● (No.222) ロケット科学【高校物理編】 (2000年10月10日)
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前回、amsat-bbにおいて「400N P3D Rocket」と題し やりとりされていた問答
を紹介しました。これを私が翻訳する時に参照した高校物理の教科書や参考書
の中に、初歩的なロケットに関する問題が載っていました。今回は、その中の
いくつかの問題を題材にしてみます。ただ転載するだけでなく、《問題》ごと
に、意味が感覚的につかめるように具体的に数値を与えて《解答》し、さらに
理論的な話も少し交えて《解説》します。
《問題1》----------
ロケットを水平面から角θだけ斜め上方に初速度u m/s で打ち上げる。再び
地上に落下するまでの時間と、その時の水平到達距離を求めよ。また角θが
何度の時、水平到達距離が最大になるか。重力加速度を g [m/s^2] とする。
《解答1》
地上からの高さを h とすると、 h = u * sinθ * t - (1/2)g * t^2 から
h = 0 として、 0 = u * sinθ * t - (1/2)g * t^2, いま t ≠ 0 より
再び地上に落下するまでの時間は、 t = (2u * sinθ) / g となる。
その時の水平到達距離は、 s = u * cosθ * t
= (2 * u^2 * sinθ * cosθ) / g
= (u^2 * sin2θ) / g
水平距離が最大になるのは、sin2θ = 1 となる時、すなわち 2θ = 90度
つまり、θ = 45度 の時である。
《解説1》
この結果は、空気抵抗の無視できる時のものであるが、実際には空気の抵抗
のためにその結果からかなりそれる。空気抵抗があると、斜角θは45度より
少し小さい時に最大到達距離が得られる。陸上競技の円盤投げでは、約40度
くらいに投げるように心掛けるとよいようである。
《問題2》----------
加速度 5.0[m/s^2] で鉛直方向に上昇するロケットがある。ロケットの質量
は 1.0 [t] で推進剤の質量は無視できるものとする。 このロケットの推進
力はいくらか。ただし、重力加速度を g = 9.8 [m/s^2] とする。
《解答2》
ロケットの質量を m [kg]、上向き加速度を a [m/s^2]、推進力を F [N] と
してロケットの運動方程式を立てると、
ma = F - mg つまり、 F = m(a + g)
この式に、m = 1.0 [t] = 1.0 * 10^3 [kg], a = 5.0 [m/s^2],
g = 9.8 [m/s^2] を代入すると、
F = 1.0 * 10^3 * (5.0 + 9.8) = 14.8 * 10^3 [N]
= 14.8 * 10^3 / 9.8 [kg wt] = 1.5 * 10^3 [kg wt]
《解説2》
力と運動の問題では、運動方程式を立てることが必要である。ロケットには
上向きの方向の推進力の他に、逆方向に重力が働いていることに注意する。
ここでは推進剤の質量を無視できるとしたが、実際にはロケットに大きな推
進力を与えるために、ロケットの全質量の90%ほどが推進剤となる。推進剤
とは燃料と酸化剤を合わせたものをいう。従って、空気のない宇宙空間でも
加速できるのである。
《問題3》----------
速さ 5.0[km/s] の全質量 100 [t] のロケットから、質量 20 [t] の燃料が
後方へ地上から見た速さ 1.0[km/s] で噴射した。ロケットの速さは何[km/s]
になったか。
《解答3》
一般にロケットの質量 M [kg]、速さ V [m/s]、そして燃料の質量 m [kg]、
速さ v [m/s] として、燃料噴射後のロケットの速さを V' [m/s] とすると
運動量の保存則から、
MV = (M - m)V' - mv これを V'について解いて、
V' = (MV + mv) / (M - m)
= (100 * 10^3 * 5.0 * 10^3 + 20 * 10^3 * 1.0 * 10^3) /
(100 * 10^3 - 20 * 10^3)
= 6.5 * 10^3 [m/s] = 6.5 [km/s]
《解説3》
物体の質量と速度の積を、物体の「運動量」という。いくつかの物体が内力
を及ぼしあうだけで、外力を受けていない時、全体の運動量は変化しない。
これを「運動量保存則」という。
《問題4》----------
地表に沿って地球を回る人工衛星(ロケット)の速度および周期を求めよ。
ただし、地球の半径を R = 6380 [km] = 6.38 * 10^6 [m] とする。
《解答4》
向心力 = 重力 となるような水平速度V を与えればよい。したがって、
m * (V^2/R) = mg つまり、 V = sqrt (Rg)
= sqrt (6.38 * 10^6 * 9.8 )
= 7.91 * 10^3 [m/s]
= 7.91 [km/s]
周期は、
T = 2πR/V = 2 * 3.14 * 6.38 * 10^6 / (7.91 * 10^3)
= 5070 [s] = 約1時間24分30秒
《解説4》
等速円運動をしている物体の円の中心に向かう力を向心力という。運動方
程式から 力 = 質量 * 加速度 (加速度の方向は円の中心) であるから、
F = m * (V^2/R) となる。 周期を T とすると、 T = 2πR/V である。
この速度 7.91 [km/s] を「第1宇宙速度」という。
《問題5》----------
地上 1000 [km] の高さの円軌道を回る人工衛星の速度および周期を求めよ。
《解答5》
向心力 = 万有引力 となるような水平速度 V を与えればよい。したがって、
地球の質量を M、人工衛星の質量を m、そして万有引力定数を G とすると
m * (V^2 / (R + h)) = G * (Mm / (R + h)^2) だから、
V = sqrt (GM / (R + h)) となり、さらに GM = g * R^2 を代入すると
V = sqrt (g * R^2 / (R + h))
= sqrt (9.8 * (6.38 * 10^6)^2 / (6.38 * 10^6 + 10^6))
= 7.35 * 10^3 [m/s] = 7.35 [km/s]
周期は、
T = 2π(R + h) / V = 2π * sqrt ((R + h)^3 / (g * R^2))
= 6.28 * sqrt ((6.38 * 10^6 + 10^6)^3 / (9.8 * (6.38 * 10^6)^2)
= 6300 [s] = 約1時間45分
《解説5》
[万有引力の法則]
二つの物体の間に働く万有引力(F) は、それらの質量(M, m)の積に比例し
二物体間の距離(r) の二乗に反比例する。 つまり、
F = G * (Mm/r^2) ここで、G = 6.673 * 10^(-11) [m^3/(kg・s^2]
[地球の重力との関係]
地表上を回る人工衛星で考えると、万有引力は重力とほぼ等しいから、
mg = G * (Mm/R^2) から、GM = g * R^2 となる。
同様に、地上 h における重量加速度を g' とすると、
mg' = G * (Mm/(R + h)^2) から、GM = g' * (R + h)^2 となり、
g' = g * (R/(R + h))^2 という関係式が得られる。
《問題6》----------
赤道を含む平面内に人工衛星を打ち上げ、これを赤道上の1地点で観測した
ところ、衛星は鉛直上方一定距離の所に止まっていた。この地点から、衛星
までの距離を求めよ。
《解答6》
地球自転の角速度を ω [rad/s]、そして 赤道からこの衛星までの高さを
h [m]、衛星の質量を m [kg] とする。全問と同様に、向心力 = 万有引力
として、
m * (V^2 / (R + h)) = G * (Mm / (R + h)^2)
V = rω = (R + h)ω を左辺に、GM = g * R^2 を右辺に代入すると、
(R + h) * ω^2 = g * (R / (R + h))^2 したがって、
(R + h)^3 = (g * R^2) /ω^2 よって、 (R + h)^3 = g * R^2 /ω^2
h = [g * R^2 /ω^2]^(1/3) - R となる。
この式に g = 9.8 [m/s^2], R = 6.38 * 10^6 [m]
ω = (2π) / ( 24 * 60 * 60) [rad/s] を代入する。
単位は、 [(m/s^2) * (m^2) / (1/(s^2))]^(1/3) = [m^3]^(1/3) = [m]
h = [9.8 * (6.38 * 10^6)^2 / ((2 * 3.14) / (24 * 3600))^2]^(1/3)−
6.38 * 10^6
= ([9.8 * (6.38)^2 * (24*36)^2 / (62.8)^2)]^(1/3) - 6.38) * 10^6
= ([75505]^(1/3) - 6.38) * 10^6
= (42.27 - 6.38) * 10^6
= 35.9 * 10^6 [m] = 約3万5900 [km]
《解説6》
これが、いわゆる静止衛星とよばれ、気象衛星や通信衛星・放送衛星などに
広く使われている。
《問題7》----------
人工衛星が上空に向けて打ち出される時、地球の重力の及ばない所へ脱出す
る時の最小の発射初速度を求めよ。
《解答7》
地球の質量を M、半径を R とする。さらに、地球上で V の速度をもつ質量
m の物体が地球の中心から r だけ離れた点に来た時の速度を v とする。
力学的エネルギー保存の法則から、 G = 万有引力定数 として
(1/2)mV^2 - G * Mm/R = (1/2)mv^2 - G * Mm/r = E (一定)
r が大きくなると、負の位置エネルギー −G * Mm/r は増加しながら 0 に
近づき、この時 正の運動エネルギー (1/2)mv^2 は減少する。脱出すると
いうことは、 r → ∞ の時 E≧0 ということである。従って、地球から
脱出できるためには、地表において {(1/2)mV^2 - G * Mm/R} ≧ 0 でなけ
ればならない。
その最小の発射速度を改めて V とおくと、 {(1/2)mV^2 - G * Mm/R} = 0
であるから、 V = sqrt (2GM / R) となる。 GM = g * R^2 を代入して、
V = sqrt (2gR) = sqrt (2 * 9.8 * 6.38 * 10^6)
= 11.18 * 10^3 [m/s] = 11.18 [km/s]
《解説7》
この時、衛星は地球を脱出して太陽の周りを回る軌道に乗る。この発射速度
11.18 [km/s] を「第2宇宙速度」という。さらに速度を上げ、16.65 [km/s]
以上で地球の公転方向へ打ち上げると、太陽の重力も振り切って、太陽系の
外の宇宙に向かって進んでいく。この速度 16.65 [km/s] を「第3宇宙速度」
という。
【参考文献】--------
高等学校 物理TB, 物理U (数研出版)
チャート式 新物理 (数研出版)
スペースガイド 2000 (丸善)
宇宙開発事業団
的川康宣・毛利衛 監修
【地球の楕円体近似とロケットの運動】
http://www.asahi-net.or.jp/~ei7m-wkt/numbr689.htm
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