24GHz カセグレンアンテナの基本設計


● (No.289) 24GHz カセグレンアンテナの基本設計 (2001年 10月28日)
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衛星AO-40 の 24GHz帯(Kバンド) の ビーコンを受信するために、カセグレン
アンテナを使用することが方法の一つとして考えられます。次の資料に、この
アンテナの 47GHz, 75GHz帯の 副反射器とフィードホン作成のための大変参考
になる基本設計が解説されています。これを転載することの許可を著者から得
ましたので、24GHz帯用に補足を加えながらここに紹介します。


《引用資料》

「ミリ波のアンテナ」Micro Wave Report Vol.3, 1997.8. (ミリコム社)
          JA8CMY 増田幸雄 著 (P.13〜22)


 主反射器・・・回転放物面(青)
 副反射器・・・回転双曲面(赤)
 F ・・・・・主反射器と副反射器の共有焦点
 F’・・・・・副反射器の焦点(給電点)

 

ミリ波帯のアンテナでは給電線による損失が大きくなるので、パラボラアンテ ナは給電方法に工夫が必要です。マイクロ波帯で使用されるホーン型放射器で は、パラボラアンテナの焦点距離まで同軸や導波管で給電しても損失が小さく あまり問題になりません。しかし、ミリ波帯では可とう性の同軸が使用できな いため、送受信機をアンテナの背面に一体化して配置する形態となります。 このため、通称「象の鼻」とよばれる導波管が必要になりますが、ミリ波帯の 導波管は入手しにくく、正確に加工することも難しくなります。カセグレンア ンテナは、パラボラアンテナに比較して副反射鏡の設計と製作が難しいのです が、直線導波管のみで給電できる利点があります。実際に使用されているミリ 波用のアンテナのほとんどがカセグレンアンテナです。 上図が カセグレンアンテナの動作原理を説明した図です。 F点が主反射鏡(回 転パラボラ面)の焦点で、パラボラアンテナでは この位置に放射器を配置し、 パラボラ面に向け電波を放射します。 カセグレンアンテナでは、F点の内側に F点を共有焦点とする副反射鏡(回転双曲面)を配置します。 そして、副反射鏡 の第2の焦点F' に放射器を配置して、副反射鏡に向け電波を放射します。 放射器から発射された電波は、F'点を中心とする球面波で、回転双曲面の副反 射鏡で反射され、F点を中心とする球面波に変換されます。 この球面波は回転 パラボラ面の主反射鏡で反射されて、平面波に変換され前方に放射されます。 このようにカセグレンアンテナでは、放射器の放射特性に合わせて副反射鏡を 設計できる自由度があります。このことは、放射器の設計が難しい短焦点型の パラボラでも等価的長焦点型に変換できることになり、カセグレンアンテナの 大きな特徴です。現在では副反射鏡と主反射鏡の鏡面修正により、主反射鏡を 均一に照射する技術が確立されており、アンテナの開口効率の向上が図られて います。 カセグレンアンテナの動作原理をもとに、副反射器の設計方法を解説したのが 右図です。 副反射鏡は、F点と F'点を焦点とする回転双曲面なので、P-P' の 双曲線を A点を中心に回転させることによって得られます。下右図では改めて F点と F'点の中点を原点O にとっています。   

 上図において パラボラ面の深さを C(=OC)、直径を D(=2*CD) として、放物  線の方程式 y^2 = 4fx (f=OF,焦点距離) において、x = C, y = D/2 を  代入すると、 (D/2)^2 = 4fC となるので、次式が得られます。  ------------------  f = (D^2) / (16*C) ・・・公式T  ------------------  また、FD = root(FC^2 + CD^2) = root((f - C)^2 + (D/2)^2)         = root((f - C)^2 + 4fC) = root((f + C)^2)) = (f + C)  よって、cosθ= FC / FD = (f - C)/(f + C) となります。  つまり、(tan(θ/2))^2 [半角の公式より]       = (1 - cosθ)/(1 + cosθ)       = ((1 - (f - C)/(f + C)) / (1 + (f - C)/(f + C))       = (2C/(f + C)) / (2f/(f + C))       = C/f = ((D^2)/(16f))/f = (D^2)/(16*f^2)  ---------------------  tan(θ/2) = D / (4*f) ・・・公式U  が得られます。  --------------------- BS放送受信用アンテナ「BS-TA352」のパラボラ面は、直径 約D=370mm、そして 深さ 約C=53.5mm なので、公式Tより その焦点距離f を求めると、  f =370^2 / 16 * 53.5 = 159.93mm となります。 上右図において、パラボラ面の開口角 2*θ1 は、公式Uより  2*θ1 = 4 * tan^(-1)(370/(4*159.93)) = 120.17 = 約120度 となります。 いま、副反射鏡の直径を 70mm、フィードホンの -10dB の放射角度(2*θ2) を +/-40度とすると、QF 、QF'、OF、PF'、FP の長さは次のように求まります。  QF = QP / tan60°= 35 / tan60° = 20.2mm  QF'= QP / tan40°= 35 / tan40° = 41.7mm  OF = (QF' + QF) / 2 = (41.7 + 20.2) / 2 = 30.95mm  PF'= QP / sin40°= 35 / sin40° = 54.45mm  FP = QP / sin60°= 35 / sin60° = 40.41mm ところで双曲線の定義から、2焦点F、F'からの距離の差が一定(=2*OA=2a) で あることから、 a = OA = (PF' - PF) / 2 = (54.45 - 40.41) / 2 = 7.02mm となり、c = OF とおくと、双曲線の関係式 c^2 - a^2 = b^2 から、b^2 が 次のように求まります。  b^2 = (30.95)^2 - (7.02)^2 = 908.62mm 従って、双曲線の方程式 x^2 / a^2 - y^2 / b^2 = 1 に数値を代入すると、  x = +/- root((1 + (y^2 / 908.62)) * (7.02)^2)  が得られます。 この式に 0<y<35 の値を入れて x の値を求め、O点を原点とする (x, y) の 座標を方眼紙等にプロットすることにより、副反射鏡用の双曲線を描くことが できます。  副反射鏡 鏡面設計値

yxA点を基準とした偏差(mm)
07.020
57.120.1
107.400.38
157.840.82
208.421.40
228.691.67
248.971.95
269.272.25
289.582.56
309.902.88
3110.073.68
3210.233.21
3310.403.38
3410.583.56
3510.753.73


できあがった双曲線をもとに旋盤で加工を行い、回転双曲面の副反射鏡としま
す。写真2(上記資料P.15) が完成した副反射鏡です。副反射鏡の取り付け方法
を第6図(資料P.16) に示します。副反射鏡の鏡面誤差やフィードホンの放射点
のずれ等を補正できるように、副反射鏡は設計位置の前後に調整できる構造と
します。

副反射鏡は 6mmのビスの先端に 4mmのビスで固定し、支持用のアルミ板の中心
に取り付けます。 支持用のアルミ板は、3本のアルミフラットバーでパラボラ
面に固定します。 副反射鏡の取り付け部分を写真3(資料P.15) に示します。

次に カセグレンアンテナ用フィードホンの設計を行います。第7図(資料P.17)
[RSGV VHF/UHF MANUAL 日本語版 CQ出版社] が、パラボラアンテナの f/D比か
らフィードホンの最適寸法値を求める図です。この図を利用するため、まず、
−10dB の開口角が +/-40°となるアンテナの【f/D比】を求めます。パラボラ
アンテナの直径・開口角・焦点距離の公式U tan(θ/2) = D / (4*f) から、

 -----------------------
 f/D = 1 / (4*tan(θ/2)) ・・・公式V  が得られます。
 -----------------------

θ= 40°では、 f/D = 1 / (4*tan(40/2) = 0.687 となります。第7図より、
f/D = 0.687 での ホーンの寸法を求めると、

  B/r = 1.06、 (r=波長) および
  A/r = 1.42  
  L > A^2 / r  となります。


24.048GHz での寸法は、
                                                  _
  r = 300 / 24048  = 12.48mm                 ↑| \___
  B = 1.06 * 12.48 = 13.23mm                 A |
  A = 1.42 * 12.48 = 17.72mm                 ↓| / ̄ ̄ ̄
  L > (17.72)^2 / 12.48 = 25.16mm                ̄
                                                 |← L →|

47.1GHz での寸法は、
                                                  ___
  r = 300 / 47100 = 6.37mm                   ↑|    |
  B = 1.06 * 6.37 = 6.75mm                   A |    |
  A = 1.42 * 6.37 = 9.04mm                   ↓|    |
  L > (9.04)^2 / 6.37 = 12.83mm                  ̄ ̄ ̄
                                               →| B  |←

75.75GHz での寸法は、

  r = 300 / 75750 = 3.96mm
  B = 1.06 * 3.96 = 4.19mm
  A = 1.42 * 3.96 = 5.62mm
  L > (5.62)^2 / 3.96 = 7.98mm


この計算値結果をもとに作成したフィードホンを、第8図(資料P.17) に示しま
す。 47GHzのフィードホンは、導波管の先端にホーン放射部を、ハンダにより
固定します。ホーンはマイクロ波用の導波管等を利用し、角部分を切り取って
作成すると綺麗に出来上がります。フランジ板は 2mm厚の真鍮板で作成し、導
波管にハンダで固定します。フィードホンは計算値よりも長く作成し、最良調
整後、フランジ側を切り詰めます。

75GHz のフィードホンは、導波管の寸法とホーンの大きさが同程度となってし
まいます。このため、ホーン部分を別に作成せずに、導波管の肉厚を利用して
先端部分を削り取り、ホーン放射部とします。ホーン部は導波管を組み上げる
前に作成します。導波管に組み上げたときホーンとなるように、アングルの耳
の部分を残して慎重に削り取ります。

フランジ板は 3mm厚の真鍮板で作成し、導波管にハンダで固定します。フィー
ドホンの長さは 47GHzと同様に長めに作成し、調整後切り詰めます。写真4 と
写真5 に、47GHz と 75GHz のフィードホンを示します。(資料P.17)

最後に、アンテナの調整には第9図(資料P.18) のような調整用フレームを作成
して行います。受信機のアンテナ取り付け金物を取り外し、作成したフィード
ホンを取り付けます。調整用フレームには、受信機のフィードホンに合わせて
アンテナを取り付けます。フレームにはアングルのレールを取り付けて、受信
機が前後に遊びなく移動できるようにします。アンテナ調整用フレームを、写
真6(資料P.18) に示します。

送信機を 50m程度 離した位置に置き、電波を送信します。受信電力は 受信機
の Sメータ もしくは IF出力をスペアナ等により測定します。距離が近いので
受信レベルが高く受信機が飽和する場合には、送信アンテナの方向をずらすか
送信アンテナを取り外します。アンテナの設計上の焦点付近でフィードホンの
長さを細かく変化させ、副反射器を調整して受信電力の最大値を取っていきま
す。

受信電力が一番高くなるフィードホンの位置を記録し、受信機にアンテナを取
り付けた時にフィードホンの位置が合うように切り詰めます。写真7(資料P.18)
が、完成した 47GHz と 75GHz のカセグレンアンテナです。第10図(資料P.19)
に、測定した 47GHzカセグレンアンテナの指向特性を示します。

3dB のビーム幅が 1.6度で、自作の電磁ホーンとの比較から 約40dB の利得で
す。第11図(資料P.19)が 75GHzカセグレンアンテナの指向特性で、3dB のビー
ム幅が 0.8度でした。利得は比較するアンテナがないので測定できませんが、
伝播損失の計算から 約44dB程度と推定されます。


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