「ダルジール&パスコー」シリーズを知るための最短コース 2002/05/05
このシリーズには流れがありますから、基本的には第1作から読んでいただきたいところですが、「名高い『骨と沈黙』をさっさと読みたい」とか「とりあえずどんな感じか知りたい」という方のために、登場人物と作風の変遷を知るための必要最低限のラインナップをご紹介します。
1.『殺人のすすめ』
シリーズ第2作。デビュー作『社交好きの女』から入るのでもかまいませんが、後の重要レギュラー・エリーが初登場するので、『殺人のすすめ』にします。まだミステリとしても小説としても未成熟な感じはあり、デビュー後、ヒルが小説家として成長していくのがよくわかります。でも、テイストはすでに発揮されていますので味わってください。
2.『秘められた感情』 または 『四月の屍衣』
『秘められた感情』はパスコーが主人公、『四月の屍衣』はダルジールが主人公の作品。好みでどちらかを選んでください。パスコーファンのわたしには、パスコーが死体を発見し、取り調べを受ける『秘められた感情』は外せません。
婚約中のパスコーとエリーが、学生時代の友人たちと週末を過ごそうとコテージを訪ねると血塗れの死体。失踪した友人が犯人と疑われ……というのが『秘められた感情』です。(つまり婚前旅行かい、というのはともかく)この頃からパスコーは、タフな経験をさせられる運命のようです。
このあとふたりが結婚し、その結婚式の帰りにダルジールが巻き込まれる事件が『四月の屍衣』です。
3.『死にぎわの台詞』 *超最短なら飛ばしても可
ヒルの作品の特徴のひとつは、適度に社会性を取り入れていること。日本で翻訳されている作品でいえば、『死にぎわの台詞』が社会性が意識された最初の作品といえます。この作品のテーマは老人問題です。
でも実際には、これより前の"A Pinch of Snuff"で社会性を取り入れ始めているはず(しかもこの作品はウィールド初登場でもある)ですが、まだ翻訳されていません。ペーパーバックでは日本でも比較的入手しやすいので、英語で挑戦するなら"A Pinch of Snuff"がお薦め。
いずれにしてもこのあたりの作品で、このシリーズが「同じ登場人物が出てるからシリーズ」という以上の、厚みのある展開を見せていきつつあるのがわかるのです。
4.『子供の悪戯』
このシリーズの個性が強く出ているのが『子供の悪戯』です。人物描写、社会性、本格推理といった要素がそれぞれに重みと厚みを持ちつつ、ユーモアも忘れないヒルらしい作品。レベルは高く、これを代表作の一に押す人も多いです。
5.『骨と沈黙』
このシリーズの最初の頂点といえるのが『骨と沈黙』。ダルジールが主の事件(殺人?事件)、パスコーが主の事件(自殺志願の手紙)、ダルジールの聖劇出演と3つの話が独立して進みながら、最後に収斂してひとつの結末を迎えるのは見事。『子供の悪戯』でシリーズの作品の要素が完成したと見るならば、この作品で様式が完成したと言えます。
パスコーファンとしては、ラストシーンは動揺するほど感動しました。
さて、このあともシリーズは展開中です。その中でも、今後ヒルを語るのに外せないといえばこの2作でしょう:
6.『完璧な絵画』
とくに、ウィールドに惚れたぜ、という方に。シリーズ全体からいえば番外編的作品です。
7.『ベウラの頂』
ホネチン(『骨と沈黙』のことらしい)の次に来る本格大作といえばこちら。パスコーファンはとくに要注目な作品です。
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