Sclerocactus glaucus   L.Benson 1966
                 スクレロカクタス・グラウカス
       
 コロラド州中〜北部をふるさととする、スクレロカクタスのなかでは最も北に分布する種です。学名どおり青みがかった肌色と、かぎ状にならない真っ直ぐな刺(特異個体として、稀に鉤のあるものも散見する)が特徴です。多くは川沿いの粘土質の平地に散らばって生えています。径5センチ〜9センチ、高さは5センチ〜30センチくらいまで。稜の数は8〜15くらいまでですが、稜の通った種が多いスクレロのなかでグラウカスは稜が疣状を呈するのが特徴です。個体によってはマミラリヤやコリファンタのような感じに見えます。花はピンク〜紫で径3〜4センチ、長さ5〜6センチ。清楚な感じのする美しいもので、多花性です。種としての形態変異の幅は広く、コロニーによっては小さく刺も短くまるで月想曲のような個体からなる場所、反対に大柄で強い刺を持つ個体からなる場所など様々なようです。一部のエリアでは.parviflorusと重なって分布しており、開花期は若干ずれているものの自然雑種が確認されています。

 分類のうえでは、ユタ州北部に分布するSclerocactus.wetlandicusをこのglaucusのなかに含めるかどうかをめぐって見解がわかれています。アメリカのスクレロカクタスの権威、Heil&Porterは、Bensonの見解を受け継ぐ形で両者は同一という立場です。wetlandicusはそもそもドイツのアマチュア研究者であるHochstatterが立てた種で、ユタ北部にあるそのコロニーはglaucusのそれとは生殖的にほぼ隔絶されていると見られていますが、形態的特徴にglaucusとの共通点が多いことは確かです。Hochstatterは、実生小苗の段階でglacusは刺に微毛を有するのに対しwetlandicusは微毛を持たない点を指摘していますが、これは私も栽培上で確認しました。私個人の見解は、両者は現時点で種分化の過程にある可能性があり、その多様性の保全に鑑みれば別種として独立に扱うことが望ましいと云うものです。なので、このページではわけて記載しました。

 スクレロカクタスのなかでも和名もなく認知度の低いサボテンですが、北方の比較的湿度がある地域に自生するためか、栽培はもっとも容易だといえます。ブルーグリーンの肌は美しく、環境が良いと栽培下では春と秋に二度開花します。古くから日本で無性繁殖されているスクレロカクタスに「月の輪殿」と云う植物がありますが、これにはglaucusと似ている点があり、glaucusの特定の特徴を持つ個体がこう名づけられたではないか、と思っていますが、詳しい導入の経緯などご存知の方がおられたらお教えください。このグラウカス、他のサボテン類がほとんど分布しないエリアに生えることもあって(蝦サボテンのEchinocereus.triglochiudiatus.くらい)自生地を実際に訪ねるのはなかなか難儀でした。数日を費やしてこれ一種だけを見る、ということになります。2002年につづいて2003年にも、このエリアを訪ねたので、いくつかのタイプ(顔)違いのコロニーの写真を追加掲載しました。



(写真か植物名をクリックすると詳細情報、画像があります)
Scl.glaucus ssp.glaucus
(Mesa Co. COLORADO) グラウカス
グランドジャンクションの町から南西に30キロほどのところのコロニー。川沿いの粘土質の平原です。典型的なタイプですが、小型で刺は弱めです。
Scl.glaucus ssp.glaucus
"Debeque form"
(Garfield Co. COLORADO) グラウカス
デベクフォームと呼ばれる大型に育つタイプでこの種のなかでは北に分布するコロニー。肌の青みが強く、刺も黒くて太いので園芸的には優れたタイプです。
Scl.glaucus ssp.glaucus
"Hooked spine form"

(Mesa Co. COLORADO) グラウカス
コロニーの半分以上がかぎ刺を持っているコロニーです。彩虹山とまぎらわしいですが、他の特徴はグラウカスに合致します。
Scl.glaucus ssp.glaucus
(Mesa Co. COLORADO) グラウカス
上のコロニーの南西に数十キロ離れたエリアですが、こちらは典型的なグラウカス。小苗から群生まで密度の高いコロニーでした。




                            
      
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