"デジタル時代の鷲の目"

テッサーとKiss Digital N



-  Eagle eye  -

今ではツァイスレンズといえばプラナーと答える人も多いと思いますが、戦前のある時期にはツァイスレンズといえばテッサーという時代がありました。シンプルで性能の良いテッサーは「あなたのカメラの鷲の目」(Eagle eye of your camera)という力強いキャッチコピーとともに時代を風靡し、日本でも写真館でステータスシンボルだった「ポートレート・テッサー(F4.5テッサーの愛称)」を始めさまざまな種類が作られました。
("Eagle eye"には「鋭い目」という意味があります)

これにはテッサーを発明者のルドルフから受け継いで明るく発展させていったエルンスト・ヴァンダースレブ博士の貢献があります。そうしてテッサーは103年前にF6.3ではじまり戦前の旧コンタックス時代にすでにF2.8まで明るくなりますが、この辺がこのタイプの限界であり現代でもF2.8が普通です。
このように単純が故に明るさに限界はあるが、単純が故に描写が鮮明というのがテッサーの特徴です。そのために高級レンズの代名詞も大型カメラ時代のテッサーからレンジファインダー時代のゾナーへ、そしてさらに一眼レフ時代にプラナーへと移ってきました。
その長い時の移り変わりとともにテッサーが結ぶ像は乾板の上からフィルムへ、そしてさらにデジタルのCCD/CMOSへと 変わりました。デジタル時代に鷲の目はどう見えるのでしょうか?

ここではヤシコンのTessar T*45mm/F2.8をYCアダプターでKissDigital Nに装着して使いました。テッサーはモノクロのトーンがきれいなレンズと良く言われますが、ここでも主にモノクロスナップで使いました。

 
     

 

-  Finding Tessar  -

ヤシコンのテッサーは探してみるといくつかタイプがあります。ひとつは最近できた100周年の記念モデルで、これは相場3万5千円くらいでした。質感は悪くありませんが、クロのKissDNとあわせるのを前提だったのでシロのレンズはパスしました。
もうひとつは通常品でだいたい1万8千前後です。これもいくつかタイプがありますが、少しこだわってここは初期のパンフォーカス指標(緑の三角マーク)がついているものを探しました。これはAEJの時代のものです。
APSサイズでは指標がずれるかもしれませんが、初期はやはりスナップレンズとして考えられていたことをうかがわせます。

KissDNはEF-S対応のスイングバック式ミラーのゆえか、アダプタ経由でも当たらずに問題なく装着できるレンズが多いのが魅力のひとつです。テッサーも特に問題なく装着できました。

 

 


 
 

-  Tessar in Action  -

小さいKissDNにつけた小さなテッサーのパッケージは驚くほどですが、KissDNもそれほど質感が悪くないので妙にマッチしてデザイン的な一体感があります。小型軽量のテッサーは一種のパンケーキレンズとして使うことができます。つまりボディキャップ代わりにつけっ放しで使えるということです。これはEFレンズにないものなので価値があります。

デジタルでもAPSサイズならばそこそこボケるので、一段でも明るい単焦点レンズは暗いズームよりは表現的に有利です。わたしはボケとピントのよさがうまく調和するF4付近をよく使います。
パンケーキというとこれ一本でお散歩したいものですが、テッサーは45mm x 1.6で約70mm相当ということでやや長めではありますが、画角に慣れてしまえば少しタイトな標準レンズと考えることもできます。50mmに比べるともともと5mm短いというのが良かったようです。
単焦点一本というと迷いがないのでかえって集中できる、という面白さもあります。
 

ピントを合わせる時にはちいさいKissDNを包むようにホールディングする指に自然にかかるような位置にピントリングがあるので使いやすいと思います。ただし絞りに関しては絞り環がまわしにくい感じがします。
難点はやはりピントが見づらいことで、これはファインダーの切れが悪いのではなくファインダーの小ささ(狭さ)が問題だと思います。ファインダーが明るいので少し救われますが、暗いところで撮ると特にあわせにくさを感じます。
ピントに関してはテッサーには焦点移動の問題がよく言われます。ただしそれは開放であわせたピントが絞り込んだときにずれるという問題ですから開放測光やプリセット絞りでは問題になりますが、はじめから実絞りで使うアダプターでは問題になることは少ないと思います。
露出はAvモードでもどうしてもずれるので、アダプタを使う時は基本的にマニュアルでやります。
 

カラーはこの頃のレンズ(AEJ)なのでやや黄味がかっているようにも思えます。いずれにせよこのくらいは色再現に違いがないとデジタルでは差が出ないと思いますので「味のうち」と考えた方が良さそうです。
ボケはスムーズで全体に美しい画像になりますが、ややボケの輪郭が荒いときがあります。シャープネスは悪くはないですが、最高というわけではありません。ただしモノクロならテッサーといわれる抜けのよさはデジタルのモノクロモードでもよく伝わります。

このように全体にEFよりもきれいめの画像が得られることはヤシコンらしい長所といえるかもしれません。
デジタルになってからはレンズの性能差はともかく味(個性)の差は出にくいという感じがしますが、長い時代を生き抜いてきたテッサーはデジタル時代でもシンプルがゆえに現代のレンズとはまた違った個性を見せてくれるような気がします。

     
 

-  Flight of the Tessar  -

カールツァイスの広報誌のINNOVATION 12号に面白い記事が載ってました。
さきに書いたエルンスト・ヴァンダースレブ博士は航空の黎明時代の気球乗りでもあり、自らが開発したテッサーで数多くの空撮をしていたようです。実際にINNOVATIONの紙面に載っている当時のテッサーで撮られたほぼ100年前の空撮写真は信じられないくらいシャープでかつ歪曲もありません。
のちに空撮用だったビオゴンが人気を得たように、空撮レンズには平面性と歪曲のなさというシビアな命題が課せられます。
ツァイスの誇るテッサーはビオゴンのはるか以前にそれを達成していました。

ヴァンダースレブ博士のカメラはミニマム・パルモスというクラップカメラのような手持ち可能の乾板カメラのようです。他にも多くの種類を使ったと思われますが、空撮によって アポ・テッサーのテストをしたり、ライバルメーカーのレンズとテストをしたりしたともあります。記事には彼の書いた昔のパイロットの飛行ログブックも記載されていました。

もしかすると「あなたのカメラの鷲の目」というあのキャッチコピーは自らも空を飛ぶ男だったヴァンダースレブ自身がテッサーで空撮をしながら思いついたのではないでしょうか?...


わずか4枚のレンズの中にそうした物語が見えてくる奥の深さが、長い年月を経て色あせないテッサーの魅力なのかもしれません。

 


 

 

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