戦争の中の正義と悪 

 

 

 

章 二人の将軍

 

 

アルベザード王国の中は騒然となっていた。

アルベザードきっての慎重派・イリアが敗戦してきたからだ。

国王自身、彼女の敗戦はかなりの見当違いであった。

「イリア将軍が帰還なさいました。」

「うむ。通せ。」

「イリア。戻りました。」

「お前ほどの戦士が敗戦するとはな。」

「申し訳ございません。しかし、連中の中は強力な魔術師が多数存在することが確認できました。」

「成る程な。魔法を使って隙を付かれたか。」

「はい。その為、中心地を叩かれて……」

「分かった。次はチェルス将軍を出す。次の命が来るまで、自宅で休養をしておれ。」

「分かりました。」

 

 

一方、エンフィールドの方も、騒然となっていた。

奇跡の大勝利だけでなく、クロビス達が攻撃した地区に、大量の食料がため込まれ、それをクロビス達が分捕ってきたと言うことだ。

「こりゃまた……この量じゃあ、逆にこっちが有利になるんじゃねえか?」

「食料だけなら、な。だがそれだけで戦略の幅が広がる。」

「だが、敵も間抜けではない。先程の戦いは何とかなったが、これからの戦いは私の頭では何ともならない。」

その時のリカルドの言葉で、大量の食料を見物に来ていた野次馬達が一斉に静かになった。

「俺やルシードじゃ、指揮は出来ても細っかい作戦を立てるというのは……」

「だからといって、カイン君が帰ってくるのを待つというのも……」

「ならば、俺が作戦を立てよう。」

周りが困惑で支配されようとしたその中で、一人の男の声が出てきた。

「ゼ、ゼファー、アンタ……」

「ふむ。ルシード、久しぶりだな。」

「久しぶりったって、昨日合ったばかりじゃないか。」

「ああ、そうだったな。」

「なんだ?あのボケたおにーさん……」

 突然現れた、長身の男をみて、トウヤは隣に居るバーシアに訪ねた。

「あいつがゼファーよ。頭はいいんだけど、かなりイカレタ性格の持ち主よ。」

ここでの騒ぎは、まだ当分続くようであった……

 

 

「ノール・フェベリル、入ります。」

「チェルス・リーベルト、入ります。イリア将軍が敗北してきたというのは本当でしょうか?」

「うむ。本当だ。」

「信じられません。我ら四天王だけでなく、王国きっての慎重派が……」

「敵に強力な魔法使いが多数確認出来た。慎重派のイリア将軍をも負かす程の数がいるらしい。」

王のその言葉を聞くまで、二人は信じられないと言った表情をしていたが、それでようやく合点がいくといった感じになった。

「それで、私に次の出撃を?」

「そうだ。各35千の兵を率いてエンフィールドを取ってきてくれ。」

「分かりました。」

「承知いたしました。」

「頼むぞ。」

それで、チェルスとノールは王の部屋を出ていった。

 

 

次の日の昼頃、トウヤ達はさくら亭で昼食を取っていた。

 しかし、その穏やかな時間は、唐突に破られていた。

「おーい、パティ!ティセ来てねぇか?」

「え?ティセ?あの子は来てないけど?」

「ティセ?」

「ああ、俺の妹で結構のんびりしていてな。多分、蝶でも追っかけてると思うが……」

「分かった。俺が何とか探してみよう。その子の特徴は?」

「あ?ああ。緋色の髪と目をしている。それだけ言えば簡単だろう。」

「それじゃあ、風見君、私も行くわ。」

「私達も行くわよ。」

千尋と皇の提案にトウヤは少し驚いた物の、気を取り直し、ティセを探すことになった。

 

 

「ノール将軍。貴様に少し聞きたいことがある。」

「チェルス将軍か。どうしたのだ?」

3万5千の兵をまとめていたノールに、他の場所で兵をまとめていたはずのチェルスが近付いていた。

「国王の考えだ。」

「国王の?」

ノールの予想だにしなかった言葉に、チェルスも驚いた表情をしていた。

「国王はここ数年、領土を広げてきた。俺はただ単に戦いを楽しめれば細かいことは気にしないを貫くつもりだったが、王の最近の急いだ感がある行動は少しおかしいと感じている。おそらく、イリア将軍やジュナ副官、そして貴様の副官も俺と同じ事を考えがあるはずだ。俺の所の副官も同じ事を考えている。」

「成る程な。私も同じ考えだ。だからと言って、王から受けた命令を拒む気はさらさらない。お前もそれは同じだろう?」

「まぁ、そうだがな。」

「それに領土が早くひろがれば、足下を崩される。王もその時に自分のやった事の恐ろしさを感じるだろう。」

「お前、その行動が自分の命を縮めることになるぜ。そー言う行動が似合うのは俺の様な戦闘狂だけだ。頭のいいお前は理知的な行動だけをしていればいい。」

「ご忠告、とりあえず受けておこう。」

チェルスの言葉に満足したのか、ノールはその場を去っていった。

「……理知的な行動……か。自惚れるつもりはないが、そうなのかもしれんな……」

ノールの後ろ姿に、チェルスはそう呟いていた。

 

 

「おーい!ティセー!何処に居るんだ!」

「ティセちゃーん!」

エンフィールドの西に位置する所で、ルシードとユミールの声が響いていた。

「ったく、あいつ、何やってやがる……」

なかなかティセが見つからない苛正しさに、ルシードも舌打ちを禁じ得ない。

「トウヤ達もまだ見つけてないみたいだし……。」

「あっと、あそこにいるのは……更紗にピートか!おーい!」

 ルシードの声に、更紗とピートは、ルシードの近くに駆け寄る。

「ルシード、どーしたんだ?事件か事件か?」

「事件といや、事件だ。ティセ見なかったか?」

「ティセか。セリーヌ迷子と同じぐらいの事件だな!」

「で、見なかったか?」

「俺は見なかったよ。更紗は?」

「私も……」

更紗も、静かにうなずく。

「そうか……」

その時、ユミールの持っているphsの音が鳴り始めた。

「こちらユミール。どうしたの?」

「こちらトウヤ。まずいことになった。」

「どうしたんだ?」

トウヤの声に、ルシードがユミールの持っているphsを奪い取り、トウヤに答える。

「アルベザードの斥候を見つけちまった。俺や晃一郎、亮に気が付いてないが……叩くかどうか、判断願う。」

「とりあえず、そこで斥候の様子を観察してくれ。俺はリカルド隊長に伝えてくる。10分ごとに様子をこっちに伝えてくれ。」

「了解。敵に気が付かれると困るから、切っとくぜ。」

「分かった。気を付けてくれよ。」

ルシードはphsが切れたのを確認した後、それをユミールに返しつつ大仰にため息を付いた。

「ピート。そう言うことだから、ティセを探してくれねぇか?」

「分かったよ。更紗、行こうぜ!」

「うん……ルシード、気を付けてね。」

「分かってる。それじゃ、行こうぜ。」

「そうね。」

そう言って、二人は、自警団事務所へ走っていった。

 

 

ルシードとユミールの報告を聞いて、自警団員はすぐさま招集された。

「それでルシード。状況は?」

「ああ、斥候の人数は約五百程、別の所にもいるかもしれないから、2千から3千って所だと思うけど。」

ルシードの言葉に、ゼファーは、「ふむ。」と、一言返事をした。

「どーすんの?連中が来た以上、迎え撃つのが上策だと思うけど。」

「ああ。バーシアの言う通りだな。」

その時、phsの音が鳴りだした。

「トウヤからの連絡だな。頼む。」

「ええ。どうしたの?」

「ああ、斥候は、どこが攻めやすくて何処が攻めずらいかを確認してるみたいだ。」

「成る程、時間をかけて、確実に調べるみたいだな。」

「慎重派のイリア将軍が負けたから、それ以上に慎重になってると考えた方がいいと思う。」

「分かった。作戦が決まったら、そっちに連絡する。」

「了解。」

「と言うことだ。敵が何処にいるか分かった時点で攻撃開始だ。まぁ、一個隊500相手では作戦など必要ないだろう。」

その時のゼファーの言葉で、ルシード達が各千の隊を作り、行動を開始した。

 

 

それから五分後、ユミールから連絡を受けた、クロビス達も行動を開始し、隠密に敵に攻撃を開始した。

「敵連中を逃がすな!急いで攻撃をするんだ!」

「弓矢隊と魔術隊は味方に出来るだけ当てるな!味方の損害を0に近付けるんだ!」

魔法を使って、敵位置を調べられているため、どこに敵がいて何処にいないかが分かっているエンフィールド自警団にとって、各地に散らばっている数千の兵など、ただの的でしかなかった。

しかし、トウヤは何処かしら腑に落ちない点があった。

「ルシード。斥候ってヤツは、敵の戦力とかそう言うところを調べるんだろ?だったら、何で連中はこんなに抵抗をするんだ?」

「確かにな。ゼファーに連絡取って、そこん所確かめようぜ。」

その時、トウヤのphsが鳴った。

「こちらトウヤ。そっちから連絡くれるのは嬉しいよ。」

「トウヤか。連中はただ単に斥候をやっていたわけではない。」

「何!」

「相手の将軍はおそらく、ノール将軍とチェルス将軍だ。前回の負け戦で連中もただ単に斥候だけを送ると言う考えは、捨てたようだ。」

「おとり作戦か?」

「そう言うことだ。俺が残りの連中を連れて、そっちに援護しに行く。それまで死ぬなよ。」

「分かってる。」

 

 

 命からがら、陣に逃げ帰った少ない兵の報告を聞いて、二人の将軍は、驚愕の表情をしていた。

「どうやら、1500で行くと、多人数の隙を付かれるではなく、兵の消耗を少なくするため1500で行った方がいいと考えた方が良かったみたいだな。」

「ああ。そうだろう。私も今はそう思っていた。」

「だが、そのことを悔やんでも仕方ないな。俺は半分の三万を率いて、敵に正面から攻撃していよう。貴様は後ろを守ってくれ。」

「分かった。それと、相手の軍師はゼファー・ボルディだ。慎重に行って損はない。」

「分かってる。だから貴様に後ろを任せている。ベットルー一人や貴様の副官一人では、後ろは守れないからな。」

「成る程。承知した!」

その時、陣の中心当たりから、兵が騒ぎ始めた。

「な、何事だ!」

「て、敵です!陣の中心から攻撃を受けてます!」

「何!人数は?」

「それが……たった一人の傭兵風の人間で……」

「たった一人?成る程、一人で堂々と陣に入れば、誰にも疑われないだろう。その隙を付かれたって訳か……ノール将軍。貴様は残りの兵を全てで敵を攻撃してくれ。傭兵は俺が押さえていよう。」

「分かった。チェルス将軍、気を付けてな。」

「承知!」

 

 

全ての自警団員が集まり、いざ敵陣に攻撃を開始しようと言うときに、敵陣の慌ただしさに気が付いた。

「連中、他国に攻め入ろうって言うのに、仲間割れしているのか?」

「どうだろ?もう少し近付かねぇと……」

フェインの言葉とは裏腹に、ルシードは慎重な考えで行動していた。

「そういや、数人単位で敵陣に堂々と入ると敵さん、あまり敵だって思わないって話があるんだけど……」

「作戦の1つにはそれがあるだろうけど、一体全体誰がそれをやってるんだ?」

トウヤの言葉に、今度はクロビスが返す。

「そうか!カイン……カイン・ジェルフトだ!あいつが攻撃をしている!」

「成る程な彼が攻撃をしてくれていたのか……」

「あたし達が苦戦するかもしれないからってアイツ……!」

「それより、この隙を付かなくていいのかい?最大のチャンスだと思うけど。」

トウヤの言葉通り、陣から出撃している敵は、チェルス将軍率いる、4万5千程度にまで減っていた。

「そうだな。突撃開始!」

ゼファーの言葉で、エンフィールド自警団一万と、チェルス将軍率いる4万5千の正面攻防が始まった。

 

 

陣の中では、カイン・ジェルフトとノール・フェベリルの一騎打ちが始まっていた。

「成る程……貴様がカイン・ジェルフトか……」

「へぇ、俺の名前を知ってるヤツがいるなんてね。」

 剣で鍔迫り合いをしつつ、二人は声を上げた。

「当たり前だ。ここ5年、戦場の白銀の死神と言う異名をもつ男がいると聞いていたからな。」

「へぇ、銀の鎧を身につけているから、白銀の死神かい。語呂良すぎだぜ!」

「どちらにしろ、この状況下じゃあ、お前と戦いたいと言ってられない。とりあえず、今回は引かせて貰うぜ。」

「好きにしな。」

そう言って、ノールは後方にいた愛馬にまたがり、その場を去っていった。

「アルベザードのノール・フェベリル……か、確か疾風の将軍とか言ったな……考えてもしょうがない……オッサン達も心配だし、とりあえず、合流するとしますか。」

そしてカインも、己の愛馬にまたがり、駆っていった。

 

 

「やはり、志気が上がらぬか……」

前面を受け持っていたチェルス将軍は、ジリジリと押されている状況で策が見つからない状態だった。

「ゼファー・ボルディ……それにカイン・ジェルフト……前哨戦では魔法でめった打ちにされたというのに、今回は二人の男にしてやられたか。」

もはや、彼の頭の中には、いかに損害を減らして撤退をはかるかであった。

「思ってたより、抵抗が緩いな。」

 炎の魔法と剣術で、敵に応戦していたトウヤは、始めての抵抗の弱さを実感していた。

「確かにね。だけど、陣を襲われたまま出撃したから、こんぐらいは当然じゃないの?」

同じく、抵抗の弱さを感じていたバーシアは、楽観主義を決め込むことにしていた。

「もうすぐしたら、相手将軍も撤退路を見つけ、撤退を計る。その行動を起こしたら、追撃をせずにカイン・ジェルフトと合流する。」

ゼファーの言葉の直後、チェルス将軍の部隊が撤退を始めた。

「ふぅ、終わったな。」

「ああ、そうだな。」

「それより、ルシード。カイン君は?」

「さあ?アイツのことだから、もうすぐ来るんじゃないですか?」

「さっきから聞いてるけど、カインって何者なんですか?」

「ああ、あそこにいるのがそのカイン・ジェルフトだよ。」

「オッサン!久しぶりだな!」

馬上から見て、リカルドの姿を確認したのか、素早く馬から降りてリカルド達に駆け寄った。

「カイン、よく来てくれた。感謝する。」

「何言ってんだよ。困ってるときはお互い様って言うじゃねぇか。」

「カイン、シーラはどうしてるんだい?」

「シーラ?アイツの噂はお前だってよく聞いてるだろ?」

「ま、そうだけどね。」

剣と盾の誓いで義兄弟になったリサに向いて、自分を見ている男がいるのを感じていた。

「アンタが、カイン・ジェルフトか?」

「そうだが、お前さん、誰だい?」

「俺は、トウヤ・ジン・クラシオ。たまたまこっちに来ちまった迷子とでも言っておこうか。」

その言葉のあと、トウヤは大笑いを始めていた。

「おーい!ルシード!」

「晃一郎に亮か。どうした!」

「ティセが見つかったぞーい!」

二人の男の後ろには、確かに緋色の髪と目をした、エルフ風の少女が立っていた。

「ティセ!お前、何処行ってたんだ?」

「はい!ティセは、森の方へ行ってました!」

明るい返事に、ルシードはもう、ため息をつくしかなかった。

その光景をみたカインは、「相変わらずだな」と大笑いをしていた。

 

 

第五章へ続く

 



 

後書き

4章如何でしたか?今回、かなり長くなりましたが、1の主人公、カイン・ジェルフトが登場しました。

彼は23歳の傭兵で、白銀の鎧を身にまとっていて、出会った将は戦士生命を絶たれる事から、このあだ名が付いたと言うプロフィールです。

それと、原作(悠久3)に無い設定になったのが、ルシードとティセ。

このssで二人は、エルフで兄弟と言う設定になりました。

しかし、ピートと更紗が出てきたけど、あんまし活躍しなかったな……ってかんじですが、まぁ登場人物多いし、出せたたけでもオッケーですね

では、第5章で


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