Tatuya Ishii & Asato Shizuki Special Project 2003
SUN
桜一号−千羽鶴−
これから読んでいただくレポは、あくまで”ぷるっぷる”個人の見方によるものです。 『戦争』というテーマは石井氏がMCでも言っていた通り、どうしたってなんらかのイデオロギーと結びつきがちなものです。作品の中にある種のメッセージを読み取ったとしても、それはぷるっぷるがそう思ったということにすぎません。 また、石井氏本人が「肯定論でも否定論でもなく中間を表現するとしたら」ということで制作されたわけですから、演目からなにを汲み取ってもいいわけでもあるということだと思いますし。 というわけで以下の文章は、制作された石井氏の思惑とは関係なくぷるっぷるの目を通した『桜一号』であるということをあえて一言コメントさせていただきました。「こいつはこういうふうに見たんだな」と思って読んでいただければ幸いです。 とはいえ「ステージが想像できる構成を心がける」ことには力を尽くしておりますので、よろしければ最後までおつきあいくださいませ。 蛇足ですが、例によってメモ書きと記憶力のみで再構成しておりますので、多少の食い違いには目をつぶってくださいまし(平伏)。 |
会場内にはいるとピピピ、ピチピチと小鳥のさえずる声が聞こえている。下がっている緞帳は黒地に金環食を連想させる赤い円弧が描かれ、その上に白の筆文字でSUNと書かれている。
客電が落ちると、緞帳の上を雲が流れごうごうと風の音がする。ナレーションが始まる。
「そのとき2人の兵士がいた。最果ての草原で、彼らは必死に自分なりの戦いを続けていた。これは、戦争という悲劇の中で、自らの存在意義を探し続けた男たちの物語である」
ピアノによるテーマがひっそりと始まる。やがてそれに重いバスドラムのリズムが加わり重厚な輝きを帯びてくる。2度目のテーマを女声のスキャットが引き継ぐ。
幕が開くとそこには大きなセット、中央上の『旭日旗』を思わせる真っ赤な太陽が目を引く。その下には潜水艦のハッチのような丸いドア、ハッチの前左右に脇へと上がる階段が設けられていて、旭日の前のプラットホームに出られるようになっている。
舞台の下にはバンド、下手からピアノ(渡辺貴裕)、コーラス(清水美恵)、中央の階段を挟んでドラム(ケニー・モースリー)、ベース(竹田弘樹)、ギター(近田潔人)が並んでいる。全員黒地に白抜きの梵字が使われた生地の衣装をまとっている。
上手・下手の両方から男が一人ずつ階段を降りてくる。頭には艶のある黒い帽子(ヘルメットに見えなくもない)をかぶり、白地に黒の梵字をあしらった生地のスーツを着て手に桜の枝を持っている。上手の男は小野田、下手の男は石井である。
2人は舞台中央へでてくると、転調して軽やかになった音楽に乗せて踊り始める。向かい合い前に出てくると、手をつなぎステップを踏む。途中組み合って踊るところや、社交ダンスのきめポーズ(女性役:小野田)のような部分もあって場内に密やかな笑いが広がる。
テーマはディストーションのかかったギターへと引き継がれ、いよいよエンディングへとなだれ込む。中央の2人は♪ジャジャジャン!でキメと同時に暗転。
――再び照明がつくと、小野田は銃剣とおぼしきステッキ−先にはリンドウの花が刺さっている−を担いでいる。石井は段のところに座り込み立てた膝の上でしきりに何かしている
熊田(小野田):(後ろから近づき、皮肉っぽく)柏木一等兵殿、ご精が出ますな。
柏木(石井):(熊田を振り返り)こりゃ熊田一等兵殿、今日もまた花摘みですか?
熊田:あんたには言われたくないね。きさまの折ってる千羽鶴よりましだ。
柏木:いいじゃねぇか。でもよ、ここんところの物資不足で紙もろくに手に入りゃしねぇや。
熊田:(並んで座りこむ)しょうがねぇよ。だってこの戦争、負けるんだかんな。
柏木:ばかやろう。そんなこと言うもんじゃねぇ。不謹慎だぞ。
熊田:だって負けるもんはしょうがねぇだろ負けるもんは。
柏木:だからちったぁ遠慮しろつってんだよ。
熊田:負け戦に遠慮もくそもあるかぃ。おめぇこの千羽鶴どうすんだ。
柏木:だからおまえは粋じゃねぇつってんだ。
熊田:戦争に粋も野暮もあるかい。
柏木:お、あっちから世界一野暮な野郎がやってくるぜ。
――上手上から男が一人登場、銃剣を模したステッキを担ぎ、他の2人と同様に頭に帽子、梵字柄の洋服を着ている
富山(藤浦):柏木ぃ、あれをくれよ。こないだのはもう使っちまったんだ。
柏木:おぅ、そろそろだろうと思ってこしらえてあるよ。
富山:ありがてぇ。
熊田:富山狙撃兵殿、今日は敵をしとめたのか?
富山:それが今日はよ、こっから西に10キロほどいったところで敵に出くわしたんだ。でもよ、相手も狙撃兵でよ。こっちが照準器を覗いたら(構える)、向こうも照準器を覗いてやがんだ(おじけづく)。…(立ち直り)まぁ俺と腕は互角ってとこかな。(自慢げに)そっから3時間、睨みあいよ。
熊田:(興味をひかれる)それでどうなったんだ。
富山:おー!と手を上げて、ふたり同時に(構えたまま腰を落としつつ数える)「いち、にぃ、さん」ってかぞえてから…
柏木:(身を乗り出す)それから?
富山:それから同時に手を挙げた。
柏木:なぁんだ、へっ(寝っ転がって足を組む)
富山:(熊田に近づき)でも、相手の方がちょっとだけ早く手を挙げた気がするんだ。
熊田:でかした、富山。おまえはわが軍の誇りだよ。
富山:でもくやしかったよぉ。あんとき柏木の作った弾があったら、ぶちのめしてやれたのに。
熊田:おまえら、俺になにか隠してるのか?
柏木:(富山に)ほらよ、今日の分こしらえてある。(小さな包みを取り出し)ここに30発ばかり入ってる。持ってけ。
富山:ありがてぇ。なんせおまえの作ったのは『飛び』が違うからなぁ。
柏木:なんのなんの。俺とおまえは共同経営だからな。持ちつ持たれつ、俺が作っておまえが撃つ。頼んだぜ。
富山:おまえの心意気が込められた弾、もらってくぞ。(包みを受け取り、下手上へと走り退場)
柏木:あーあ、ふっとんで行きやがった。お、手ぇ振ってる手ぇ振ってる。
熊田:(下手に手を振る)
(ここから8月6日アドリブ)
柏木:あれ?脱いでる脱いでる。ケツだしてるぞ。
熊田:(へ?なにやってんだ?の表情)
柏木:あ、しやがった。あっちが風上だ。くせぇ。
熊田:(鼻をつまんで扇ぐ)
柏木:お、また手ぇ振ってる
熊田:(手を振る)
(8月8日アドリブ)
柏木:お、側転してるぞ。
熊田:(びっくり)
柏木:また手ぇ振ってる
熊田:(手を振る)
(筆者感想:米米時代同様、相も変わらぬ石井のアドリブと、それに翻弄される小野田のすなおな反応に、思わず懐かしさを感じてしまった)
柏木:あーあ、見えなくなっちまった。…ああやって何日かにいっぺん弾を取りに来るが、いったい何を撃ってるんだか。
熊田:敵を撃ってるんじゃねぇのか。
柏木:こんな暇な戦場に敵なんかいるかい! だいいち敵の顔が見えねぇ。…ま、おおかた獣でも撃ってるんだろうがな。
熊田:そうか、そうだよな。
柏木:俺の見たところじゃ、ヤツの腕は中の下ってところさ。
熊田:わかるのか?
柏木:わかんだよ、目を見りゃ。ああいうヤツは口だけのことが多いんだ。あいつぁ粋な目をしてねぇや。
熊田:戦争に粋もへったくれもねぇだろ。
柏木:だからおめぇは粋じゃねぇっつーんだ。粋に戦うか野暮に戦うかは雲泥の差があるっつうんだよ。
熊田:何たわけたことを言ってるんだ。負けは負けじゃねぇか。
柏木:粋で負けるのと野暮で負けるのは違うんだよ。おまえにゃ百年経ったってわからねぇだろうがよ。
熊田:こんなとこでかっこつけてどうするよ。
柏木:おめぇもあいつと一緒でなんにもわかっちゃいねぇ。
熊田:さっきから粋だ野暮だってふざけたこと言ってやがって。爆弾1発頭の上に落っことされりゃ、粋も野暮も木っ端微塵にふっとんじまうんだぜ。
柏木:まぁ、くたばり方にもいろいろあるってことだ。(千羽鶴折りに戻る)
熊田:千羽鶴を折るのが粋な死に方か?
柏木:これか? これはただの暇つぶしさ。千羽鶴折ってりゃ時間は過ぎる。せめてもの暇つぶしよ。…ただでさえ腹へってんのにそうカリカリするなぃ。
熊田:ふざけたことを言ってやがる。
柏木:まぁそう言うな。
――しゃべりながら二人、下手へ去る。暗転
――舞台天井よりスクリーンが降りてくる。しばしテープの空送りの後、映像が映し出される。ただし絵は静止画、いわゆる電気紙芝居状態。スクリーンの中では柏木と熊田の会話が続いている
熊田:千羽鶴を折るなんて、そんな女々しいまねして、恥を知れ。
柏木:これを恥と思うか。俺たちゃ自由のために戦ってんだろ? だったら洗濯するのも千羽鶴を折るのも自由じゃねぇか。
熊田:おまえバカか。ここは戦場だぜ。残酷きわまりない血なまぐさい戦場で…不謹慎だぞ。
柏木:敵も見えないだだっ広い草原の真ん中でか? だいたい熊田、おまえだって「戦場にもリンドウの花が咲いてるんだ」とか言って、不謹慎なのはおまえの方じゃねぇか。
熊田:俺は…戦場に花壇をこしらえようとしてるんだ。…これってりっぱな…(一瞬絶句)農業じゃねぇか。
柏木:おまえの理屈もわからねぇな。
――スクリーン上昇