落ち葉は焚かないで
(前頁より)



ビショップス・アベニューからデイーンズ・ウエイさらにアボッツ・ガーデン
と、聖職者の格が下がるにつれて段々と家が小さくなる。
そして、アボッツ・ガーデンという優雅な名前のついたxx番地が、4年間
の春秋を過ごした借家である。

車から降りた達ちゃんは、ぐるりと周囲を見回して、「良いとこだね」と感
嘆する。
それはそうだろう。全戸前庭後庭つきである。家家の形は様々でも家並
みがきちんと揃えられ、区画整理が整然としている上、前庭はオープン・
ヤードになって、芝生や花園になっているから、実に広々とした町並み
である。

これが中流の住宅街だから驚いてしまう。
後ろ庭では子供とキャッチボールができる。その向こうは同じ広さの裏隣
の後ろ庭である。50メートルぐらいの間隔であるから、裏隣という表現は
不適切であろう。

食堂から裏庭に出た客人足村の達ちゃんは、
「大ちゃん、これが中流の住宅街なの?黄昏のロンドンなんていうけど、
日本の住宅事情はまだまだ夜明け前だねえ。アッ、栗鼠がいる!感激だ
なあ」

裏隣の庭との境に二百年ぐらい経っていると思われる巨木が立っている。
この樹に栗鼠が棲み着いていて、お隣のハリー小父さんの庭のリンゴの
樹を遊び場にしている。
「芝生を刈り始めると、ブラックバードが虫を啄みに飛んで来る。人を怖が
っていないんだよ」



「小父さん、時々軒先にヘッジホーグも来るよ」
と次女の綾ちゃんが覚えたばかりの単語で客人に説明する。
「えっ、ヘッジホーグ?」
「針鼠なんだよ。これには吃驚したよ。可愛い栗鼠もここでは鼠なみでね、
どんどん増えるから餌をやらないでくれと言われているんだ」



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