戦争の中の正義と悪 

 

 

章 休暇の中で

 

 二人の将軍と数万の軍隊を白銀の死神ことカイン・ジェルフトと共に退けたトウヤ達は、エンフィールド自警団軍師のゼファーの「ここまで叩きのめされたんだ。流石のアルベザードもしばらくは行動はできないが、こちらの兵力で敵に攻撃をかけるのは無茶だ」と言う言葉もあり、攻撃を止めて、休息することを決定した。

「それで?お前ら、あそこで何やってたんだ?」

 その次の日の朝、さくら亭に朝食を取りにきたピートとお酒を届けにきた更紗がピートと同じく朝食を取りにきたルシードにそう聞かれた。

「へぇ、ピートと更紗、一緒にいたんだ。」

「聞かせろよ、おまえらデートしてたんだろ?」

「あぁ、言えてるかも!」

 ルシードの言葉にいち早く反応したのは、アイとビセット、それにルーティーだった。

「どうでもいいが、お前ら、リカルドさんに頼まれ事されてなかったか?」

 トウヤはピートたちに詰め寄ろうとする3人に向かって、そう言っていた。

「え?」

「早くしたほうがいいぜ。多分カスミやシェリル達ももうついてるころだろ。」

「あ!いっけない!それじゃ!」

「まったく、他人のことより自分のことを心配すればいいのにねぇ。」

 ビセットたちを見ながらそう言ったのは、ルシードやティセと同じエルフのエル・ルイスだった。

「まぁ、そう言ってくれるなよ。」

「だけど、こいつの言ってることは事実だろ。トウヤやカインみたいな彼女持ちや、好きな子がいるルシードと比べると、ね?」

 3人をかばう言葉をエルに向けた町一番のナンパ師アレフ・コールソンに対し、オーレリィはエルの意見に同意を見せた。

「それより、アレフ、あんたホントにダイエットするの?」

 アレフに食事を運びつつ、パティは呆れ顔でそれを聞いた。

「本当にするんだよ。いいだろ?俺だって好きでやってるんだから。」

「まったく軟弱な男だ。俺も外に出てるよ。」

 アレフの態度にイラついていたのか、トウヤはさくら亭から出ていった。

 

 

「白銀の死神?あの男がエンフィールドに戻ってきたのか?」

 前の戦いで負傷したイリア・ハーティルスはノール・フェベリルから『白銀の死神』の話を聞いて驚きの表情をした。

「確かあの男は、あと10日はこちら付近にこない筈だが……」

「恐らく、アルベザードが侵攻を開始したと言う情報を聞いたのであろうな。」

「成る程、そういわれると合点がいく。それで、これから国王はどうなされると?」

「どうも、古代遺跡を発掘するらしい。」

「その行動がうまく行くといいが。」

 ノールの言葉に、イリアはため息を付きつつ、そう言った。

 

 

「いいから、俺と一緒に行こうぜ。」

「ダメです!あたしは急いでるんですから。」

 トウヤが陽のあたる丘公園に一人散歩に向かっていたところ、彼はそれを目にした。

 眼鏡をかけ緑色の髪を持った、医者見習風の少女が男にナンパされていたのだ。

「……ナンパの現場……か?」

 ここで普段のトウヤは助ける行動をとる男である。しかし、現在彼はユミールと言う恋人がいる身である。ここで助けて惚れられるのも、ある意味問題だ。以前、アイやレオーネに優しくしたが為、惚れられた経験(当然当の本人たちにそこの所を忠告された。)をもつトウヤは、そう判断し無視を決め込んだ。

 が、しかし、トウヤのその考えは1秒で崩れてしまった。

「まさか……あいつ、クロビスかぁ?」

そう、ナンパ男はトウヤの友人の一人、クロビス・カミリオンであった。

つまりは、クロビスが一人の可愛い少女を見つけた→声を掛けずにはいられない→当然人によっては拒否する人間もいる。ということだ。

流石に、これは止めなきゃならない。そう思ったトウヤは気配を殺し、クロビスの背後に回り、男の大切なところを思いっきり蹴り上げていた。

「いってぇーーー!」

 元は軍人で身体全てを鍛え上げられたクロビスであっても、至極当然鍛えられない所がある。そこを思いっきり付かれたのであるから、うめき転げ回った。

「おら、とっとと逃げろ。」

「は、はい。」

 そんなクロビスを横目に、トウヤは少女に「しっしっ」と追い払うように、手を振った。

 少女はトウヤの行動に心の中で感謝しつつ……心の中で、「何て素敵な人なんだろう」と思い……その場を走り去った。

「てめぇ!何しやがる!」

 やっと痛みが消えたのか、クロビスはトウヤに今にも噛み付きそうな表情で詰め寄った。

「何って、クロビス、お前、ナンパしてたろが。」

「うぐ……だが、お前にはユミールがいるだろうが。お前に惚れる女になるかもしれないぜ。」

「お前じゃなかったら最初からとめるつもりは無かったの。」

「ちっ、人種差別してるんじゃねぇ。」

「耳が長いか長くないかで人様を差別する気は毛頭ありません。」

「種族じゃなねぇ!人間性だ!」

 トウヤ自身、クロビスのいう『人種』が『人間性』の事を指すのはわかっていたが、トウヤはワザと『人間』と『エルフ』の違いと言っていた。

 この二人のくだらない争いは、まだ当分続きそうだった。

 

 

 太陽が真上にある昼下がり、エンフィールドの入り口に当たる、祈りと灯火の門の近くに一台の馬車が入って来ていた。

「リカルドさん……確か、今は戦時中だったはずだと思ったが。」

 門の周りの様子が見れる、自警団事務所前にいた者たちは、その騒ぎを見ることができていた。

そして、ウィレツの言葉は最もであった。エンフィールドとアルベザードは現在戦争中であった。だから、リカルドの命でこちら側からの馬車を出すことを禁止していたのである。

 そして、当然外からの馬車が入ることも禁止されていたのであった。

「いや、あれは戦争前に出た馬車だ。」

「あの馬車、もしかして自家用の馬車ですか?」

 リカルドの言葉を聞きつつ、高校の修学旅行時、馬車を見たことがあるカスミはそれと目の前にある馬車の大きな違いを見つけ、ルシードに聞いた。

「そういわれ……おい、誰かカインを呼んで来い。」

「え?」

 突然のルシードの言葉を聞いて回りの人間は面食らった表情をしたが、その言葉の意味を解したバーシアが、カインがいるであろう所へ走っていった。

 

 

「で、その人、あたしがナンパされてるところを助けてくれたの!」

「へぇ、で?その人の名前を聞いてなかったの、ディアーナ?」

 同時期、眼鏡をかけ緑色の髪を持った医者風の少女……もといクロビスにナンパされたディアーナと呼ばれる少女は、さくら亭でパティとユミール、それに千尋の3人に話していた。

「う、うん……だけど、緑色の髪で結構っていうか、凄くかっこいい人だったな。」

「もしかすると、そのナンパした人と助けてくれた人、知り合いだったりして。」

「まさかぁ!アレフとクリスじゃないんだし!」

 千尋の言葉に、たまらないといった感じでパティは大笑いした。

「だけど、もしかしなくても、そうかも……」

「ユミールさんも!そんなことないって!」

「だけど、緑色の髪でかっこいい人って言ったら……」

「じゃあ、ナンパ男はどう説明するの?」

 ユミールの言葉の意味を理解したのか、パティは次の疑問をぶつける。

 そのとき、30歳前後の大男が大慌てで店の中に入ってきた。

「ゆ、ユミールか!た、た、助けてくれ!う、うわぁぁぁぁ!」

 そしてその男……クロビスがユミールの姿を確認した直後に、いすに足を引っ掛けて、派手に転んでいた。

「アンタ……なに?」

「あー!さっきのナンパおじさん!」

 パティが倒れたクロビスをしかめっ面で睨んでいた後ろで、ディアーナがそう叫んでいた。

「じゃあ、助けてくれた人って……」

「クロビス!勝負を捨てて逃げるとは卑怯だぞ!」

「え?アルベルト?なんでアンタが……」

 もしかしなくてもやっぱりトウヤ?とユミールが言う前にアルベルトが入ってきた。

「ナンパ中にトウヤにけられるはその後低レベルのケンカを仕掛けられるは、挙句の果てにはその男とフェインに女の敵とか言われるわ……今日は最悪の日だぜ……」

「あれほど問題起こすなって言ったのに、起こそうとしたおまえが悪いんだろう……」

 テーブルの下で震えているクロビスに冷ややかな声をかけたのは、アルベルトの後に入ってきたトウヤであった。

「あ、助けてくれた……。」

「ああ、アンタか。そっちの馬鹿がナンパした子か。さっきはこっちの馬鹿が変なことしてすまないね。」

「い、いえ……」

「それより、トウヤ、フェイン君は?」

「あーーー!いけねぇ!あいつ忘れてた!」

 ユミールの言葉で、トウヤはそう叫んだ後、phsを取って、フェインに連絡を取った。

「トウヤか。クロビス、捕らえたか。」

「ああ。ここでおびえてるよ。」

「だったら、ゼファーがそっちの用が終わったら事務所に来てくれって。」

「わかった。すぐ行こう。」

「ゼファーさんがどうしたの?」

「恐らく、敵の動向がわかったんだろう。クロビス、そこでおびえている暇があったら、とっととついて来い。」

 

 

 自警団事務所では、黒髪の少女と、カインが向かい合っていた。

 数年前、無実の罪で自警団にとらわれていたカインをリサやピートと共に助けた人間の一人であり、カインの想いを受け止めた少女、そしていまや音楽界では有名なシーラ・シェフィールドである。

「お帰り。シーラ。」

「ただいま。カイン君……。」

「再会の喜びを邪魔するのは不本意だが、トウヤ達が来てくれた。二人とも、話を聞かせてくれないか?」

 お互い、顔を赤らめていたが、ゼファーの言葉で、慌てて元に戻る。

「ああ、エンフィールドに来る途中……ていうより、この辺の地形だけどな、アルベザードが侵攻を開始してから変わってるって話なんだ。」

「変わってる?土地が上がったところがあるとか?」

「ああ。そうなんだ。」

 トウヤの当然の疑問に、カインはうなずいた。

「私は、その現場を偶然通りかかったんです。」

「俺が噂を聞いたときは、地震が起こっただけだと思ったんだが……」

「違うんですか?」

「そうなんです。その現場には、アルベザードの兵隊さんらしい人達がいたんです。」

「アルベザート……もしかしたら、古代兵器を発掘しているのかも……」

 シーラの言葉を聞いて、ルシードはそう思ったことを言った。

「古代兵器って俺達の戦艦にある聖霊機みたいな?」

「ああ。あれとは違い、無人機だ。外から操作するタイプらしい。」

 トウヤの言葉に、ルシードは自分が知っている限りの知識を言った。

「そしたら、次の戦いは、それが出てくる確率があるか。」

「そうなるな。」

「じゃあ、セリカに頼んで聖霊機をアップできるように頼んでおく。」

「そうしてくれ。よし、作戦は敵が攻めてくるであろう明日後に決行。それまで、体を十分に休めてくれ。」

 そしてこの日の会議は終了した。

 ここにいる皆の表情はリラックスと緊張が入り交ざった表情だった。

 なぜなら次の戦いは、いままでのようにうまく行かないことを知っていたからであった。

 

 

第六章へ続く

 



 

後書き

どうも、お久しぶりです。

最近変名した糸蒟蒻です。

今回はいわゆる休暇編です。戦いばかりさせるわけには行けませんからね。

前半にでた、緑髪の少女、分かった人はどれぐらいいるのでしょうか(笑)。

次は凄いものが出てきます。分かってるとは思いますけどね(笑)。

さてさて、どう転ぶかお楽しみに!


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