Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project 2003
SUN
桜三号−炎の老人−
曲が終わってもその姿勢のままでいる姿月、下手から石井がおずおずといった表情で入ってくる。(石井の衣装は黒の燕尾服スタイルのスーツ、インナーはフリルのドレスシャツ)
石井:(近づきつつ)それ『大』という字ですよねぇ。似合いますよ、大が(客:笑い)。姿月さん大きいから。昔っから大きかったんでしょうねぇ。小学校とかって女の子の方が成長が高い、高い?…早い、ですね。
姿月:中学のフォークダンスで、余った女子同士で踊っていて「いつか男の子と踊りたいなぁ」と思っていたんですよぉ。
石井:中学の時から男役だったんですねぇ。もてたでしょうねぇ。でも高校ぐらいになると今度は女性にもてたんじゃないですか?
姿月:私、高校いってないんです。
石井:(姿月の言葉を無視し、裏声で)先輩、これ読んでください、って、手紙渡されちゃったり。
姿月:石井さんも幼稚園の頃からもてたんじゃないですか?
石井:そうですね、先生中心にもててました。「先生、金くれよ」(客:笑い)って感じでしたね。
(略)
石井:今回が2回目の姿月さんとの、コ、コ、コラボレーションですね。言葉が出てこなくなるんですよ40過ぎると(客:笑い)。
(以上8月21日のメモから)
石井:いいですねぇ『大』。見せますよね。(とかなんとか言いつつ近づく。石井の上着にはハンガーがついたまま-笑)
姿月:ハンガーが…(笑)。
石井:あ、そうか。(はずす)あーすっきりした。
姿月:なんでハンガーがついたままなんですかぁ。
石井:いや、これは話題作りに。でもやっぱり『大』のほうがインパクトがあってね。いいですねぇ。というわけでございまして、石井竜也です。(略)
姿月:(手足をなんとなくぶらぶらさせている)
石井:なんですか?これ(と、まねする)。もしかして『大』の続きですか?
姿月:なんとなく、じっとしていられない…(笑)。
(以上8月27日のメモから)
そんなこんなでメンバー紹介があり、姿月さんがケニー・モースリー(dr.)、竹田弘樹(bs.)、近田潔人(gt.)、清水美恵(cho.)を紹介、続いて石井さんが佐々木史郎(tp.)、金子隆博(sax)、大石真理恵(perc.)、渡辺貴浩(key.)を紹介、さらに姿月さんキャスト(ジェームス小野田)とダンサー(藤浦功一、町田正明、小山みゆき、斉藤恵理)を紹介します。(1号2号同様、スクリーンには名前が映し出される)
そして「せっかく2人でいるんだから」とデュエットを申し込む石井、曲は米米CLUBの隠れた名曲【Slow-motion Memories】。
21日と27日で「なんでこんなに違うかなぁ?」と思うほどの様変わり。21日はオーソドックスに、まじめに、きちんと、デュエットされてました。しかし27日は…(絶句)。
とにかく姿月さんを必死で笑わせようとするびゅーちー、自分で歌うパートにも微妙にヘンな振りがついている(♪赤いワインこぼした、で自分の頭にかける振りとか、♪かみ合わないよ、で噛みつく振りとか)し、姿月さんのパートでは「アテ振り」の荒技をかけてくるしで、姿月さん、歌声がふるえています。姿月さん、どんどんびゅーちーから離れていき、終わりの方では見えないようにそっぽ向いて歌っていたりして(笑)。
ここでは極めつけの大技だけご紹介しておきましょう。それは姿月さんの♪スローモーションみたいなメモリー せつなく胸に映るよ、で起きました。スローモーションといえば、はい正解!びゅーちーは姿月さんが歌っているあいだじゅう、スローモーションで走る振りをしていたのでした(あれはあれでキツイのでしょうが)。
この日はビデオ収録が入っていたので、いずれこの映像は日の目を見ることと思います。ご期待くださいませ。
後奏の♪Just let me go, Just let me goで姿月さんは下手に退場(ここで図らずも起こった見送りの拍手に「宝塚だぁ」と思った筆者-爆)し、入れ替わりにダンサー4人が入ってくる。エコーのはいったトランペットソロに導かれるように始まったのは【STYLISH
WOMAN】、アレンジもダンスも当時のままに、しばし踊り狂った筆者、はっきり言って記憶がありません。たしか間奏の後の♪命まで嫌いになれたら、あたりからびゅーちーだけ上に上がっていたような…。
曲が終わって暗転して、フルートのソロが始まって、下手から姿月さんが登場した…はず。桂由美さんデザインの白いドレス姿が印象深い。曲は【Answer】、石井の手になる新曲だ(とはいえ桜二号のときも歌われていました)。
答えを探し求めてきたけれど、それは結局自分のなかにあるのだろう、というシンプルな歌詞は、先の見えない今の時代に、一人の人間として「どう生きたいのか」を問い続ける、その勇気を歌っているように思えた。
曲が終わり暗転、中央に立つ姿月のまわりを小さなピンスポットが走り回る。同時に聞こえてきたのは雨だれのようなピアノのつま弾きと赤ちゃんの声、【GROUND
ANGEL】である。ピアノの音を聞いた瞬間、横浜赤れんが倉庫の石畳に投影されたスライドショウへと心は飛翔する。たくさんの天使と子供の顔がだぶってよみがえってくる。
ピンスポットに導かれ、見えない子供の手を引いて姿月が下手に退場、入れ替わりに上手上下から、2組の男女が傘を差して登場してくる。
別れを惜しむかのように座り込む男女、しかし男は立ち上がりヘルメットを手に敬礼をする。ヘルメットを身につけ振り向きもせず去ってゆく2人の男、「戦場に行くのだ」すぐさまわかってしまう。残された2人の女は並んで座り、男の残した傘をいとおしそうに抱く。引き裂かれる思いが伝わってくる。不安と悲しみを感じさせるダンスが続く。
ふと、男が一人戻ってくる。駆け寄る女、もう一方の女が立ちすくむ。しばしの抱擁のあと、男は佇む女にヘルメットを差し出す。「死んでしまったのか」、ヘルメットを抱き頬ずりする女、何も言えず佇む男女。
パートナーが生きてかえっても喜んではいけない、相手が死んでしまっても悲しんではいけない。心の痛い無言劇であった。
――スクリーン下降、小鳥のさえずりが聞こえてくる
鍋島:ヒノキってのはよ、温度や湿度によって膨張と収縮を繰り返す、ようするに『生きてる』ってわけだな。だから仏像作りには最適なんだ。この先のところにいいヒノキが出るんだよ。
林田:おいおい、いくら実家が寺だからって、なにもこんなとこまで来て仏像を彫らなくてもいいだろう。
鍋島:何を言ってるんだ。戦時下だからこそ仏像を彫るんだ。いわば自分の前供養だ。
林田:作るのはいいが、まさか俺の分まで彫ってやるなんて言いださねぇでくれよ。
鍋島:ちょうどおまえの分を作ってやろうと思って、あたりをつけてあるんだ。きっといい仏像ができるぜ。ちょっと行って採ってくるよ。
林田:そんなもんより、俺は食いもんがほしい。腹が減りすぎて屁もでねぇぜまったく。
――スクリーン上昇、舞台暗転のまま
声:鍋島が1時間ほどヒノキを取りに行っている間に、敵の攻撃が始まった。地平線を敵の飛行機が覆い尽くした。味方の飛行機は敵の攻撃に押され、もがき苦しんでいる様子だった。俺は鍋島を呼んだ。しかし鍋島は帰ってくる気配はない。敵は確実に近づいてくる。しかたなく俺は大砲に弾を込め、照準を敵にあわせた。
――舞台中央だけ明るくなる。林田がいる。ホリゾントには幾筋のも光が乱舞、サイレン、飛行機のプロペラ音が行き交う
林田:鍋島ぁ!鍋島ぁ!こんなときにどこまで行ってんだよ。砲手のおまえがいなきゃ、撃てねぇじゃねぇか。なべしまぁ!(おろおろする)
(しばし間、決意する)くそぉ、しかたねぇ。覚悟を決めるぞ。…もうこうなったら、俺が一人でやるしかねぇ。鍋島、俺が先に逝くことになるぜ。イヤー!(ひもを引く)
――一気に暗転。上がる火柱、大音響
――無音
声:大砲は跡形もなく吹っ飛んだ。俺はそのとき、死んだんだ。