落ち葉は焚かないで
(前頁より)



坂を少し下ると右手はケンウッド公園、もとマンスフィールド伯爵の邸宅
である。ここまでは大抵のガイドブックに書かれているから、既にご承知
の方も多いと思う。

ケンウッドの前を左折すると道幅は極端に広くなり、鬱蒼たる樹木に囲
まれた大豪邸の通りになる。世界の金持ちが邸宅を持つというビショッ
プス・アベニューである。
ビショップスとは英国教会では主教であるから、さしずめ「主教の大通り」
とでもいえよう。

ひっそりとしたこの大通りをドライブすると、日本からのお客様は必ず溜
め息を漏らす。
「田園調布も芦屋もかなわんだろうね、さすが大英帝国だね」
「ちなみに、この通りの邸宅には番地がないんだ。何とか邸という名前だ
けなんだよ」
「一生に一度はこのような大邸宅に住んでみたいが、とても適わぬ夢だ
ねえ」

この大通りがもうすぐ終わる手前で左折すると、ディーンズ・ウエイと名前
が変わる。
ディーンとは英国教会では首席牧師のことである。つまり「首席牧師の道」
となる。



ディーンズ・ウエイが切れた所を左折すると、憶良氏一家の住むアボッ
ツ・ガーデンの入り口である。アボッツとは大修道院長のことであるから、
憶良氏たち約百世帯が住む一画は、さしずめ「大修道院長の庭園」とい
うことになる。
ハムステッド・ガーデン・サバーブと呼ばれるこの一帯は、ひょっとしたら
昔は教会の領地であったのかもしれない。


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