植物雑記
       vol.5   サボテン科・属別解説 4
                    「C」      
                
'06年11月27日                

 


<クレイストカクタス属 Cleistocactus>

 ペルー、ボリビア、ブラジル西部など南米にひろく分布する柱状のサボテンで、多くは細長く育ち、肉質が軟らかいため倒伏して育つものもあります。柔らかな白刺を密生させるもの、黄金色の刺で飾られたもの、また鋭い刺で武装するものなど、刺姿は大変バラエティに富んでいます。しかしこの属の最大の特徴はハミングバード(ハチドリ)によって授粉される花にあります。この鳥が好む鮮赤色で独特の形態進化を遂げた細長い花は大変魅力的です。このため欧米では古くから多数栽培されており、日本でもかつては普及していたのですが、最近はほとんど流通していないようです。柱サボテンは、栽培家には敬遠されがちですが、あまり大型にならず花付きのよいこのグループはもっと顧みられても良いと思います。
            
   
Cleistocactus fieldianus KK1600     Cleistocactus strausii (M82)

 またこの属は極めて多くの種を包含しており、かつて別属とされていた、ブリグハミア属(Blighamia)、ボリビケレウス属(Bolivicereus)、ロクサントケレウス属(Loxabthocereus)、セティケレウス属(Seticereus)、アケルシア属(Akersia)等もクレイストカクタスに統合されています。また玉型サボテンとして栽培されるマツカナ属(Matzucana…同様のハチドリ媒花をつける)にも近縁で、かつてこのマツカナの異名であったボルジカクタス属(Borzicactus)の一部の種もクレイストカクタス属に含まれます。…とまあ、ここまで読んでいて面倒臭くなった方も多いかと思いますが、まさにこの種類が多くて分類が混乱していることが、国内での人気薄の原因でもあろうと思います。実際、それぞれの種の特徴もぱっと見では判りにくいものが多く、結局は産地ごと仮に分類し、後の塩基配列解析(誰かがやればですが)をまって、きちんとした種名をつけるしかないと言うところでしょう。、
 栽培は概ね容易で、実生から数年〜十年程度、温室で栽培可能なサイズで開花に達するものが多く、花付きもよく観賞植物として優れており、植物園などではしばしば植栽されています。大半の種は高温でやや多湿な環境を好みますが、寒さにも比較的耐え、弱酸性の用土で成長期(春−秋)に十分な水を与えれば順調に生育します。有名なものでは、美しい白刺が密生する白閃(C.strausi)やこれに似て赤味のある刺色のC.tupizensisなどは温室景観に一本あると素敵なサボテンです。また、金刺を密生してそこから赤花を多開させる人気種、ボリビケレウス・サマイパタヌス(Bolivicereus=Cleistocactus samaipatanus)は時にホームセンターなどでも見かけます。欧米では人気種ゆえ、輸入種子はいろいろ出回っているので、産地データのあるものをいくつか入手して、どんなサボテンに育つか楽しみに蒔く、というのも良いかと思います。

         
      
C.baumanii in habitat       C.hyalacanthus in habitat


<コケミエア属 Cochemiea → Mammillaria>

<コレオエケファロケレウス属 Coleocephalocereus>

 ブラジル原産の大変特色あるサボテンです。いわゆる柱サボテンの仲間ですが、トルコ帽状の花座を有するメロカクタス属にもっとも近縁の属とされます。この属の花座は偽花座(lateral cephalium=cephalia)とも呼ばれることがあり、メロカクタスの花座のように頂部に生じて永続的に伸長していくものではなく、球体の側面に出来るため花座出現後も多くは球体が成長します。花は白色の夜咲き花で目立ちませんが、花座はカラフルで美しいものが多いため、栽培植物としても優れています。
 日本ではブイニンギア属(Buiningia)として流通することが多く、業者のリストでも時折見かけます。柱サボテンなので2-3mの高さになるものもありますが、栽培種としてはB.aureusB.purpureus などが小型で、花座がより上の方から出るためメロカクタスに近い姿となり人気があります。aureusは金色の偽花座をつけるとても美しい種です。また種によっては、花座が側面から生じたあと球体が引き攣れたように歪曲しながら育つものがあり、これもまた不思議な姿です。
 自生地はがディスコカクタスやメロカクタスと同じブラジル東岸で、痩せた酸性土に生えているものが多数です。ピートモスなどを混ぜた用土に植え、日照の良い場所で高温多湿に育てれば難しい種ではないと思います。入手は難しいほうですが、海外の業者に種子が出ることがあります。珍品なので割と高価です。


<コンソレア属 Consolea → Opuntia>

<コピアポア属 Copiapoa>

 泣く子も黙る南米サボテンの王様。古今東西つねに最高の人気種です。なかでも風雨に晒された頭蓋骨を思わせる真白い球体を、真黒な刺で武装した黒王丸(C.cinerea)とその一群は、およそ生きものと思えぬ風格で私たちを惹き付けてやみません。これらは数メートルにも及ぶ大群生となり一木一草はえぬアタカマの荒野で偉容を誇っていますが、一方ではラウィ (C.laui) のように僅か数センチの小さな球体を地中に埋めて生きる種もあります。しかしその形態差の幅広さに対して遺伝的にはどれも大変近縁であり、他のサボテンと隔絶されたアタカマ沙漠で共通の祖先種から独立して進化を遂げたグループと考えられています。実際、コピアポア属は同じ種でも個体差が大きく野生の自然交雑個体が数多く見られるなど、種と種がボーダーレスにつながっており、いわば種分化の途上にあるグループとも言えます。このあたりは、Rudolf Schulz 氏の著作「Copiapoa in their environment」とその続編「Copiapa2006]に詳述されており、大変興味深いところです。

    
  
自生地の黒王丸群落 Copiapoa cinerea at E of Taltal    R.シュルツ著「コピアポア2006」

 さてこのコピアポア属のサボテンにはいくつかの「謎」が存在しますが、その代表的なものが海から生じる「霧」を吸って生きているというもの。というのも、コポアポア属の故郷、南米チリのアタカマ沙漠は、地上で最も雨が降らない場所…まったくといっていいほど降雨のない地域なのです。チリは南北に細長い国ですが、アタカマは西岸の太平洋と東のアンデス山脈に挟まれた細長い帯条の沙漠で、場所にもよりますが雨は降っても年間数ミリ〜十数ミリ、何年もまったく降らないことも珍しくありません。およそ植物の生存を支えるだけの雨水は期待できない沙漠です。アタカマは緯度的には南回帰線付近(通常は亜熱帯〜熱帯となる)に位置しますが、沿岸に近接して北上する寒流(冷たい海流)の影響を受け、一年を通じて比較的冷涼な気候となります。標高にもよりますが、夏の最高気温でも摂氏30度を越えることはあまりなく、冬も10度以下に下がることは稀という平板な温度環境ですが、海に近いため沙漠でありながら湿度は高いのです。しかし海からの湿った空気は、気温が低く上昇気流が発生しないため雨を降らせないまま内陸へ通り抜けてゆきます。このとき、雨にはならないものの、一定の標高では恒常的に霧が発生します。つまりコピアポアたちは、昼夜夏冬の温度差がほかの沙漠よりも少なく冷涼多湿で、しかも雨がまったく降らないかわりにしばしば霧に包まれるという大変特異な環境に生きているのです。また、霧の発生は季節的にはやや温度の下がる秋〜春に多いという報告もありますが、これらはむしろ海流の蛇行の影響がより大きいかも知れません。ちなみに、有名なエルニーニョ現象(寒流が蛇行して一時的に海岸から離れる)はこの地域に雨をもたらし、いっとき沙漠をお花畑に変えることでも知られていますが、そのような大雨がアタカマ全体に降ることはまずありません。

  
標高1400mから見下ろすアタカマ沙漠。左右の写真はほぼ同じ場所で撮影されたもので、白の↓は同じ山です。右の写真は朝で、霧が谷あいを覆っていることがよくわかります。標高300-800mの範囲がfog zoneと呼ばれる霧の濃い標高帯で、ここには健康なコピアポアが多く見られるとのこと。
(写真提供:Juan Pablo ) 
 

 では、そんな雨が降らない地平で、コピアポアはどうやって生きるのか。黒王丸はじめ、コピアポアの大型種の多くは球体表皮に蝋質をかぶり、骨のように白く見えます。そのこともあって、彼らは球体(表皮)から水を吸って生きているのだと考えられるようになり、過去の書物などには確定的事実のように書いているものもあります。たしかに、アタカマにはチランジアや地衣類など、大気中の水分を根ではなく表皮から吸って生きる植物が多くあります。霧を吸っていきるサボテンというのもなかなか浪漫がありますが、現在はそれに対しては否定的な見方が大勢です。前述のSchulz氏は、野生個体群の入念な定点観測によって、表皮や刺からの吸水は確認出来ないと指摘したうえで、おそらく霧はコピアポアにとって、高温による蒸散から植物体を守るくらいしか役立っていないだろうと述べています。さらに、濃い霧がかかる標高帯は他の植物との競合が厳しいため、かえってコピアポアの数が少ないことも明らかにしています。また、表皮の白い蝋質は結露しやすくする為という説もありますが、これも実際に目で見て結露を確認出来なかったと述べています。一方、チリ在住の研究家Juan Pablo氏は、コピアポアは根を地表面すれすれに浅く広く張りめぐらせ、この根で夜間の結露や朝方の霧が地表を微かに湿らせた水分を吸収しているのではないかと言います。Schulz氏はこれにも否定的で、コピアポアが沢山生えている標高帯の霧は、地表を十分湿らすにも十分ではなく、彼らはごく稀に(時には数年に一度)降る雨だけを頼りに育つのはないかと推察しています。いずれにせよコピアポアが他のサボテン同様、主に根から水を吸っていることは間違いなさそうです。仮に、コピアポアが生存するうえで霧や夜露の水分に相当程度依存しているとしても、それだけでは発芽や成長に不十分であることは間違いなさそうです。野生株の定点観測で、雨がふらなければ何年間もまったく成長しないことが明らかになり、あまりに長年雨を見ない地域では個体群が死滅しつつあるそうです。数年に一度くらい降る僅かな雨を待って、成長したり発芽したりするのでしょう。野生株の成長には大変な時間がかかり、10センチ足らずの株でも数十年は経過していると考えられます。Schulz氏の「COPIAPOA2006」に興味深い写真が載っています。これは約40年前に撮影された黒王丸を、いま再び現地で探し出して撮影し、新旧二葉の写真を比較しているもの。驚くべきことに、40年の時を経てその黒王丸は殆んど成長していないのです。せいぜい、径10センチの株が11センチになったという程度。また別の個体を約10年の間隔をあけて撮影した写真では、まったく成長の形跡が見られないかわりに、肌の蝋質の白さ(いわゆるコピの白肌)だけが増していることがわかります。10年間、新刺のひとつもあげず、じっと沙漠に蹲って肌の白さだけを増していく…人生の間尺からすれば、なんとも超越した生き様に感嘆するほかありません。

  左写真は自生地の黒王丸(C.cinerea)で、右写真は実生苗の黒王丸(7年生)。これは実生のなかでは白くなっている個体だが、野生株の比ではない。もしここで灌水を止めて10年待てば真っ白になるのだろうか…。(左の写真提供:Juan Pablo )

 さて、そんなことを勘案すると、栽培下のコピアポアの性質も少しずつ読み解けてきます。なぜ秋から冬に育つのか、強壮に見えるのにあんなにも日焼けしやすいのか。彼らはその故郷で真夏のような暑さに長時間晒されることは少なく、比較的穏やかな温度の幾分湿った空気のなかに生活しているのです。また、自生地の土質は有機質が1%以下と極端に少ない一方で、窒素分は比較的豊富な地域が多く、pHは5〜8の間とほぼ中性です。海岸沙漠ゆえ、塩分含有が多いという想像もありますが、実際には波に洗われるような極く一部のコロニーを除いて塩分は平均的な沙漠と同様です。少なくとも化学的組成に限れば一般的なサボテン栽培用土でさほど問題はなさそうです。そこで育成のポイントは成長期の把握(温度管理)と、灌水(湿度管理)ということになります。成長期についていえば極寒酷暑の時期を除く、比較的温度変化が穏やかな季節によく動くように思えます。東京近郊の拙宅では秋から春にかけて断続的に新刺が出、花が咲きます。水やりについては、例えばチリ植物の著名な研究者 Fred Kattermann は、コピアポアとエリオシケを夜間の霧吹きだけで順調に育てています。根が横広がりにならない鉢栽培では自生地同様の環境は作りがたいですが、これもひとつの方法かも知れません。輸入された原地球などは、ちょっと灌水するだけで徒長して頭が尖ることがある一方、鉢に植えて一度も水をやらないままでもちゃんと発根し何年も元気で花をつけます。そんな姿を見るとやはり表皮からも幾分は吸水するのではないか、などと思えてきたりもします。一方、実生苗は水が好きで、じゃぶじゃぶ灌水しても根腐れすることはあまりなく、肉質の硬い黒王丸などの種もそこそこ育ってくれます。しかし、丈が上に伸びると見苦しい姿になりやすいので、黒王などはじっくり育てるにこしたことはありません。また、実生苗は表皮が白くならず緑色のまま育つ、という傾向があります。とくに成長を急いだ苗は顕著に「青リンゴ」のような姿になります。原因として日射が弱いことをあげる栽培家(Graham Charles)もおり、英国の実生苗よりも、米・カリフォルニアの実生苗の方が白いことを理由にあげていて、なるほど説得力があります。自生地では、直径2-3センチほどに育つと既に白い蝋質で表皮が覆われるといいますが、このくらいのサイズでも実は10年以上経っていると考えられます。前述のSchulz氏は、蝋質の分泌には年月、すなわち成長速度の遅さが必要だと述べています。私の経験でも、接続面がズレて成長の止まった黒王丸の接ぎ木苗が、サイズ的には育たないまま年々白くなるという経験をしました。こちらもおそらく真実でしょう。そんなわけで、野生株のようにガッシリ丈低く真っ白な黒王丸を育てようと、水やり年1回であとは霧吹きのみ、という栽培にチャレンジしていますが、それでも結構育ってしまうところが難しい。これについては侃々諤々の議論もありそうです。これはという仮説や栽培法があれば是非ともお聞かせ下さい。
 
 
左:孤竜丸綴化(C.cinerea ssp.columna-alba)) 右:ラウイ(C.laui)…写真の左側、沢山の小さな球体が地面に埋っている。ちなみに右側の大きなサボテンはErisyce napina
 
写真はいずれも自生地
(写真提供:Juan Pablo )
 
 
 ここまで黒王丸の話ばかりになってしまいましたが、このグループにも色々な種があります。ざっと紹介すると、多稜で刺が密な有名な美種、孤竜丸(ssp.columna-alba)や大群生する黒士冠(ssp.dealbata)、刺が白い剛毛に変化した稀翁玉(ssp.krainziana)、さらに飴色刺の逆鱗玉(C.haseltoniana)や大型のギガンティア(C.gigantea)、など、いずれも大きく育ち、硬質の白肌が偉容を醸し出すサボテンです。またアタカメンシス(C.atacamensis)や、白肌はないですが強壮な刺の稀品ソラリス(C.solaris)、エキノイデス(C.echinoides)。巨大な塊根を誇るメガリッツァ(C.megarhiza)や、多稜に細刺が密生するセルペンティスルカータ(C.serpentisulcata)などなど魅力的な品種が目白押しです。あまり有り難がられないコキンバナ(C.coquinbana)のグループも野生株の写真を見ると、頭がクラクラするほど素晴らしいタイプがたくさんあり、栽培する甲斐は十分ありそうです。こうしたコピアポアの色々な種類は、Schulzの新著「Copiapoa2006」に多数掲載されており、この本は一見の価値があります。また、コピアポアには小型で、球体の肉質の軟らかい種のグループもあって、いずれも地上部より巨大な塊根を持っています。地上部の大きさが最大でも径2cmほどまでしか育たないラウィ(C.laui)を筆頭に、ヒポガエアとその変種(C.hypogaea and ssp.)、またフミリスとその変種(humilis and ssp.)など、いずれも栽培容易で花付きもよい魅力的な種があります。これら肉質の軟らかい小型種は、丈夫さゆえ水をやり過ぎてしまうと徒長して本来の姿を失うので、極力ストイックに、地面に埋まるくらい扁平に育てたいものです。また、コピアポアの各種はエリオシケなどと同様、ときにホウ素欠乏障害(成長点が褐変し成長が止まる)が現れることがあるので、こうした場合は適宜ホウ素を補うようにします。
 随分長くなってしまいましたが、この属についてはこれでも書きたらないような気もします。それだけ思い入れもあるのですが、種子から立派な大株を育てるには百年単位の時間が不可欠で、人の命の短さが儚くも思われる、そんな植物です。



<コリオカクタス属 Corryocactus>

 南米のペルー・チリ等に産する小型の柱サボテンで、径も細い。直立して株立ちになりますが、肉質が軟らかいため倒伏することもあります。かつてのErdisia属もこのコリオカクタスに統合されています。刺は特別太い訳ではありませんが、みっしり生えているものも多く、針状で手で触れるとなかなか痛い植物です。特徴がつかみづらく研究も遅れている属ですが、花は中〜大輪の漏斗上、黄色や鮮赤色などで美しいため、わりと栽培されているようです。また果実も甘くて瑞々しいため、現地では食用に供されることもあるそうです。
 栽培は春〜秋に成長させる標準的な育て方で良いと思われますが、アルカリの強い土だとホウ素欠乏などを起こしやすい。中〜弱酸性の土で、成長期は十分水を与えると早く大きくなります。耐寒性はふつうで、霜にはあてないほうが良い。
 主な種をあげると、割とガッシリした柱サボテンになるC.brevistylusは爽やかなレモンイエローの花をつけます。C.erecta は、かつてのエルディシア属(Erdisia)でコンパクトに育ちます。明るい赤花が美しい。C.melanotrichus は刺だらけの柱が蛇のようにうねる厄介なサボテンですが、オレンジ〜赤のロビビアのような美花を咲かせます。いずれも実生からよく育つので、種が手に入ったら蒔いてみても面白いかも知れません。
        
          
  Corryocactus melanotrichus 

<コリファンタ属 Coryphantha>

 アメリカ合衆国とメキシコに広く分布する大きな属で、象牙丸(C.elephantidens)や大祥冠(C.poselgeriana)、精美丸(C.werdermannii)などの有名種もあり、栽培家にはお馴染みのグループかと思います。そもそもマミラリア属(Mammillaria)の亜属とされていたこともあり、稜が独立した疣の形となることなどよく似ていますが、マミ属の花が球体側面の
疣腋(疣と疣の谷間)から咲くのに対し、コリファンタ属ではほぼ頂部の成長点付近から出雷します。また疣の上面には縦に溝があり、多くは羊毛で満たされています。はじめ単幹でのちに群生するものが多く、なかには径1メートルを超えてマット状に生育するものもあります。同様の特徴を持つエスコバリア属(Escobaria)もかつてはコリファンタに包含されていましたが、最近では種子や花の特徴から分けられています。見た感じ、栽培鑑賞上では別グループとするほうが違和感がないでしょう。

        
          
スキーリィ・ロブスティスピナ(自生地)         
          
C.scheeri ssp.robustispina Pima Co, AZ    

栽培は種類が多く自生範囲も広いだけに一概に語るのは難しいですが、大半の種は栽培容易です。中性〜弱アルカリ性の用土に植え、高温期に十分な灌水を行えば旺盛に成長します。人気のある象牙丸など大型で丸々育つ種類はことに丈夫で成長も早いものですが、成長期の最高温度は摂氏35度以上を好むため、露地などで高温が得られない環境では美しく育たないことが多いものです。またアカダニや貝殻虫などが着きやすいので、時折消毒してやると良いかと思います。この仲間で日本でグリーンウッディと呼ばれる豊満で美しいサボテンがありますが、学名通りの本物 "greenwoodi" とは明らかに別物です。おそらく栽培品は C.bumama 等の一型に誤って?つけられた愛称かと思われますが、オリジナルは野生種なのか園芸作出種なのか、興味深いところです。
 

左:クラシキィ(C.kracikii)KKR399 右:トリプギオナカンサC.tripugionacantha)PP1012
いずれも新しい種で、刺姿が大変魅力的なコリファンタ。 (写真提供:Y.matsuo)


ほかにも色々魅力的な種があり、より硬い肉質で太平丸にも似た味わいの大祥冠は、やや成長が遅いですが難しいものではありません。やたら水を与えても大きくならないので、やや渇き気味にじっくり育てます。さらに成長が遅いものとしては、精美丸烈刺丸(C.echinus)などの球体が見えないほど刺が密な種類がありますが、これらも10年20年かければ正木で立派な姿に育ってくれます。ただしあまりアルカリの強い土に植えると微量要素の欠乏障害をおこすことがあります。またアメリカ産で自生地でも絶滅に瀕しているため、あまり流通していませんが、スキーリー・ロブスティスピナ(C.scheeri ssp. robustispina)は、象牙丸のような大柄な疣を持ち属中もっとも太い刺で武装する大変魅力的なサボテンです。刺型にいろいろあり、カーブするものからカギ状になるものまでバラエティがあります。栽培はややデリケート。同じく刺の美しいものでは最近見出された種で、トリプギオナカンサ(C.tripugionacantha)、クラシキー(C.kracikii)など、これから人気種になりそうです。また、もともと別の属に扱われていたのに、近年統合されたものとして、大分丸(Lepidocoryphantha=C.macromeris)や薫大将(Cumarinia =C.odorata)があります。前者は肉質が極端に軟らかく、大群生する桃花種で、後者は小型でカギ刺をもつマミラリアっぽい味わいの種です。
 大属だけに、ここに挙げた以外にも多数の種があり、その形態や魅力も様々です。コリファンタだけでひとつのコレクションが出来ると思いますが、なぜか、兜だけ牡丹だけの栽培家はいても、コリファンタだけという人は見かけません。昔、平尾さんのシャボテン誌で「華麗なる脇役」という特集があり、たしかこのコリファンタ属からいくつかノミネートされていた記憶があります。園芸家に愛されるけれど、兜や牡丹のような人造美の極には至らない。そんな垢抜けしきらない野暮ったさのむこうには、いまなおメキシコの土埃の臭いがして、それがこの属の魅力のような気がします。



(次回へ続く)

               
            
                   

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