「カラマーゾフ」創作ノート13

2014年1月

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01/01/水
正月。例年どおり次男一家が来てくれている。わが夫婦、次男夫婦、孫2人とおせちを前にシャンパンとサイダーで乾杯。近くの初生衣神社に初詣。あとはひたすら仕事をした。いまは第4章の終わり。この章は、それまでの流れを中断して、原典の最終章から始まって本篇の始まりまでのつなぎの部分を挿入。本当はここから書き始めてもいいのだが、それだと原典を読んでいない人はおもしろくないだろうから、この前に魅力的な導入部をつけて、いきなり話の中に引き込まれる仕掛けを作った。ただ原典がないとわかりにくいところもあるので、原典のダイジェストとエピローグの部分とそこからの展開をここに置く。5章はまた3章の続きということになる。ここで話の流れが途切れているので、書いている自分もこれでいいのかという感じになっている。導入部からの話の流れが途切れているのて書き手の気持はここで途切れている。しかし原典の最後の部分を読み返し、自分で書き換えたりもしたので、原典と本篇とのつながりがよくわかった。改めてこれから本篇を書き進むことの重みみたいなものも感じることになったし、ここに原典のダイジェストを置くことで、原典を読んでいない人も、読んだけれども大半を忘れてしまった人も、改めて『カラマーゾフの兄弟』とはどんな話だったかと再確認することになるだろう。手間はかかったが、省略することのできない手順だと思う。

01/02/木
孫たちとのんびり遊んでいる。この仕事場はわたしの子どもたちが小学生だったころから存在するので、古いものが保存されている。たとえばプーリーと呼ばれるコリント・ゲーム。木のボードに釘を打って作ったスマートボールのようなゲームだ。電気もコンピュータも使わないアナログなゲームだが、これを孫に見せると熱狂的に集中して遊んでいる。今年は無理だが、そのうち百人一首もできるようになるだろう。孫たちがミカン狩りに行ってくれた間、集中して仕事をする。第4章が完了した。引き続き5章に入る。ここから先はメモもないのでまったく新たな領域ということになるが、とにかくメモと入力を並行して先に進んでいきたい。

01/03/金
次男夫婦と下の孫が買い物に出かけたので、上の孫と湖まで散歩。孫は騒がしいのだが二人を分離しておくとおとなしい。5章をどんどん進めている。いよいよ兄ドミトリーの帰還ということになるのだが、その前にテロリズムの気配を漂わせておく。皇帝暗殺というのがこの作品の重要なテーマだからだ。ドストエフスキー研究家の多くが、続篇のテーマはこれだと考え、しかしドストエフスキーには書くことができなかったのではないかと考えている。ドストエフスキーの死の直後に皇帝暗殺は実現する。実際に実現するまでは、そんなことが起こるとは誰も考えなかったのではないか。ドストエフスキー自身も考えてはいなかっただろう。ドストエフスキーがもう少し長生きして、皇帝暗殺という事件が同時代に起こったということを体験してしまうと、逆に小説では書きにくいということもあるかもしれない。小説は預言の書でなくてはならない。現実のあと追いというのは、やりにくかったのではないか。確かに『罪と罰』でも『悪霊』でも現実の事件をモデルにはしているのだが、それは些細な殺人事件にすぎない。皇帝暗殺というような大事件をモデルにすることは、ドストエフスキーといえども困難だろうと、また世間もそれを許さなかったのではないか。ということで、ドストエフスキーが長生きして、このテーマでは続篇を書くことができなかったというのが、研究者たちの見解なのだが、百年以上たったわたしが勝手に書くのだから、このテーマで書くのは当然だ。皇帝暗殺だけでなく、その後にロシア革命が起こることも、わたしは知っている。だから登場人物に自由に未来を語らせることができる。『新釈悪霊』には中学生くらいのヴェーラ・フィグネル(実在の女性革命家)を登場させたのだが、今回のはソフィア・リヴォーヴナ・ペロフスカヤという、皇帝暗殺で処刑された女性革命家を登場させる。実はレーニンも登場させたいと思ったのだが、まだ子どもだ。子どもでもいいからどこかに登場させたい。夜中、次男一家が四日市に帰っていった。いつものことだが少し寂しく、少しほっとする。

01/04/土

休みが続くと曜日の感覚がなくなる。これから週末。久しぶりにザミョートフが登場した。このキャラクターはわたしの創作。『罪と罰』で主役に抜擢した。この人物が出てくると物語がどんどん動いていく。この仕事場の管理人をやってもらっている大工さん来て雑談。その間にもメモが進む。大工さんが帰ったあと志都呂イオンに行く。妻が買い物をしている間もメモ。ペンをもてば書ける状態。こうなればいくらでも書ける。会議中であろうとちょっとしたアキ時間でも、どんどん書けるようになる。文学の神さまなのかドストエフスキーの霊なのかわからないが、とにかくお筆先で文字が書ける状態。明日はフットボールの生中継があるので早めに寝る。あまり寝られず、夜中も小説のことを考える。さて、いよいよ明日からワイルドカードだ。ここに予想を書いておく。コルツ対チーフスはチーフスに期待。去年49ナーズにいて前半の連勝を推進しながら、後半はキャパニックの台頭が出番がなかったQBスミスは長いパスは投げられないが短いパスとランニングバックのチャールズへのパスで堅実に前進している。コルツのラックは、マニングを追い出してまで起用した逸材。接戦になるはず。コルツが勝つとそのマニングとの対決になるので見たい気もするが、チーフスを応援したい。セインツ対イーグルスはセインツだろう。ベンガルズ対チャージャーズはベンガルズ、パッカーズ対49ナーズは問題だが、49ナーズのファンなので勝ってほしい。復活したロジャーズのいるパッカーズの方が強そうなのだが。楽しみなワイルドカードだが、結局、シードチームがカンファレンス決勝に進むだろう。例外があるとすれば、ダルトンが爆発した時のベンガルズがペイトリオッツに勝つ可能性がある。それとワイルドカードでセインツが勝つと第1シードのシーホークスに当たるので49ナーズが第2シードのパンサーズと当たる。ここで49ナーズに勝ってほしいというのがわたしの願望。

01/05/日
早朝に起きてコルツ対チーフスを見る。とくに応援しているわけではないのだが、49ナーズから放出されたスミスにがんばってもらいたいと思っていた。一時は28点差をつけて圧勝ムードだったのに、終わってみれば1点差負け。やっぱりスミスには何か問題があったのか。ランニングバックのチャールズが開始早々に脳しんとうで、短いパスを通せなかったのが致命的だった。続くセインツ対イーグルスは仕事をしながら時々ネットで経過を確認する。残り3秒で1点差で負けていたので、1日に2回も応援している方が1点差負けになるのかと思ったが、その残り3秒にキックが決まってセインツの逆転勝ち。これでセインツが第1シードのシーホークスに当たることになった。さて明日は49ナーズ対パッカーズという気になる対戦があるが、東京へ移動しなければならないので、自宅に帰ってネットにつなぐまで結果はわからない。楽しみだ。四日市の次男が単身赴任地の鶴岡へ移動。心配していたのだが意外と早く到着したと連絡が入った。夜中か早朝に出発したのだろう。こちらは夕方に散歩。ふだん行かない湖からレイクサイドウェイの松林に行く道を歩く。昔、犬がいたころ、この道沿いの海岸で犬を泳がせた。泳ぐのが好きで、リードから離してやると嬉々として湖に飛び込み、遙か沖までまっすぐに泳いでいった。もうこのまま戻って来ないのではと不安になるほどだった。シベリアンハスキーで後頭部は黒い。その黒い頭がほとんど点にしか見えなくなったころに、この黒い点に模様が見えるようになる。ヤッコダコのようなハスキーの顔がこちらに向いているのだ。それを見るといつも、ほっと胸をなでおろす。夕陽が沈んだ薄暮の湖面を見ていると、波間に犬の頭が見えるような気がする。犬が亡くなったのは12年前で、元気で泳いでいたのはもっと前のことだが、つい昨日のことのように感じられる。

01/06/月
正午ごろ仕事場を出発。別荘地のゴミ置き場を回っていろいろな種類のゴミを捨てるだけで20分くらいかかった。午後5時少し前に到着。妻が車をリフトに載せている間に、20階のロビーにいるコンシェルジェから台車と荷物用エレベータのキーを借りて地下駐車場に戻る。去年まで住んでいた三宿の家だと自宅のガレージに車を入れて荷物を下ろせばそれでおしまいだったが、えらい手間がかかる。とにかく大量の荷物を台車で部屋に運び入れ、台車を戻して、自分の部屋にようやく戻って、パソコンをセット。ネットでフットボールの結果を見る。接戦が予想された49ナーズ対パッカーズは、49ナーズが勝っていた。同点から終了間際にでフィールドゴールで決勝点という辛勝だったが、相手QBロジャースをディフェンスがしっかり抑えたようだ。蟹工船みたいな鮭缶パッカーズは五大湖に接した寒冷地だが、自分で走るキャパニックでは適地でも負担はなかったのだろう。パスを多用するロジャースの方が寒さが応えたのではないか。さて、もう1つの試合は意外にも、上位2チームが負けて、自分も負けそうになっていて奇蹟敵に進出したチャージャーズがベンガルズに圧勝していた。どちらかというとベンガルズの方が好きなのだが、今回は昨日大逆転で調子の出ているコルツがブロンコスに当たらないようにチャージャーズにもう1回奇蹟を起こしてほしいと思っていた。これでビリのチャージャーズが第1シードのブロンコスに当たる。もう奇蹟は続かないだろうからブロンコスの圧勝だろう。コルツの勢いだとペイトリオッツに勝つのではないか。以上、フットボールファンでない人には何のことかわからないことばかり書いてしまった。ドストエフスキーに話を戻そう。第4章の原典とのつなぎの部分が終わり、第5章からはまた本篇のストーリーが展開していくのだが、いよいよアリョーシャがドミトリーと再会するシーンとなった。本篇の第1の山といっていい。もう1つの山はもちろん次兄のイワンと再会するシーン、黙狂のイワンが最初にしゃべるシーン、大審問官についての議論のシーンなど、次々に山場が来ることになるのだが、その前にドミトリーをじっくり描かないといけない。どちらかというとイワンとの対話の方が哲学的レベルが高くなるので、だからこそドミトリーとの対話に時間をかけたい。ドミトリーの方がドストエフスキー的人物だといってもいいだろう。ドミトリーをちゃんと書かないとドストエフスキーの臭いが作品からわいてこない。わたし自身は自分はイワン的だと思っているので、ここからしばらくは全身全霊をこめてドミトリーに寄り添って書いていきたい。これから半月くらいはドミトリーが憑依してもいいと思っている。学部長会議で激昂したり、ちょっと危ないかな。

01/07/火
今年初めての大学。1限の2年ゼミのあと能楽資料センターに寄ってから研究室に戻り、さまざまな仕事をする。学部長としての書類の作成など、それから学生の宿題をもって自宅に帰る。フットボールのビデオを見てから、イーブックジャパンの担当者と新年会。夜中に少し仕事。

01/08/水
本日は休み。医者に行って薬をもらう。あとはひたすら仕事。ついにドミトリーがしゃべり始める。

01/09/木
大学。少し早めに行って大学院の学生に対応。4限の3年ゼミのあと飲み会。男3人、女3人。近くのファミレスに行く。夜中はフットボールを見ながら仕事。49ナーズ対パッカーズ。ロジャースは見せ場を作った場面もあったが全体にディフェンスに押さえ込まれていた。キャパニックは自分で走れるところがすごい。とくに決勝フィールドゴールに結びつけた最後の攻撃は、小刻みに前進して時間を使いながらサードダウンが確実に10ヤード前進して、きっちり2秒前にフィールドゴールが蹴れる地点にまで持ち込んだ。5分間ボールを保持していて、相手に攻撃させなかった。これができれば、次のパンサーズ戦も勝てるだろう。さて、この週末はトーナメントの次の段階、いよいよシードチームが登場する。両カンファレンスとも第1シードの強さが目立ったシーズンだったが、ブロンコスはチャージャーズ、シーホークスはセインツに当たる。これは番狂わせはないだろう。第2シードは、ペイトリオッツがコルツ、パンサーズが49ナーズ、こちらは接戦になる。コルツが勝つと、コルツから放出されたマニングのいるブロンコスで、いよいよコルツの新旧QBの対決になる。もう一つの山はシーホークスと49ナーズの対決になるだろう。同地区対決だ。ここで49ナーズが勝ってブロンコスと当たれれば、応援しているチーム同士のスーパーボウルになるので、愉しいが少し気が抜けた状態で観戦することになるだろう。

01/10/金
大学は休みだが文藝家協会理事会と新年会。この新年会には業界の人々が集まる。協会で業界の人々に対応しているのは主にわたしなので、すべての人々と挨拶しなければならない。終わってから加賀乙彦さんらと会場の地下のバーで飲む。加賀とはドストエフスキーの話ができるので愉しい。だが本日は紫式部の話をして盛り上がった。ちょっと飲み過ぎたかな。パーティーではいろいろな人と会うので、つい飲み過ぎてしまう。今日は外出の時、ポケットに入れる手帳型のノートをいつもとは違うものにした。仕事場にいた時に重要なメモを書いたので紛失しないように作業机の上に置いて、別のノートをもって出たのだが、半分くらいまで使ったノートだった。去年の引越の直前くらいの書き込みがある。新居の部屋から富士山が見えて喜んでいたりする。ところがそこでいったん途切れてから、7月くらいに飛び、ものすごく重要なメモがあった。アリョーシャに関する決定的なメモだった。書いたことを忘れていた。このポケットサイズのメモはノートを持って出られない時の窮余のメモ帳なので、とびとびの記述で、書いたことを忘れてしまうこともある。注意しないといけない。

01/11/土
本日は休み。この休みは貴重だ。明日は大学院の入試で出勤だし、来週は毎日宴会がある。体調を調えないといけない。午後、新宿でマッサージ。あとは入力作業。このところ自宅ではひたすら入力しているのでメモがなくなった。メモを書く時間が今週は少なかった。明日の入試は待機の時間が長いのでメモを増やしたい。

01/12/日
日曜だが出勤。大学院入試。午前中は待機。学部長は試験監督はしないのでいるだけでいい。ということで自分の仕事。かなり進んだ。昼休みに研究室に行き、ネットでフットボールの結果を確認。強い方が勝っていた。まあ、当たり前の結果。今シーズンはダントツに強いチームがいくつかあった。順当なら第1シードと第2シードが勝ち残るはずだ。アップセットがあるとすれば49ナーズだろう、とファンとしては念じているのだが、49ナーズとパンサーズの試合は明日。下馬評ではパンサーズが有利らしい。そんなことはないだろうとわたしは思うのだが。今日は早めに自宅に帰れたので、午前中に書いたメモを入力。新しい一太郎が出たのでネットで購入する。実は大昔のATOKを使っているのでいろいろ不具合がある。ワードで使うぶんには問題ないのだが、ネットに入力しようとするとうまくいかない。しかも大学の研究室のパソコンと、自宅のパソコンとでは、現れる不具合が少し違っていて、時々いらいらする。ということで、1万円くらいのものなので購入することにした。仕事はワードでやっているので変換ソフトだけでいいのだが、一太郎を買うとバージョンアップなので安くなる。つまり要らないものをセットで購入した方が安くなるという不思議。かさばるものではないので問題はないのだが。

01/13/月
月曜の祝日はたいてい授業があるのだが本日は休み。のんびりと10時くらいまで寝ていた。さて、パソコンの蓋を開ける。ネットにつなぐ。フットボールの結果を知る。いつもの月曜日は朝1限の授業があるので、授業のあと研究室に帰ってネットにつないで結果を知ることになる。まあ、同じくらいの時間だ。本日は自宅なので、あらかじめ妻に、これから、ギャッ、とか、うわっ、とか声がもれることを警告しておいてから、フットボールのホームページにつなぐ。まずはパンサーズ対49ナーズ。わたしは何年も前、シングレタリーという元ディフェンスのブラックピープルの監督が指揮して万年最下位だったころからの49ナーズのファンなので、これは祈るようにして結果を見る。快勝していた。よかった。しかし次はシーホークス戦だ。シーホークスのQBウィルソンもモバイルQBといわれる走るQBだが、走りでは49ナーズのキャパニックの方が上だろう。しかしウィルソンの方がパスが正確だと思われる。まあ、接戦になるだろうが、本日の快勝は、ディフェンスがパンサーズのモバイルQBニュートンをきっちり抑えたということだから、ディフェンスががんばってくれるだろう。さて、もう1試合。この時間だとまだ試合が続いているかと思ったが終わっていた。ブロンコス対チャージャーズ。これはよもやブロンコスが負けはしないとは思っていたが、結果は7点差の勝利で、意外と接戦だった。次の相手はコルツに大勝したペイトリオッツだ。コルツ戦でラン攻撃で大勝したのだが、本来はQBブレイディーのパスで攻めるチームなので、ディフェンスがどのような戦略を立てるかが問題になる。昨年のプレーオフのレイブンズ戦で最後の5秒を守りきれなかったディフェンスが、今年はがんばってくれるはずだと信じている。ということは、ブロンコス対49ナーズというスーパーボウルになる可能性が出てきた。これ、どちらを応援すればいいのだろう。昔、マニングがコルツにいたころに、スーパーボウルに出たコルツを応援しなかったことがある。相手はたぶん、セインツだった。ニューオリンズのハリケーン災害の直後だったから、楽天対巨人で思わず楽天を応援してしまったのと同じ判官贔屓だったのだと思う。今年も、49ナーズを応援することになるだろう。だがその前にシーホークスに勝たないといけない。シーホークスと49ナーズは同地区なのだ。49ナーズが12勝4敗なのにワイルドカードに回ったのはシーホークスのせいで、因縁の対決というべきだろう。たぶん49ナーズが勝つと思う。
さて、夜は詩人の佐々木幹朗くんと打ち合わせ。佐々木くんは大阪府立大手前高校時代の友人。彼が美術部長、わたしが新聞部長だった時に、美術館に取材に行ったことがある。マルクス主義研究会でもいっしょだった。彼は大森に住んでいるのだが本日は御茶ノ水に来てもらった。わたしの居住している住宅のロビーで話をする。妻も参加。妻と佐々木くんは高校三年生の時に同級生だったらしい。3人揃うと、青春時代がよみがえる。30分くらい話してから、佐々木くんと飲みに出る。ガード下のスペインバルでワイン2本飲む。羽田闘争といっても若い人には何のことかわからないだろうが、われわれにとっては忘れられない闘争があった。そのことを何らかのかたちで記念碑的なものとして残したいということで意見は一致した。協力者をつのりできる限りのことをしたいと思う。そういう打ち合わせの会合だったのだが、懐かしいことをいろいろ思い出した。わたしが作家になった直後、吉祥寺で詩人の清水昶さんをまじえて飲んだ想い出など。同じ時代に同じ場所で生きていた。それは貴重なことで、彼は詩人でわたしは作家だが、わかりあえる部分がある。

火曜日は1限の2年生のゼミ。このゼミは人数を半分にして3年ゼミに進む。そのセレクションをしないといけない。申し訳ないことだが作品を見てわたしの独断で当落を決める。その作業が午後までかかった。それから来年の2年ゼミのセレクション。これは現1年生野エントリーシートの内容と、2時間だけやった入門ゼミのレポートの内容を見て、総合的に判断する。ひどく疲れる作業だ。いったん自宅に帰って少し休んでから新宿へ。このところ新宿へはマッサージに行くだけだが、コマ劇場裏の料亭で日大新聞の新年会。文芸賞の選考委員をやっているのだが、選考委員の交替があったので顔合わせ。といっても、新任の佐藤洋二郎さんとは旧い付き合いなので、とくに顔合わせをする必要もないのだが、まあ、飲み会に誘われたら断ることはない。愉しく会食して、帰ってからさらに飲みながらフットボールを見る。火曜日が終わるとほっとする。あとは午後出勤でいい。

01/15/水
水曜日は授業はないのだが、卒論展示会というものがあって、自分の担当の4年生の卒論を同窓会の施設の和室大広間にもっていく。いまの3年生のために、卒論とはこんなものというところを見せる催し。13篇の作品を並べて、もう1度、読み返してみる。明日から返却に応じることになっているので、成績をつけるために確認をする。それから会場を抜け出して学部長会議。いつもは有明校舎と結んだテレビ会議なのだが、本日は夕刻に新年会があるので学長以下全員が武蔵野校舎に集まっている。その新年会というのはこれまで出たことがなかったが、学部長は出ないといけないのだろうと、研究室で待機。何時にどこでやるということも頭に入っていなかったので、まさか5時からということはないだろうと思ったのだが、いやな予感がしたので事務室に行ってきいてみると、やっぱり5時からだとのこと。あわてて会場の講堂へ行く。短い儀式のあと地下の食堂におりて宴会。とりあえず話しかけてきた人に対応する。本日はけっこう長い一日だった。帰りの電車の中で、思わずノートを出してメモを書いてしまった。電車の中でパソコンを出して仕事をしている人を見ると、余裕のないやつだと馬鹿にしていたのだが、本日は学部長会議の部屋が満員ですぐ隣に学長がいたので内職ができなかった。頭の中にはどんどん言葉がたまっていくので、とりあえず電車の中でメモをとる。いまはドミトリーが出てきて、このキャラクターがひとりでにしゃべりだしてくれるので、いくらでも書ける状態になっている。

01/16/木
学部の学生がハンコをほしいと連絡してきたので昼休みに出勤。あとは研究室で作業。大学の文集校正や学生の宿題で時間がとられる。5限の4年生のゼミは最終授業と卒論の返却。研究室での授業。その後、飲み会。2年生のころから担当しているので、全員の気心が知れている。早稲田で教えていたころは人数が多かったので、全員を把握することが難しかった。この大学に来て、学生たちとのつきあいが深まったように思う。今週は月曜日から毎日飲み会なので少しずつ疲れがたまっている。明日も宴会だが、昼間の仕事はないので、今週は今日までという感じだ。今日はあまり仕事ができなかったが、行き帰りの電車で仕事をしてしまった。

01/17/金
本日は大学は休み。妻と上野まで散歩。神田明神、湯島天神から、上野公園で冬牡丹を見て、動物園を抜けて、根津まで歩いた。疲れた。夜はメンデルスゾーン協会新年会。月曜から毎日宴会が続いたが、本日で終わり。まあ、何とかもちこたえた。

01/18/土
本日は休み。まったくスケジュールのない空白の日。今週はハードな日々が続いた。月曜から毎日飲み会だった。明日は日曜だが入試があるので、休みは本日だけ。ここで『新釈カラマーゾフ』の現況を書いておく。いまは第5章の終わりのあたり。もうすぐ200ページになる。400字にすると600枚ということになる。全体の3分の1近くに来ているのではないか。第5章はドミトリーが活躍する章で、一人で大演説をしている。ドミトリーというキャラクターを設定するだけで、彼が一人でしゃべってくれる。だから多忙の日々の合間でもメモは進んでいる。大学への往復の電車の中でもメモをとったことがある。その先のことは何も考えていないのだが、第6章になってもしばらくはドミトリーを活躍させたい。これまでの登場人物の間を、巡礼のようにドミトリーが回っていくということにしたい。彼らとドミトリーの間にどんな対話が生まれるか楽しみだ。そうやって少しずつ登場人物の全体像が見えてくる。まだあまり活躍していない民族主義者たちも、ドミトリーが相手だと多くを語るのではないかという気がする。作者としては状況を設定するだけで、あとはぶっつけ本番で登場人物たちが語るに任せたいと思っている。並行して皇帝暗殺を企てている地下組織の全容が少しずつ見えてこなければならない。そこでも哲学的な対話が必要だろう。そうやって全体像が見えてきたところで、イワンの登場ということになる。一言も言葉を発さないイワンが語る最初の一言がこの作品の中盤の大きな山場になるはずだ。いまはこの程度の構想で前進している。エンディング近くに原典にある大きな石が出てくる。エルサレムの歌をリフレインのように何度も響かせる。いまわたしの頭の中にあるのはそれだけだ。冬が来る前に、登場人物を大移動の旅に出発させなければならない。どこかで早めに季節外れの雪を降らせる。本格的な雪の到来の前触れで、そこは美しい描きたい。嵐も来た方がいいかな。
フットボールのことも書いておこう。いよいよチャンピオンシップの闘いになった。これでスーパーボウルの出場チームが決まる。カンファレンスのチャンピオンだからとにかくこれに勝つことが第1目標といっていい。奇しくも同じようなチームの対戦になった。シーホークス対49ナーズは若くて走力のあるQB対決となった。ブロンコス対ペイトリオッツはともに爆発的なパス能力をもったベテランQBの対決。ほぼ互角と見ていいだろう。どちらが勝つかわからない。わたしは49ナーズとブロンコスを応援している。両方とも勝つとスーパーボウルでは49ナーズを応援したいかなとは思っているが、ブロンコスのマニングはたぶんラストチャンスなので、勝たせてやりたい気もする。シーホークス対ペイトリオッツになったら、シーホークスを応援するだろうと思う。なぜかというとペイトリオッツのブレイディーというQBがあまり好きではない。このQBが新人として台頭する前にQBだったブレッドソーという、やたらとパスを投げまくるQBが好きだったこともあって、最初からいい印象をもっていなかった。応援しているチームのどちらかが勝つという状況が、スーパーボウルをいちばん楽しめると思うのだが、はたしてそんな好都合なことになるかどうか。月曜の午前中に結果がわかる。あいにく授業があるので、ネットで結果を知ることになる。

01/19/日
日曜だが大学。有明校舎でセンターテスト。去年は試験監督で英語のリスニングがあったので大変だった。本日は英語のない日だし学部長になったので監督はやらなくていい。副本部長ということで、本部に待機することになる。親しくなった他学部の学部長と並んでじっと待機する。仕事は何もないのでひたすら自分の仕事をしていた。長い一日。おかげで充実した仕事ができた。

01/20/月
月曜は1限。そのあとは5限の教授会・学科会まで何もない。何もないはずなのだが、企画課の人が来たり、学生が遊びに来たり、何やかやと仕事があって集中できなかった。さて、本日はフットボールのチャンピオン決定戦。スーパーボウルを決勝戦と考えれば準決勝にあたる。2試合をNHKが中継するのだが、大学があるから見るわけにはいかない。とりあえず朝起きてテレビをつける。ブロンコス対ペイトリオッツの前半が終わったところだった。ブロンコスがリード。「よしッ!」と気合いを入れて自宅を出る。大学に着いてネットで確認。後半、ペイトリオッツが少し反撃したがブロンコス余裕の勝利。1限の授業が終わってまたネットで、49ナーズ対シーホークスの途中経過。49ナーズがリード。しかし表示板の動きが遅いので、どこかでチャットでもやっているかと調べたら、ニコニコ動画が中継をしていた。ただしひどく粗い画面で、ストップモーションのような映像。無料会員だから仕方がない。来訪者の相手などしていたので、ニコニコ動画につないだ時はすでに逆転されていた。しかし49ナーズがじりじりと前進して、エンドゾーンに迫る。差は6点だから、時間をたっぷり使ってぎりぎりでタッチダウンを挙げれば逆転と同時に試合終了という、絵に描いたモチみたいなプランを誰もが考えるだろう。そのプランのとおりに、残り30秒の時点でエンドゾーン寸前まで迫り、あとはタッチダウンを挙げるだけ、というところまではうまくいった。そしてキャパニックがクラブツリーにパスを投げて、これで決まり、と思ったのだが、ニコニコ動画の粗い画像ではボールがよく見えない。あれ、なぜシーホークスの選手が喜んでいるのだろうと思ったら、キャッチの直前で敵のコーナーバックにはたかれて、空中に舞い上がったボールを、ちょうどいいところに走り込んだ敵のラインバックにキャッチされてしまった。インターセプトで、勝ったと思った試合が、たちまち試合終了で負けが確定した。天国から地獄へ一気に急直下、という感じで、がくっとして、午後は廃人のようにふさぎこんでいた。教授会とか学科会があったのだけれど、記憶もないくらいに落ち込んでいた。しかし、もし49ナーズが勝っていたら、応援するチーム同士の対戦となるので、わたしは苦しんだことだろう。これでスーパーボウルはわかりやすくなった。37歳のペイトン・マニングの花道を楽しみたい。『新釈カラマーゾフ』は本日は小休止。レーニンをどうやって出すかということを考えている。ドストエフスキーの作品にレーニンが出るなんてヘンテコだけれども、これはわたしの作品なので何でもありなのだ。

01/21/火
1限。2年ゼミ。年度の最終授業。今年の2年は女の子たちががんばった。来年に期待がもてる。本日は早めに自宅に帰って入力の作業を続ける。入試の待機などがあってメモはたまっているのだが入力作業が遅れている。今週は週末に休みがないので、できる時に入力作業をしないと、全体の進行が遅れてしまうことになる。

01/22/水
午後6時からの会議。15分で終わる。本日はこれだけのために大学まで往復。まあ、早めに行って大学院の修士論文を読んでいたのでトンボ返りというわけではない。

01/23/木
大学。漢文の先生の最終授業。最後に学部長として挨拶をする。その次の卒論ゼミの時間はもう授業はない。6限の大学院の授業は飲み会。近くのしゃぶしゃぶ屋で乾杯。こういう店で飲み放題というのを注文すると、ものすごく濃い酒をもってくる。ふつうの店なら薄目の酒を出して何杯も注文させようとするのだ飲み放題だと料金は同じだから早く酔わして帰そうとするのだろう。で、酔わされてしまった。

01/24/金
文藝家協会で出版社との協議会。ちょっと危機感を感じた。対策を立てたい。

01/25/土
追手門学院大学の梅田サテライトで講演。今シーズンから同大学の客員教授ということになっている。で、サテライトで2回講演することになった。昨年御茶ノ水に引っ越したのは、地方公演の負担を減らすためでもある。電車に乗れば5分で東京駅。2時間半の移動中はひたすら仕事。梅田までは5分で、講演して担当者と少し談笑してまた新大阪。少し時間があったのでビール1杯飲んでから新幹線に乗る。ハイボール2缶もって乗り込み、ひたすら仕事。飲みながらの仕事はさらにはかどる。調子が出たので車内でもう1缶買って飲んだら、自宅に帰り着くころには酔っぱらっていて妻に怒られた。風呂に入ってすぐに寝た。往復の5時間で大量のメモができたし、今後の展開のラフもできた。

01/26/日
日曜日だが大学。大学独自の入試。学部長だから待機しているだけでいい。円形のテーブルで学部長が待機している。横のソファーがあいていたので、のんびりと座ってメモをとる。昨日の5時間、今日も5時間くらいひたすら仕事ができた。メモばかりたまって入力作業が遅れているのだが、授業は明日で終わりなので少しは入力の時間がとれるようになるだろう。

01/27/月
大学1限。これで今年度の授業が終わった。明日の大学院の修士論文の口頭試問が終われば、すべての作業が終わる。雑務として学生の文集の編集をやっているが、本日で小説の入稿はほぼ終わった。あとは短歌、俳句、現代詩などが残っている。いったん自宅に帰って着替えてから著団協の新年会。文化庁の人々や著作権管理団体の人々と信念の挨拶。新年の宴会もようやく終わり。明日の飲み会で今月も終わる。

01/28/火
大学。授業はもうないのだが、大学院の修士論文の口頭試問。学生は7人いるのだが、そのうち5人の主査または副査をつとめているので、次々と学生が現れて、質問をする。疲れた。夕刻、大学院生一人をつれて中野へ。春に大学で講演をしていただいた出久根達郎さんと飲む。これで1月の飲み会は打ち止め。明日、明後日と休みなので、こちらも心おきなく飲む。

01/29/水
本日は会議もなく完全に休み。妻と千代田区役所まで行って期日前投票。この区役所がとんでもなく遠い。九段下の先。まあ、以前住んでいた三宿から世田谷区役所はもっと遠かったのだが、ごく近所の出張所で期日前投票ができた。まあ、文句を言っても仕方がない。とにかく投票は終わった。自宅に帰ったら選挙公報が届いていた。もっと早く届けろよ。あとはひたすら入力作業。

01/30/木
本日は休み。朝から入力作業と思ったのだが、何だか目がおかしい。入力する時はパソコンの画面を左目で見て、メモのノートを右目で見るということをやっているのだが、メモを見る時間よりも入力に集中する時間の方が長いので、長く左目だけ使っている。その間、右目がどうなっているのがあまり意識していなかったのだが、どうやら右目をつぶってしまっている。そのくせがふだん歩いている時や人と話す時にも出ているのではないかと気になって、意識的に右目を開けて見るのようにしているのだが、今日は朝から右目が見にくい。あまり使っていないので機能が低下したのではないかと心配になり鏡を見ると何と右の瞼が腫れている。これはただごとではない。ネットの地図で目医者を探す。日本でいちばん有名な眼科病院が目の前にあるのだが、そこは予約がなかなか入らないという有名なところ。わが姉が通っているのですごい病院だということはわかっている。町医者のようなところで充分なのだが、このあたりは病院が多く、ふつうの医者がない。ややあわてて探していたら、妻がいつも月に一度行く主治医の町医者から聞いたといった秋葉原の眼科を教えてくれた。地図を見るとすぐ近くだ。自宅のあるマンションは御茶ノ水と秋葉原の中間にあるのだが、そこから少し行ったところにその眼科がある。早速そこに行って診断してもらうと、ものもらいができかけているのだろうということで薬をくれた。もっと悪い病気ではないかとこちらは心配していたのだが、とりあえずこれでようすを見るということになった。

01/31/金
大学。もう授業は終わっているのだが、学部長にはいろいろと仕事がある。本日は日曜の入試の判定会議。といっても面接のないテストだけの入試だから、成績の上位から何人かを合格にするという、それだけの会議。一瞬にして終わるような会議だが、ゆっくりと言葉を交わして、十五分でおしまい。このために大学まで往復する。まあ、いいだろう。去年転居したので、大学が近くなった。距離としては少し遠くなったのだが、中央線に乗りやすくなったので所要時間は短くなった。自宅に戻って昼食。それから文藝家協会へ。わたしが招集した会議。このあたりで機先を制してこちらから行動に出ないと、あとであたふたすることになる。やるべきことをやっておくというのが、結局は楽に仕事が進むことになる。というのが、わたしが人生を半世紀以上生きたことから学んだ、生き方のコツのようなものだ。ということで、この会議で話がまとまったので、しばらくは事務局に任せておけばいい。あとはひたすら入力作業。新幹線の中でも入試の待機の間もひたすらメモをとっていたのでメモが大量にたまっている。入力作業が追いついていないので、入力している物語の時間と、メモを進めている時間との間が大きく隔たっている。これでは人物の心理の流れがつかめず、入力作業が滞ることになる。入力作業というのはメモをそのまま入力しているわけではない。人物の心理の流れがスムーズか、描写が不足していないか、根本的な間違いがないかなどをチェックしながら入力するので、メモとの時間差が広がると混乱を起こすことになる。とにかく入力作業に集中したい。昨日医者で見てもらって目はまったく改善されていない。本日はずっとサングラスをかけたまま。誰も不審に思わなかったが、ふだんからサングラスをかけていることもあるので、まあいいか。
1月も終わった。新年会などの飲み会が10日以上あった。疲れがたまっている。瞼が腫れたのも過労のせいではないか。しかし『カラマーゾフ』の仕事は進んでいる。順調だといっていい。もう半分を超えているのではないかという気がする。まだメモの段階だがドミトリーが出てきて活躍を始めている。ザミョートフもずっと活躍しているし、12人の幹部のうち出番がなかった人物も出せたので、全員のキャラクターが明らかになった。これで次兄のイワンが出てくれば物語はもうエンディングに向かってなだれこんでいくことになる。2月は短いが授業がないので、どんどん先に進んでいきたい。



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