Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project 2003

SUN
桜二号−海の桜−

−観劇録−(第三部)

――舞台には波音が戻ってくる。中央から東条が登場し段上に腰掛ける。上手から吉田、ともう一人の男が登場
飯島(藤浦):(東条に向かって)だいじょうぶですか?
東条:(無反応)
吉田:東条元帥閣下、どうした?
東条:(無反応)
吉田:こいつは飯島、あだ名は「おまる」。以前腹をこわして自分の飯ごうにすわっちまってからこの名が付いた。飯島、こっちは東条。なんていうか…頼りになるヤツなんだ。前、ここでたばこを吸ってるのを艦長に見つかったとき、うまくごまかしてくれた。こんなところでたばこを吸ったのがわかったらそれこそ営倉行きだ。それをこいつの機転で免れることができたんだ。
飯島:飯島です、よろしく。艦長の目をどうやってごまかしたか、是非お聞かせ願いたいものですね。
東条:(無言)
吉田:それはな、…艦長がやってきたとき、とっさにこうたばこを拾い上げる振りをして、「艦長、こんなところにたばこが落ちてました!」って間髪入れずに叫んだんだ。そのおかげでおとがめなしよ。
飯島:なるほどねぇ。兵法ですね。さすがです。
東条:(ふたりの会話を無視し)きのう敵艦に魚雷を発射したが一発も当たらなかったというのは本当なのか。
飯島:それについては、自分が詳しく知っておりますのでご報告します。
昨日午後3時頃、敵駆逐艦を発見、戦闘態勢準備に入りました。敵駆逐艦からの攻撃は全くなく、あまつさえ逃走するではありませんか。しかし敵駆逐艦以外に近くに船影はなく、東シナ海の迷子かと思われました。さらに船影を確認すると、敵の最新鋭高速駆逐艦インターコンチネンタル号かと思われました。我々が発射した魚雷は26発を超えました。しかし一発も当たりませんでした。

吉田:一発もか。
飯島:はい。悔しくて、砲手は涙を浮かべておりました。
東条:バカにされてんだよ!
飯島:いっとき逃走したかに見えた敵艦は、本艦に向かって威嚇射撃をしてきました。
東条:だからバカにされてんだよ!
飯島:飛んで火に入る夏の虫、とはこのことです。我々はもう一度双眼鏡を覗きました。そうすると、これがなんと味方だったんですよ。
吉田:なんだって。
飯島:これがばかばかしい話なんですが、敵の攻撃を攪乱するために、お偉いさんが敵艦の船影そっくりのハリボテ戦艦を作ってたんですよ。兵士も見破られないように敵兵そっくりのお面をつけて、秘密行動をしていたんです。
吉田:しかし、それじゃ味方同士撃ち合うことになってしまうかもしれないじゃないか。
飯島:はい、それを避けるために、ハリボテ戦艦には魚雷は搭載していないらしいんです。
吉田:なんてことだ。それじゃまるで海に浮かぶサクラ状態じゃないか。魚雷を撃ち込まれたらひとたまりもないぞ。
東条:だから、ばかにしてると言ってる。
飯島:がっかりですよ。
東条:ところがどっこい、こっちの魚雷にも火薬は入ってない。火薬の代わりに砂が詰められてるんだ。
吉田:なんだと。
東条:整備兵の一人が言っていた。以前うっかり魚雷のなかを開けてしまったら、火薬じゃなくて砂がつまっていたとな。本当に撃てるのは20発に1発だとさ。
吉田:爆弾までハリボテか!
飯島:道理で撃っても撃っても爆発しないわけだ。
東条:敵を欺くにはまず味方からってことか。軍部のお偉いさんもひどいことしやがる。
――暗転、3人中央へ去る

 SUNのテーマが低く流れる。少し明るくなったステージに下手上からダンサーが現れる。ひとりは先ほどの大きなラジオを持ち、もうひとりは小さな丸テーブルを手にしている。それをハッチの前の段上に置くと、ダイヤルを回す。やがて声が流れ始める。
 「ああわだつみの声いまいずこ。いままさに続く戦いのなか、洋上遙か苦境にあえぐ、今様??夢のあと。…(略)…永遠の歌姫が歌いまする。それでは歌ってもらいましょう」(よくわからん>筆者メモ-爆)
 ハッチが開き、黒地に梵字柄の燕尾服様衣装に着替えた姿月あさとが現れる。左右には女性ダンサー、まさにレビューショウの始まりだ。まずは【東京ブギウギ】、言わずと知れた笠置シズ子の代表曲、ワンコーラス歌ったところで、♪ウワーオワオワオ〜で始まる【ジャングル・ブギ】、これも笠置シヅ子だ。続いては♪ため息の出るような、ザ・ピーナッツの【恋のバカンス】、最後は♪真っ赤に燃えた、美空ひばりの【真っ赤な太陽】と4曲続けてのメドレーで客を沸かせる。
 ちなみに、観客の平均年齢はかなり高く40代、50代がボリュームゾーンのようであったので、オリジナルもご存じの方が多かったものと推測される。4曲終了で姿月は中央奥へと退場。
 同時にコーラスの清水美恵が、バンドブースから歌いながら前へ(【昭和初期パラダイス】)。♪Whoo、昭和初期パ〜ラダイス、というリフレインと共にノリノリで体をくねらせ歌う。NYLON CLUBでの彼女の活躍を知っている方ならおわかりかと思うが、ちょっと踏み外すと下品になりかねないぎりぎりのところをうまく使って客を楽しませる。
 中央前で歌いまくっているところへ、左右からモップを持った兵士(飯島と吉田)にモップではさみうちをされてしまう(しかし兵士たちには彼女は見えないようだ)。そのまま奥へと逃げ出す美恵ねぇさん、ハッチの前まで(勝手に)追い込まれると、『火気厳禁』を「ひ、ひき、げ??」とわけわからぬ読み方をし、2人の間を割って逃げ出す。そして一言「あぶなかったわ。私の操が」、やってくれる(笑)。
 引き続き2人は黙々とモップがけに精を出す。と、一人が手招きをする。そして2人ともモップに寄りかかって休憩、なにやら話し込んでいる様子である。やがてそれがしゃがみ込んでのサボリになる。と突然直立不動になって敬礼、ご丁寧なことにその姿勢のまま相手を見送るように微妙に向きを変えてゆく。たぶん艦長でも通ったのだろう。
 


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