昇にまで低下するが、その後、7−9月期と 10−12月期に再び上昇すると予想される」とし、年後半からのインフレ上昇
リスクを指摘している。
今回の会合で発表された最新の経済予測を示す1月金融安定報告書によると、24年の インフレ率は前年比2.75%上昇(前回予測は3.25%上昇)、25年は2.5%
上昇(同2%上昇)、26年は2%上昇(同1.5%上昇)と予想、2%上昇の物価目標 に持続的に戻る時期が昨年11月の前回予測の25年から26年に1年間遅れるとしている。
BOEは主な上昇リスクとして、中東情勢の悪化によるエネルギー価格の上昇という 地政学的リスクを挙げ、経済予測期間の前半にインフレ上振れリスクが強まるとしている。
その上で、市場が注目した今後の金融政策のフォワードガイダンス(金融政策の指針) について、BOEは、前回会合時と同様、「雇用市場の逼迫や賃金上昇率、サービス価格
の動向など持続的なインフレ圧力と経済の強じん性を示す指標を引き続き注視する」とし た上で、「金融政策は中期的にインフレ率を持続的に2%上昇の物価目標に戻すため、
十分長い期間にわたって、十分制限的であり続ける必要がある」との文言を残した。
ただ、前回会合時に使った、「さらなる持続的なインフレ圧力の証拠が見られれば、 さらなる金融引き締めが必要となる」との文言が削除され、その代わりに、「インフレ率
を持続的に2%上昇の物価目標に戻すため、経済指標に従って金融政策を調整する用意が ある」とし、また、「政策金利をどれくらいの期間、現在の水準に維持すべきかについて
検討を続ける」との文言を加え、今後の利下げ開始に向けて準備を進めるハト派の スタンスを示した。
12月時点のインフレ率は前年比4%上昇と、11月の同3.9%上昇からやや 加速したが、10月の同4.6%上昇や9月の同6.1%上昇を下回り、ハント
財務相も1月のダボス会議で、「インフレ危機が緩和した」と述べている。しかし、 市場では、インフレ率が物価目標に戻るのは26年になることや、英国のインフレ率
が物価目標の2倍となっており、BOEが重視しているサービスインフレ率が依然、 前年比6%上昇を超えて高止まりしているため、政策金利は今後、しばらく据え置かれ、
利下げ開始が遅れる可能性があると見ている。
BOEの最新の1月経済予測では、金融先物市場で織り込まれている金利水準の 見通しについて、予測期間の終わり(27年1−3月期)までに現在の5.25%から
3.2%に2.05ポイント低下すると予想している。ちなみに24年1−3月期 で5.1%、25年1−3月期で3.9%、26年1−3月期で3.3%になると予想。
これまで金融市場では5月から利下げに転換、24年末までに計6回の利下げ(1回0.25ポイント換算)に より、政策金利は3.75%と、4%を割り込むという積極的な利下げ期待だったが、最近では賃金の
伸びが依然堅調であるため、インフレ圧力を強く警戒し、今夏、早くても6月から利下げに転換、 24年末までに計3−4回の利下げにより、24年末時点で4.25−4.5%に低下するとの慎重
な見方に変わってきている。
■ベイリー総裁
ベイリー総裁も金融政策決定の発表後の会見で、早期利下げの可能性について、 「インフレ率は3月までに3%上昇、4−6月には約2%上昇に低下する可能性が
あるが、今年末までに再上昇すると予想されている。春にインフレ率が物価目標に 戻れば我々の仕事が終わるというほど単純ではない」と述べ、4−6月に物価目標
に戻ってもインフレ低下の持続性を示すものではなく一過性とし、早期利下げには 慎重な姿勢を示した。
また、同総裁は今回の会合で、ハト派のディングラ委員が利下げ支持に転換、 三派に意見が割れたことに関し、「どれくらいの期間金利を現在の水準に維持す
べきか検討し続ける」とした上で、据え置き期間の長さについても、「賃金上昇 率や失業率など今後入手可能な経済データ次第だ」とし、また、「地政学的な緊
張が高まっており、紅海航路の輸送量が大幅に減少している」とし、インフレリ スクを注視する考えを示した。
ただ、同総裁は、BOEの次の金融政策のステップが利上げか、利下げかについて、 「(今回の会合で)金利上昇のバイアスを削除した」とし、ハト派寄りの姿勢を示し
た。また、総裁は、「金利の次の動きはおそらく上昇するという以前のガイダンス を撤回したことは良いニュースだ」、さらに、「金融政策がどの程度、制限的であ
るべきかという問題からどの程度の期間、制限的なスタンスを維持すべきかに問題 が変わった」とも述べ、今後、利下げに向けた準備に入ることを示唆した。
次回の会合は3月21日に開かれる予定。