「青い目/西行U」創作ノート4

2009年7月

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07/01
もう7月になったのか。孫がいなくなって、今日から妻が旅行に出かけた。急に一人になった。「青い目の王子」は草稿のチェックが終わった。エンディングは、謎めいている。小学5年生くらいの子どもがこれをどう受け止めるのか。かなりレベルの高い子どもでないと、何が起こったか、すぐにはわからないかもしれない。しかし文学というのはそういうものだ。小学生のわたしが宮澤賢治を読んで、こんなものを自分も書きたいと思い、いま書いている。そういうリレーのバトンタッチみたいなものを信じて、いまわたしはこれを書いている。100人の中に、1人でも、わかってくれる読者がいるのではないかという思いと、しかしとにかくその100人に本を買ってもらわないと次に進めないという思いがある。こちらの戦略としては、中盤まではおもしろく展開しているので、そこまでで一般的な読者には満足してもらい、エンディングについては、何となくわかるというくらいでもいいかなと思っている。とにかく終わった感じはすると思う。草稿チョックは終わったが、直しが予想外に多い。入力が大変だ。夜中にエヴァンゲリオンなどをやっている。この主人公は頻繁に「僕って何」とつぶやく。とくに最終回はひたすら「僕って何」とつぶやき続ける。タイトルに著作権はないのでどうということはないのだが。

07/02
今日も1人。1人で起きて大学へ行き、夜も1人で仕事。「青い目」はゴール寸前だが、草稿チェックで赤字で真っ赤になるほど訂正した部分がある。これは間違いがないように、じっくりと入力しないといけない。すでにチェックは終わっているので、ほとんど完成といってもいいのだが、入力が終わるまでは気を許せない。

07/03
金曜日。創団協の幹事会。今日も1人なので、1人で起きて、ジャスラックまで歩いていく。会議はやや紛糾した。しかしのんびる歩いて帰るうちに、気持がリラックスしてきた。夕方から夜にかけて入力作業を続けるうちに完了。ただ何となく不安なのでもう1度最初からパソコン画面で読み返すことにしたので、ゴールインという喜びはない。さて、3日間、1人きりであったのだが、今日は皆が帰ってくるはずだ。そもそも嫁さんと孫が来ていたのは、企業の研究所に勤める次男の研究発表が本日、東京であるからで、すべて英語の発表だというので、日本語もろくにしゃべれないわが次男が大丈夫かと、いちおうは心配ではあるが、嫁さんもそのあたりを察して、仕事に集中できるように孫をつれて避難してきたのだ。というわけで、本日は旅行に出ていた妻、実家に帰っていた嫁さんと孫、それに次男が帰ってくる。その順番に帰ってきて、急に人数が増えた。入力作業が終わって、ほぼ完成といっていいのだが、最初から読み返す。けっこう修正するところが多い。読み返してよかった。講談社の校正はきびしいので、事前にチェックできてよかった。

07/04
土曜日。前々週と前週の土曜は、講演とコーラスの練習でつぶれた。土曜が休みだと仕事がはかどる。次男、嫁さん、孫がいる。3人は夕方は買い物に出かけたので、こちらも散歩に出る。散歩は日常である。いつものコースを歩くと、心の底から安らいでいく。前月はほとんどこのコースを散歩できなかった。外出の用がない日に、体が錆び付かないように散歩する。ところが前月は連日公用があって、ほとんど散歩に出なかった。しかし、自分の仕事は夜中にしっかり続けてきた。「青い目の王子」……この作品は、わたしの代表作になる。こんなとんでもない話を書けるのはわたしだけだ。ずいぶん時間がかかったが、それはグーグル問題など、著作権の仕事が多忙だったせいだが、じっくりと時間をかけるということが、この作品の熟成におおいに効用があったと感じている。ひまだからいい作品が書けるとは限らない。多忙な日々のあいまをぬって、集中して書いてきたことがこの名作(?)を生み出したのだ。夕食のあと、ついに最終チェックも終わって、完成! その勢いのまま「読書人」から送付されていた先日の亀山先生との対談のテープ起こしをチェック。書評紙の編集者はレベルが高いので、すでにそのまま紙面に出してもいいような原稿に仕上がっている。誤植を一つ発見したので、メールで送った。それ以外はこちらから直すところはない。充実した対談になっている。「罪と罰」は、べつの主人公で書き直すという無謀な試みを、本を送りつけて対談の席に呼び出したようなかたちになってしまったのだが、こちらの意図をくんで、対応していただいた。感謝感激である。実はいまは「青い目」で頭がいっぱいで、対談の内容の細部については記憶からとんでいたのだが、テープ起こしの原稿を見て、過分に評価していただけたことを再確認し、あらためて感謝感激である。この対談は亀山訳「罪と罰」最終巻の発売に合わせて出るので、そちらの方の売り上げにいくらかでも貢献できればと思うし、「罪と罰」というテーマで、さらなる議論が盛り上がればとも思う。いまはまさに、「罪と罰」というのがキーワードとなるような時代なのだ。
そして、頭の中をきれいに初期化して、いよいよ「西行」だ。パート2を書くというのは、それなりに過酷な作業だ。まず何よりも、前作を上回るものでなければならない。しかし、前作を書いたあと、児童文学「海の王子」、新書「マルクスの逆襲」、物理学についての新書「原子への不思議な旅」、それから「罪と罰」を書いたので、西行のことはすっかり忘れてしまっている。とりあえず、西行の資料の入っているダンボール箱を仕事場にもってくる。わたしの頭の中を、作品を書き上げると初期化されてしまうので、西行についての情報はからっぽになっている。資料を読み返すよりも先に、まず前作を読み返さないといけない。そう思って自作の「西行」を読み始めたら、これがすごい。文体のレベルが高く、展開も見事で、名作というしかない。こんなものを自分が書いていたのかと驚くと同時に、これの続篇を書くのは至難のわざだという気がした。しかしこういう感じがするのはいつものことだ。「青い目の王子」の最終チェックをしている時も、よくもこんなものを書いたなと驚きながら読み返していた。書いている時は、頭のレベルが限界まで上がっていて、自分でも思いがけないものが書ける。いまはもう、「青い目」から気持が引きはじめている。知らないうちにすごいものを書いていたという、作家にとっては最高の境地に、いまのわたしは到達しているので、その点では、安心して仕事をすることができるのだが、頭の回転のピークとピークのはざまで、少し前の仕事について、よくこんなものが書けたなと驚き、いまの自分にはこんなものは書けないという不安にかられる。しかしピアニストでも、棒高跳びの選手でも、一瞬、不安がよぎるということはあるのではないか。作家の場合は、一回きりのパフォーマンスではなく、あとから修正はきくので、徐々にモチベーションを高めていけばいい。「青い目」のチェックをしながら感じたことは、草稿の段階では、手探りでとにかく何か書いているという、犬かきで泳いでいるような文章がかなりあったということだ。義理の母と子の不倫という、児童文学としては無理なテーマに、仏教哲学を折り込むという至難の挑戦は、草稿の段階ではかなり観念的で、ほとんど失敗寸前となっていたのを、チェックによって修正して、自分でも自信のもてるレベルにまで仕上げた。だから「西行パート2」も、そのうち何とかなると楽観しているのだが、いまの正直な気持を言えば、前作のパート1のレベルが高すぎて、これを超えるものが書けるのかと、茫然としているというのが実感だ。しかし幸いなことに、「青い目」も仏教、「西行」も仏教なので、頭の中が仏教のまま移行している。完全な初期化ではなく、気分的にはそのままで「西行」に取り組める。そこがありがたい。前作は四つの章でできていて、今様と和歌の断片を章のタイトルにした。そこでひらめいた。今回は仏典の4行詩を分解して、四つの章のタイトルとする。これはいいアイデアだと思う。本日の作業としては、この四章のタイトルを思いついただけで充分だ。まだ一行も書けていない。前作の読み返しもまだ半分。最後まで読み切ったところで、自然に次の言葉が出てくるだろうと思う。そこからパート2を書き始めればいいのだ。

07/05
日曜日。もう孫は出発したのかと思った昼頃起きると、荷物がまだある。妻が駅まで送っていったようで、友だちと会うとのこと。夕方帰ってきて風呂など入り、それから出発。週末なので高速料金は安い。四日市まで5時間以上かかるだろう。それでまた明日は会社だから大変だが、まあ、若い。次男とは5月の連休以来だったが、元気そうで安心した。ダイニングルームにオオカミが吠えているぬいぐるみがあるのだが、孫はそれを見て、ワンワンと言った。これが最初の言葉ではないか。「西行」最後まで読む。結論。このまま続篇を書くのはつらい。まったく異なる作品として、文体も少し変えて書きたい。ということで、いきなり花のもとで死ぬ、という場面から始めてはどうか。そうすると「空海」と同じ構成になってしまうのだが、より幻想的な感じにして、それから回想が始まるということにして、全体も少しぼかして幻想っぽく展開するということにしたい。時間の順序なども前後させて、死ぬ間際の人物がアトランダムに回想する、という体裁にしたい。とにかくそういう感じで試みてみたい。

07/06
また週日が始まった。ホームグラウンドの文藝家協会理事会。最近は公益法人制度改革検討委員会、常任理事会、理事会と、三つの会議がセットになっているので、午後一時から七時までぶっつづけの会議となる。このところ会議のあいまには、ポメラで原稿を書いている。「西行」の次の仕事の「大乗仏典はすごい」という新書の原稿を、毎日こつこつと書いている。この本はしゃべり言葉で書こうと思っている。だからポメラを開くといくらでも言葉が出てくる。今日もわずかな空き時間にポメラを叩いた。さて、夜中は「西行」。これは「西行/月に恋する」の続篇である。とりあえずタイトルを「西行/無明長夜」としていたのだが、これは暗すぎる。本日のアイデアは「花のものにて/西行の春」。これはどうか。「西行の春」といっても青春小説ではない。西行を少しでも知る人なら、「花のもとにて春死なん」という和歌が思い浮かぶはず。下の句は「その二月(きさらぎ)の望月のころ」なのだが、二月十五日に花が咲くかという疑問が出てくる。花は咲くのである。前年に閏月が入ると、正月元日が立春よりもはるかにあとになり、二月の十五夜は、彼岸よりもあとになる。充分に桜は咲くのだ。この閏月は、19年に7度挿入される。ほぼ3年に1度である。従って、二月十五日の涅槃会(釈迦の命日)に桜が咲くのは3年周期ということになる。そんな知識もさりげにく入れて、「西行の春」はスタートする。前作の文体にはとらわれず、続篇ではなく、独立した作品に仕上げる。前作を読んでいない読者にもわかるようにしたい。とりあえず死の間際の西行を描き、そこから保元の乱のあたりに回顧していく。そんな感じで話を始めたい。

07/07
自宅にて日経新聞のインタビュー。こういうインタビューの依頼はたいてい著作権問題がテーマなのだが、今回はドストエフスキー。これは嬉しいことだ。今回の「新釈罪と罰」を読んでくれた記者からいろいろと質問を受けて、楽しく語ることができた。先日の亀山先生との対談も楽しかったが、とにかく文学について語るのは楽しく、さらに自分が書いたものについて語るのは楽しい。夜はメンデルスゾーン協会の運営委員会。この組織は全員ボランティアで運営している。だからなかなか思うような成果は出ないのだが、それなりにチームワークが出てきたような気がする。「西行パート2」文体ができてきた。タイトルは仮に「花のもとにて/西行の春」ということにしておく。これだと青春小説みたいだが、西行を知っている人には「花のもとにて春死なん」という西行の歌が思い浮かぶだろうから、「西行の春」とは晩年のことだとわかるだろう。

07/08
点字図書館臨時理事会。理事会では議長をおおせつかる。議長をやっていると内職ができない。しかも本日はめずらしくやや紛糾したので少し疲れた。微妙な時間に渋谷へ。夜は渋谷で打ち合わせがある。そのまま喫茶店に入ってポメラで仕事をしようかと思ったのだが、少しラフな服装をしていたのでいったん自宅に帰り、シャワーを浴びて着替える。渋谷セルリアンタワーで会食の約束。ここは高級な店なのでいたおうちゃんとした上着を着ていく。集英社とは先日も打ち上げの飲み会をしたのだが、「マルクスの逆襲」が増刷になったので、あらためて編集長が出てきて打ち上げということらしいが、著作権の問題も絡んでいる。このところいくつかの出版社と秘密裏に打ち合わせをしている。こういうのを根回しというのである。世の中の多くの人は自分のことしか考えていないし、会社の人は会社のことしか考えていない。それでは時代に対応できないので、時にはドンキホーテのごとく走り回って問題提起をする人物が必要なのだ。人間をドンキホーテ(B型)とハムレット(A型)に分類したのはツルゲーネフで、ツルゲーネフ自身は自分はA型だと考えていたのだし、ツルゲーネフのファンであったわたしも自分はA型だと思っていた。このAとかBとかいうのは血液型のことではない。しかしわたしの血液はA型である。だから自分がまさかドンキホーテのごとく走り回ることになろうとは思っていなかったのだが、最近の自分はだんだんドンキホーテ型になりつつある気がする。還暦を過ぎたことも一因だろう。残り時間が少ないのだから、立ち止まって考えているひまはない。思いついたことはすぐに実行しないと命が尽きてしまう。しかし自分の仕事の話もした。ある提案を受けたので、考えてみたい。聞いた時は、今年のスケジュールはつまっているので、ただ承るという感じだったのだが、面白いテーマなので他の仕事をあとまわしにしてすぐに書いてもいい。会議中や空き時間にポメラで打ちこめば、意外にすぐに書ける気もする。夜中は西行。冒頭部分はできた。次の展開にやや迷っている。西行が死ぬ間際から話を始める。過去を振り返る。その導入部ができたということ。そこから時間を保元の乱に戻して(前作の終わりの部分)続篇が始まるということになるのだが、文体を少し変えたので、続篇を意識する必要はない。どこから始めてもいい。だからもう少し、どの時間の話を戻すか、考えてみたい。

07/09
大学のあと中村くんと吉祥寺で飲む。吉祥寺で飲むのは久しぶり。昔、吉祥寺に住んでいた。大学の専門課程2年とサラリーマン4年、作家になって1年、合計7年間、この街で暮らした。しかしその期間、吉祥寺で飲むことはなかった。学生時代の大学の周囲で、サラリーマンの頃は職場の近くで飲む。作家になっても新宿に出かけることが多く、吉祥寺で飲んだ記憶がない。その後、八王子に引っ越してからは吉祥寺に来ることもなかった。岳真也の同人誌の会がしばらく吉祥寺で開かれていた。それは三宿に引っ越したあとだ。今年の4月から武蔵野大学に週1度来ているのだが、吉祥寺は通過するだけ。吉祥寺の名物は「いせや」のヤキトリだろうと行ってみたが、6時過ぎなのにもう満席で中に入れない。今年いちばんの暑さで、煙が充満した店の中に入る気力も失せてパス、近くのビアパブに入ることにした。この店は以前から存在は知っていたが入るのは初めて。いい店だった。いい店なのにすいているのがなおよかった。中村くんは「新釈罪と罰」を丹念に読んでくれていた。読んだ人と話をするのは、亀山先生、一昨日の日経記者についで3人目。楽しく語らい、終電で帰った。

07/10
金曜日だが、今日は何もない。昨日から妻が実家に帰った。わたしの両親はすでに亡いが、妻の両親は健在で、時々実家にようすを見に行く。1人で生活することには慣れている。いつものように散歩。暑いのでクーラーを入れて仕事をする。自分の書いた本を資料として読み返す。「西行月に恋する」「清盛」「夢将軍頼朝」。同じ時代を書いているのだが、三つの記載を比べると矛盾している。主人公が違うのだから仕方がない。結論としてあまり参考にならないと感じた。ただ歴史的事実のつながりはよくわかるので資料としては参考になる。オープニングの文章はかなりできていて文体もできているのだが、これでいいのかという思いがある。少し固い。純文学だからこれでいいという気もするのだが、あと数日、何度も読み返して検討したい。

07/11
土曜日。何もない。妻もいないので終日、一人きり。西行の冒頭部を読みに読む。調子よく書いてきたので途端に行き詰まった。何かがうまくいっていない。出だしのところは完璧だと思われる。それなのに少しずつ文章がもつれていく。観念的な文章が長すぎるのだ。どこかでイメージが必要だ。ポイントは清盛だということがわかった。主人公は西行だが、同年生まれの清盛がライバルだと考えたい。敵ではあるがシンパシーがある。そういうライバルとして清盛を設定する。そりために早く清盛を出す必要がある。考えに考えた結果、これまで書いた文章が、わずか5行ぶんだけ長すぎることがわかった。5行削って清盛を出す。それでオーケー。簡単なことだが、気づくのに丸2日ほどかかった。しかしこれでこの小説は動き始める。前作の西行と清盛の初対面のシーンを転用する。自分の作品だから無断引用してもかまわない。全篇の清盛の印象的なイメージを切り取ってフラッシュバックにする。映画の続篇によくある「これまでのあらすじ」みたいなものの代わりに、清盛のイメージだけをダイジェストする。それで充分に「あらすじ」が語れる。待賢門院璋子については語る必要はない。後篇には登場しないからだ。後白河院や上西門院が出てくれば自然に璋子について語ることになる。出だしの部分は清盛のことだけを追っていく。こんなふうに何かの拍子につかえていたものがとれて、文章が動きだす。とくに作品の書き出しの部分は試行錯誤をかさねることらなる。まあ、とにかく動きだした。これで9月末くらいの目標が立てられる。

07/12
日曜日。ひたすら仕事。妻が実家から帰ってきた。これで日常が戻る。都議会議員選挙。わたしが投票した人、当選。

07/13
ウィークデーが始まったが本日は何もない。多忙な日々が続いたが少し楽になった。

07/14
文芸著作権センターの総会。このメンバーも数年のつきあい。初期の目的を達成したので、このNPOも解散の方向に向かいたいと提案。了承していただいた。今年度の業務は決まっているので、それまでにどのように解散するからを検討する。終わってからスタッフを慰労。3人のスタッフは、いい仲間だ。

07/15
非公式の協議会。非公式だから内容はここに書けない。そのうち公表する。猛暑。だるい。気分が「西行」に向かわないので「なりひらの恋」を書いてみた。一瞬で文体確立。こういうこともある。この作品だけの文体で押し切る。

07/16
大学。往復歩いたので疲れた。

07/17
河出の編集者来訪。雑談。とにかく書くしかない。9月末を目標にピッチを上げる。いちおう目標を編集者に告げたので、もはや後戻りはできない。

07/18
土曜日。コーラスの練習。その後飲み会。夕方までは仕事をした。「西行」順調に前進している。

07/19
日曜日。暑い。疲れがたまっているので散歩をパス。夜中、テレビで59歳のトム・ワトソンの頑張りを見る。最後の2メートルのパットが入れば優勝だった。残念。

07/20
月曜日だが、祝日らしい。何の日だ? テレビで栗本薫さんのお別れ会というのをやっていた。最近はつきあいがまったくなかったが、文壇へのデビューが同じ頃だったので、その頃は対談などの仕事をすることが多かった。最初は中島梓という評論家だった。栗本薫という名前で江戸川乱歩賞をとった。受賞パーティーにも出た記憶がある。なぜか高橋三千綱といっしょに、青森から飛行機で羽田について、そのままパーティー会場に向かった気がする。20年ほど前、早稲田で文壇歌舞伎みたいなことをやった時、三千綱が助六で、栗本さんが揚巻だった。わたしは白酒売りというのをやった。曾我兄弟のダメな兄貴の役。え、栗本さんは亡くなったの? と思った。そういえばニュースは聞いたように思うが、すぐに忘れてしまっていた。いまだに信じられない。確かわたしより4歳ほど下だ。人はどうして死ぬのだろう。中上さんが亡くなってから久しいが、わたしの内部では彼はまだ生きている。一度しか会ったことのない村上春樹や、何度か会って時々テレビにも出ている村上龍よりも、確かな存在感をもってわたしの内部に存在している。埴谷さんも、小川国夫さんも、わたしの中ではまだ元気に生きている。

07/21
世の中の動きも夏休みに入ったようで今週は公用はない。「西行」が動き始めているのでこの期間は集中したい。今日は涼しい。ありがたい。

07/22
ひたすら仕事。日食の時間は寝ていた。どうせ見えなかったみたいだし。日食といえば小学校の4年生の時に学校の屋上で見た記憶がある。ネットど調べると皆既日食ではなく、大阪では89パーセントまで欠けたとのこと。確かに空がかなり暗くなった記憶がある。

07/23
大学。武藏境から歩き始めたら急に豪雨。4月からこの大学に通っているが、こんな雨は初めて。最初から雨だったらバスに乗るのだが、歩いている途中で豪雨というのは想定外。

07/24
本日は公用なし。ひたすら「西行」。文体がまだ確立していない気がして最初から読み返している。続篇ではあるが独立した作品と考えている。これだけを読む読書がいることを想定しているし、全篇は一種の恋愛小説であるが、後篇は仏教色が強くなる。無常観みたいなものを中心テーマにしたい。少し文体を重くしたい。しかし重すぎると読者がついてこれなくなるので、その微妙な重さの度合いを測らないといけない。最初から読み返して、冒頭の部分はこれでいいという手応えをもった。ただ導入部が少し長い。ここを短くして、ストーリーが動き始めれば、読みやすいものになる。しばらくはまだそのあたりの調整が必要だ。

07/25
土曜日。宇都宮で講演。数年前からこの時期に毎年、宇都宮で講演をしている。宇都宮ビジネス電子専門学校というところが、宇都宮アート&スポーツ専門学校というのを併設して、文章教室を始めた。「早稲田文学」に広告を出していただいたのが縁で、協力することになった。わたしが年に一度、講演をして、編集長が定期的に出向いている。ということで、スタッフもなじみの人々であるので、知らないところに出向く困難はない。それに宇都宮は近い。新幹線で一時間とかからない。宇都宮駅からは送迎してもらったし、東京駅までは妻の車で往復したので、今日は運動不足だ。

07/26
日曜日。暑い。クーラーの中でひたすら仕事。「西行」。最初から読み返す作業が終わり、新しい領域に入ったが、書き直しでよくなったは何とも言えない。これでいくしかない。来週は月曜日のペンクラブのシンポジウムがあるだけで、あとは自分の仕事に集中できる。

07/27
ペンクラブのシンポジウム。今回は国立国会図書館のデータベースをめぐってデジタル・アーカイブ・データについての討議。1月に大阪で同じようなシンポジウムをやったのだが、わたしの姿勢が大幅に変わっている。それってダメでしょ、というスタンスだったのが、わたしが先頭に立ってやります、というくらいの変わりよう。誰かが先頭に立って次々とアイデアを出し続けないとこの種の問題は解決しない。賛成、反対の議論だけでは一歩も進まないのだ。動かない議論に加わるのは時間の無駄なので、自分が積極的に関わることにした。こんなことをやっても何のトクもないのだが、仕方がない。ボランティア精神でやるしかない。

07/28
今週は公用がほとんどない。世の中も夏休みモードに入ったようだ。「西行パート2」と並行して「大乗仏典」もやるつもりだ。今年の夏はスペイン勢が来ない。こちらがスペインへ行くという話も早い段階でなくなった。と思って油断していたら、長男が3人娘の1人だけをつれてくるというプランが持ち上がった。まあ、1人だけなら何とかなるかという気もするが、少しドキドキする。

07/29
ひたすら仕事。「西行U」の主役は前半は清盛だが、後半は三男の宗盛と頼朝、それから義経ということになる。源平盛衰記を西行が目撃して諸行無常を感じる、という図式になる。これはいかに格調高く同時にスリリングに展開できるかというところがポイントとなる。文覚も脇役として活躍させたい。西行にはない野性をもった人物だから、西行がこの人物を見てどう思うかが見せどころになる。

07/30
大学。前期最終回。早稲田と違ってこの大学は人数が少ないので学生の顔がわかりインチメートな感じになる。今年からこの大学で教え始めたのだが、いい出会いがあった。さて、成績をつける。早稲田と付け方が違う。後期は早稲田でも1コマやるので混乱しそうだ。

07/31
某弁護士事務所で会議。大筋では合意したが完全にはまとまらず某弁護士事務所にあとは任せることにした。これで今月も終わった。「罪と罰」を脱稿してから何ヶ月が経った。「西行U」は全体の20パーセントくらいは書けている。文体が確立できているのであとは書くだけだが、並行して「大乗仏典はすごい!」も書く。夏は暑いのでこれに集中した方がいいかもしれない。このノートは「青い目」からスタートした。「青い目」は今月始めに編集者に送付してオーケーが出ている。これから挿し絵を書いていただくので発売時期は未定だが、今回は文庫ではなく「単行本」にするとのこと。ありがたいことである。インドの話なのでどうかなと思っているが、ナルニア国とかゲド戦記とか、どことも知れない場所での話でも読者はついてくる。古代のインドというのは架空の国のようなものだ。神さまも出てくるし、戦争の場面もある。いい作品ができたと思っている。


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