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第21回 Mac OS X環境で試すAdobe製RIAランタイムエンジン「Adobe AIR」(旧Adobe Apollo)〜サンプルアプリケーションを用いた「AIR」の世界の簡易体現〜

前回のコラムに引続き、Adobe Systems製RIAランタイムエンジン「Adobe AIR(Adobe Integrated Runtime)」(旧Adobe Apollo)のPublic Betaを用いたMac OS X環境におけるファーストインプレッションを纏めてみたいと思います。今回は、前回のコラムにてインストールプロセス等を紹介したサンプルアプリケーション「Maptacular」を試しつつ、AIRの世界の入り口を簡易的に体現してみたいと思います。


●はじめに

今回のコラムは、前回のコラムから引き続く形にてお届けしております。前回のコラムではAdobe AIR(旧Adobe Apollo)のコンセプトやテクノロジの概要、及びFirst Public Alphaにおける実行環境「Apollo Application Runtime(Adobe Apollo 1.0 Alpha 1)」、及びAdobeより公開されているサンプルアプリケーションの一つ「Maptacular」のインストールプロセス等を紹介しておりますので、宜しければ併せて御参照下さい。

尚、前回のコラムエントリ後の米国時間6月11日、Adobe Labsを通じてPublic Betaが公開されると共に、名称が「Adobe Apollo」→「Adobe AIR(Adobe Integrated Runtime)」に変更されていますので、当コラムは新たにリリースされた「Adobe AIR Beta」に準じた内容で構成しております。また、Adobe AIR Betaインストール時には、Alpha版にて使用したランタイム(Adobe Apollo 1.0 Alpha 1)のアンインストールが必要とされており、Mac OS X版におけるアンインストール手順は以下の通りとなっています。

  1. 「/Library/Frameworks/Adobe Apollo.framework」ディレクトリを削除
  2. 「/Library/Receipts/Adobe Apollo.pkg」ファイルを削除
  3. 「Empty Trash...(ゴミ箱を空にする...)」

※同様にAlpha版(Adobe Apollo 1.0 Alpha 1)に向けて開発されたアプリケーションは、Public Beta(Adobe AIR Beta)ベースでは利用する事ができないため(インストールも不可能)、こちらも必要に応じたアンインストール作業が求められています。

アップデート時における旧バージョンのアンインストールはBeta版特有の制限事項とされており、正式版においては上記プロセス(アップデート時における旧バージョンのアンインストール)は不要と伝えられています。また、将来的にはローカルコンピュータに対する複数バージョンのランタイムの共存、及び任意のAIRアプリケーションにおける特定バージョンのランタイムへの関連付等も検討されているようです。


●サンプルアプリケーション「Maptacular」を通じた「Adobe AIR」の簡易体現

ここからはインストールしたサンプルアプリケーション「Maptacular」を通じて「Adobe AIR」の世界の入り口を簡易的に体現すると共にリッチクライアント開発の新潮流等を確認してみたいと思います。

※Maptacularは「Google Maps」における各種リソースと「IMC(Internet Mail Consortium)」によって策定された電子名刺(vCard)の標準ファイル形式「VFC」との連携を「AIR Application Runtime(Adobe AIR 1.0 Beta 1)」上にて体現可能とし、vCardから抜粋した関連情報(所在地情報等)をGoogle Maps上にて表示可能としています。

既存のブラウザベースのWebアプリケーションとAIRベースのクライアントアプリケーションを比較した際に、後者が持ち得るアドバンテージの幾つかとしては、

等が挙げられ、従来のデスクトップアプリケーションにおいて確立されていた各種テクノロジ、インターフェイス等をWebベースのアプリケーションにおいて有効化する事により、一層効率的、且つ機能的なユーザエクスペリエンスの提供等が実現されるのではないかと思われます。

それでは実際にMaptacularを起動させてみる事としましょう。通常のMac OS Xアプリケーションと同様の手法にてアプリケーションアイコンを実行する事により、馴染み深い「Google Maps」のインターフェイスが眼前に現れる事となりますが、通常の(Webブラウザを介してアクセスしている)Google Mapsと比較した際の最も顕著な差異は、そのインターフェイスがWebブラウザ上ではなく、専用のアプリケーションウインドウにおいて表示される事でしょう。
サンプルアプリケーションMaptacularにおけるメインウインドウ
↑サンプルアプリケーション「Maptacular」におけるメインウインドウ(クリックで拡大します)

Maptacular(AIR)オリジナルのアプリケーションウインドウに表示されたGoogle Mapsには、通常のGoogle Maps同様、Ajaxの利用に因するドラッグスクロール、或いはモード切り替え(「Map」「Satellite」「Hybrid」)等の各種インターフェイスが提供されている一方、Maptacularにおけるオリジナルインターフェイスの一つとして、ウインドウ左端にカーソルを移動させる事によるツリーメニューのアニメーション表示(Flexコンポーネントの一つ)がサポートされています。

更には表示されたツリーメニューより、任意のVFCデータをGoogle Maps表示領域内にドラッグアンドドロップする事により、当該アイテムに関連付けられたアドレス、周辺情報等の各種インフォメーションがGoogle Maps上にて確認可能(拡大表示)となります。

上記アクションは、Ajaxを利用しているXHTMLコンテンツ(Google Maps)とFlashコンテンツ(Flexコンポーネントのツリーメニュー)の融合を馴染み深いインターフェイスにて体現可能としているのみならず、発生した各種のイベント(この場合はドラッグアンドドロップ)を両コンテンツ間において適切に処理しつつ、データの受け渡しも可能とする等、AIRの持ち得るポテンシャルの一部が顕著に表現された一例ではないかと思われます。また、ブラウザベースのWebアプリケーション同様、アプリケーションが提供する主要リソースがサーバサイドで管理されているため、各種コンテンツにおける機能強化(アプリケーションにおけるアップデート等)がローカルにインストールされたアプリケーションに依存する事なくシームレスに実現可能となる等の合理性は、Webアプリケーションが有するデスクトップアプリケーションに対するアドバンテージが引き継がれている形となっています。


●纏め、今後の展望等……

オフラインにて動作可能なWebアプリケーションとの枠組みのみに納まらず、Web上における各種サービスに対するローカルデータのマッシュアップ等も実現可能とするAdobe AIR。上記に記した諸機能等は、AIRが持ち得る主要コンセプトの一部でもあるデスクトップにおけるリッチな表現力やインターネット、ローカルリソースに対する自在なアクセス等の実装を具現化する一例として採り上げておりますが、今後の発展次第ではブラウザベースのWebアプリケーションが抱える種々の課題を克服しつつ、既存のデスクトップアプリケーションの置き換えをも実現し得る等の多大な可能性が秘められているのではないかと思われます(特にオフィススイート等は確実にAIRプラットフォームにも進出してきそうではありますが……)。

尚、クロスプラットフォーム環境の実現をコンセプトの一つとして掲げるAIRアプリケーションの開発には、AIR SDKに包含されるコマンドラインベースの開発ツールの他、Eclipseベースの「Adobe Flex Builder」或いは「Adobe Dreamweaver」「Adobe Flash」「Adobe LiveCycle Designer」「Adobe PhotoShop」「Adobe Illustrator」「Adobe InDesign」等の各種Adobeプロダクトを含む任意のIDE(Integrated Development Environment )が利用可能となっており、HTML、JavaScript、或いはFlash等といったWeb開発における各種スキルセットが活用可能となっています。

また、2007年後半に予定されている正式リリース後には、ランタイムのローカライズ等を包含するVer.1.xを2008年前半に提供予定とされており、AIRにおける今後の指針の幾つかとして、

等が計画されているとの事(WindowsにおけるDLL(Dynamic Link Library)呼び出し等のネイティブAPIの提供はVer.1.0では予定されておらず、以降の検討課題の一つとされているようです)。AIRが提供する先進的なユーザインターフェイスと高い開発生産性等にWebベースのAPIを融合させる事により、開発者やサービスプロバイダに対してはWebサービスをデスクトップアプリケーションから利用可能とする新たなビジネスモデル確立の機会を、そしてエンドユーザにはWebにリッチなユーザエクスペリエンス等を各々提供すべくして開発推進されているAdobe AIRは、Microsoftによる「Microsoft Silverlight」(注1)(旧WPF/E(Windows Presentation Foundation/Everywhere))、或いはGoogleによる「Google Gear」(注2)等、同様のコンセプトを有するテクノロジ共々、旧来のデスクトップベースのリッチクライアントが担ってきた役割をも包含しつつ、更なる発展が期されるところではないかと思われます。


●本文訳注

(注1)Microsoft Silverlight

コードネーム「WPF/E(Windows Presentation Foundation/Everywhere)」として開発が進められていたMicrosoftによるUI開発フレームワーク。クロスプラットフォーム、クロスブラウザを実現するWebクライアントランタイムとしてWeb上にリッチなユーザエクスペリエンス構築可能とする「XAML(Extensible Application Markup Language)」 のサブセット。2007年4月より正式版として提供されている

(注2)Google Gear

サーバサイドで管理される各種Webアプリケーションをオフライン環境にて利用可能とするJavaScriptベースのWebテクノロジ。2007年5月末に開催された「Google Developer Day 2007」(世界10都市同日開催)においてテクノロジの概要が発表されると共にBeta版が公開され、現時点では「Google Reader」「Dojo Offline」等が対応している。オープンソースとしてソースコードが公開されている。


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Created Date : 07/07/15
Modified Date :