「青い目/西行U」創作ノート6

2009年9月

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09/01
夏が終わった。8月のあたまに仕事場に移動してからは、次男のところの孫と遊び、それから長男がスペイン娘を1人つれてきて、次男のところの日本男児と合流し、ものすごい喧騒が続き、長男が帰り、最後のシメで次男たちと軽井沢に行った。これで夏のスケジュールがすべて終わった。孫とは何かというのは難しい問題だ。わたしは自分の子供をちゃんと育てた。それで責任(何に対する責任からわからないが)は果たせたと思っている。と思っていたら孫が現れた。孫のことまで責任はもてない。とにかくこの一ヵ月間、時に孫と遊び、時には自分の仕事に非難して、何とか乗り切ってきた。この間、公用といえるものは某衆議院議員候補(当選!)の支援のための後援会をやったのと、ペンクラブの記者会見に出向いただけだった。これはありがたい。この一ヵ月で、「西行U」は2章と3章が書けた。80ページ240枚書けた。中身も濃い。充実した日々だった。昨日、1人で風呂に入っている時に、急に寂しさのようなものを感じた。妻と2人きりの生活がまた始まったのだ。それは穏やかで満ち足りてはいるのだが、今日をどうやって乗り切るかという緊張感はない。公用があってはすべて手慣れた仕事で、未知の場所で後援会などがあっても、まあ、似たようなことをやればいいので、緊張感というほどのものはない。それは安楽なことであるし、自分の執筆活動には必要なものだ。でもちょっと寂しい。そういう感じだ。いまはほっとした感じと、少し疲れを癒したいという気持があるが、とにかく、仕事は調子が出ているので、このままゴールを目指したい。

09/02
涼しい。快適である。さて3章の終わり。分量としてはもう充分終わっていいのだが、ここまでテンポよく語ってきたので、章の終わりはスローダウンしたい。そこで崇徳院の陵に詣でる場面をじっくりと描きたい。また西行のモノローグのようなものを設け、ここで少しだけ内面を語らせたい。4章になるとギアチェンジしてスピードを加速しながらゴールに迫っていく。そのテンポの違いで、最終章に入ったことを読者に実感していただきたい。

09/03
今日も涼しい。秋が来たのか。例年、長男がスペインに帰ると急に涼しくなるのだが。家の中に幼児がいると暑苦しいということか。昨年は妻もわたしもダウンしたのだが、今年はスペイン娘が一人だけだったので、元気に夏を乗り越えた。崇徳院の陵の場面が終わって三章完了。四章に入る。ここからは展開のスピードを上げる。この作品を書く前に、ファーストショットをどこに設定するかをいろいろ考えた。この崇徳院御陵に詣でる場面から話を始めるというのが最も現実的なファーストショットだったのだが、結局、西行が死にそうになっている場面から話を始めることにした。そこから回想を始めた方が時間軸に沿って話が展開できる。御陵がトップだとそこから平治の乱を回想することになり、時間が前に戻ることになる。だが、その頃の構想では平治の乱はコンパクトに語り、その後の源平合戦にページを割くことを漠然と考えていた。しかしよーく考えてみると、合戦の場面を西行の視点で書くわけにはいかないのですべて伝聞になる。ということで西行が動くシーンを丹念に書き込んでいった結果、三章の終わりまで引っぱることになった。最後の四章は話が駆け足になる。あらすじだけという展開にならないように要所に西行の活躍場面を加えてテンポよく語っていきたい。

09/04
長い夏が終わって孫たちがいなくなり、気温も涼しくなって、秋だなと思うが、まだ世の中が動き始めていない。大学もまだ始まらない。自分にとっては夏休みが続いているので集中したい。四章は鞍馬山から始まる。鞍馬天狗である。西行が鞍馬天狗になるというやや無理な設定だが、この作品では主人公を出来る限り現場に立ち合わせたいと思って書き続けてきた。義経と弁慶が出会うシーンに西行を立ち合わせるというアクロバチックな展開を実現するためには、西行に鞍馬山に行ってもらわないといけない。まあ、元気よくどんどん書いている。

09/05
この週末は雑文2件を片づけないといけない。が、すぐにできたので「西行」に支障はない。順調に前進。

09/06
日曜日。有明でクラブ・ウィルビーのパソコン教室で、残間さんと対談。お台場はよく行く。映画はたいていお台場で見る。有明はお台場から歩いて行けるので何度か行ったことはあるが、有明を目指して出かけるのは初めて。講演ではなく残間さんの質問に答えるだけなので楽といえば楽だが、とっさに反応しなければならない。まあ、楽しく語り合えたのではないかと思う。さて、「西行」。弁慶が出てきた。西行の話に弁慶を出すというのは新発明ではないか。楽しく書いている。

09/07
渋谷まで散歩。道玄坂を歩いていると目の前を歩いていた女の子が3回連続ナンパされかかった。キャバクラのスカウトなのか。特定の女性を狙っているようだ。今日はやや暑い。日が暮れてもキリッと涼しくならない。牛若と弁慶が出会う場面。五条の橋の上にするにはプロットが面倒なので鞍馬で出会うことにした。

09/08
いつものように北沢川を散歩。義経と弁慶が無事に奥州に出発した。ここからは話の展開をスピードアップする。まず鹿ヶ谷事件。それから一気に頼朝の旗揚げに話を移したい。あとはゴールに向かって超スピードで進んでいく。

09/09
メンデルスゾーン協会運営委員会。来月に予定されているサロン例会のチラシの発送。スタッフはすべてボランティア。前途多難の組織であるが皆、元気に頑張っている。

09/10
図書館との協議会に備えての権利者打ち合わせ。ようやく夏休みが終わって公用のシーズンが始まったかなという感じがする。おなじみの著作権関連のメンバーとなじみ深い用語を使って話をする。サラリーマンの人もこういう慣れた環境でだらだら会議することに安らぎを感じているのではないか。会議中、思いついたことをポメラでノート。会議中によいアイデアが浮かぶことが多い。

09/11
本日は公用なし。このまま週末となる。来週はやや多忙なのでこの週末、集中して仕事をしたい。いつものように北沢川を散歩。あとはひたすら仕事。ただし夜中にフットボールの放送がある。いよいよフットボールシーズンの開幕だ。開幕戦はスーパーボウルの勝者スティーラーズ。今年の試合が思い出される。わたしはスティーラーズのファンであるが、見ているうちに何となくカージナルスを応援してしまった。カージナルスが終了間際に逆転した時は思わずテレビの前で立ち上がってしまった。それからまたスティーラーズの奇跡的な逆転があった。複雑な気持だった。しかしいまはスティーラーズが勝ってよかったと思っている。ビッグベンとかホームズとかポラマルとか、好きな選手が何人もいるこのチームが好きだ。昨年のシーズンでダントツの勝率だったタイタンズを迎えての開幕戦はロースコアだが見応えのある一戦だった。同点の終了間際、パスを受けたウォードがその場でダウンしてキックにゆだねればいいところを、自分のゴールに飛び込もうとしてファンブルした時には、暗雲が立ちこめたと思ったが、延長戦で簡単に勝ってしまった。クォーターバックのベン・ロスリスバーガーは追い詰められてパスを投げ始めた瞬間から別人のようにすごいQBになる。思い起こせば今日は9月11日だった。講談社の編集者との打ち合わせで三宿で飲んでいたのだが、妙に生暖かい風の吹く日で、早めに切り上げてニュースステーションを見ていた。つい昨日のことのような気がする。

09/12
土曜日。「青い目の王子」のゲラが届いた。ゲラは忘れた頃にやってくる。そういうものだ。この作品は「罪と罰」を書いたあと、4月から6月まで、3ヵ月をかけて書いた。いま書いているノートも「青い目」のままだ。書き上げた時は、世界でいちばん素晴らしい作品を書いたという気分になっていたが、すぐに「西行U」に取りかかったので、何を書いたか忘れてしまった。ゲラを読むのが楽しみでもあるし、少し怖い気もする。今日はゲリラ豪雨みたいなのが時々降る。やんだ時に散歩はできた。とにかく「西行U」を仕上げてしまいたい。

09/13
日曜日。ひたすら仕事。4章も半分を過ぎた。量として半分ということで、あと半分書いて終わらなければ延長することになる。この作品は4章でなければならない。「諸行無常」で始まる四句の偈(四行詩)を章のタイトルにしているので、五章に移るわけにはいかない。まあ、少し長くするというくらいは可能だろう。この作品は「西行U」という仮のタイトルで書き始めた。しかし続篇ではない。前作が生い立ちと恋愛を描いた青春小説であったのに対し、本作は無常観を描いた宗教小説であり、その無常観の元となる諸行無常の展開がある。さまざまな人物が現れ、輝き、そして滅びていく。スペクタクル映画のような展開があって、みんな死んでいく。そこに無常観があるので、限られたスペースの中に数多くの人の生死をつめこむことになる。4章の半ばまで来ているのだが、登場人物はまだ皆、生きている。あと20枚くらいのスペースで皆殺しにすることが可能だろうか。作品は西行の死で終わる。西行の死の時点で生きているのは後白河院と頼朝くらいのもので、清盛もその子息たちも、頼朝も弁慶も、みんな死んでしまう。ジャングル大帝みたいな話だ。考えてみればジャングル大帝も諸行無常の話なのかもしれない。話が横道に逸れた。とにかくみんな死んでしまう。これが本作のコンセプトだ。その死を一つ一つ描写していたは大長編になってしまうので、エピローグみたいなところにどんどん死の報告を重ねることになる。それが眼目というか、この作品の山場となる。さて、明日は会議が4件あるという地獄のような日になっている。わが人生の中でも一番忙しい日になりそうだ。しかしここを乗り切れば、大学が始まるまでの間はまだ夏休みが続く。ベストを尽くしたい。

09/14
月曜日。今月で一番長い日。今年でも一番長い日かもしれない。午前10時、午後1時、4時半、5時半と4回の会議のあと、新聞記者のインタビュー。ああ、疲れた。しかしすべて終わった。夜中、ようやく自分の仕事ができる。

09/15
火曜日。昨日は長い一日であったが、本日はペンクラブの理事会のみ。ここでは発言を求められるわけではないのだが、長い会議で聞いているだけで疲れた。さて、これで今週の公用は終わり。これから週末の連休まで自分の仕事に集中できる。草稿を完成させたい。

09/16
本日から来週の大学出講日まで自分の仕事に集中できる。作品はもはやエンディング直前のテンポアップした状態になっているのだが、必要なところは時間の流れを止めてイメージを定着しなければならない。予定よりも少し量が増えることになるだろう。当初は3部作と考えていた2巻と3巻を一つにまとめたので少しくらいオーバーするのは仕方がない。今日は少し気温が高かったが日が暮れると涼しくなる。ありがたいことだ。今年の夏は全体として過ごしやすかったように思う。

09/17
仕事場に移動。さあ、集中するぞ。

09/18
昨夜は早めに寝た。仕事場では昼型になる。朝、八時に起きて仕事。もはやエンディングに向けて、歴史年表を引き写すだけのような作業だが、重要人物でイメージがうすい人物をピックアップして補強する。平宗盛は子供の時にチラッと出てきただけなので補強の必要あり。妻と志都呂イオンに買い物に行った時、ポメラで宗盛のセリフだけ書いた。描写は帰ってから。志都呂は仕事場と浜名湖の反対側なのが買い物に行くと浜名湖を一周することになる。快適なドライブ。夜は虫の声がけたたましいほど。涼しい風が吹いてくる。夜、電話があって、明日、四日市の孫が来ることになった。想定外だが歓迎するしかない。ということで、本日のうちにまとめて仕事をしなければと思い、朝8時に起きたにもかかわらず明け方まで仕事をする。西行の宗盛の会話。作品全体の山場のシーンが書けた。エンディング直前にこの山場が書けたのであとは流しながらゴールインすればいい。

09/19
ゴールが見えている。あとは必要な歴史的事実を書き込むだけ。この仕事場を建ててくれた大工さん来る。しばし雑談。仕事場ができたのは28年前。お互いに三十代前半だった。年月を感じる。夜、孫来る。先月の末に軽井沢に行ったからまだ半月しか経っていない。機嫌のいい元気な子だ。

09/20
日曜日。孫たちはお昼頃出発。どこかに寄って四日市に帰るらしい。こちらは妻と豊橋へ蕎麦を食べに行く。テレビで豊橋で蕎麦を頼むとハサミがついてくる、というのを見たので本当かと思って蕎麦を頼んだ。その店はハサミが出てこなかったが、カウンターでハサミを使ってウズラの玉子の先を切っているのを目撃した。豊橋はウズラの玉子の産地で、各家庭に専用のハサミがあり、蕎麦屋でも自分で玉子を切る客が多いらしい。「西行」はスピードアップ。長すぎてはいけないので、一ノ谷とか屋島とは壇ノ浦はすべて年表みたいに一行しか書かない。あとは頼朝と義経にセリフを言わせたらおしまいにする。

09/21
月曜日だがまだ休日。古いつきあいの西気賀駅前のレストランへ行く。駅前というよりも天浜線の駅がレストランになっている。テレビの旅行番組などでも紹介され、人がたくさん来ている。大阪方面からも来るそうで、高速道路の割引の効果だろう。わずかな隙にもポメラを出して頼朝のセリフを書く。これをパソコンで修正して本日の仕事は終わり。あとは最後に義経を出して終わりになる。明日は三宿に帰るので三ヶ日での最後の日。早めに寝る。

09/22
三宿に戻る。すごい渋滞だったが、運転は妻に任せてポメラで仕事ができた。

09/23
三宿での日常が始まった。まだ時差ボケで少し早めに起きてしまった。注文していたビートルズ全集が届いた。オマケのピンバッジがうるわしい。ビートルズのレコードは全部もっているが、アナログ時代のものでプレーヤーがない。カセットテープの8巻全集ももっていて車で聞いたりもしたが、これも最近は聞いていなかった。久しぶりにじっくり聞きたい。ビートルズは大学の頃にファンになった。進化が激しいところがいい。同じことを繰り返さない。そこがローリング・ストーンズと決定的に違うところ。だからすぐに解散してしまった。そこがまたいい。飽きたらやめる。潔い態度だ。自分もそうでありたいと思う。

09/24
大学の後期が始まった。M大学。2ヶ月ぶりで学生諸君と顔を合わせる。久しぶりに教壇に立ったので調子が出ない。後期はW大学でも1コマもっているので週勤2日となる。「西行」はゴールが見えているのに近づけない。蜃気楼みたいだ。

09/25
本日は公用なし。ゴール、あとわずか。

09/26
草稿完了。タイトルはいまのところ「阿修羅の西行」ということにしてある。当初は「西行U」ということでスタートしたのだが、途中から(2章の終わりくらい)このタイトルを想定して書いた。エンディングの直前に、藤原秀衡が西行に「阿修羅とは何か」と問う場面がある。「続篇」という文字は入れたくない。これは独立した作品と考えている。ただし、つながっていることは確かなのだが、今回はややフィクションの要素を増やしたので歴史小説とはいえない。といって時代小説とかエンターテインメントではないので、ただの小説である。
さて、コーラスの練習の日だが、先生が不在なので、宴会だけということになった。出発の時間の前に草稿が完成したので、一人で祝杯を挙げるような気分で参加する。気持よく酔い、ふだんより多めに飲んだ気がする。

09/27
日曜日。まず草稿をプリントする。冒頭部分は何度も推敲したので文体に問題はないが、それでも直すべき部分がかなり見つかる。読み返す作業もなかなかたいへんだ。それにしても今年に入っての累計枚数が1800枚を突破した。「罪と罰」の900枚が大きいのだが、「青い目の王子」とこの「阿修羅の西行」の完成で、2000枚突破も見えてきた。「大乗仏典はすごい」という新書をこれから書くので、2000枚を突破するのは間違いない。

09/28
月曜日。今日は後期だけ1コマもっているW大学の後期第一回。初対面の学生と会うのは楽しいが、けっこう教室が満杯になっている。ここでは著作権の講義をする。著作権に興味のある学生がいるということだろう。健康のために西早稲田から歩くことにしている。けっこう距離がある。さて、夕方からの授業なので出かける前までしっかり仕事ができた。1日1章のノルマは果たせそうだ。

09/29
ジャイアンツが好調である。アメリカン・フットボールの話。イーライ・マニングは名人芸の領域に達しつつあるのではないか。兄のペイントンも好調のようだ。ファーブもがんばっている。終了2秒前の逆転パスがすごい。スティーラーズは不調。緒戦でポラマルが負傷したのが痛い。以前から注目していたセインツが今年は本物になったのではないかと思われる。それとベンガルズ。去年も少し兆しが見えたのだが、今年はかなり元気だ。ネットのおかげで動画を見ることができる。月曜の夜から火曜にかけては、ダイジェストの動画が一つ一つ見るので時間がかかる。さて、本日は公用がないのでひたする仕事。プリントした原稿のチェック。3章が終わった。4章は倍くらいあるのであと2日かかるか。さらに赤字の入力作業が残っている。編集者に渡す(というかメールで送る)のは来週になりそうだ。妻が旅行から戻ってきた。

09/30
点字図書館で賞の選考。午前中の会議なので1日が長く使える。プリントのチェックは4章に入っている。明日には完成するだろうが、入力作業がある。しかしまあ、完成したも同然だ。「青い目の王子」と「西行U」をまとめたこのノートもこれでおしまいにする。「青い目」はゲラになっているが、まだ校正者の赤字が入ったゲラが届いていない。著者に送られたゲラをざっと見た感じでは完璧だ。これは児童文学における自分のベストの作品になる。といっても2作しか書いていないが。「阿修羅の西行」も歴史小説の中ではベストの作品になったと思う。今年は「罪と罰」の完成があり、「青い目」「阿修羅」とベストの作品が続いている。還暦を過ぎて別人になったかのように頭が冴えている。次は新書1冊をはさんで「在原業平」に移る。


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