シェイクスピアは罪作り

(前頁より)


「嘘でしょ。だってシェイクスピアの史劇では、マクベスは魔女に
唆(そそのか)されて、主人だったダンカン王を殺害し、その王位
を奪ったんでしょう。ダンカン王の王子は何といいましたっけ? 
どこかに逃げて、後に復讐しましたよね」

「そう。王子マルコムは成人して復讐の兵を興した。マクベス王
の陣に近づくために兵士たちに茂った木の枝を身につけさせた。
ジリッジリッと大軍が動く様は、あたかも森が動くようであったと」

「思い出しましたわ。魔女から、森が動く時、身が破滅すると予言
されていたマクベスは、ついに気が狂って死んだ」

「そう。マクベスは主殺しの悪人として世界に知れ渡っている。
シェイクスピアの史劇が演じられれば演じられるほど、マクベス
は悪王として思いこまれている。
だが、この歴史書によれば、マクベスはたしかに1040年に、ダ
ンカン王と戦って殺してはいるが、その17年間の治世の間は、
スコットランドに善政を敷いた賢い良い王であったと書かれてい
る。おまけに10年後の1050年スコットランドからローマへ行く
なんて、本当にすべての道はローマに通じていたんだなあ。
マクベスは立派なスコットランド王だったんだよ」

「シェイクスピア・ファンの私としましては、何か釈然としませんわ
ね」
「でも史実は史実として理解しないとね」

「マクベスは本当は良い王であった、と知っている日本人は多い
のでしょうか」
「どうだかね。悪王とされてしまったマクベスは可哀想だね。シェイ
クスピア先生もいささか罪作りだよ」

「こういった史実とは逆のシェイクスピア劇は外にもあるのかしら」




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