d 人麻呂07

人麻呂07

2019年10月

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10/01/火
新しい月の初め。大学を定年退職して半年が過ぎた。大学に行かなくなったといっても、作家としての立ち位置はまったく変わらないはずだが、少し執筆のペースが落ちたようだ。大学にいると「アキ時間」というものがあるので、その間にメモを書くなど、執筆する時間はけっこうあるものだ。自宅にいると、いつでも仕事ができるという思いがあって、集中力が出てこないということはある。先月くらいから、近くの喫茶店で仕事をするようになった。1時間とか、時間を限定して集中する。これはなかなかいい感じだ。いい喫茶店を見つけたので、これからも利用したい。書庫として借りている部屋もあるのだが、ここは物置みたいな感じになっているので仕事はできない。それでも本を探す時に、関係のない本をパラパラと見ることはある。定年になっての初仕事は『夏目漱石の青春小説における三角関係』で、難しい学術書みたいなタイトルになってしまったが、KKベストセラーズから出る新書だ。再校が終わったので完全に手が離れた。次の本は祥伝社から昔出した新書『ユダの謎、キリストの謎』という本が文庫化される。本日ゲラが届いた。何を書いたかは完全に忘失しているので、新鮮な気分で読み返してみたい。「文芸思潮」という文芸誌に『遠き春の日々/ぼくの高校時代』という作品を発表した。これは3回の連載なので今月中に続篇を書かないといけない。それからもう一つ、『人麻呂しのびうた』という作品を書いている。これは去年の夏ごろから書いているのだが、まだ完成しない。全五章のうち四章までができている。今年中にまとまればと思っている。世の中はラグビーのワールドカップでわいているようだが、こちらはアメリカのFootballのファンなので、9月から始まったリーグ戦の勝敗に一喜一憂している。去年はカンファレンス決勝で敗れたチーフスと、今年はダークホースだと前評判の高いブラウンズを応援している。他にイーライ・マニングで開幕2連敗したジャイアンツが新人QBのジョーンズを先発させると2連勝した。このまま勝ち続けると地区優勝も狙えるのではないか。以上が月初めの抱負と感想。本日はSARTRASの分配委員会。何をどう分配するのかよくわかっていないが、とにかく会議をしないといけないということで、手探りで会議を続けている。今月はこの種の会議がぎっしりとあって大変そうだ。

10/02/水
文藝家協会で勉強会。SARTRAS関連のテーマで出版社の意見を聞く会で、文藝家協会からも理事長を始め常務理事など多くの方々の参加を得た。これでこの問題の共通認識が得られたと思う。妻は甥が訪ねてきた夕食をともにする。チリの天文台にいる研究者。明日チリに帰るそうだ。

10/03/木
めじろ台男声合唱団の練習。女声コーラスとの合同練習なのでいつもとは曜日も時間も違う。ネットの乗り換え案内で調べたら4回乗り越えというアドバイスがあった。これはまずと思って少し早めに出かけたら、1回乗り換えでOKだった。乗り換え案内はこういうサジェスチョンもしてほしい。

10/04/金
『ユダの謎 キリストの謎』(祥伝社文庫)のゲラをひととおり見る。文庫本のためのまえがきも書く。これでOKだと思うが、もう一度最初から読み返してチェックしたい。金曜日はサースデーナイトの試合。シーホークス対ラムズ。昨年のSUPERBOWLではラムズを応援していたのだが、この試合を見ているうちに自分がシーホークスを応援していることに気づいた。昨年のカンファ決勝で審判のミスでセインツが負けた。それ以来、セインツに気持が傾いている。そのセインツは雪辱戦となるはずのラムズ戦で、QBのブリーズが負傷した。試合には負けたがその後の2試合は代役のウォーターブリッジが頑張って勝っている。今シーズンはセインツとブラウンズを応援したい気分だ。それで同カンファのラムズの負けを期待していたのだが、思いが届いたのか、逆転となるはずのゴールに失敗してラムズが負けた。よかった。

10/05/土
Footballのファンではあるが、ラグビーもけっこう面白い。というか、昔、ラグビーの小説を書いたこともある。『やがて笛が鳴り僕らの青春は終わる』(角川書店)という作品だ。40年前くらいの作品かな。あのころは、日本がワールドカップで勝つなんと夢にも思わなかった。しかし前回大会で3勝1敗で予選敗退という前代未聞の敗北を経験した。優勝候補の南アに勝ったのに、中三日でスコットランドと対戦して大敗した。その1敗だけで敗退が決まってしまった。今回も3勝したが、次の試合で負けたら、また敗退ということになる。しかし今日の試合で終了の合図のあとでトライを決めて勝ち点1を追加したのが大きな意味をもつ。これでスコットランドに惜敗しても7点差以内で3トライ以下に抑えればボーナス点が1加わって2位通過になる。スコットランドは大差勝ちを狙って攻めてくるだろうが、我慢の防御で相手の焦りが出れば勝機はある。できれば勝ってトーナメントに進んでほしい。それにしても、ラグビーは世界と対等に戦えるのに、Footballはアメリカと日本では大相撲と子ども相撲くらいの差があるのはどうしてだろう。

10/06/日
早朝に起きて奈良へ向けて出発。奈良へ最後に行ったのは高校生の時だと思う。大阪生まれなので子どものころは奈良へ行くことが多かった。だから奈良のことはよく知っているつもりでいたが、半世紀ぶりに行ってみると、外国人の観光客が多いことに驚いた。まあ、わるいことではないが。昼頃にホテルに着いた。すぐに部屋に入れたので荷物を置いて、身軽になって奈良の街に出る。とりあえず新薬師寺に行く。ここは奈良でいちばん強い印象が残っているところ。暗い堂内にずらりと並んで十二神将は圧巻だった。昔は閉めきった堂内に懐中電灯の明かりで神将の驚くべき表情を見たのだが、いまは発光ダイオードみたいなもので熱を伴わない照明が施されていて、神将の姿がはっきり見える。はっきり見えるのはいいのだが、昔の方が怖かったなと思う。新薬師寺は奈良公園から外れている。とにかく公園に行って鹿を見る。鹿を見るのは楽しい。春日神社から東大寺の方に回ったが観光客の多さに大仏殿には行かず、戒壇院だけ見た。ここは人が少なかった。新幹線の中でメモを少し。

10/07/月
Footballの結果を見る。セインツが控えQBブリッジウォーターの大活躍で勝っていた。それ以外は期待のチームがいずれも負けていた。マホームズの負傷でチーフスまで負けていた。本日は薬師寺へ。近鉄で行く。薬師寺は昔は東塔しかなかった。いまは東塔は修理中で、新しい西塔は美しい姿を見せているが、昭和になって建てたマガイモノだ。しかし塔内の彫刻というか釈迦の生涯を描いた立体的な作品はなかなかのものだった。寺域の北側にまったく新たな建物ができているのだが、何やら新興宗教みたいな軽薄さを感じた。バスで奈良公園に戻って鹿をからかってから、奈良町界隈を散歩。

10/08/火
奈良はもういいという感じがしたので本日は京都へ。地下鉄で蹴上まで行って、金地院と南禅寺、哲学の道から銀閣まで歩いた。バスで京都駅に戻ってから近鉄で東寺へ。時間をフルに使って新幹線で東京に戻った。ネットでマンデーナイトの確認。ブラウンズは大敗。やれやれ。メールで確認すると、11月に出る本は、「死ぬまで漱石!/墓場まで持って行く夏目漱石の青春小説」に決まったらしい。書いている時に自分でつけていたタイトルは「夏目漱石の青春小説」だったのだが。

10/09/水
さて旅行から戻って、たまっている仕事を進めないといけない。まずは旅のあいまにメモしたものをパソコンで入力。これは『人麻呂』の仕事。それから『遠き春の日々』に取り組む。これまでに3分の1くらいのところまで書いている。これを読み返してから次に進みたい。

10/09/水
本日は旅行中のメモを入力する作業。近くの医者で咳の薬を貰う。妻と深川のスーパーへ。サイゼリアで昼食。買い物をして戻る。夜はプロ野球を見る。あまり興味はもっていないのだが、まあ、子どものころからの巨人ファンなので、いちおうは応援している。

10/10/木
午後3時に祥伝社の担当者がゲラをとりにきた。少し話をしてゲラを渡す。書き下ろしではなくかつて新書として出した本の文庫化なので、たぶんその時のデータが残っていたのだろうと思う。誤植などは一切なかった。担当者の疑問点も数カ所しかなく、あとはこちらが気づいたところを少し直した程度だ。初校だがたぶんこれで完了だろう。いずれにしても、10年前の本が文庫として再刊されるのはありがたいことだ。『ユダの謎、イエスの謎』というタイトルもそのまま活かされることになった。

10/11/金
武蔵野大学の三鷹サテライトで講座。大学の教員だったころは業務の一貫として講座を担当していた。大学は定年退職したのだが、こちらの仕事は定年がないそうで、まあたまには講座で話すのもいいだろう。90分しゃべり続けるというのは頭を使うのでボケ防止にも役立つ。あっという間に90分が経過した。明日は台風が来るという。かつてないほどの大型の台風なので、どんなものかと待ち受けているのだが、荒川や江戸川が決壊するなどということはないだろうか。安全だといわれていた原発が壊れることもあるのだから、想定外のことが起こる可能性もある。いったい何が起こるのか。金曜日はサースデーナイトの中継がある。いつもは9時に起きて最初からゲームを見るのだが、今日は全勝のペイトリオッツと、バークレーのいないジャイアンツなので、ふだんと同じ10時に起きてテレビをつけると、第1クォーター終了直前まで0対0でもちこたえていた。よくがんばっているなと思った途端に、パントキックをブロックされてそのままエンドゾーンまで持ち込まれた。珍しいプレーだ。それでいつも見ている番組に切り替えた。今シーズンのジャイアンツは新人QBジョーンズがよくがんばって2勝をゲットしているのだが、まだペイトリオッツの相手ができるほどではない。今年のペイトリオッツは強い。強すぎておもしろくない。意外にも49ナーズまだ全勝でもちこたえている。QBのガロポロは元ペイトリオッツでブレイディーの控えだった選手だ。このところ49ナーズは低迷が続いているが、それだけにドラフトの順位がつねに上位で、ディフェンスにいい選手がとれたようだ。今シーズンはディフェンスががんばっていまだに負けがない。ダークホースになるかもしれない。

10/12/土
台風が来る日。ぼくが住んでいるのは高層の集合住宅で、まあ大丈夫だろうとは思っている。エレベーターがないと動きがとれないので停電になってほしくないのだが、発電機は用意されているのでエレベーター一基くらいは動くらしい。ただ各個の住居の電気がどうなるかはわからない。早めに風呂に入って風呂の湯をそのままにしておく。それが唯一の対策で、食料などは確保していない。朝から激しい雨。我が家は南に面しているのだが、最初は北風だったので風の音もしなかった。郵便物があるかと思ってエレベーターでロビーに行ったのだが(郵便物も夕刊もなかった)、エレベーターは北側にあるので風の音がすごかった。やがて南風になって音がうるさくなった。通風のスリットを閉めたのだが、すごい音でテレビの音が聞こえないほどだ。南西に厚い雲があると衛星テレビが映らなくなることがあるのだが支障はなかった。結局、何の被害もなかった。二子玉川や武蔵小杉のあたりで浸水があったらしい。心配なのは仕事場のある浜松だ。暴風圏の広い大きな台風なので中部地方もすっぽり暴風圏におおわれている。築40年近い木造で崖の上にあるのでふだんから風の音がすごい。どうなっているか心配だが、どうしようもない。そのうち見に行ってみようと思う。

10/13/日
妻と上野あたりに散歩。夕方、仕事をしながらDOZNで巨人対阪神を見る。丸の絶妙なセーフティーバントで決勝点。追加点も一塁ランナーを代えて投手にストレートを投げさせ、ゲレーロが仕留めた。日本シリーズ出場を決めた巨人とソフトバンクだが、ラグビーに話題をさらわれるだろう。そのラグビーのスコットランド戦。アイルランドは日本を軽く見て控えのスタンドオフを先発させたのだが、スコットランドは負ければ敗退なのでベストメンバー。先にトライをとられた時は、とにかく接戦に持ち込んで勝ち点1でもいいと思っていたのだが、その後、福岡の活躍で4トライ。ここで勝ち点1を獲得。あとは8点差以上で負けない限りトーナメント進出が実現するという有利な状況だったが、そこからスコットランドの猛攻が続き、7点差に迫られてからの25分間が長かった。日本は驚異的なねばりでその後は守り切った。見ているだけで疲れる試合だった。ラグビーの人気はもはや野球もサッカーも上回っている。一生懸命やっているという感じが人の胸を打つのだろう。自分の仕事は順調に進んでいる。『人麻呂』はもはやエンディングモードなのだが、最後にもう一つ、山が必要だ。人丸と不比等をどう対決させるのか。そこが問題で、まだ何のアイデアももっていない。

10/14/月
祝日。曇天。まずはFootball。ロスリスバーガーのいないスティーラーズとリバース健在のチャージャーズでは勝ち目はないと思っていたら、ディフェンスの頑張りでスティーラーズが勝ってしまった。ドラフト外の新人QBホッジスはショートパスばかりだが堅実なプレーで安定していた。ドラフト外で新人を入れるというのはスカウトが逸材を発掘したのだろう。ジャガーズのミンシューもけっこうがんばっているし、パンサーズの控えQBも連勝している。今年は新鋭QBの活躍が目立つ。

10/15/火
パッカーズ対ライオンズというどうでもいい試合をDOZNで見ながら『遠き春』を先に進める。午後になって近くの喫茶店で『人麻呂』のメモをとる。この喫茶店は午後のこの時間はほぼ誰もいない。ネットが使えるのと、壁に本がぎっしり並んでいる雰囲気がなかなかいい。演劇や映画関係の本が揃っている。早稲田の演劇科出身なので、そういうものに興味がないわけではないが、自分の仕事があるので背表紙を眺めるだけにとどめる。スマホしかもっていかないので、ウィキペディアなどを見る時に不便なのだが、調べものをするだけなのでこれでいい。エンディングに向けての道筋が見えてきたが、最後に人丸と不比等が対決するという山場を描かないといけない。エンディング直前なので、なるべく簡潔に書きたい。

10/16/水
昨日と同じ喫茶店でメモをとる。今日は客が多くうるさかった。こういう日もあるのだ。帰りに書庫に寄って古代史年表をもって帰る。必要なところだけコピーして使っているのだが、最初の想定よりも人丸が長生きしているので、藤原四兄弟が死ぬところくらいまでコピーを増やす。

10/17/木
コーラス。早めに着いてしまったので駅の待合室で仕事。電車の中や駅でもネットが使えるのでありがたい。皆さんと軽く飲んで帰宅。

10/18/金
オーファン委員会。本日の公用はそれだけ。明日は全国同人誌会議の講演があるので体調を調えないといけない。チーフス対ブロンコス。2連敗しているチーフスが心配だった。試合には勝ったものの、もともと足首を傷めていたQBマホームズがさらに負傷したようで、数試合は出場不能になってしまった。地区優勝は混戦になる。マホームズ一人に頼り切っているようなチームなので今後が懸念される。

10/19/土
全国同人雑誌会議。3回目だそうだが久し振りの大会とのこと。場所が御茶ノ水の池坊東京会館なので歩いていけるのはありがたい。近すぎて会場の時間ぎりぎりになってしまったが、会場に着いて進行を担当する五十嵐勉さんに挨拶する。一時間の講演。喉の調子もよかった。そのあとの討論会は客席で見ていただけだが、白熱した議論に会場から次々と意見を述べる人が現れて、同人誌を支えている人々の熱気を感じた。懇親会も楽しかった。少し遠回りして歩いて自宅に戻る。本日は自分の仕事はあまり進まなかったが、この日のために体調を調えてきたので、無事に乗り切ってほっとしている。野球に日本シリーズは完敗。いまの巨人軍の投手陣では、初戦に負けるとあとは勝つ気がしない。4連敗もある。もうアメリカのFootballが始まっているので気持はそちらに傾いている。

10/20/日
今日は日曜日でいつもいく喫茶店が休みなので水道橋のルノアールまで足を伸ばす。人丸と不比等の対決シーンのメモが書けた。ここが最後の山場だ。あとはエンディングに向けて事象を短く書き込んでいけばいい。もう予定枚数には達している。可能な限りコンパクトに書いていきたい。夜はラグビーを見たが、日本チームは疲労がたまっているようで、前半は押し気味だったのだが、後半に力尽きた。しかしここまでよくがんばってきた。アイルランド戦とスコットランド戦に死力を尽くして、エネルギーが残っていなかったのだろう。今回はニュージーランドが傑出していて、それに続くのがイングランドと南アフリカだ。ウェールズとフランスの山がいちばん弱いところではないか。1点差でウェールズが勝ったが、審判の微妙な判定があった。結局、英語圏が4強になったが、大英帝国4国のうちのアイルランドとスコットランドに勝った日本はすごい実力だ。

10/21/月
著団協総会。この組織は写真家協会が担当しているが、本日は銀座の貸し会議場で開催。いろいろと雑談。やはりSARTRASの問題が中心になっていく。この組織の理事長は出久根さんで、本日は出久根さんが出席されたので、ぼくは控えQBとしてそばにいただけ。朝7時に目が覚めたのでDOZNでセインツの試合を見る。ブリッジウォーターは調子が出てきた。先発してから5連勝だ。今シーズンはセインツを応援したい。

10/22/火
本日は天皇即位の臨時の休日。テレビで儀式を見る。雨が小降りになってよかったが、風が強く、万歳の幡が1つ落下していた。『遠き春の日々』は予定の枚数に到達した。とりあえずプリントして読み返すところまで来た。

10/23/水
本日はマッサージだけ。いつもマッサージに行く時は、少し早めに行って新宿三丁目のあたりを散歩することにしている。昔、文壇バーがあったところを歩いてみる。記憶はぼやけているのだが、道路の配置は変わっていないし、建物もほとんど変わっていない。かつては行きつけの店が何軒もあった。そこに行けば誰か知り合いがいた。四十年前くらいのことだ。いまは新宿で呑むこともなくなった。児童文学のゲラが届いた。8月末にも一つ送ったのだが、ゲラになったのはもっと前に送ったもの。何を書いたか忘れてしまっていたが、そこそこ読めるものになっている。ゲラをいじるわけにもいかないので、編集者の指摘を二箇所なおしただけで返送する。『人麻呂』の入力。作品の最大の山場の部分だ。いい感じに仕上がっている。

10/24/木
久し振りに武蔵野大学に行く。武蔵野文学館のホームページに載せる写真と動画の撮影のため。かつて武蔵野大学の教壇に立たれた評論家の秋山駿さんは蔵書のすべてを大学に寄贈された。その一部を秋山さんの書斎に見立てた小部屋に収納したスペースがあり、その宣伝も併せて、蔵書に囲まれた席で秋山さんの想い出を語った。今年の3月に退職してから、大学に行くのは2度目。それでも先日、三鷹サテライトという社会人教育の教室で講義したので、とくに懐かしいという気はしない。ぼくの撮影の前に黒井千次さんの撮影があったようで、すれちがいのわずかな時間に言葉を交わすことができた。

10/25/金
豪雨の降りしきる中、内閣府へ。向かいの総理官邸の周囲には装甲車や警察車輌がぎっしり取り囲んでいる。障害者週間のポスターと作文の選考。毎年の恒例行事だ。この選考委員長の仕事も黒井千次さんから引き継いだもの。午前の選考だったので、正午ごろには自宅に戻っていた。『人麻呂しのびうた』ゴール寸前まで来ている。あとはラストシーンを書くだけだ。そう思って、メモ帳をもってテレビを見ていた。豪雨が続いている。各地でダムの放流があり、危険が迫っている地域の報道がある。豪雨がいちだんと激しくなり、大手町のビル群が消えてしまった。そればかりか靖国通りの先にあるビルも消えてしまった。そんな窓の外の光景を見ているうちに、エンディングの言葉が思い浮かんだ。1ページほどのメモが書けた。ただちにパソコンを開いて入力した。こでの草稿が完成した。プリントして読み返さないと全容はつかめないが、いいところまで仕上がっている気がする。ほぼ150ページ。400字に換算して450枚。分厚い本は出しづらいと担当編集者に言われているので、何とかこの枚数にまとめることができた。4章の半ばくらいのところで読み返して、全体を可能な限り削ってテンポを良くした成果が出て、それ以後新たに書き足した部分もコンパクトに展開できていると思う。この創作ノートは大学を定年退職した4月から「人麻呂」のタイトルとしたのだが、実は去年の夏から書き始めている。草稿の完了まで一年以上をかけたことになる。河出書房新社の仕事も、作品社の仕事も、だいだい半年くらいで草稿が書けていた。この作品には倍以上の時間をかけたことになる。構想が甘かったということもある。壬申の乱だけで本一冊書けそうな気がしていたのだが、それでは人麻呂という人物の全容を描くことはできないと途中で気づいた。それで壬申の乱に関わる細部を大幅に削って、史実にはない人麻呂の晩年を追求することにした。兄弟としてともに闘ってきた猿丸や、怪しい雰囲気を漂わせて登場した不比等と、最後に敵として闘うことになった。この二度の戦闘シーンが作品の山場になったわけだが、そんなことになるとは書き始めた段階で夢にも思わなかった。史実から大幅に逸脱することになるが、それは小説だから許されるだろう。ともあれ草稿は完成した。プリントして読み返すことになるが、しばらくはクールダウンの時間が必要だ。『遠き春の日々』の第2回のプリントをまだ読み返していない。この週末は浜松の仕事場に行く予定だったが、妻の都合で行かないことになった。この御茶ノ水の自宅で、じっくりと読み返したいと思う。

10/26/土
大雨の被害がまた千葉県などで出ているようだが、東京は快晴。とりあえず『人麻呂しのびうた』をプリントする。ただし読み返すまでに少し時間を置きたい。とりあえずは『遠き春の日々』を読み返す。文章というものはタテガキにしてみると、問題点がよく見える。左右の行がちらちらと目に入ってくるので、文脈がおかしかったり、同語の反復があったり、ヨコガキのワープロソフトの表示では見えなかったところが見えてくる。そういうところに赤字で修正を加えていく。よくある修正ばかりで大きな問題点はいまのところない。最後のところ、『カラマーゾフの兄弟』の続篇を書いた経緯などに言及したところがあるのだが、ここのところがドストエフスキーに興味のない人には退屈かなと危惧している。ただいまさら全部を書き直すわけにはいかないので、なるべく流れをよくするということで修正していきたい。夕方はテレビの前に陣取って、優勝候補のニュージーランドにイングランドが挑戦する準決勝を見る。イングランドのヘッドコーチは前回大会の日本のヘッドコーチで、だからまるで日本チームのような闘い方をする。それを体力のあるイギリス人がやるので、日本がアイルランドやスコットランドと闘った時のようなギリギリの闘いではなく、試合開始直後に一気にトライを決め、その語もニュージーランドをスクラムで圧倒していた。危なげない勝利だった。闘い方が日本に似ているので日本が勝ったような気がした。

10/27/日
一昨日の内閣府の仕事の選評を書くのに手間どってプリントのチェックがあまり進まなかったが、昨日と今日で半分のところまでは行った。あと2日でチェックを終えたい。本日の準決勝は日本が負けた南アフリカとウェールズの対戦。日本が押し負けたスクラムを、ウェールズはよく耐えていて、一時は同点にまでしたのだが、最後に力尽きた。南アフリカのスクラムの強さがよくわかった。こんな敵と日本は戦っていたのだ。前半は五分の闘いだったのだから大したものだ。夜中の2時からはFootball。同時に8試合やっているのをとびとびで見せてくれるチャンネルがある(DOZN)。Footballは得点が入った時や攻守が替わる時、怪我人が出た時などしばしば試合が中断される。一つの試合を見ていると、その中断の間は何も映らなくなる。ところがこの8試合の多元中継は、次々と別の試合に切り替わるので間があかず楽しみが持続する。セインツは怪我で休んでいたQBブリーズが復帰した。ちゃんとパスを投げている。ジャイアンツはよくがんばっているが勝つのは難しい。ハーフタイムまでそのチャンネルを見ていたら3時半になってしまった。少し酒を余分に呑んでしまった。

10/28/月
起きてFootballの結果を確認。それから『遠き春』のプリントを見ようと思ったが集中力が出ないので、散歩に出た。御徒町のルノアールがよさそうなのでそこまで歩いていく。1時間ほどいて、ゴール寸前のところまでチェックを終えた。夜中にがんばれば今日中にチェックが終わりそうだ。往復歩いたので5800歩。

10/29/火
今日は雨。どこにも出かけず。昨日のうちに『遠き春』の2回目のチェックを終えた。今日は朝から入力。直しはあまりなかったのですぐに完了した。ただちに『文芸思潮』の五十嵐さんに送付。火曜日はアメリカのマンデーナイトにあたる。スカパーの中継はないのでDOZNで見る。全敗のドルフィンズ相手にスティーラーズが苦戦している。14対0。絶望してニュースなどを見ていて、昼食の時にDOZNにつなぐとスティーラーズが逆転していた。QBロスリスバーガーがリタイアしたスティーラーズだから、期待はしていないのだがこれで3勝で地区2位。ブラウンズより上に行っている。開幕前に全米の期待を集めていたブラウンズはまだ2勝だ。この地区はラマ―・ジャクソンのレイブンズが独走しているが、スティーラーズはこれから勝ち込んでいけばワイルドカードの望みはある。

10/30/水
予定表の記入ミスで、明日の予定に入っていたSARTRASの分配委員会が本日ということが直前にわかった。気づいてよかった。明日ならば委員会のあとで武蔵野大学の6限の授業に行けばよかったのだが、本日は午後4時から日本点字図書館の理事会があるので、予定が少しカブッている。2時から始まった会議、1時間ほど経ったところで退出。それまでに何度か発言して存在感を示しておいた。SARTRASは表参道。日本点字図書館は高田馬場。地下鉄で行くことにして明治神宮前の乗り換えで副都心線で西早稲田。以前、三宿に住んでいる時に、早稲田の講義に出る時は副都心線を利用していた。だから使い慣れた路線のはずだが、早稲田に行かなくなってから8年くらい経っているのですっかり忘れていた。で、見慣れぬ出口から出てしまい、少しうろうろした。8年前のことなどまったく記憶に残っていなかった。とにかく点字図書館にぎりぎりで間に合った。ここの理事会ではなぜか自分が議長を務めることが慣例になっていて、けっこう疲れる。とにかく無事に本日のスケジュールをこなすことができた。明日はSARTRASから大学に行くつもりでいたのだが、直接、武蔵野大学に行くだけなので楽だ。昨日の夜、『人麻呂』のプリントを詠み始めた。オープニングはパーフェクトだ。テンポよく話が進んでいく。用語の統一などで赤字は入っていくのだが大きな直しはない。本日も少し仕事ができた。阿閇皇女が最初に出てくるところ。にちのこの女性は霊的な女帝になって人麻呂を支配することになる。実は草稿を書いている時はそこまでは考えていなかったので、阿閇の言葉遣いが軽い感じだ。後半のキャラクターと違和感を感じて少し直してみたが、最初から霊的な感じでしゃべるとかえって違和感があると、先の展開が読者に読まれてしまうので、もとのままの方がいいかとも思う。赤字がいっぱい入ってしまったが、このページは明日プリントし直して、もとのしゃべり方を残したバージョンも作って検討したい。

10/31/木
10月も今日で終わり。けっこう忙しかった印象がある。講演など喉が使う仕事が多く体調の維持に気を使った。大学の先生をやっていることは合議では話すのは日常だったが、たまに講演があるということになると、その日に体調を合わせないといけない。やはり退職した体力が衰えているということだろう。本日は武蔵野大学の講義。去年、学部長としてやった人生論みたいな講座が好評で、もう一度やってくれと頼まれたのだが、去年のことはすべて忘れてしまっている。とりあえず壇上に立って思いついたことをしゃべった。まあ、講堂の数百人の学生相手だが、顔が見えているので、話が伝わっているかどうかはわかる。講演というのは一回きりのパフォーマンスだが、だから楽しいということもできる。『人麻呂』のチェックは第一章が終わった。3章くらいまでは何度も読み返している。その勢いで4章、5章がうまくいっていればいいのだが。


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