ソーホーで、ちょっと息抜き

(前頁より)



「それじゃバレーやオペラだけじゃなく、一度お色気も見学するか」
ということになって、ある夜二人はネオン輝くソーホーの歓楽街に行き、
レイモンド・レビューなる劇場に入ってみた。
美絵夫人にとっては、まさに「未知との遭遇」である。

多数の紳士淑女が連れ立って来場し、悠々と着席する。憶良氏夫妻
も恥ずかしがらなくてよい。日本の場末のわびしい芝居小屋ではない。
ちゃんと食前酒ならぬ観劇前のドリンクも楽しめ、ご両人の緊張感をと
って着席できるような気配りがされている。
もちろん価格もそこそこであり、座席の数しか切符を売らないから、ギ
ラギラした性欲の熱気を漂わせた若い立ち見客でごったがえすことは
ない。

舞台では若き男女が音楽に合わせて肢体をくねらせる。この場合の
ヌード・ダンサーは観客を興奮させることが主たる目的であるから、彼
らはものの見事にそれに徹する。
男はブラブラリ、女はスッポンポンで、ぎりぎりのところまで意欲的に
演ずる。
ハンサムな男性ストリッパーが数人立派な一物をブラブラぶら下げて
並ぶと、淑女方からため息とも嬌声ともつかぬ声が漏れる。連れの男
性は我が身を思い苦笑する。



「成程、日本では楚楚とした和服で現れ、思わせ振りに身をくねらせ
一枚一枚脱いで行くからストリップなんだ。こちらのは陽気なレビュー
だよな」
日本のストリップ劇場では、観客男性、演技者女性のパターンで、宴
の後の物悲しさが残る。

が、こちらのはアッケラカンとしている。簡単に申せば、同じハダカでも
男女両性が平等に楽しめる仕組みになっている。レビューとしてのド
ライな割り切りのせいだろう。いかにも陰と陽の対比のようである。

  「面白かったわ」
いささか興奮の残っている風情で、美絵夫人は帰りの車のシートに身
を沈める。



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