スクレロ・ペディオ栽培例  その4 開花
Sclero-Pedio in cultivation  vol.4  in blooming

スクレロカクタス、ペディオカクタス両属のサボテンは、花も大きく、その色のバリエーションも豊富です。成長期の春、鮮やかな新刺に包まれるように幾輪もの花を咲かせます。花の形は漏斗状〜カップ状で、細く伸び上がる花筒は鱗片を重ね、殆どの種では裸出し刺や毛がありません。花弁は薄く短命な花で、そのためか大輪でも清楚な印象を与えます。
 健康な株は栽培下でもよく花をつけますが、白紅山や彩虹山、月華玉の大型タイプなどは、直径7-8cmまで育たないと開花年齢に達しません。実生正木で栽培すると、ここまで育てるのはなかなか大変なことで、それだけに目標とする甲斐があります。また、天狼はそもそも花付きが悪いように感じます。反対にペディオのノウルトニィ、飛鳥、トウメヤの月の童子、またスクレロの黒虹山シュレセリィなどは実生3-5年で開花してくれます。昔は、月の童子や飛鳥は花が咲かない、とよく言われました。これはカキ子を接ぎ木する栄養繁殖を何度も重ねてきた株が多く流通していたためと思われます。実際、接ぎ木で売られている苗には、どうやっても咲いてくれない個体があります。余談ですが、こうした株はカキ子をしても発根せず、正木にならないことも多いものです。
 また、両属のサボテンは明確な休眠期を持つ植物で、晩秋〜春まで水を切ってやることで花芽形成が促進されるようです。多くの種は、春まだ早いうちに小さな蕾が顔を覗かせます(ペディオ属の種では、秋には既に出蕾するものもあります)。しかし、3-4月になり蕾が育ちはじめるまえに灌水すると、先に刺が伸び始めて蕾が落ちることもあります。このあたりは種やその産地、栽培環境にもよると思われるので一概に語ることは難しいところです。
 難物と言われるこれらのサボテンを、種から育てて花咲く大きさまで育てる試みは、なかなか野心的で、忍耐とともに創意工夫も求められる作業です。十余年先を待望しての実生ほど贅沢な道楽はありません。
 





白紅山
大型種なので、なかなか開花サイズに達してくれませんが、咲けば属中で最も大輪の艶やかな桃紫花。刺色もあいまって、炎熱に枯れるモハヴェ沙漠にあって目を射る鮮烈さです。

Sclerocactus polyancistrus SB1773
(San Bernardino Co, CA)
Biggest, and the most spiny species among the genus, also having the largest flower.
白虹ブセッキィ
白虹の亜種とされますが、アリゾナの極く限られた地域にのみ稀産する大変綺麗なスクレロ。国内での栽培開花例は少ないと思われますが、白虹にはない、清楚な白花を咲かせてくれました。精緻な麦色の刺もとても美しい。

Sclerocactus whipplei
ssp. busekii SB1086
(Coconino Co, AZ)
Very rare Sclero with neat white flower, known from only one locality in Arizona.
彩虹山(ユタ北部産)
ユタ中北部の川原で、小型でスレンダーなパルビを見つけました。荒々しさからは遠く、長い刺が女性的な個体でした。そのときの種からの実生苗です。球体に相応しい、淡い紫色の花を咲かせました。濃ピンクの柱頭がチャームポイントです

Sclerocactus glaucus
KY0213
(Grand Co, UT)
Slender form parv. from northern Utah with paler purple flower.
デスパイニィ
径15cmほどに育った群生株の開花です。実根ですが、元は接ぎ木苗をカットして発根させたもの。野生にはない園芸ならではの美しさではありますが、毎年この株が開花するたび、美しさに感嘆したものです。しかし、もともとが単頭で小型の植物ですからムリがあったのでしょうか、根おろしして、5年あまりで昇天しました。

Pediocactus despainii
SB989
(Emory Co, UT)
Huge clustering plant with own root, grown from cutting.
グラウカス(鈎刺タイプ)
育てやすく、小径でも花がよく咲くスクレロです。刺は強くありませんが、青味さす肌色に淡い桃色の花がとても映えます。写真ではわかりにくいのですが、これは鈎刺を持つ特異なコロニーの株で、一見パルビにも見えますが、花は典型的なグラウカスのようです。

Sclerocactus glaucus
KY0201
(Mesa Co, COL)
Their pretty pink flower stand out on bluish body. This plant has untypical hooked spine.
天狼
黄〜薄桃色の上品な花。花弁の外側にフリンジ状の毛がある点が、グループ中で特異な種ですが、これはエスコバリア属の北極丸などとよく似た特徴です。なかなか咲いてくれないうえに花数が少なく、咲いても晴れの日の正午前後に短時間しか全開しません。そのかわり数日間、開花し続けるようです。

Pediocactus sileri
SB473 (Mohave Co, AZ)
The most prominent cactus for
challenging grower, difficult to cultivate, hard to flower.
黒虹山ブライネィ(シュレセリ)
黒白の長く絡み合う刺、蝋細工のような質感の桃色の花。比較的丈夫で小径でよく開花することなど、園芸植物として最も優れたスクレロカクタスだと思います。刺や花色にはバラエティがあり、実生すると顔違いも楽しみな植物です。

Sclerocactus blainei
(=schleseri )
SB1015
(Lincoln Co, Nv)
The most suitable species for first experience of "difficult cacti".They are relatively easy to grow, easy to bloom.
ライティアエ
小型の稀品。花は極めて特異なもので、サボテンには珍しく強い芳香があります。花色は基本が白で、薄黄色、桃色もありますが、いずれも花糸(雄蕊の軸)が真っ赤に染まるため際だって美しい。特定の昆虫を惹きつけるための仕様なのかも知れません。パルビと月想曲の中間的な種と考えられており、植物体の特徴はとらえどころがないのですが、花の特徴は明らかです。

Sclerocactus wrightiae
KY9853
(Emery Co, UT)
Elegant white flower with characteristic red filament, giving off a sweet fragrance.
ナイエンシス
まだ国内では普及が進んでいませんが、白紅山を女性的にしたような小型種で、紅白の鈎刺が美しく、桃色の花もとても可憐です。ネヴァダ・ナイ郡の自生地周辺は全米最僻地とさえ云える地域で、核実験が行われるほど荒涼とした不毛の沙漠。灰色の岩山と平原、ほかに目につく植物もない無尽の荒野にひっそり生育しています。

Sclerocactus nyensis
DJF707.7
(Nye Co, NV)
They live in an out-of-the-way place near by US Nevada Test Site.

斑鳩
太く長い刺を持つコロニーの標本。5cmを越える素晴らしい長刺も見られますが、自生地で同じ場所に育つイネ科植物に擬態するためのもの。植物体は殆ど地中に没し、露出している刺束は雑草にしか見えません。栽培も容易、花つきも良いですが、成長は遅い。径2cmに育つまで5、6年かかります。

Pediocactus peeblesianus
ssp. fickeisenii
SB903
(Coconino Co, AZ)
Robust spine form with cream yellow flower from Houserock Valley, AZ.
クロベリアエ・ヘイリィ
特異な濃い紫紅色の花を咲かせるスクレロ(写真では十分出ていないのですが…)。彩虹山か白虹か、あるいは別種なのか、意見の分かれる植物です。ガッシリした低い球体、短く強い刺、そしてこの花。育てやすく、栽培植物としても魅力的です。

Sclerocactus.parviflorus
ssp. cloveriae "heilii"

KY9701(Rio Arriba Co, NM)
Small Sclero with conspicuous deep magenta flower. Good for cultivation.
月華玉(白花)
まるで花束のように群開する見事な白花に、毎年、目を奪われます。これで14輪ありました。月華玉には色々なタイプの刺、花色がありますが、これはネヴァダ東部の山地で樹林帯に生育するタイプ。雪の積もる軽井沢みたいな場所に生えている特異なサボテンです。刺のボサボサしたマミラリアみたいな植物体は、一見すると地味ですが、いっそ山草の類だと思って向き合うと、深い雅味を伝えてくれます。

Pediocactus simpsonii
RP20 (White Pine Co, NV)
Mountain form living under the woods at high elevation, showing their bunch of flowers every spring.



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